教師の授業改善と保護者・地域への啓発-はままつの学びネットワークを活用して-

浜松市検証改善委員会

はじめに

 平成19年4月政令指定都市へと移行した浜松市では、「浜松市教育総合計画」を策定し、教育目標「夢と希望をもって学び続ける『世界にはばたく市民』の育成」の具現化を目指している。
 学校においては、意欲的に学び続ける子どもたちを育てるために、環境整備を進め、「分かる授業・楽しい授業」を行うことを目指し、日々の授業改善に取り組んでいる。また、学校・家庭・地域が連携し、夢と希望をもって、互いの価値や良さを認め合える子どもを育てていくための教育施策を進めている。
 このような中、全国学力・学習状況調査の結果からは、本市が目指す、子どもたちの確かな学びをはぐくむ「分かる授業・楽しい授業」の推進と健やかな成長を支える「学校・家庭・地域の連携」の重要性を再確認することができた。
 「浜松市検証改善委員会」では、これを受け、現在進めている教育施策のさらなる充実を目指して、学校改善支援プランを作成した。

1 検証改善委員会の体制について

 子どもたちの確かな学びの基盤を作るためには、学校・家庭・地域の連携が不可欠である。そこで、浜松市では、三者のネットワークを大切にして一人一人の子どもを健やかにはぐくんでいくことを意図して、検証改善委員会の名称を「はままつの学びネットワーク」とした。そして、市内にある静岡文化芸術大学の杉田豊副理事長を委員長として、浜松学院大学教授等の地元学識経験者3名、保護者代表として市のPTA連絡協議会代表者2名、学校関係者として校長会代表2名、市立小学校教諭4名(国語科2名、算数科2名)、市立中学校教諭4名(国語科2名、数学科2名)、浜松市教育委員会学校教育部指導課長を含めた教育委員会事務局5名の計21名を委員とした。
 6月に検証改善委員会の第1回会合を行い、1月までに年間5回の委員会を開催して、分析及び学校改善支援プランの作成を行った。
 なお、本委員会の小・中学校教諭及び指導主事によるワーキンググループを設け、主に学力調査の分析・検証、学校支援プランの原案作りを行った。

2 学校改善支援プランの概要

 全国学力調査の結果から、浜松市においては、小・中学校とも、身に付けた知識・技能を活用して自分の考えを持ったり、筋道を立てて説明したりする力に課題があることが明らかになった。また、複数の情報を読み取り、整理しながら自分の考えに生かしていく力も十分ではないという結果が見られた。
 また、学習状況調査では、浜松市の子どもたちは、総じて望ましい生活習慣が身に付いていることが分かった。
 これらを受けて、浜松市検証改善委員会では、以下の2点を中心に学校改善支援プランをまとめた。

  • 1 国語科、算数・数学科を取り上げた 「授業改善資料」、全教科・領域を網羅する「はままつの教育」により、身に付けた知識・技能を活用する「分かる授業・楽しい授業」を行うことを改善の視点に据えた授業改善の具体策を示す。
  • 2 「保護者用リーフレット」により、学校・家庭・地域が連携し、子どもたちの「心・よい習慣・社会性」をはぐくんでいくことを提言する。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 本市の全国学力・学習状況調査の結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。

(小学校・国語)

 漢字の読み、接続語の使い方や指示語の示す内容など、基本的な知識については身に付いている児童が多い。また、自分の考えを決められた字数で書く問題では、85パーセント程度の正答率で、「書くこと」の指導の充実ぶりがうかがえる。
 しかし、メモの取り方、話し合いの進め方についての問題や、事柄の理由を要約したり、視点を変えて文章を書き換えたりすること、条件に応じて文章を書いたり、複数の文章や資料を比較・評価しながら読んだりすることに課題がある。例えば、同じ本を読んで書いた2人の感想文から共通する書き方の良いところを書く問題では、文章を比較して評価の観点を見付けだすことができない児童が多く、無解答率も高かった。

(小学校・算数)

