子どもたちに確かな学力を

京都市検証改善委員会

はじめに

 京都市では、精選された年間指導計画・評価計画「京都市スタンダード」の作成と実践。長期休業期間の弾力化、年間の授業日数を205日以上に全市統一することなどにより、学習指導要領に示す標準授業時数の10パーセント増以上の学習時間が既に確保されている。
 また、独自の学力調査を戦後一貫して実施。全市立小中学校に設置する「学力向上チーム」が主体となって、この調査結果を活かした「学力向上プラン」を年度当初に策定し、日々の指導で実践している。
 「京都市検証改善委員会」では、「一人一人の子どもを徹底的に大切にする」京都市教育の伝統と、「教職員の熱意と専門性の向上」「保護者・地域の参画」を礎として、これまで積み上げてきた教育実践の下に、地域性もふまえた各学校独自の課題に適切に対応する支援策を構築し、全市立小中学校の教育力のさらなる向上を図るため、以下のプランを策定した。

1 学校改善支援プランの概要

 京都市検証改善委員会は、兵庫教育大学特任教授である小寺正一を委員長として、市民ぐるみで子どもたちを育むネットワークとして京都市の各種団体が参画する「人づくり21世紀委員会」の幹事長1名、『「わが子の父親」から「地域のおやじへ」!』を合言葉に全国展開する『京都「おやじの会」連絡会』会長1名、幼稚園から高校まで含めたPTA協議会等の会長4名、ガールスカウトやボーイスカウトなど子どもたちの学力形成に大きく影響している体験・奉仕活動の分野の代表者2名、校長会及び園長会代表5名、京都市教育委員会の行政関係者8名の委員で構成する委員会である。
 また、調査結果を専門的かつ集中的に分析するため、京都市総合教育センターの指導主事9名(全国調査の実施教科の枠を超え、国語、社会、算数・数学、理科、英語)からなるワーキンググループの協力を得た。
 7月に検証改善委員会の第1回会合を行い、3月まで5回の委員会を開催し学力向上のための学校改善支援プランを作成した。

2 学校改善支援プランの概要

 検証改善委員会では、調査結果を基にした画一的な方策ではなく、学校の背景にある地域実態なども見据え、全ての学校が独自のPDCAサイクルを実践し、自立的な改善を進める中で、その学校で課題となる原因を確実に見極め、真に必要とする支援策を講じるべきとの見解から、全国調査についても、学校の自校分析・評価という取組を重視してきた。

 大きく次の4点を中心に学校改善支援プランをまとめた。

  • 1 学校が自校の学力をとらえる基盤を明確にする。
  • 2 義務教育をつなぐ学習システムを開発する。
  • 3 課題別・グループ別の学校支援を行なう仕組を構築する。
  • 4 家庭学習の充実に向けた働きかけを行う。

「確かな学力」の定着に向けた実践サイクル

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

(小学校・国語)

 <A問題><B問題>いずれの調査においても、正答数の分布は、国とほぼ同じ様相を呈している。さらに無解答率も国と同じ傾向を示している。その中で<B問題>の「活用に関する問題」や「記述して答える問い」に課題が見られた。
 <A問題>の5「文を構成する」で1文を2文の構成に書きかえる問いにおいては、そのまま書き写したり、文末が正確でなかったりした。また、<B問題>の2三(1)「新聞記事(環境問題)」を箇条書きの注意書きにする問いや、(2)自分の考えを決められた字数で記事として具体的に提案する問いなどで無解答率が高かった。
 そこで、今後<A問題>においては、覚えやすく使用頻度も高い漢字と、覚えにくく使用頻度低い漢字の実態を十分把握し、実態に応じた指導の工夫が必要である。また、<B問題>において「どのように読むのか・どのように書くのか」という指導の不十分さが明らかになったため、「読解力」と「記述力」の向上を目指して「読んで、考え、書かせる」ことの習慣化を図ることが重要であることが再確認できた。

(小学校・算数)

 <A問題><B問題>いずれの調査においても、正答数の分布は、国とほぼ同じ様相を呈している。総じて<問題A>よりも<問題B>に課題があった。基礎・基本の知識理解力や技能表現力はある程度定着しているが、それを活用する部分でなお課題があった。
 <A問題>の3の分数や小数の意味を問うもの、4の小数の乗法についての問いなどの正答率が低かった。また<B問題>の6(2)の式の形に着目して計算結果の大小を判断し、根拠となる考えを説明する問いと4(1)の情報を分類整理し比較・記述する問いなどの無解答率が高かった。
 そこで、まず計算技能の習得(加減乗除)や小数・分数の知識理解(数直線)、小数の乗除・分数の加減などを確実に定着させる必要が確認された。また<B問題>からは問題を読み取って数量関係を把握したり情報を収集し「問いをつかむ」ことや「根拠となる考えを説明する」ことが重要であることなども確認された。

