平成19年度全国学力・学習状況調査の結果を受け,福島県検証改善委員会は,子どもたちの学力向上を図るためには,日常の授業における子どもたちの「学びの質」を高めていく必要があり,そのためには,教員一人一人の力を最大限に引き出し,魅力ある授業を日々創造していくことが重要であるとの認識のもと,「子どもの学びの質を高める『各学校の授業改善サイクルの日常化』福島プラン」(学校改善支援プラン)を作成し,分析・課題の明確化,福島からの発信,成果の普及,広報協力推進,という視点から実践研究に取り組んだ。
また,文部科学省の公募事業である「学校改善支援促進事業」を活用して様々な指導資料等を作成し,各学校及び教員等に配付してその活用を促すとともに,「授業フォーラム」を県内2か所で開催し,教員の意識啓発に努めた。
〔福島県検証改善委員会が作成した資料等及び啓発活動〕
◆授業改善サポートブック
(公立小・中学校のすべての教員に配付)
◆分析支援ソフト(各学校に配付)
◆提案授業DVD(各学校に配付)
◆県版「学びのすすめ」
(児童生徒に配付)
◆授業フォーラムの開催
(平成20年2月に,県内2か所で開催。約500名が参加)
しかし,平成19年度調査の結果公表が10月下旬となったため,資料等の作成が遅れ,各学校及び各教員がこれらの資料を活用することができたのは,平成20年度に入ってからという状況であった。
ア 平成20年度全国学力・学習状況調査の結果について
今回出題されている学習内容に関して,全国の状況と比較すると,本県児童生徒の学力の実態については,おおむね全国平均であると判断できるが,大きく2つの課題が明らかになった。
今回の調査においては,知識・技能のより確実な定着と,これらを活用して課題を解決する力の育成に課題が見られた。課題の改善を図るためには,検証改善委員会が作成した「分析支援ソフト」を活用するなどして,各学校が自校の結果を詳細に分析し,これまでの取組を見直すとともに,改めて課題を明らかにし,学校全体で具体的な指導改善に当たる必要がある。
授業で学んだ学習内容の定着を図るとともに,その理解を深めるための家庭学習の充実など,児童生徒の主体的な学習習慣の形成を図る必要がある。
イ 【課題1】及び【課題2】を踏まえた県教育委員会の取組
(ア)【課題1】への対応
福島県検証改善委員会が作成した学校改善支援プラン等を踏まえ,全国学力・学習状況調査の結果から,自校の課題解決に向けて積極的に学力向上に取り組む小・中学校(以下「調査活用協力校」という)各7校の取組を県教育委員会が支援し,その成果の普及を図ることにより,県内すべての学校の授業改善等を促し,本県児童生徒の学力向上に結び付けることとした。
(イ)【課題2】への対応
「学びの習慣を育てる事業」(県単独事業H20~H22の3年間実施予定)において,教員を対象に学習相談等に関する指導力の向上を図るための研修会等を実施し,その成果をもとに各小・中学校において児童生徒が学校や家庭で主体的に学習に取り組めるよう指導を行うことにより,児童生徒の学習習慣の確立を図ることとした。
a 本庁が実施する内容
・研究協議会の開催(4月,2月)
・指導資料の作成
・実態調査及び学校訪問の実施
b 教育事務所が実施する内容
・教員を対象とした研修会の実施(5月,1月)
・資料作成と配付
・学校訪問等における指導助言
c 市町村教育委員会が実施する内容
・各学校の取組み等への指導
d 各学校が実施する内容
・校内研修会の実施及び指導資料の活用(教員の指導力向上)
・授業の更なる充実と学習習慣の確立に向けた取組
本県には7つの教育事務所があるため,調査活用協力校の選定に当たっては,左図のように各教育事務所域内からそれぞれ小学校1校,中学校1校を選定することとし,その実践研究を支援するとともに,随時,各域内において成果の普及を図ることとした。
域内 | 調査活用協力校(14校) |
県北 | 伊達市立上保原小学校 |
二本松市立東和中学校 | |
県中 | 小野町立小野新町小学校 |
玉川村立泉中学校 | |
県南 | 中島村立滑津小学校 |
白河市立白河第二中学校 | |
会津 | 会津坂下町立坂下小学校 |
会津若松市立第五中学校 | |
南会津 | 下郷町立旭田小学校 |
下郷町立下郷中学校 | |
相双 | 相馬市立中村第一小学校 |
富岡町立富岡第一中学校 | |
いわき | いわき市立久之浜第二小学校 |
いわき市立三和中学校 |
また,実施体制としては,下図のように,各教育事務所,教育センター及び福島大学が,それぞれ各調査活用協力校の取組を支援することとした。
