埼玉県では,市町村教育委員会と連携し,「教育に関する3つの達成目標」(学力・規律ある態度・体力)の取組を通して,基礎・基本の定着を推進し,全ての児童生徒を対象とした効果の検証を,学力達成目標(「読む・書く」「計算」)についてはペーパーテストで,毎年1月を中心に実施している。
また,小5と中2・中3の全児童生徒を対象として,小学校では国語,社会,算数,理科の4教科,中学校では2年生に,国語,社会,数学,理科,英語の5教科,3年生に,社会,理科,英語の3教科について県独自の学習状況調査を毎年4月に実施している。
これらの調査結果について分析を行い,改善ポイント,ワークシートなども合わせた報告書にまとめ,県内全小中学校に配布するほか,HPにも載せている。
埼玉県では,検証改善委員会において取組の一環として「学校用分析支援プログラム」ソフトを開発し,各学校に配布した。このソフトを活用し,各学校が全国学力・学習状況調査結果等を活用した検証改善サイクルを構築することを推進した。
また,調査結果等を踏まえた,学校における課題把握とその課題解決のための「学校課題解決プランモデル集」を作成・配布した。
さらに,文部科学省の「全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進に係る実践研究」の「調査活用協力校」による具体的な実践研究を合わせ,プランと実践のモデルを各学校に提供し,各学校における検証改善サイクルの構築を支援した。「調査活用協力校」は教育事務所を単位とした地区ごとに選出し,協力校を核とした地区研究協議会を組織し,研究及び成果の普及を図った。
県は協力校に対し,「学校用分析支援プログラム」ソフトを平成20年度全国学力・学習状況調査結果も活用できるよう更新して提供するとともに,教育事務所指導主事等を派遣するなどして該当市町村教育委員会と連携・協力して協力校における研究を支援した。また,県内全ての協力校を集めた全県の研究協議会を組織し,情報や成果の共有を図った。
学力向上対策委員会を,埼玉大学の竹長吉正教授,二宮裕之准教授の指導の下,校長4名,教諭16名の計20名で構成した。
5月に全県研究協議会を開催し,6月には地区研究協議会を開催した。また,9月からは調査活用協力校の調査結果を踏まえた分析と研究の見直しを行った。
1.総論
全国学力・学習状況調査の結果等のデ ータを活用し,各学校にPDCAサイクル
を構築することで,着実な学力向上がな されるよう事業を展開した。分析ツール「学校用分析支援プログラム」ソフト,プランモデル「学校課題解決プランモデル集」,実践モデル「調査活用協力校の実践発表」を提供することで,各学校におけるデータ分析やデータ活用が着実に進んできた。
2.教育委員会における実践研究について
学力向上対策委員会及びそのWGにおいて,平成19年度全国学力・学習状況調査等の結果を踏まえた課題の把握と改善計画を検討し,各学校にPDCAサイクルを構築する支援として,「学校用分析支援プログラム」の更新と「学校課題解決プランモデル集」の作成を行い,各学校に配布した。
3.成果の普及に関する取組について
調査活用協力校における実践について各地区研究協議会において発表,協議することで,地区内の各学校に成果を普及することができた。また,今年度用に更新した「学校用分析支援プログラム」を活用した各学校における課題の把握やその解決を支援するための「学校課題解決プランモデル集」を作成,配布するとともに,教育事務所ごとに研修会を開催し,その活用を促した。
○ 県内の各小・中学校が自校の調査結果をもとにした課題把握とその解決を図るための「学校課題解決プランモデル集」を作成し,配布した。
○ 全国学力・学習状況調査と本県の「学習状況調査」「教育に関する3つの達成目標効果の検証」のデータ等を踏まえた課題把握,課題解決プラン作成,実践をとおして着実に改善に結び付けていく検証改善サイクルを市町村教育委員会と連携して,県内の小・中学校が構築するよう支援している。
○ 県学力向上推進協議会や教育事務所ごとの地区学力向上推進協議会で,実践研究協力校の研究の成果を発表し,普及啓発に努めている。
