福岡市検証改善委員会
福岡市では、平成18年度から独自に学力実態調査(福岡市学力実態調査)を実施して、本市児童生徒の学力の実態や課題の把握と、それを踏まえた全市的な学力向上の取り組みを進めてきた。本市児童生徒の学力については、全体的には全国標準と同等でありおおむね良好ではあるが、理数系の学力や思考力・国語力、学習意識や学習習慣等に関する課題が明らかになっている。
各学校は学力実態調査結果を踏まえた自校の学力向上推進プランを作成し、指導方法や指導体制づくりの工夫を進めると同時に、福岡市学力向上検討委員会を中心に、全市的な授業改善の方向性を明らかにするとともに、各教科毎の授業改善の手引きを作成・配付するなどの支援を行っている。
福岡市検証改善委員会の体制としては、教育長の諮問機関として既に設置していた福岡市学力向上検討委員会(市民代表、保護者代表、学校関係者代表、行政関係者代表から構成)と連携を図れるよう学識経験者で組織構成している。
具体的には、福岡教育大学教授である小泉令三氏が学力向上検討委員会と検証改善委員会の委員長を兼任し、他福岡教育大学教授等の学識経験者5名と事務局として指導主事2名と係員1名を加えた8名で構成している。
調査結果の分析等にあたっては、全国学力・学習状況調査結果だけでなく、同時期に実施した福岡市学力実態調査結果の分析も加え、教科においても対象学年においても、幅を広げた分析や検証を行えるようにした。
また、本委員会の他に、特に、福岡市小学校教科研究委員会、中学校教科研究会からメンバーを選考した教科専門部会(ワーキンググループ)を設置して、分析結果に基づく授業改善の在り方についての検討も行った。
本市の全国学力・学習状況調査の結果からは、教科ごとの課題とともに、大きく次の3点から課題があり、学校改善により学力の向上を図るための支援策が必要であることが明らかになった。
学力の全体的な底上げが必要な学校及び地域への支援
教科ごとの特定課題が明確であり、その解決が必要な学校及び地域への支援
家庭での学習習慣等との相関による学力課題を有する学校及び地域への支援
前述した3つの課題のいずれかを有する学校のなかからモデル校を指定して、学力向上のための学校改善支援促進事業を実施するとともに、その成果を全市に普及させ、現在進めている全市的な学力向上の取組を一層実効性のある取組に高めていく。
【図1 学校改善プランのイメージ】 |
指定モデル校においては、図1のように3つのプログラムに基づいた実践研究を進め、学校・地域(家庭)・行政との連携を一層強めた総合的な学力向上の取組の実践研究を行う。
検証改善(PDCA)サイクルを位置付けた授業改善に取り組む。
宿題及び自学などの家庭学習習慣を地域ぐるみで育成する。
学校・地域への物的・人的サポートを強化する。
本市の全国学力・学習状況調査結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。
教科に関する分析では、本市において全体としても、細かく観点別、設問別等から分析しても、ほぼ全国と同様の傾向であり、全国的な課題が本市の課題という結果となっている。
個別の教科について具体的に見ると以下のような特徴と課題が見られた。
国語A(知識面)については、全国と同様に全体的にはおおむね良好であるが、国語B(活用面)については、全国と同様に課題があると考えられる。
観点別に見ると、全国平均との比較では、全ての観点において、同程度か上回る傾向ではあるが、書く能力についてはBにおいて課題があり、読む能力については、ABいずれにおいても課題がある。
また、言語についての知識・理解・技能は、基礎・基本的な面ではおおむね良好ではあるが、活用する力をさらに身に付けさせる必要がある。
算数A(知識面)については、全国と同様におおむね良好であるが、算数B(活用面)については、全国と同様に課題があると考えられる。
観点別に見ると、全国平均との比較では、全ての観点において同程度の傾向であるが、数学的な考え方については、特に課題がある。
数量や図形についての表現・処理については、Aについてはおおむね良好であるが、Bにおいては課題がある。また、数量や図形についての知識・理解についてもさらに高めていく必要がある。
国語A(知識)については、全国と同様に全体的にはおおむね良好であるが、国語Bについては、全国と同様に知識・技能を活用する力をさらに身に付けさせる必要がある。
観点別に見ると、全国平均との比較では、全ての観点において、同程度であるが、書く能力についてはAB何れにおいても課題があり、読む能力及び言語についての知識・理解・技能は、基礎・基本的な面ではおおむね良好であるが、活用する力をさらに身に付けさせていく必要がある。
数学については、全国と同様に、基礎・基本的な知識・技能をさらに身に付けさせる必要があり、知識・技能を活用する力に課題があると考えられる。
観点別に見ると、全国平均との比較では、全ての観点において、同程度か上回る傾向であるが、数学的な考え方については、特に課題がある。
また、数量や図形についての表現・処理は、基礎・基本的な技能をさらに身に付けさせる必要があり、技能を活用する表現・処理能力に課題がある。
