「確かな学力」の育成を目指して

千葉市検証改善委員会

はじめに

 千葉市では、各学校が「わかる授業、楽しい教室、夢広がる学校」づくりをめざし、特色ある教育活動を展開する中で、児童生徒の基礎・基本の着実な定着や自ら考える力の育成を図っている。
 本市では、児童生徒の学力の定着状況を把握し、指導上の課題を明らかにして各学校における指導の改善に資するため、小学校3、5年生、中学校2年生を対象として本市独自に学力状況調査を行っている。
 平成18年度の調査結果によると、調査対象の学年、教科にわたり基礎的・基本的な学習内容について大きな偏りも見られず、バランスよく定着している一方で、学習で得た知識をもとに、それを活用し考えたり判断したりする思考力・判断力に課題が見られることが明らかになった。
 これを受けて、本市では次の3点を学習指導の重点に掲げている。

  • 学習意欲を喚起する授業の工夫
  • 一人一人を活かす学習指導の工夫
  • 指導と評価の一体化を図る授業の工夫

 今後は、千葉市検証改善委員会による全国学力・学習状況調査結果の分析・考察をとおした学校改善支援プランも基にしながら、「確かな学力」の育成をめざしたいと考えている。

1 検証改善委員会の体制について

 千葉市検証改善委員会は、小池公夫千葉市教育委員会指導課長を代表として、千葉大学教育学部教授、元校長等の学識経験者3名を全体指導者、市内公立小学校の教諭8名(国語4名、算数4名)、公立中学校の教諭8名)(国語4名、数学4名)を教科担当者として置き、千葉市教育委員会の指導主事等の行政関係者9名を加えた、合計29名で構成される委員会である。
 9月に検証改善委員会の第1回会合を行い本事業の計画を立て、10月下旬の調査結果の公表と本市の調査結果等の提供を受けた後、第2回の全体会で分析等の方向性を定め、3回にわたる各教科部会において教科ごとの分析・考察及び課題とその改善策をまとめた。3月までに2回の全体会を開催し、学校改善支援プランについて検討を重ねた。

2 学校改善支援プランの概要

 千葉市検証改善委員会は、本市の全国学力・学習状況調査の結果について次のような傾向がみられるとした。

(1)学力調査の結果

  • 小学校6年生、中学校3年生において、国語、算数・数学のA(知識)問題、B(活用)問題の両面にわたり、本市の平均正答率は、全国平均正答率と比べ大変良好である。
  • B(活用)問題については、全国の状況と同様にA(知識)問題に比べて平均正答率が低く、知識・技能を活用する力をさらに伸ばす必要がある。

(2)学習状況調査の結果

  • 基本的な生活習慣が身に付いている子どもの割合が高い。
  • 毎日読書する子どもの割合が高い。
  • ニュースや世の中の出来事へ関心をもつ子どもの割合が高い。
  • 住んでいる地域は好きだが、地域の行事に参加したことが少ない子どもの割合が高い。
  • 家庭での勉強時間等に差がみられる。

 これらを受けて、千葉市検証改善委員会は、以下の3点を中心に学校改善支援プランの方向をまとめた。

  • 1 各学校へ、自校の全国学力・学習状況調査の結果を分析・考察し、児童生徒の実態を把握してこれまでの学習内容や指導方法のあり方を見直すように働きかける。
  • 2 千葉市教育委員会へ、市内各学校の授業改善に向けた取組や教師の指導力向上に向けた効果的な取組についての収集と提供を行うように働きかける。
  • 3 市内各小・中学校の保護者へ、規則正しい生活習慣の確立や家庭学習の時間の確保及び家庭学習の習慣化を働きかける。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 本市の全国学力・学習状況調査の結果については、各教科・学年ごとに、次のような課題がみられるとした。