 整数、小数、分数の基本的な計算や図形の性質の理解などは、定着している。
 しかし、表から変化の様子を読み取ったり、工夫して計算する方法を説明したり、与えられた情報の中から必要なものを選択して考えたりすることに課題がある。ほとんどの児童が、平行四辺形の面積を(底辺)×(高さ)によって求めることができるのに対して、地図上に示された平行四辺形の底辺や高さにあたる長さを適切に取り出し、面積を求められた児童が少なかったのは、特徴的な例である。

(中学校・国語)

 語句の意味を理解して適切に使ったり、主語・述語の対応に注意して文を書いたりする基本的な知識・技能は、相当数の生徒が身に付けている。また、根拠を明らかにして自分の考えを書く力も多くの生徒が身に付けている。
 しかし、複数の資料に共通して書かれている情報を読み取ったり、自分の考えを持って論理的に説明したりすることに課題がある。象徴的な問題は、複数本の広告カードを比較して違いを説明する問題で、「違い」そのものをとらえることができなかったり、伝えるべき事柄を過不足なく説明することができなかったりする誤答が多く見られた。

(中学校・数学)

 正・負の数や文字式の計算をしたり、図形の性質を理解したりすることは十分に身に付いている。
 しかし、情報を整理し適切に選択しながら判断したり、判断したことを数学的な表現を用いて説明したりすることに課題がある。一例を挙げると、文字式の計算そのものは正確にできるが、与えられた文字式を数学的な表現を用いて説明する問題では、情報を表や図に整理し解決の見通しをもって記述できた生徒が少なかった。

(児童生徒質問紙調査)

 浜松市の子どもは、総じて望ましい生活習慣が身に付いている。また、自分を肯定的にとらえたり、人の気持ちを考えたり、人の役に立ちたいと考えたりする子どもの割合も高く、健全な考え方をしている。

  •  「早寝、早起き、朝ごはん」に関しては、小学生では「早寝、早起き」が、中学生では「早起き」ができている割合は、全国よりも高くなっている。
  •  「身の回りのことは自分でしているか」や「近所の人に挨拶をしているか」などの身辺自立や社会性などに関する質問は、全国の割合とほぼ同じ状況になっている。
  •  自分を肯定的にとらえたり、他者の気持ちを考えたりするような内面的な部分においても、子どもたちの受け止め方は高いものがある。
  •  「読書」に関しては、家庭や図書館などでの読書時間について、「全くしない」と回答した中学生が、全国よりも10ポイント程度少なくなっている。
  •  「学校の決まりを守っているか」に関する質問は、全国の割合よりも高くなっている。

 さらに、教科と質問紙の調査の相関から、生活のリズムや時間などを自己コントロールでき、望ましい生活習慣や学習習慣が身に付いている子どもは、教科の調査における正答率が高い傾向が見られた。

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた分析の結果を受け、

  • 1 身に付けた知識・技能を活用する
    「分かる授業・楽しい授業」を行うことにより授業改善を図る。
  • 2 学校・家庭・地域が連携し、子どもたちの「心・よい習慣・社会性」をはぐくんでいく。

 ということについて学校改善支援プランとしてまとめ、提言を行った。

1 身に付けた知識・技能を活用する 「分かる授業・楽しい授業」

 「分かる授業・楽しい授業」を進める上で基盤としているのは、「子ども理解」である。学習集団としての実態、一人一人の学習状況を確実に把握し、授業中の確かな見取りと個に応じた支援により、基礎的な知識・技能を習得させる。そして、それらを活用する学習活動を充実させることにより、思考力・判断力・表現力等を育成していく。さらに、思考力・判断力・表現力等の育成の過程で、基礎的な知識・技能も確実に定着させていく。これらを通して、学ぶ意欲を向上させ、主体的に学習に取り組む児童生徒を育てていくことを目指している。

 本プランで提案する国語科、算数・数学科「授業改善資料」では、浜松市の課題である、身に付けた知識・技能を活用する学習活動の充実について、その改善のための具体的な指導例を示している。
 例えば、小学校国語科では、授業改善の視点を6点示し、それぞれについて指導例を提案している。また、該当学年以外でも取り組めるように、下段に関連する単元や教材名を記載した。下記に「目的を持って読む・条件に応じて書く(4年)」の指導例を示す。
授業改善資料