学習状況調査の結果からは、学習に対する意識の面で、小中学校ともに、学習に対する肯定的な意識が高い児童生徒の方が正答率も高い傾向が見られるが、学年が進むにつれて肯定的な意識が低下していることに課題がある。
また、学習習慣においては、勉強時間を自分で決めて実行している、宿題をしている、前日やその日の朝に学習の準備をしているなど、規律ある学習習慣が身に付いている児童生徒の方が、正答率も高い傾向が見られる。
さらに、規律ある生活習慣が身に付いている児童生徒、学校の決まりや友達との約束を守るなどの規範意識の高い児童生徒ほど、正答率が高い傾向が見られる。
3で述べた分析結果を受けて、「日々の授業改善」プログラム、家庭学習サポートプログラム、学校改善サポートプログラムの3つの面から、学校・地域(家庭)・行政との連携を一層強めた総合的な学力向上の取組について、8つのモデル校を指定して、実践研究を行った。
全国学力・学習状況調査結果から明らかになった全市や自校の学力の実態や課題をもとに、妥当性・信頼性のある評価を位置付けた検証改善サイクルの確立により、確かな学力向上を図る授業改善に取り組む。また、採点や集計作業等の授業に伴う事務作業を中心に担当する授業サポーターを設置して、教員が教材研究や授業づくりに専念し、児童生徒により多くかかわれるよう支援する。
モデル校の選定については、事業についての公募を行い、学校規模や地域のバランスを考慮して、状況が異なる学校を約8~10校程度をモデル校として(検証改善委員会が)選考する。
自校(児童生徒)の学力の課題解決を図るために、教科における特定課題や内容(知識や活用)ごとの特定課題を踏まえた授業改善ポイントを明確にした重点的な改善を進める。
小サイクル(単元・題材単位)と大サイクル(学期・学年単位)の適切な評価を実施する。特に、学習内容の定着・一般化の状況を評価する妥当性・信頼性のある評価を工夫する。
学校視察を行い実践研究の進捗状況を確認するとともに、検証改善サイクルの確立や授業改善について指導助言を行う。
実践研究に伴う、授業事務(テスト採点及びデータ処理等)に関するサポート
事業内容及び授業の進め方等についての共通理解及び情報交換を目的とした連絡会を事業期間中定期的に開催する。
家庭学習や予習・復習などの自学等の学習意欲や学習習慣を学校と家庭・地域が連携して育成していく協力体制を確立する。特に、家庭での指導や協力が困難な児童生徒に対しては、地域がサポートできるように、家庭学習サポーターを設置する。
場の設定(学校の空き教室、公民館や集会所等)・地域による人材確保を行う。
家庭学習支援のためのカリキュラム作成・学校における「日々の授業改善」と連携して、どのような学習内容や学習方法によるサポートを協力依頼するかを明確にする。・課題を踏まえた、宿題の出し方、予習・復習のさせ方等の共通理解を図る。
家庭学習のための教材作成・活用学習指導(授業)と連動した家庭学習教材・児童生徒が見通しをもって主体的に取り組める家庭学習教材を活用する。
各家庭で、保護者が指導したり点検したりできる解答資料を配付する。
宿題を必ず仕上げる学習習慣を育成するための教育条件整備を行う。学習内容の定着も重要だが、それ以上に宿題を必ず仕上げる態度の育成が重要(国と市の調査においても、宿題と学力の相関は極めて強い)。
予習・復習など主体的な学習習慣を育成するための教育条件整備を行う。例えば、自学についての相談所的なサポート教室を設置する。
「日々の授業改善」プログラムと家庭学習サポートプログラムにより、モデル校の学校改善と確かな学力向上の取組が効果的に進められるように、物的・人的な面から教育条件整備等の支援を行う。
学校が授業改善(指導方法や指導体制の工夫)を進める上で必要な教材費の補助・検証改善サイクルを確立するための評価に使用する標準テスト費を補助する。
授業サポーター・家庭学習サポーターの設置に伴う経費を配当する。
授業サポーター・家庭学習サポーターに対する全体研修の開催及び指導を行う。
学校改善アドバイザーによる視察と、サポーターの設置のための支援と全体研修を実施する。
モデル校の取組をもとに、授業改善及び家庭学習充実のための手引を作成する。
また、実践研究の成果の集約とその普及啓蒙を図るためのPRリーフレットの作成・配付を行い、学校や教員のみでなく、関係機関等を含め市民に啓発を図る。
4で述べた学校改善支援プランについては、その周知を図り各学校から応募を得るために、10月に各学校長を集めた説明会を開催するとともに、その概要をまとめた資料を各学校に配付した。また、11月初旬には、全国学力・学習状況調査の結果概要(全市の傾向や課題)についての説明会を開催した。その後、3月にモデル校の取組についての報告を行うとともに、その成果や課題を踏まえ、平成20年度、全小・中学校に拡大して取り組む学校改善プランを策定した。
学校改善支援プランの先行的な実施として、文部科学省が募集した学校改善支援促進事業に応募し、8月に選定された。