○ 埼玉県市町村教育委員会連合会,埼玉県公立小学校校長会,埼玉県中学校長会,埼玉県PTA連合会,埼玉県教育委員会が一体となって学力向上に取り組むことを確認し,「学力向上のための日々の取組について」をまとめ,「学びの子5つの合い言葉」を作成・配布した。
○ 各学校が自校の課題に応じて作成する学校課題解決プランとその取組への支援
○ 調査活用協力校の研究委嘱と研究発表・実践事例発表
○ 効果的な取組を紹介する地区別研究冊子の作成・配布
○ 学校用分析支援プログラムの更新・配布
○ 全国学力・学習状況調査結果の全体的な正答率は,全国平均を上回っている。
○ 国語において「言語についての知識・理解・技能」及び「言語事項」については全国の正答率を下回っている。
○ 数学において「数学的な表現を用いて説明することができる」や「グラフから情報をよみとり,考えを数学的な表現を用いて説明することができる」といった項目についての正答率が全国平均を下回っている。
○ 各教科等の年間指導計画へ言語活動を位置付ける。
○ 国語科の取組として,各教室に発表の仕方や説明の仕方等の掲示物を作成し,資料をよみこみ,自分の考えをまとめ,相手に伝える発表をすることを中心にし,言語活動を向上させる授業の工夫・改善を図っている。
○ 数学科では,文章題等を利用し,式の意味を自分の言葉で説明するなどの活動を通して,表現力を育成している。また,定期テストにおける予告問題づくりにより,身近な数学的事象をとらえ,論理的に考えたり,説明する力の育成を図っている。
○ 中学校区内の3校による合同研修会や「学習3つの約束」「家庭学習の手引き」「家庭教育のポイント」等,小・中学校間で統一した取組を実施している。
○ 小学校6年生の中学校体験入学や,中学校教諭による小学校での授業(小6社会,小4・5図工,小3理科)をとおして,小・中学校間で教員及び児童生徒の異校種理解を深めた。
○ 補充学習会や総合的な学習で,地域の教育力を積極的に活用している。
○ 説明力,文章力が向上した。各教科のレポート等では,筋道を立てて説明し,結論付けることができるようになった。また,スピーチ等において,自分の考えを時間内に述べることができるようになった。
○ 全国学力・学習状況調査の無答率が減少した。
○ 数学科の予告問題等の取組により,文章問題や,説明する問題にもねばり強く取り組み,答えを出すことができるようになった。
○ 全国学力・学習状況調査の結果が前年度より向上した。標準化得点の結果が19年度と比べて「国語Aは+1,国語Bが+4,数学Aが+3,数学Bが+4」であった。
○ 説明力,文章力は向上したが,授業での積極的な発表はまだ多いとは言えない。授業での発言を増やす必要がある。
○ 多様な言語活動を積極的に取り入れた授業展開を工夫することにより,さらなる学力向上を目指していきたい。
○ 形式的な計算はできるが,意味の理解を伴っていないことがある。
○ 授業の中で,既習内容がなかなか想起できず,既習の学習が生かされていない。
○ 考え方をよく理解しないまま,学習が進んでしまうため,学習内容の定着が悪い。
○ 算数科の授業における取組
(1)学び合いを通して表現力を高める自分の考えをもち,表現し伝える。
→互いの違う考えや似ている考えを深め合い,お互いを認め合う。
(2)ノート指導を通して表現力を高める
思考過程のわかるノートづくり
数直線図の活用
言葉を使って自分の考えを整理
友達の考えを書く
学習感想を書く
自己評価をする
○ 算数科の授業以外における取組
(1)個人カルテで基礎・基本の定着を図る
算数個人カルテの作成
ミニプリントの作成
「百ます計算大会」の実施
(2)補充的な学習で基礎・基本の定着を図る
◇朝の算数スキル(毎週金曜日)
→「百ます計算大会」,「書く問題」導入
◇パワーアップ教室
(放課後の補充的な学習)
→毎週月曜日に地域に住む元教員が3年生限定で指導
◇サマースクール
→中学校の教員も指導
(3)「彦成算数オリンピック」で,考える楽しさを味わわせる
○ 学力向上の基盤をつくるための取組