(中学校・国語)

 <A問題><B問題>のいずれについても、正答数の分布曲線は国とほぼ同じ様相を呈している。無解答率も、同じ傾向を示している。すなわち選択式よりも短答式が高く、さらに記述式が高かった。すなわち記述して答えることに課題があった。
 個別には、<A問題>2三「手紙の書き方に関する問題」の「手紙の後付けの適切な書き方」が国の結果との差がもっとも大きかった。これは中1における既習事項だが、日常に手紙を書かないために知識が定着していないと思われる。また<B問題>の1三「情報をもとに根拠を明らかにしながら、自分の考えが伝わるように書く。」や2三「作品の内容や構成・表現上の特色をふまえ、自分の考えを書く。」などの問いの無解答率が高かった。
 今後の改善策として、<A問題>において、正答数0問~5問の生徒への具体的な手立てを各校が構築するとともに、「漢字の読み書き」については「漢字テスト」だけでなく、日常生活で「漢字」や「語句」が使えるように配慮することが重要である。また、<B問題>をふまえて「考えて書く」ことの習慣化や「考える場面」のある授業展開や発問の工夫が必要である。「何でもいいから書く」ではなく、理由(=そのように考えた根拠)を示して意見を述べることを定着させるよう心がけねばならない。

(中学校・数学)

 <A問題>は、京都市学力定着調査に比べ選択式が多く、時間にゆとりをもって取り組めたことは、類似問題の無解答率の比較により明かである。正答率が国を上回った主な設問は1(1)や(3)などの計算問題であった。また正答率が低かった設問は5(4)などであった。
 <B問題>については<A問題>と分けて出題されたことにより、今までは手をつけることをしなかった生徒が解答に取り組み無解答率が低くなったと思われる。無解答率が低いということは、たとえ誤答であっても何らかの記述をしていることであり、つまずきの箇所を見い出すことができた意義は大きい。
 領域別に見ると、「数と式」「図形」領域では、<A問題>に比べ<B問題>は正答率が低く、無解答率が高かった。逆に生徒が苦手としている「数量関係」では、<A問題>に比べ、<B問題>は正答率が高く、無解答率が他の領域に比べ低かった。これは<B問題>すべてが「活用」に関する問題ではないので、「数量関係」においては「知識の活用」ができていると判断できるものではない。しかし、教材(問題)の提示の仕方により、<B問題>にも生徒が関心を持ち、課題解決を図ったことに今後の指導の改善の方向性が見える。
 記述式7問のうち、1(3)、6(3)以外の5問の正答率が低く、無解答率も高かった。
 今後は<A問題>において、正答数0問~5問の生徒への手立てを考えるとともに京都市学力定着調査や学習確認プログラムの結果と合わせて検証する必要がある。さらに「活用」する力を培うために「考える場面のある授業展開や発問の工夫」や「考えて書く、言うことの習慣化や根拠に基づいた意見を数学用語を交えて書く、述べる」授業を展開しなければならない。

(学習状況調査)

 学習状況調査の結果と各学力調査の結果のクロス分析からもさまざまな課題や関係性が見られた。
 「朝食を毎日食べていますか」や「1日当たり(家庭で)どれくらいの時間、勉強しますか」の質問では小学校・中学校の各調査と大きな相関が見られた。また「勉強する時間を自分で決めて実行していますか」では、小学校においては国語・算数ともに<問題B>の結果との間で大きな相関があった。さらに「テレビゲームやインターネットの時間」や「起床時刻」との相関も見られた。
 逆に「外での遊び」や「運動・スポーツ」、さまざまな「自然体験」との相関は大きくはなかった。
 これらのことから児童・生徒の日頃の生活状況と学力との関係には一定の相関があることが確認された。

4 学校改善支援プランについて

 義務教育9ヵ年の学習の構造は小学校6ヵ年と中学校3ヵ年に大きく区分することができる。つまり、義務教育終了時に身につけておかなくてはならない目標に向けては、小学校の指導と、その上にたっての中学校の指導があるということであるが、同時に、それは、9年間の学習指導要領や発達段階に応じて螺旋構造的に深化・発展させていくものである。
 つまり、子どもたちの学力向上に向けては、小学校から中学校への確固とした「質的」な学習内容の結合が必要であるといえる。「質的」とは、単なる学習内容の連絡に止まらず、主に小学校5、6年生と中学校1、2年生とに繋がる基礎的・基本的な知識・技能を意味している。
 また、教育の課題は学校教育だけで解決できるものではなく、学校・家庭・地域の協働の営みである。家庭は教育の原点であり、学習習慣をはじめとする基本的生活習慣の定着やしつけ、情操の涵養、道徳性の育成などを担い、地域は人間関係の基礎や社会的ルールを体験の中で学ぶ場である。こうした教育環境をより確かなものにするために、学校が核となり、家庭・地域と手を携え、市民ぐるみ・地域ぐるみの教育をさらに推進することが必要である。
 これらを学力向上に向けた本質的な課題の一つととらえ、次の提言を行った。

