学力・学習状況調査の結果を活用した授業改善

長野県検証改善委員会

はじめに

 全国学力・学習状況調査は、その結果を日頃の授業をはじめとする教育活動の改善に生かすことで、実施の意味がある。
 長野県検証改善委員会は、各学校及び市町村(組合)教育委員会において、迅速に結果分析を行い、結果活用に生かせるよう、分析のための支援を行うとともに、本県全体の結果分析を行い課題の改善に向けた取組を支援することを目的に、事業を推進してきた。
 また、全国学力・学習状況調査と併せて実施した本県独自の学力実態調査や生活・学習意識実態調査との関連を図りながら、本県としての授業改善のあり方も検討してきた。

1 検証改善委員会の体制について

 本県の検証改善委員会は、茅野市教育委員会の牛山英彦教育長を委員長に、学識経験者、保護者、小・中学校の校長・教頭、教育行政関係者の14名から構成される委員会である。
 また、検証改善委員会の他に、国語、算数・数学の指導主事・専門主事、小・中学校の教諭18名からなる作業部会を設け、分析作業を行った。
 10月に検証改善委員会の第1回会合を行い、12月までに2回の検証改善委員会を開催するとともに、その間、作業部会を4回開催した。

2 学校改善支援プランの概要

  • (1) 学校、市町村(組合)教育委員会の結果分析を支援するために、「分析の手引き」及び「分析シート」を作成し、関係機関へ配付した。
  • (2) 作業部会において、県全体の分析を行い、本県の課題の把握と、授業改善例を作成した。
  • (3) 調査結果及び授業改善について、調査報告書にまとめ、関係機関へ配付した。
  • (4) 調査結果の活用に向けた、家庭・学校向けのリーフレットにまとめ、関係機関へ配付した。
  • (5) 調査結果を広く活用できるように、本委員会で作成した報告書及びリーフレットを、県教育委員会のホームページに掲載した。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

本県の結果は、以下のとおりである。

【小学校国語A】

 平均正答率は全国とほぼ同程度で、「後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や、実生活において不可欠であり常に活用ができるようになっていることが望ましい知識・技能」の定着状況は良好である。

【小学校国語B】

 平均正答率は、全国をわずかに上回っているものの約6割であり、「知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や、様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力」の定着状況には全国同様課題がある。

【中学校国語A】

 平均正答率は、わずかではあるが全国を上回っており、「後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や、実生活において不可欠であり常に活用ができるようになっていることが望ましい知識・技能」の定着状況は良好である。

【中学校国語B】

 平均正答率は、わずかではあるが全国を上回っているが、平均正答率が7割を切る設問が3問、無解答率が1割程度の設問が4問あり、「知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や、様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力」の定着状況には全国同様課題がある。

【小学校算数A】

 平均正答率は全国をわずかに上回っており、「後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や、実生活において不可欠であり常に活用ができるようになっていることが望ましい知識・技能」の定着状況は良好である。

【小学校算数B】

 平均正答率は、全国とほぼ同程度であり、全国の結果と同様にっているものの約6割であり、「知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や、様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力」の定着状況には全国同様課題がある。

【中学校数学A】

 平均正答率は、全国をわずかに上回っており、「後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や、実生活において不可欠であり常に活用ができるようになっていることが望ましい知識・技能」の定着状況は良好である。

【中学校数学B】

 平均正答率は、全国をわずかに上回っているものの、「知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や、様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力」の定着状況には全国同様課題がある。

4 学校改善支援プランについて

(1)「結果分析の手引き」作成による支援

 調査結果の分析方法として、以下の分析方法と分析の具体例を盛り込んだ「結果分析の手引き」及びそれに伴う「分析シート」を作成し、関係機関へ配付した。

  • 分析1…設問別の結果分析による学校(学級)の課題の決め出し。
  • 分析2…解答類型別の結果分析による指導上の課題の決め出し。
  • 分析3…質問紙調査結果の分析による学習意識等にかかわる課題の決め出し。
  • 分析4…教科別の調査結果と質問紙調査結果とのクロス集計による課題の決め出し。
  • 分析5…総合分析に学校全体の課題の決め出し。

 「結果分析の手引き」には、分析結果を指導改善につなげるために以下改善例を示した。

課題改善に向けた取組例

授業改善
  • 一時間の授業のねらいを明確にするために学習問題の提示
  • 追究段階に添った学びを保障
  • 多様な考えを出し合う場の保障
  • 一時間の授業で解決した問題、分かった学習内容等を確認
  • 授業の終末に、1時間の振り返りを必ず位置づけ自己評価・相互評価の時間の確保
教育課程の改善
  • 単元・領域について、配置・授業時間数等を含めた年間指導計画の見直し
  • 授業展開・評価・ドリルの時間等のあり方の見直し
  • 学年会、教科会等で、補充等が必要な単元・領域等の洗い出し
  • 少人数指導等の指導形態の見直し
家庭との連携
  • 朝食・睡眠の確保等基本的な生活習慣の確立
  • 家庭学習の習慣化
  • 家庭内のコミュニケーションの啓発