(1)国語

1 小学校

  • 文章だけでなく図表やグラフなどから、情報を取り出したり、自分の考えを表現したりすること。
  • 筆者の主張や伝えたい事柄についての理由や根拠をとらえ、内容を要約することや自分の考えを簡潔に記述すること。
  • 言語事項における、漢字の書きや文の構成をとらえること。

2 中学校

  • 「国語の勉強は大切だ、社会に出て役に立つ」と肯定的に回答した生徒の割合は高いが、「国語の勉強が好きだ、わかる」と肯定的に回答した生徒の割合がそれより低いこと。
  • 電話の応対や手紙の書き方など社会生活において、必要な基礎的・基本的な知識や技能が十分身に付いていない生徒、記述式問題に対して無解答の生徒がみられること。
  • 複数の資料から得た情報を整理して、伝えたい事柄や自分の考えを明確にして書くこと。

(2)算数・数学

1 小学校

  • 小数、分数などの数の意味と大きさの理解が十分ではないこと。
  • 問題文から乗法の意味を理解し、式を考えること。
  • 必要な情報を読み取り、百分率を用いて問題を解決したり、与えられた条件をもとに地図から求める図形を見出し、その面積を比較したりすること。

2 中学校

  • 計算技能の習熟をはかること。
  • 問題文に書かれている問題の意味を正確に読み取り、原理・法則を正しく使って解答を正しく導くこと。
  • A(知識)問題における、本市の正答数分布から、36問中10問前後の正答数の生徒の割合が全国の割合と比べて高い傾向にあり、この層の学力の向上させること。

6 学校改善支援プランについて

 千葉市検証改善委員会は、3で述べた分析結果を受けて、下記のような改善策が必要であると考えるとともに、市内各学校と千葉市教育委員会に向けて提言を行った。

(1)分析結果を受けた改善策

1 全学年・全教科での授業改善を図る

  • 基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得
  • 思考力・判断力・表現力の育成
  • 授業における具体的な留意点
    • 一人一人の実態把握と目標の明確化
    • 学習意欲を喚起する授業の工夫
    • 少人数指導等、個に応じた指導
    • 自分の考えを表現する活動の取入れ
    • 話し合いのルール、学習態度等の明確化

2 国語指導における重点

  • 漢字練習や音読、短作文などを日常的に学習に取り入れ、読むことや書くことへの抵抗を少なくする。
  • 社会生活で用いられる多様な文章や資料等から、内容や考え方を確実に読み取り、それに基づいて自分なりの考えを分かりやすく書いたり発表したりする力を養う授業づくりに心がける。
  • 継続的に読書する習慣を身に付けさせ、豊かな読書生活を送るようにする。

3 算数・数学指導における重点

  • 個に応じて、丁寧な繰り返し指導を行うなど、一人一人に基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させる。
  • 言葉や数、式、図表、グラフをもとにして、事象を捉えたり、必要な情報を取り出して自分の考えを表現したりする授業を展開する。
  • 実生活と関連づけた教材を開発し、算数・数学学習の意義や有用性を実感できる授業を展開する。

4 保護者・地域との連携を図る

  • 保護者への啓発
    • 規則正しい生活
    • 読書の推進、書くことの日常化
    • 予習や復習などの学習の習慣化
    • 学習したことの実生活への活用
  • 地域の教育力の活用
    • 地域の企業や人材の活用
    • 青少年育成委員会等との連携

5 教師の指導力の向上をめざす

  • 授業改善に向けた校内研修の充実
  • 教育センター等の研修講座への参加
  • 自主的な研修への参加

6 PDCAサイクルによる評価・改善

  • 単元の学習をとおしての指導の改善
  • 学期や年間での評価と改善

(2)各学校に対しての提言と具体策

1 提言

 各学校においては、自校における全国学力・学習状況調査の結果を分析・考察し、児童生徒の実態を把握して指導上の課題を明確にすること。
 上記の課題より、これまでの学習内容や指導方法のあり方を見直し、今後の授業及び教育課程等を改善するため、「わかる授業推進のための学校改善プラン」を作成して、学力向上に向けた取組を計画的に実践すること。