調査活用協力校が自校の課題解決を図る上では,PDCAサイクルの日常化を図ることが重要であることから,県教育委員会は訪問指導等において,次の点について,継続的かつ具体的な支援を行った。
ア データ分析による課題把握
教育センター及び教育事務所の指導主事が訪問し,「分析支援ソフト」の効果的な活用について指導助言等を行うなどして,各調査活用協力校の分析及び課題の明確化を支援した。
イ 課題解決に向けた学力向上策の立案
分析結果をもとに,各調査活用協力校では,課題解決に向けて「いつ,だれが,どこで,どのように」実践するのか,具体的な方策を明らかにしていった。ここでも,教育センター及び教育事務所の指導主事が訪問して具体的な指導助言等を行ったり,大学教授等が専門的な視点から講話や指導助言を行ったりするなどの支援を実施した。
ウ 学力向上に向けた取組
教育センター及び教育事務所の指導主事及び大学教授等が,各調査活用協力校における校内授業研究会や校内研修会等に参加して継続的に指導助言等を行い,各調査活用協力校の課題改善に大きな役割を果たした。
ア 各教育事務所の取組
各教育事務所においては,域内の調査活用協力校の取組の成果等を,学校訪問や各種研修会及びWeb等で紹介した。また,市町村教育委員会の要請に基づき各小・中学校に対して実施した個別支援(全国学力・学習状況調査の結果を踏まえた取組に対する指導助言)において,学力向上に係る日常的なPDCAサイクルの確立に向けた取組のポイント等を指導した。
イ 県全体での取組
(ア) 授業改善合同研修会(授業改善実践 フォーラム)の開催
平成21年1月24日(土曜日)10時~16時30分,福島県立図書館の講堂において「授業改善合同研修会(授業改善実践フォーラム)」を開催した。調査活用協力校2校の実践事例発表のほか,教科調査官及び大学教授による講演やこれからの授業の在り方についてのパネルディスカッションなどを行った。学校関係者,教育行政関係者,一般の方々など260名が参加した。また,フォーラムの記録をDVDに編集し,各学校に配付して広く普及を図った。来年度の各種研修会等においても本DVDの活用を図る予定である。
(イ) ホームページ等の活用
各調査活用協力校の実施報告書を県教育委員会のホームページに掲載し,成果の普及に結び付けた。
また,【課題2】の改善に向けた「学びの習慣を育てる事業」の成果についても県教育委員会のホームページに掲載し,更なる取組を呼びかけている。
〔アンケート調査の結果〕
小学校6年生 | 6月調査 | 1月調査 | 差 |
平日2時間以上学習する | 13.0% | 16.4% | +3.4 |
平日1時間以上学習する | 57.7% | 70.3% | +12.6 |
自分で計画を立てて学習する | 68.7% | 74.7% | +6.0 |
中学校3年生 | 6月調査 | 1月調査 | 差 |
平日2時間以上学習する | 26.8% | 60.9% | +34.1 |
平日1時間以上学習する | 68.6% | 88.1% | +19.5 |
自分で計画を立てて学習する | 59.5% | 71.8% | +12.3 |
調査活用協力校への支援とその成果の普及を図ることにより,調査活用協力校はもとより,全国学力・学習状況調査を活用して積極的に自校の課題改善に取り組もうとする学校が増えてきている。
来年度の取組としては,分析支援ソフトを平成21年度調査用に改善し,検証改善委員会のホームページからダウンロードできるようにするとともに,新学習指導要領と本調査が密接に結び付いていることを踏まえ,今後とも各学校における検証改善サイクルの確立を促していく計画である。
校長:西牧裕司
所在地:〒963‐3401
福島県田村郡小野町大字
小野新町字万景43番地
電話0247(72)‐3069
FAX0247(72)‐3422
学級数:普通学級16
特別支援学級2
児童数:402人
(ア) 全国学力・学習状況調査の結果の分析
【国語】
分析結果から今後補完すべき内容
【算数】
分析結果から今後補完すべき内容
【児童質問紙から見出された課題】
(イ) 課題の明確化…学ぶ意欲と豊かに伝え合う力の向上を図る。
<全国学力・学習状況調査の分析結果から>
○学ぶ意欲
学習に対する一時的な動機付けだけで高めるものではなく,学習に対する責任感や価値観,自己成就感に裏打ちされた内発的な学習意欲までを含む。
○豊かに伝え合う力