(2)報告書作成による支援

 以下の構成による報告書を作成し、今後の授業等の改善の指針を示した。

  • 1 教科別結果の概要
  • 2 児童生徒質問紙調査結果
  • 3 教科別調査結果と児童生徒質問紙調査結果とのクロス集計結果
  • 4 教科別調査結果と学校質問紙調査結果とのクロス集計結果
  • 5 教科別の指導改善
     調査結果から、課題が見られた問題を取り上げ、取り上げた問題に関する解答傾向、学習指導の状況、指導改善、日常授業の改善について取りまとめた。
  • 6 学校と家庭の連携による学力向上

(3)リーフレット作成による支援

 学校と家庭との連携のあり方ついて、「家庭と学校が連携し、学ぶ意欲を育てるために」と題して、以下の点について示した。

  • 1 基本的生活習慣の形成
    • 「朝食をきちんと摂る」、「学校への持って行くものを揃える」等の基本的な生活習慣が身に付いている児童生徒は、学習内容の定着状況が良い傾向が見られた。
      • 基本的生活習慣を身につけることは、規則正しい生活を生み出すことになり、生活にリズムをつくることになる。
      • 生活にリズムをつくることは、児童生徒の自律性を育むことになり何事にも積極的に取り組もうとする気持ちを育てることになる。
  • 2 家庭における学習習慣の形成
    • 家庭において、宿題や予習復習をきちんとやる児童生徒は、学習内容の定着状況が良い傾向が見られた。
      • 家庭における学習習慣は、日々の授業における学習内容の定着につながるだけでなく、小学校高学年から中学校での自主的な学習姿勢を形成する上で大切である。
      • 家庭学習の習慣化により、児童生徒は学ぶことの意味や楽しさに気付き、「学び続ける子」に育っていく。
  • 3 心身を安定させる場づくり
    • 安定した家庭、コミュニケーションの豊かな家庭においては、児童生徒の学習内の定着状況が良い傾向が見られた。
      • 家庭内のコミュニケーションは、様々なストレスにより不安定になった児童生徒の心を癒し、明日の学校生活や学習に対しての意欲を喚起させるものとなる。
      • 家族のちょっとした言葉がけやかかわりにより、児童生徒の心は安定する。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

(1)これまでの取組

  • 1 「全国学力・学習状況調査の結果分析の手引き」の作成と配付
    • 各学校において、検証改善委員会で作成した「分析の手引き」の活用が図られるよう、全ての小・中・特別支援学校の校長が参加する校長研修会において説明会を行うとともに、全市町村教育委員会の学力調査担当者を対象とした「分析説明会」を実施した。
    • 5種類の分析手法を提示するとともに、データ処理を迅速に行えるソフトを作成し配付することで、各校における結果分析を支援することができた。
  • 2 「全国学力・学習状況調査結果報告書」の作成と配付
    • 本県の調査結果を分析し、課題を明確にするとともに、授業改善について全県へ発信することができた。
    • 全国学力・学習状況調査の分析結果について、全県指導主事・専門主事会議において発表し、指導主事・専門主事の共通理解を図った。
  • 3 「全国学力・学習状況調査結果を活用したリーフレット」の作成と配付
    • 「基本的な生活習慣の育成」「家庭学習の定着」「家庭のコミュニケーション」の3本を基本に据えて、家庭・学校への啓発を図った。
    • 各学校においては、児童生徒への指導や学年・学級PTAにおける懇談会等の資料として活用されている。

(2)今後の予定

  • 1 調査研究の成果については、指導主事の学校訪問、総合教育センターの研修指導等を通して、普及を図っていく。
  • 2 学校と家庭が連携して、児童生徒の学習習慣の形成を図るために、リーフレットの活用を関係機関へ働きかけていく。
  • 3 「結果分析の手引き」については、他県の成果等をもとに、次年度の実施に向けて工夫・改善を図る。

6 おわりに

 全国学力・学習状況調査は、これまでの教育委員会の施策及び学校学習指導を点検・評価し、今後の指導改善等について関係者が共に検討する機会となった。
 今後、各学校における具体的な取組について、成果を共有できるよう、様々な機会を捉え普及を図っていく必要がある。また、今回の全国学力・学習状況調査の結果については、調査実施学年・教科だけの問題として取り扱うのではなく、学校全体の問題として捉え、今後の指導改善に生かしていく必要がある。

(参考)

-- 登録:平成21年以前 --