 また、数学科では、調査問題に盛り込まれている四つの観点ごとに授業改善の視点を整理し、具体的な指導例を示した。下記のように、教科書に掲載されている内容を基本として、教材の取り上げ方や発問の工夫などを提案している。
授業改善資料
 更に「はままつの教育」では、指導主事の学校訪問で参観した優れた授業実践例を示している。「授業改善資料」と併せて活用することにより、全教科・領域において、積極的に授業改善を進めていくことを提案している。

2 学校・家庭・地域が連携した、子どもたちの「心・よい習慣・社会性」の育成


 「保護者用リーフレット」に、このイメージ図を掲載し、命ある子どもたちが、学校・家庭・地域の温かな手に支えられて、「心」「よい習慣」「社会性」をはぐくみ、健やかに成長し続けてほしいという願いを表した。
 そして、学習状況調査の結果を基に、「心のはぐくみ」「よい習慣のはぐくみ」「社会性のはぐくみ」の三つの柱を立て、各柱ごとに、厳選して四つの提言を挙げている。以下はその柱の一つである「心のはぐくみ」についての提言である。

☆ よいところをほめて伸ばし、自分も他の人も大切にできるような心をはぐくみましょう。

 どんな小さなことでも努力している姿をほめましょう。子どもは認められ、目標を持つと意欲が高まり、前向きに取り組むようになります。人を信頼する気持ちや人の役に立ちたいと思う気持ちも育ちます。

☆ 当たり前なことにも目を向け、感動を共有する時間や場を持つように心掛けましょう。

 当たり前で見過ごされがちなものごとに目を向けることも、優しい心や生きることの喜び、生命を大切にする心などを育てます。「当たり前なこと、それはすてきなことだ」とメッセージを伝えたいものです。

☆ 「ありがとう」「ごめんなさい」などと、素直に言える家族関係を築きましょう。

 「ありがとう」という言葉を掛けられることは、自分の存在価値を見いだすことにつながります。「あなたは、私にとって大切な子だよ」というメッセージは、このような言葉でも伝わります。愛情と信頼は、温かな関係を築く大切なものです。

☆ 失敗をおそれず挑戦したり、ものごとをやり遂げたりする経験を大切にしましょう。

 失敗は成功のもと。失敗したことを責めず、改善点に目を向けて励ましましょう。また、満足感や達成感は、自信につながります。自信が持てれば、困難に出会っても打ち克つことができるようになります。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 平成19年度は、指導主事の学校訪問等において、浜松市の調査結果から明らかになった教科の課題を伝え、各学校の課題と併せて授業改善に取り組むことを指導してきた。
 平成19年度末には、学校改善支援プランを示した「授業改善資料」及び「はままつの教育」を全教職員に配付した。更に、「保護者用リーフレット」を小学校1年生から中学校3年生の全家庭に配付した。この「保護者用リーフレット」は、20年度小学校新入生の全家庭にも配付する予定である。
 平成20度は、以下の点を中心に学校改善プランの普及に努めていく。

  •  「授業改善資料」「はままつの教育」を活用して、指導主事学校訪問において、授業改善の方策について具体的に指導する。
  •  「調査活用協力校」を指定し、各学校の課題改善に向けた取組を支援していく。
  •  各学校においては、PTA総会、学年学級懇談会等の場で「保護者用リーフレット」を活用した意見交換会等を実施するように働き掛ける。
  •  「保護者用リーフレット」を公民館等にも配付し、地域全体で子どもの健やかなはぐくみを支える指針としていくことを働き掛ける。

6 おわりに

 「悉皆で行われた本調査の意義を大切にして、一人一人の児童生徒の学力向上に役立つプランを作りましょう。」
 これは、浜松市検証改善委員会「はまつの学びネットワーク」の杉田委員長の言葉である。
 この言葉のとおり、完成したプランが浜松市の子どもたち一人一人に生かされていくよう、プランの普及に努めていきたい。そして、これまで以上に、子どもたちの健やかな成長を促し、学力や学習習慣の向上、望ましい学習・生活習慣の確立を目指して、浜松市の教育施策に取り組んでいきたい。

(参考)

-- 登録:平成21年以前 --