  • 1 学力定着調査に到達目標(設定通過率)を設定するなど、学力をとらえる基盤を明確にし、全国調査との相互分析も図る。そして、各学校で作成する「学力向上プラン」の目標に位置づける。
  • 2 既に中学校で実施している「学習確認プログラム」の計画的な総復習と自学自習を効果的に支援するための手法を小学校にも導入し、義務教育をつなぐ「ジョイントプログラム」を開発する。既習内容の総復習として、夏休みや冬休みの学習課題を与え、テスト形式を用いた自己確認、そして、学習の不十分な内容を補充するなどの反復学習を教材化する。
    義務教育9年間の確かな学びを支えるプログラム
  • 3 「全国学力・学習状況調査」「学力定着調査」「学習確認プログラム」「ジョイントプログラム」などの分析をもとにした「支援シート」を学校毎に作成し、よりきめ細やかな分析と課題(学校組織マネジメント、カリキュラムマネジメント、指導力向上、指導方法の改善、土曜学習等学習機会の充実、生徒指導体制の改善など)を学校と教育委員会が共有・共通認識し、学校の状況に応じた効果的な支援を行なう「学力向上フォローアップシステム」を構築する。
     「支援シート」による検証は年数回行い、学校における日々の授業改善、学校評価等も踏まえ、常に新しい情報の下に的確な支援を行なうとともに、次年度の効果的な支援策の再構築につなげる。
  • 4 「全国学力・学習状況調査」が教示する「活用する力」を培う学習の実践について本市のパイロット的役割を果たす実践校を指定し、研究推進を図るとともに、成果を全市へ波及させる。
  • 5 全国調査の結果として報告された生活習慣と学習との相関について保護者・家庭に資料を提供することによって、規律ある生活と家庭学習の定着が子どもたちの学びに大きな影響を与えていることの再確認を促し、保護者の自覚や協力を促すための啓発パンフレットを作成するほか、小中学校の全保護者に配付している「家庭学習の手引き」も全国調査の結果を踏まえて改訂する。
  • 6 基本的生活習慣の確立や規範意識の涵養などが、子どもたちの学力形成に大きく影響していることから、これまでの「生き方探究教育」の実践を充実するとともに、次年度から、5泊6日の長期宿泊体験事業を小学校に導入し、自然や生命を尊重する精神や環境の保全に寄与する態度を養うとともに、仲間意識や責任感、他人に共感する心や規範意識など豊かな人間性・社会性を育むための事業を実施する。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 学校改善支援プランの完成を待たず、案の段階から可能なことは早期実現を目指すことを念頭に、教育委員会や校長会との連携の下で以下の取組を行った。

  • 1 20年2月に実施した独自の学力調査に設定通過率を設けることにより、学力をとらえる基盤を明確にした。
  • 2 「ジョイントプログラム」を開発するため、小・中学校合同のプロジェクトを立ち上げ、実施内容の検討を進めた。
  • 3 教育委員会が発行する家庭教育新聞「あしたのために」に、全国学力・学習状況調査の結果から見た学力と生活習慣等との相関などを例示し、課題意識の共有を図るとともに、生活習慣や学習習慣の大切さを呼びかけた。
    家庭教育新聞「あしたのために」

6 学校改善支援促進事業について

 学校改善支援プランの先行的な実施として、次の事業に取り組んだ。

  • 1 これまで積み重ねたデータに基づき、計画的な学習と自己確認の下で自学自習を進める「学習確認プログラム」のより効果的な活用方法を探るための検証を行った。
    学習確認プログラム
  • 2 全国学力・学習状況調査の分析ソフトを開発し、各学校が独自の分析に取り組んだ。
    全国学力・学習状況調査の分析ソフト
  • 3 11月2日に管理職説明会を開催し、調査結果の概要を示すとともに、本市が独自に開発した分析ソフトを全校に配付し、具体的な分析の視点や分析結果の活用方法などについて指示した。また、校種別の分散会では、設問ごとの結果から見える課題と授業改善について研修を深めた。
  • 4 1月16日に管理職等研修会を開催し、小・中学校それぞれの代表校から検証報告を行い、実践的な研修を深めるとともに、全国学力・学習状況調査の結果を踏まえた全市的取組の方向性について共通理解を図った。さらに、岐阜大学教育学部教授の北俊夫先生から、学習指導要領の改訂を見据え、「生きる力」の理念の再確認と、知・徳・体の重要性を踏まえた教育活動の重要性などについて講演いただいた。
    管理職等研修会
  • 5 約30校程度を検証改善協力校として指定し、これまでの独自の実践と全国調査を踏まえた分析・検証を行った。

-- 登録:平成21年以前 --