2 具体策

  • 「わかる授業推進のための学校改善プラン」の作成(記載内容)
    • 学力・学習状況調査の分析
    • 授業改善の方向づけ
    • 学力向上に向けた具体的な取組案

(例)

a基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得をめざす取組
  • 日課表に反復練習の時間や全校一斉読書の時間を設定する。
  • 調査結果における自校の課題から特に習得させたい力の育成を図るための単元を設定し、年間指導計画に位置づける。
b思考力・判断力・表現力の育成をめざす取組
  • 児童生徒が根拠を明確にして意見を述べるようにする。
  • 知識・技能の活用ができる(教材)単元を作成して、指導計画に位置づける。
  • 児童生徒が自ら課題を設定し、自ら解決したことを表現する活動を多く取り入れる。
c家庭・地域との連携
  • 学級懇談会等を通して、家庭における学習習慣や生活習慣の改善に向けてはたらきかける。
d校内研修の充実による教師の指導力向上をめざす取組
  • 児童生徒が、実生活の中から課題を設定して、解決できるような教材の開発
  • 自分の考えを論理的に述べたり、集団で討論したりする場の設定の仕方
  • 若年層を対象として、目標の具現化、発問・板書等基本的な授業の進め方

(3)千葉市教育委員会への提言と具体策

1 提言

 千葉市教育委員会は、「わかる授業」を推進し、「確かな学力」の向上をめざすため、市内各学校の授業改善に向けた取組や教師の指導力向上に向けたさまざまな取組を指導し、支援すること。

2 具体策

  • 各学校の授業改善に向けた取組への指導・助言
    • 全国学力・学習状況調査及び千葉市学力状況調査における千葉市の結果についての分析・考察をとおして課題を明らかにする中で、指導を改善する方策を立て、全校に周知徹底する。
    • 学校訪問等を通して、学力向上に向けた授業改善等への具体的な取組について指導・助言を行う。
    • 各学校における「わかる授業推進のための学校改善プラン」の作成及び方向等に関して、具体的な指導・助言を行う。
    • 各学校の課題の解決が図られているか学校訪問等で確認し、適切な指導・助言を行う。
  • 教師の指導力向上を図るための支援・各種研修会等を通して教師の指導力向上を図り、「わかる授業」を推進する。
  • 「わかる授業」推進に向けた啓発
    • 「学校改善プラン」等をもとにして実践され、効果を上げた改善事例の収集と普及をとおして、「わかる授業」の一層の推進を図る。
    • 研究指定校等による取組の成果を普及する。
  • 「わかる授業」推進に向けての人的な支援
    • 少人数学習指導教員、学校図書館指導員、学習支援員、理科支援員と連携して、確かな学力の向上を図る。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 千葉市教育委員会は、千葉市検証改善委員会と連携して、「わかる授業の推進・確かな学力の育成」に向けた活用に資するため、平成20年1月に、市内各学校に「平成19年度全国学力・学習状況調査における、千葉市の結果と分析と考察(概要)」を送付した。
 また、学力向上拠点形成事業「教育講演会」において、教員及び保護者等へ本市の結果の概要を報告した。平成20年3月には、市内各学校保護者に向けて「平成19年度全国学力・学習状況調査」千葉市結果報告『千葉市の児童・生徒の状況をお知らせします』を配付して、家庭での生活習慣の確立や家庭学習の時間の確保及び家庭学習の習慣化を働きかけた。
 今後は、各学校が学校改善プランに基づき、「確かな学力」の育成に向けた具体的な取組を実践するように働きかけたい。

6 おわりに

 今回の調査で、全国的な状況における本市の学力や学習状況が明らかになったことは大きな成果である。今後も、基礎的・基本的知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力の育成を重点とした「確かな学力」の育成をめざし、「わかる授業を推進していきたい。

-- 登録:平成21年以前 --