本事業の特色としては、学校における授業改善はもとより、その支援体制を家庭・地域に立ち上げ、学校・地域・行政が連携を強めながら学力の向上に取り組むことにある。そこで、平成19年度は、モデル校(8校)による実践研究を行い、平成20年度以降、その成果を全小中学校で活かせるよう取り組んだ。
以下、モデル校8校の実践研究における、「日々の授業改善プログラム」「家庭学習サポートプログラム」をもとにした取組の概要について記述する。
各学校の課題に応じて、国語・算数・数学の2教科(あるいは他教科も含めた4~5教科)についての総まとめができる教材を共通教材として用い、授業と家庭学習で連携して活用した。計画的に宿題を出すとともに、解答資料を保護者に配付したことで、保護者による点検はもちろん、採点やアドバイス等の家庭での協力も得られやすくなった。
学校によっては、算数の全学年全領域の問題プリントを学習内容の系統性に沿って分類・整理し、児童が自分の学習計画や学習状況に基づいて選択し、学習が進められるようにするなど、教材の整備の工夫も試みられた。
教科の学習の基盤となる計算力・漢字力等の一層の定着を図るために、始業前等の時間に10分から15分の「タイム」を設けて、共通教材を活用した全校的な指導も行われた。
【学習内容の系統別に整理・分類した学習教材】 |
各学校において、学校の状況に応じて次のような授業サポーターの活用がなされている。
ドリルやミニテスト、宿題プリント等の採点及び点検の補助を行う。
【家庭学習の点検・採点をする授業サポーター】 |
【その日のサポート内容についての依頼ボード】 |
【学習状況についてのPC入力の補助】 |
学習に必要なプリントの印刷や、個に応じた教材や学習プリントなどの作成業務等の補助を行う。
【学習プリントの作成・印刷依頼ボックス】 |
学生によるサポーターや教職経験があるサポーターには、学習が遅れがちな児童生徒等の指導の補助も依頼した。
【授業に加わり、困っている児童を指導する】 |
【補充学習において生徒の個別指導をサポート】 |
家庭学習支援を希望する児童生徒や家庭学習習慣の定着が難しい児童生徒等、各学校の状況に応じた児童生徒を対象に、次のような場所を用いて、支援教室を開設した。
各学校や地域の実情に応じて、また、今後支援・協力体制を継続していくことを考慮して、人材の活用を行った結果、次のような方々の協力を得た。
等
公民館関係者をはじめ、地域と連携してサポート体制を立ち上げたモデル校ででは、教員OBを中心としたチームと読書ボランティアを中心としたチームの2チームによるサポート体制により家庭学習を支援している。基本的な支援時間としては、1、2学年は、週2時間、3~5学年は、週3時間、6学年は週5時間実施している。また、連絡会を月に一回行い、校長及び教務主任等も加わって、授業との連携の在り方、指導方法の工夫、児童の状況等についての協議や情報交換を行った。
【公民館に設置した家庭学習支援教室】 |
【家庭学習サポーターとの連絡会】 |
【先輩が後輩を指導するサポーター体制】 |
全国学力・学習状況調査の結果公表後、モデル校における実践研究を開始したため、研究期間が短く、教科の成績の数値的な向上などを分析することは難しいが、下のグラフからも分かるように、学年の初めに比べると、学習意欲(設問1)学習規律(設問2)学習内容についての理解(設問3)学習習慣(設問4)において、75パーセント近くの児童生徒が自己の高まりを自覚している。また、放課後等の学習支援教室に参加した約7~8割の児童生徒が、「時間が短い」「今後も続けたい」と前向きな回答をしている。
日々の授業づくり、種々の提出物、校務の遂行と多忙を極める教員にとって、「楽しく分かる授業」づくりのための十分な時間が確保できにくい。今回の授業・家庭学習サポーター配置によって、負担が軽減され、その分教材研究や教具づくり等に専念することができた。また、授業事務が軽減された分、児童生徒と直接関わる時間も増加している。
実践研究の成果は得られたが、今後はモデル校の取組をいかに全小中学校に拡大していくかが課題である。特に、モデル校数校での実施にあたっては、報償費等にも十分な予算確保ができたが、全小・中学校(小学校146校・中学校69校)での実施となると、各校の予算は当然抑えられる。その際に、どう地域の支援体制・協力体制を立ち上げ継続させていくかが最大のポイントとなる。
これまでの項で述べてきたように、福岡市では、平成19年度の実践研究を踏まえた、平成20年度の学校改善プランを策定している。そのプランの最も重要なキーワードは「全小中学校で」と考えている。もちろん、今回の調査で特に課題があった学校への支援は必要であるが、市内の全小中学校が、自校の課題を踏まえて、ともに学力向上をめざす取組を一層充実させることが大切であり、全体が向上するなかで、課題がある学校も当然高まっていくと考えている。
そのために、福岡市では、大きく次の3つの提言による学校改善プランを推進していくこととしている。
福岡市は、市の調査をいったん止め、「調査段階」から「実践段階」へと、全市的な学力向上の取組重点を移行させていく。その間は、全国学力・学習状況調査を最大限に役立てながら、児童生徒の確かな学力向上に取り組んでいきたい。
-- 登録:平成21年以前 --