自分の考えを明確にもち,日常生活で必要とされる記録,説明,報告,紹介,感想,討論などの言語活動を通して,友だちや様々な人,記号,情報,知識,技術とかかわり,考えを更に深める力。
(ア) 「毎日の授業での授業改善の指針」の作成
(イ) 毎日の教育活動にPDCAの機能を取り入れることができる週案の活用
(ウ) 学ぶ意欲と豊かに伝え合う力の向上を図るための授業改善
(エ) 理数教育の充実を図る個に応じたT・Tの指導
(オ) より一歩進んだ個に応じた指導の充実
(カ) 家庭での学びの習慣作りのためのアンケート調査とアンケート結果の公表による啓発
(ア) 全体会・研究授業における取組
1.学力向上研究事業全体会の実施
(H20.10.21・11.7)
2.要請訪問・学力向上授業研究会の実施
(H20.11.27・12.17・H21.1.19)
(イ) 授業改善の概要
1.「毎日の授業での授業改善の指針」を決定し,毎日の授業における改善点を明確にした。
特に,指針1では,「子どもたちをほめていますか。」という先生方への問いかけをすることにした。これは,全国学力・学習状況調査の国語科・算数科の結果と児童質問紙のクロス集計で明確となった「達成意欲,自己成就感,自己存在感,学習に対する価値観を育て,自主的学習態度を養う」ための対策である。
<校内配付リーフレットより>
2.学ぶ意欲と表現力をはぐくむ言語活動の充実を図ることを通して,活用力を高める授業研究(国語科において実施)
【視点1】内発的な学習意欲を喚起する発問の工夫
【視点2】「書く,話す,聞く」の関連を図った学習活動の工夫
【視点3】豊かに伝え合うための学習形態の工夫
3.ぬくもりがある学級経営の中で,自発的,自治的な活動を重んじる学級活動(1)の授業研究(現職教育における取組)
→国語科・算数科だけでなく,学級・学校全体において児童が主体的に活動できる意欲を養い,学力向上の屋台骨を支えようとする取組。
【視点1】内発的な学習意欲を喚起する事前指導の充実
【視点2】豊かに伝え合うための話合い活動の工夫
(ア) 児童の変容
「毎日の授業での授業改善の指針」というリーフレットにより,児童を称賛することを授業改善の第一に捉え,協働的に実践してきたため,教員の意識が変わった。また,この取組を全校的に半年間続けたことでかなり効果も上がってきた。児童をほめようと思えば,児童をきめ細かに見ようとし,ほめられた児童は元気を出すようになる。ほめることは,児童をエンパワーすることになる。そして,さらに,元気付けられた児童は,先生に更にほめてほしいと思い,向上心をもつようになった。この結果,学校自体が活性化しつつある。
(イ) 教員の変容
学力向上に対する授業研究を継続してきたために,教員の中に本時のめあてとまとめとの整合性を図った授業をしようとする意識が更に高まった。今後,この意識の変化を板書構造の改善へとつなげていきたいと考えている。
すべての研究授業に外部講師を招聘することで,授業に対する適切な評価をしていただいた。その中で明確になったことは,授業をいかにして,「見えるようにするか」ということであった。この「見える」という部分では,「子どもに対し,授業を見えるようにする」という部分と,「授業者が,自分の授業を見えるようにする」という部分である。下の図は,1年生の国語の授業においてであるが,授業というのは,テキストという抽象的なものを児童にとって見えるように,具体的なものにすることである。その間にある「つなぐ」ものが,言語活動であることがわかった。言語活動は,新学習指導要領ではすべての教科で重要視されるものである。言語活動の充実に向け,研究授業において移行期に先駆けて実践できたことは,4月からの授業の実施に向けて大きな一歩となった。
また,研究授業においては,小野町内の基礎学力向上推進委員・小野町学校教育指導委員の先生方にも参観していただき,ご意見をいただいた。さらに,「授業改善実践フォーラム」において実践校発表を行ったが,この際に,「『毎日の授業での授業改善の指針』がどこの学校でも実践できる内容である。」との評価もいただいた。
今年度の学力向上事業での成果を生かし,平成21年度の教育課程においては,すべての教科で言語活動を重視する方向で編成を行った。次年度においても,国語科及び特別活動における現職教育を今後も更に深め,9月には地区内の先生方に授業を公開し,学力向上を可能にする授業の在り方を模索していきたいと考えている。
校長:下重秀俊
所在地:〒961‐0985
福島県白河市和尚壇2番地1
電話0248(23)3248
FAX0248(22)3150