(1)「はっきり」とした言葉で発表する
(2)「すっきり」とした机で学習する
(3)「ピッ」と手を挙げる・背筋を伸ばす
○ 家庭・地域との連携
(1)読み聞かせボランティア
(2)PTA家庭教育部
(3)PTA主催の漢字検定(年2,3回)
○ 「教育に関する3つの達成目標」の取組に係る効果の検証で,「読む・書く」も「計算」も大きく向上した。
○ 学習意欲の向上が見られ,「算数の学習が好きです」に対して,「そう思う」「少し思う」を合わせると70%に達した。
○ 家庭の学習環境が向上し,毎日家庭学習をする児童,テレビを消して家庭学習をする児童が増加した。
○ 図や文を使って表す力は付いてきたが,考えを発表し伝え合う力の不足
→表現力の育成
○ 基礎的・基本的な問題はできるが,発展的な問題に戸惑う児童
→活用力の育成
○ 家庭学習は定着してきたが,宿題しかしない児童
→学習時間,質を考え,宿題以外の学習をする児童の育成
○ 標準化得点による分析
算数「主として『知識』に関する問題」に課題
○ 学習指導要領の領域的分析
(1)国語「読むこと」「話すこと・聞くこと」に課題
(2)算数「数と計算」「量と測定」に課題
○ 評価の観点別分析
(1)国語「読む能力」「話す・聞く能力」に課題
(2)算数「知識・理解」「表現・処理」に課題
○ 設問別分析
(1)【国語】
・適切な話し方,適切な書き方を問う問題が苦手
・文章題から情報を取り出すことが苦手
(2)【算数】
・小数が含まれる問題が苦手
・割合が関係する問題が苦手
・数値等を利用して論理的に説明することが苦手
○ 質問紙調査の分析
「失敗をおそれずに挑戦する」「自分によいところがある」など,自尊感情に関わる部分を肯定する割合が低い。
○ 思考を促す場の設定
身に付けた力を活用し,思考力・判断力・表現力等を育成する。
○ 単元構成の工夫
基礎・基本の確実な習得とその活用 を繰り返し図っていく。
○ 主体的な学習
自ら課題解決に取り組み,学ぶ喜びを味わわせる。
○ 国語科
(1)必要な情報の選択
(2)的確な書き方
○ 社会科
(1)情報の比較,関連
(2)情報の再構成
○ 算数科
(1)知識の選択
(2)算数としての言語活動
○ 理科
情報の比較,関連
○ 実技系教科
(1)知識の選択
(2)個性を生かす
○ 思考を促す場の設定
相互評価をしながら,考えを交流させて,書き直したり,書き加えたりする。
○ 主体的な学習の工夫
(1)学習の進行役を児童に委ね,課題をグループ協議し,発表による交流で進める。
(2)振り返りカードの継続
○ 「学校用分析支援プログラム」による分析
・国語の授業で自分の考えを書くとき,考えの理由がわかるように気をつけて書いている。
・算数の授業で公式やきまりを習うとき,そのわけを理解するようにしている。
○ 「全国・学力学習状況調査結果チャート」を使って
○ 学習の流れが明確となり,児童は見通しをもって落ち着いて学習に取り組むようになった。
○ 課題提示や発問の工夫により児童の興味・関心が高まり,学習意欲が向上した。
○ 多様な学習形態の工夫により,より多くの学習支援ボランティアの協力が得られた。
○ 表現力や活用力を高めるために,算数科の問題解決的な学習を手がかりに取り組んできたが,基礎・基本としての書く力や話す力を各教科で重点的に身に付けさせていくことが必要である。
○ 学習意欲を高めるために,発問の工夫や焦点化に取り組んできた。さらに,習熟の程度や興味・関心などに応じた少人数集団による,単元を見通した学習指導を計画・実施することが必要である。
○ 学びの基礎づくりを構築するために,「泉っ子チャレンジ」による豊かな生活体験やチャイム着席・挙手の仕方など,学習規律の確立に取り組んできた。さらに,望ましい集団活動をとおしてよりよい人間関係を構築することが必要である。
(参考)
埼玉県教育委員会義務教育指導課
http://www.kyouiku.spec.ed.jp/kakuka.html#gimukyouikuka
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --