児童・生徒の「確かな学力」の向上-「確かな学力」を育成するための授業改善の一層の推進-

東京都検証改善委員会

はじめに

 東京都では、各教科の学習指導要領に示された目標や内容の実現状況を把握し、それを指導方法の改善・充実に生かすことで、児童・生徒一人一人に「確かな学力」の定着と伸長を図ることを目的として、平成15年度(小学校は平成16年度)から「児童・生徒の学力向上を図るための調査」(以下「都の学力調査」という。)を実施している。
 都の学力調査の実施後には、調査の結果報告書を作成し、結果の詳細や授業改善のポイント等を発信するとともに、東京都のすべての公立小・中学校が、調査結果から自校の課題を分析して「授業改善推進プラン」を作成し、授業改善を行っていく取組を推進してきた。

1 検証改善委員会の体制

 検証改善委員会は、東京都教育庁指導部義務教育特別支援教育指導課を中心とした行政関係者11名、都内公立小学校長1名(算数・数学1名)、都内公立中学校長1名(国語1名)、大学教授等の学識経験者2名の計15名の委員で構成されている。
 平成19年11月から12月にかけて、東京都教育委員会で「全国学力・学習状況調査」(以下「国の学力調査」という。)の結果について分析を行った。これを受けて、平成20年2月に委員会を開催し、国の学力調査の分析結果や東京都が実施する施策について検討を行った。

2 学校改善支援プランの概要

 国の学力調査における東京都の結果では、小学校、中学校ともに、国語Aと算数・数学Aにおいて今回出題している学習内容を概ね理解していること、国語Bと算数・数学Bにおいて知識・技能を活用する力に課題があることが分かった。
 この結果を受けて、検証改善委員会は、これまでの東京都における学力向上施策について意見交換を行い、児童・生徒の「確かな学力」の向上を図るために、次の5点を中心に取り組んでいくこととした。

  • 1 多様な観点から指導方法の改善・充実を図るために、国の学力調査の内容とは異なる都の学力調査の実施
  • 2 東京都の児童・生徒が学習指導要領の内容を身に付けるために必要な、最低限の知識・技能や考え方等とその指導方法を示した「東京ミニマム」の策定
  • 3 国や都の学力調査の結果を生かした「授業改善推進プラン」を活用した授業改善の一層の推進
  • 4 授業改善研究推進校の実践や成果を全都に発信し、普及・啓発する取組の充実
  • 5 各学校における「授業改善推進プラン」に基づく日常的な授業改善の取組の支援

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 国の学力調査における東京都の結果について、分析・検討を行ったところ、以下の点が明らかになった。
 教科に関する分析では、小・中学校ともに国語Aと算数・数学Aにおいて今回出題している学習内容をおおむね理解していること、国語Bと算数・数学Bにおいて知識・技能を活用する力に課題があることが分かった。
 個々の教科については、以下のような結果や課題が見られた。

(小学校・国語A)

 児童の平均正答率が82.8パーセント(全国との差、プラス1.1ポイント)であり、相当数の児童が今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられる。
 正答率70パーセントを下回る問題は18問中5問ある。そのうち、「話す・聞く能力」の定着状況をみる問題が2問、「読む能力」の定着状況をみる問題が2問、「言語事項についての知識・理解・技能」の定着状況をみる問題が1問ある。

(小学校・国語B)

 児童の平均正答率が66.0パーセント(全国との差、プラス4.0ポイント)であり、知識・技能を活用する力に課題があると考えられる。
 正答率70パーセントを下回る問題は10問中7問ある。それらは、「複数の資料から必要な情報を取り出す力」と「目的や意図に応じて表現する力」をみる問題である。

(小学校・算数A)

 児童の平均正答率が83.7パーセント(全国との差、プラス1.6ポイント)であり、相当数の児童が今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられる。
 正答率70パーセントを下回る問題は19問中2問ある。いずれも、「数量や図形についての知識・理解」の定着状況をみる問題である。

(小学校・算数B)

 児童の平均正答率が65.7パーセント(全国との差、プラス2.1ポイント)であり、知識・技能を活用する力に課題があると考えられる。
 正答率70パーセントを下回る問題は14問中7問ある。それらは、「多面的な見方」と「必要な情報を選択する力」をみる問題である。

(中学校・国語A)

 生徒の平均正答率が81.6パーセント(全国との差、プラスマイナス0ポイント)であり、相当数の生徒が今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられる。
 正答率70パーセントを下回る問題は、37問中5問ある。そのうち、「言語についての知識・理解・技能」の定着状況をみる問題が4問、「書く能力」の定着状況をみる問題が1問ある。この他に、「書く能力」において全国の正答率より低いものが2問ある。さらに、正答率70パーセントを上回るが、「読む能力」において、平成18年度の都の学力調査の課題と同じ傾向を示す問題が1問ある。

(中学校・国語B)

 生徒の平均正答率が72.0パーセント(全国との差、プラスマイナス0ポイント)であり、知識・技能を活用する力に課題があると考えられる。
 正答率70パーセントを下回る問題は、10問中2問ある。それらは、「情報を比較して読み取る力」と「情報を評価し活用する力」をみる問題である。

(中学校・数学A)

 生徒の平均正答率が71.4パーセント(全国との差、マイナス0.5ポイント)であり、相当数の生徒が今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられる。
 正答率70パーセントを下回る問題は、36問中16問ある。そのうち、「数学的な表現・処理」の定着状況をみる問題が7問、「数量,図形などについての知識・理解」の定着状況をみる問題が9問ある。

(中学校・数学B)

 生徒の平均正答率が60.6パーセント(全国との差、プラスマイナス0ポイント)であり、知識・技能を活用する力に課題があると考えられる。
 正答率70パーセントを下回る問題は、17問中11問ある。それらは、「数学的な見方や考え方」に関して「論理的に考え、数学的に説明する力」と「情報を整理し、発展的に考える力」をみる問題である。

 また、学習状況調査の分析では、以下の点が明らかになった。

(児童の生活習慣にかかわる項目)

 「朝食を毎日食べる」「持ち物を確かめる」について、「している」「どちらかといえば、している」と答えた児童の割合は、平成18年度の都の学力調査の結果よりも増加傾向が見られた。
 身辺自立について、「している」「どちらかといえば、している」と答えた児童の割合は、82.6パーセントであった。
 普段(月曜日~金曜日)の1日当たりのテレビやビデオ等の視聴時間及びテレビゲームやインターネットをする時間について、2時間未満の選択肢を選んだ児童の平均正答率は、2時間以上の選択肢を選んだ児童の平均正答率よりも高い。

(児童の学習時間に関する項目)

 普段(月曜日~金曜日)の学習時間について、「3時間以上」「2時間以上、3時間より少ない」と答えた児童の割合は、36.8パーセントである。

(児童の社会への関心や地域社会とのかかわりに関する項目)

 新聞やテレビのニュースへの関心について、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と答えた児童の平均正答率は、「どちらかといえば、当てはまらない」「当てはまらない」と答えた児童の平均正答率よりも高い。
 地域行事への参加について、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と答えた児童の割合は、50.4パーセントである。

(児童の自尊意識や規範意識に関する項目)

 「自分にはよいところがありますか」について、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と答えた児童の割合は70.5パーセントである。
 「学校のきまりを守っていますか」について、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と答えた児童の割合は、84.1パーセントである。

(生徒の生活習慣にかかわる項目)

 「朝食を食べる」「持ち物を確かめる」「身の回りのことは、できるだけ自分でする」などについては、平成18年度の都の学力調査の結果よりも肯定的な回答の増加傾向が見られる。
 普段(月曜日~金曜日)の1日当たりのテレビやビデオ等の視聴時間及びテレビゲームやインターネットをする時間について、2時間未満の選択肢を選んだ生徒の平均正答率は、2時間以上の選択肢を選んだ生徒の平均正答率よりも高い。

(生徒の学習時間にかかわる項目)

 普段(月曜日~金曜日)の学習時間について、1日当たり「3時間以上」と答えた生徒の平均正答率が最も高い。

(生徒の社会への関心や地域社会とのかかわりに関する項目)

 新聞やテレビのニュースへの関心について、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と答えた生徒の平均正答率は、「どちらかといえば、当てはまらない」「当てはまらない」と答えた生徒の平均正答率よりも高い。
 地域行事への参加について「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と答えた生徒の割合は、27.1パーセントである。

(生徒の自尊意識や規範意識に関する項目)

 「自分にはよいところがありますか」について、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と答えた生徒の割合は60.1パーセントである。
 「学校の規則を守っていますか」について、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と答えた生徒の割合は、84.5パーセントである。

4 学校改善支援プランについて

 都及び国の学力調査の結果分析を受けて、次のように学校改善支援プランを策定し、児童・生徒の「確かな学力」の向上に取り組む。

  • 1 多様な観点から指導方法の改善・充実を図るために、国の学力調査の内容とは異なる都の学力調査の実施
     児童・生徒一人一人の教科等の目標や内容の実現状況を把握し、確かな学力の定着と伸長を図るために、都独自の学力調査を実施し、多様な観点から指導方法の改善・充実を図るようにする。
    • 【確かな学力の定着を図るための調査】
      • 小学校第4学年と中学校第1学年対象
      • 抽出調査
      • 基礎的・基本的な事項(国語、算数・数学)
      • 小・中学校で習得すべき、基礎的・基本的な事項が身に付いていない児童・生徒の実態を把握する。
    • 【確かな学力の伸長を図るための調査】
      • 小学校第5学年と中学校第2学年対象
      • 全数調査
      • 問題解決能力等
      • 教科等で身に付けた知識や技能、思考力や判断力等を日常生活や学校生活における問題場面で総合的に活用することができるかをみる。
  • 2 東京都のすべての児童・生徒が学習指導要領の内容を身に付けるために必要な、最低限の知識・技能や考え方等とその指導方法を示した「東京ミニマム」の策定
     都の学力調査における「基礎的・基本的な事項」に関する調査や国の学力調査における、主として「知識」に関する調査の結果を基に、児童・生徒の学習のつまずきの傾向や原因を分析し、東京都のすべての児童・生徒が学習指導要領の内容を確実に身に付けるために必要な最低限の知識・技能や考え方等とその指導方法を示した「東京ミニマム」を策定する。
     また、各学校において「東京ミニマム」に基づいた学習指導が着実に行われるように、区市町村教育委員会や各学校を対象にした説明会を実施して普及・啓発を図っていく。
  • 3 国や都の学力調査の結果を生かした「授業改善推進プラン」を活用した授業改善の一層の推進
     東京都のすべての公立小・中学校において、都の学力調査の結果に加えて、国の学力調査の結果も生かして児童・生徒の学力の実態を分析し、課題に応じた具体的な方策を示した「授業改善推進プラン」を区市町村教育委員会の指導のもとに作成し、その実施・評価・改善のサイクルを確立することで授業改善の取組を一層充実させていく。
     また、各学校は、児童・生徒や保護者、地域住民に「授業改善推進プラン」を積極的に公開することで、学校教育への理解と協力を求め、学校・家庭・地域が一体となって、児童・生徒の学力向上を図っていく。
  • 4 授業改善研究推進校の実践や成果を全都に発信し、普及・啓発する取組の充実
     都及び国の学力調査の結果並びに「授業改善推進プラン」に基づいた授業改善に関する実践的な研究を進め、効果的な指導内容・指導方法の開発を行い、その経過も含め、広く普及することを目的とした授業改善研究推進校を設置する。
     また、授業改善研究推進校には、教員一人一人の授業の課題を明らかにし、その改善の道筋や手だてを助言する役割を担う「授業改善アドバイザー」を年間10回程度派遣し、教員の指導の向上を図る。
     さらに、授業改善研究協議会を年間3回実施し、授業改善研究推進校の研究の成果について全都に公開するとともに、教科別の協議において授業改善の具体的な方策を検討し、各学校の授業改善に生かすようにする。
  • 5 各学校における「授業改善推進プラン」に基づく日常的な授業改善の取組の支援
     各学校における「授業改善推進プラン」に基づく日常的な授業改善の取組を支援するために、国語、社会、算数・数学、理科、英語等を担当する指導主事がチームを組んで学校訪問し、授業参観に基づいた指導・助言を行う「特別訪問」を実施する。
     また、「授業改善推進プラン」の改善・充実のポイントや授業改善研究推進校における各教科の授業改善の取組をまとめた「授業改善実践事例集」を各学校に配付し、授業改善の手引きとして役立つようにする。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 全国学力・学習状況調査の分析結果及び課題に応じた指導方法の改善・充実の手だて、並びに4で述べた内容については、東京都教育委員会が平成19年12月13日に「平成19年度 全国学力・学習状況調査報告書」としてまとめ、プレス発表を行うとともに、都内公立小・中学校に配付して周知を図った。
 また、学校改善支援プランについては、平成20年6月に実施する都の「児童・生徒の学力向上を図るための調査」の結果分析にかかわる説明会において、区市町村教育委員会に対して再度周知を図っていく。
 さらに、各学校の「授業改善推進プラン」に基づく授業改善の取組の状況について調査を行い、その取組の成果と課題を明らかにして、区市町村教育委員会が各学校に対して適切な指導・助言を図れるよう情報提供を行っていく。

6 おわりに

 東京都教育委員会は、児童・生徒一人一人に「確かな学力」を育成するという基本的な考え方に立ち、基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得を図るとともに、それぞれの教科等で身に付けた知識や技能を活用する力や問題解決能力等の育成を重視した教育を推進していく。
 そのため、今後も都独自の学力調査を実施するとともに国の学力調査も活用して、すべての公立小・中学校で「授業改善推進プラン」を作成・実施・検証・改善していく授業改善サイクルの取組をより一層充実させていくことで、東京都全体の授業改善の取組を高めていく。

(参考)

-- 登録:平成21年以前 --