学級数:普通学級20
特別支援学級1
生徒数:591人
(ア) 全国学力・学習状況調査の結果の分析
平成19年度の調査結果においても,平成20年度の調査結果においても,国語A,国語B,数学A,数学Bともに平均正答率で全国平均を上回っている。しかし,「A」問題の高い正答率に比べ,「B」問題の伸びは大幅なものではなく,持っている「知識」をいかに「活用」するかということが課題であることが明らかとなった。
【国語】
国語科は,A問題,B問題ともに県平均・全国平均を上回る。しかし,B問題の正答率がA問題と比べると低い。「国語B」問題から,語彙力を高めることや論理の展開に注意して文章を読み取る指導をすることが必要であることが明らかになった。また,条件作文や記述式問題で無解答率が高くなった点も課題である。
【数学】
数学科は,A問題,B問題ともに県平均・全国平均を上回る。しかし,B問題の正答率がA問題と比べると低い。「数学A」問題では,グラフ,図,式,計算の連携と関係の理解が必要であり,その知識の定着の不十分なところが「数学B」にも出ている。物事の事象を数理的に捉え,数学的に表現したり説明する力に欠けることがクロス集計の結果,明らかとなった。
(イ) 課題の明確化
国語科と数学科の両方で,持っている「知識」を「活用」させる段階に課題があり,計画的に授業に取り入れる必要がある。そのためには,「知識」が確実に定着しているかを判断し,「活用」だけに偏らない段階的な指導が必要である。
(ア)知識・技能の定着
(イ) 思考力・判断力・表現力の育成
(ア) 実践事例1(知識・技能の定着を中心に据えた実践)
○1学年国語科(6月)
「大人になれなかった弟たちに…」
・話し合い活動を基盤に据える。
・1時間の授業内容を定着させる。
このような手立てを講じることにより,自分の考えの深まりを体験させることができた。
(イ) 実践事例2(活用を中心に据えた実践1)
○1学年数学科(9月)
「方程式」
・カレンダーを用い,日常の事象が数学とかかわっていることの活用
・単元の導入における活用の授業の位置付け
このような手立てを講じたことにより,生徒が興味・関心をもって学習に取り組むことができた。
(ウ) 実践事例3(活用を中心に据えた実践2)
○3学年国語科(11月)
「生き物として生きる」
※「書くこと」の活用力を高める授業
○2学年数学科(11月)
「等積変形」
※観察・操作活動によって図形の様々な性質に気付く授業
(ア) 授業周辺部へのアプローチ1
○週末課題と確認テスト
家庭学習の習慣化及び賞賛
(イ) 授業周辺部へのアプローチ2
○教職員の研修
生徒の学習習慣の定着についての研修会
○授業づくりのための講演会の実施
学習に関するアンケートを10月と2月に実施し,授業の改善や単元構想の改善に役立てた。(アンケートから一部抜粋)
調査項目A
友達や家族に聞く生徒が多い。また,学年が上がるにつれて自分で調べる生徒も増加する。また,そのままにしてしまう生徒も見られる。そのままにしない姿勢を定着させれば,意欲的に学習する態度を育成できるのではないか。
調査項目B
全国学力・学習状況調査にも似た項目が入っている。意欲,学習への意志の強さをはかる項目である。分からないことをそのままにしておくことは,問題への粘り強さを減少させてしまうのではないか。
本事業では,全国学力・学習状況調査の結果を分析し,本校の学力向上に向けての課題である「活用力の育成」をテーマに,福島大学の渡辺博志准教授や森本明准教授,県南教育事務所の指導主事の方々と連携して研修を進めた。「活用力の育成」に,本校の教員が授業を実践し適切な指導をいただくことにより,生徒の変容とともに,充実した校内研修を実施することができた。次年度においても,活用の取組を更に充実させていきたい。
課題解決のため,今後は次の4点に取り組んでいきたい。
○主体的に学び,意欲を持続させて学習に臨むために,学校全体でアンケートを実施し,授業改善・単元構想の改善に役立てる。
○「活用」の授業は実践しようとしなければ,なかなか取り組むことができないため,研修を中心に実践内容を把握し,校内研修に努める。
○国語科においては,リライトや条件に合わせたり,複数のテキストから情報を選び,条件に合わせたりして文章を書くことを強化する。
○数学科においては,問題解決的な学習課題に取り組み,課題の意図が伝わるような授業を実践していかなければならない。
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --