子どもの学びの質を高める「各学校の授業改善サイクルの日常化」福島プラン

福島県検証改善委員会

はじめに

 福島県教育センターが平成17年度に実施した「ふくしまの教職意識調査」や、福島県教育委員会が平成18年度に実施した「福島県学力調査」によると、次のことが課題としてあげられている。

  •  保護者も教師も共に教育に関して連携・協力したいと感じているがうまく機能していないところがある。
  •  教師の主な研修の場である校内研修が必ずしも日常の授業改善に結び付いていない様子が見られる。
  •  福島県の子どもたちは、学習に対する意識は高いが応用力、表現力が十分でない。

 これらのことから、福島県検証改善委員会では、以下の三つの視点を中心に事業を展開することとした。

  • 1 視点1「教師、保護者、地域と共に考え、共につくる実践」
  • 2 視点2「学校現場の日常的な授業改善に直結する実践」
  • 3 視点3「子どもが自ら学びを深めることに結び付く実践」

1 検証改善委員会の体制について

 福島県検証改善委員会は、宮前貢・福島大学特任教授を委員長として、福島県教育センター所長、福島県教育委員会参事を中心とした行政関係者3名、福島県町村教育長協議会代表1名、福島県小学校長会代表1名、同中学校長会代表1名、福島県PTA連合会代表1名、福島大学准教授1名の計9名から構成される委員会である。
 本委員会のほかに、特に、全国学力・学習状況調査の分析や具体的な事業の執行を行うために、福島県教育センター次長を中心とした研究調査部会を設け検討を行った。
 検証改善委員会を3回(7月、11月、3月)、研究調査部会を3回(7月、11月、1月)実施し、学校改善支援プラン及び学校改善支援事業の作成及びその普及について検討を行った。

2 学校改善支援プランの概要

 本県の全国学力・学習状況調査の結果は、国語Aに関しては、小・中学校ともに相当数の児童生徒が出題された学習内容をおおむね理解しているものの、国語Bに関しては、身に付けた知識・技能の確実な定着と活用力の育成に課題があるという結果が見られた。また、算数Aに関しては、相当数の児童が出題された学習内容をおおむね理解しているものの、数学Aに関しては基礎的な知識や技能を更に身に付ける必要があるという結果が見られた。算数B・数学Bに関しては、実際の問題解決場面における活用力の育成に課題があるという結果が見られた。
 福島県検証改善委員会としては、これらの結果と「はじめに」で述べた本県の現状を踏まえて、子どもの学力向上を図るには、日常の授業をとおして子どもの持つ可能性を引き出し、子どもが自ら学び、自ら考えながら学びを深めること、つまり「学びの質」を高めていくことが重要であるとの認識のもと、教師一人一人の持つ力を最大限に引き出し、教師が魅力ある授業を日々創造していくことができるよう、次の観点から支援プランをまとめた。

  • 1 現在問われている学力
  • 2 本県の課題から見た指導のポイント
  • 3 優れた実践を参考にしての自己の授業の振り返り
  • 4 指導資料による授業の振り返り
  • 5 各学校、各クラスの課題分析
  • 6 授業改善サイクルの日常化に向けた取組み

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 前項の概要でも言及したが、本県の全国学力・学習状況調査の結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。
 教科に関する分析では、以下のような特徴と課題が見られた。

【国語】

 小学校について見ると、Aについては、三つの設問が正答率で全国を下回るが、無回答率はいずれも全国より小さく、対全国で見る状況は全体として良好であった。Bについては、正答率は全国と同じであるが、全国を下回る設問が10問中5問あり、課題が見られた。
 中学校について見ると、Aについては、正答率が全国を下回る設問が37問中11問あり、課題が見られた。Bについては、正答率が全国を下回る設問は2問のみであったが、学力層による正答率に大きな違いがある設問があった。
 詳しく見ると次の点はよくできている。

  • ◇ 自分の考えを決められた字数で、記事として具体的に提案すること。(小学校-活用「書くこと」)
  • ◇ 話すことの内容に応じて、適切な資料を提示すること。(中学校-活用「話すこと・聞くこと」

 一方、課題となるのは次の点である。

  • ◆ 文章をを的確に読み、理由を要約すること。(小学校-活用「読むこと」)
  • ◆ 文章を比較して、共通して書かれている情報を読み取ること。(中学校-活用「読むこと」)

【算数・数学】

 小学校について見ると、Aについては、正答率が全国を上回るものがやや多く、無回答率も小さく、大きな課題は見られない。Bについては、正答率が対全国比を下回る設問が多く、全体として課題が多い。
 中学校について見ると、A、Bともに正答率が対全国比を下回る設問が多く、全体として課題が少なくない。
 詳しく見ると、次の点はよくできている。

  • ◇ 整数、小数、分数の計算をすることや、基本的な平面図形の面積を求めること。(小学校-知識「数と計算」「量と測定」)
  • ◇ 指数を含む計算や一元一次方程式を解くこと、基本的な平面図形の性質の理解。(中学校-知識「数と式」「図形」)

 一方、課題となるのは次の点である。

  • ◆ 計算の工夫を理解し、その計算方法を説明することや、百分率を用いて問題を解くこと。(小学校-活用「数と計算」「数量関係」)
  • ◆ 条件に合う式を見いだし、文字式を用いて説明することや、数量の関係を理想化したり、実験のデータを単純化したりして数学的な表現をすること。(中学校-活用「数と式」「数量関係」)

 また、質問紙調査と教科設問とのクロス分析により、次のことが分かった。

  •  「筋道を立てて考える力」が数学だけでなく国語の力に深い関わりがある。
     質問紙調査と教科の得点の分析から、「算数・数学に関する意識」が得点に大きく影響していることが分かった。それは、算数・数学のみならず、国語の得点にも大きく関わっていた。特に、質問番号90の算数・数学に関して「筋道を立てて考える力」は、小・中学校ともに国語に対する相関が最も高いことが分かった。
  •  「条件に基づいて自分の考えを表現する力」が、国語だけでなく算数・数学の力に深い関わりがある。
     国語と算数・数学の設問のクロス分析の結果、国語の記述問題ができていない子どもは、算数・数学の記述問題に対する正答率がかなり低いことが分かった。子どもたちは、国語で学んだ力を算数・数学に、算数・数学で学んだ力を国語に生かしているので、どの教科の学習も大切にしながら、総合的に学力を育てていくことが大切であることが分かった。
  •  Aの問題については調査問題が簡単だったと答える割合が全国より高いが、Bの問題については全国より低いことが分かった。

質問紙調査

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた分析結果を受け、福島県検証改善委員会は、「子どもの学びの質を高める『各学校の授業改善サイクルの日常化』福島プラン」として、1分析・課題の明確化、2福島からの発信、3成果の普及、4広報協力推進、という視点から実践研究に取り組むこととし、後述する「授業改善サポートブック」に種々の提言をまとめた。
 すべての授業で考えていきたいこととして次の5点を提言した。

(1)考え、表現する子どもを育てる

 国語も、算数・数学も、特にB問題においては、「情報の取り出し」「解釈」「熟考、評価」「表現」というプロセスが共通しており、知識を日常的な場面でいかに使いこなすことができるかが問われている。単なる表面的な知識でなく、その背景までしっかりと押さえてほしい。
 また、多様な資料から自分の考えの根拠を見いだし、その上で自分の考えを適切に表現することが求められる。

(2)学問的なおもしろさを伝える

 考え、表現する子どもを育てるには学問的なおもしろさを感得させていくことが肝要である。表面的なおもしろさだけでなく、学問の本質に通じる興味・関心であったり、考えることの難しさや厳しさも含まれている。教師自身が、この学問的なおもしろさを感じ、追究することなしに、子どもにおもしろさを感じさせることはできない。教師一人一人が日々の授業を振り返ってみる必要がある。

(3)育てる力を明確にした単元構想をする

 次の2つの点を大事にしながら単元を構想する。

  •  知識の意味理解を深めながら、その確実な定着を図ること
  •  問題解決場面における活用力の育成を図ること

 学んだ知識・技能を使うと、「こんなことまで考えることができるんだ。」「もっと知りたい。」という発展的な思考があってはじめて知識・技能のありがたさやおもしろさにたどり着けるのではないか。授業の中で、そのような場面を位置づけていくことが大切である。

(4)三つの視点から授業を振り返る

  • 1 一にも二にも教材研究が大切である。特に、教科書は考え抜いて作られているので、教科書研究を十分にしていく必要がある。
  • 2 子どもが前学年まで、前単元まで、前時までにどのようなことを学んできたのか、学んできたことは定着しているのか、より深く理解することが大切である。
  • 3  12を踏まえて指導方法の工夫をしていくことが大切である。

(5)授業と学級(学年)経営は表裏一体

 学びが豊かに展開されるためには、子どもの学校生活の基盤となる学級集団が温かい雰囲気に包まれ、子どもが互いに人間として尊重し合い、励まし合うような関係であることが不可欠である。授業の中で、一人一人の子どもの学びの状況をよく見つめ、とらえて、学ぶことへの子どもの願いを大切にしていくことが大切である。子どもたちに、温かい人間関係の中で、自分や友達、教師などの存在の大切さを感じさせ、思いやりの心をはぐくんでいきたい。

5 学校改善支援プランを受けた取組みについて

 全国学力・学習状況調査の結果を踏まえ、福島県の実態と課題について具体的に説明しながら、学校が取り組まなければならない授業改善策について共に考える機会を持つために、「授業改善検討会」を県内7地区で8日間にわたって開催した。この検討会は、各市町村教育委員会及び各学校から1名参加のもとに開催した。
 この検討会終了後には、引き続き、県教育委員会主催の「学力向上推進研究協議会」が開催され、授業改善検討会で説明された内容を踏まえて、自校の取組みについて協議がなされた。

 福島県教育委員会としては、平成20年度は、学校改善支援プランを踏まえ、各学校における日常的な授業改善を重点的に支援していく予定である。
 また、福島県教育センターでは、「授業改善の日常化」のための研究に取り組む予定である。

6 学校改善支援促進事業について

 学校改善支援プランの先行的な実施として、文部科学省が募集した学校改善支援促進事業に応募し、8月に選定された。
 本事業について、福島県検証改善委員会は「子どもの学びの質を高める『各学校の授業改善サイクルの日常化』福島プラン」-「授業観」の振り返りを通して-をテーマとした。これは、検証改善委員会として、各学校が調査結果を分析、活用して、子どもの学びの質を高めるための授業改善を日常的にできるようにすることを支援しようとするものである。
 以下、取組みの内容について記述する。

(1)分析・課題の明確化

 全国学力・学習状況調査の問題と結果を分析し、今後さらに育てたい力を明確にするとともに、教師に対するヒアリングを行うなど、学校や学級の実態・課題の把握に努め、授業改善につなげていくことができるようにした。

1 授業改善に生かすための聞き取り調査

 すぐれた実践をしている教師を対象に、授業に向かう姿勢等について座談会形式でヒアリングを行い、後述する「授業改善サポートブック」にまとめた。

(2)福島からの発信

 学校現場での授業改善に生きる具体的な教材や校内研修、授業研究に関する具体的な資料等を開発し、「授業改善サポートブック」として発信した。冊子としてではなく、ファイル形式で自己の実践などを差し込むことができるポートフォリオのように、教師一人一人が、サポートブックをオリジナルなものにしていく過程を重視し、県内教師と共につくっていく「創造的な」事業になるようにした。

1 データ分析支援ソフトの開発

 各学校や学級の課題を明らかにし、各学力層の子どもたちそれぞれにどのような指導をしていけばよいかという見通しを持って授業改善に取り組んでいくことができるようにするために、学力調査結果分析のための支援ソフトを開発し、CD-ROM版で市町村教育委員会、すべての小・中学校、特別支援学校に提供した。分析ソフトでは以下のことを可能としている。

  • 文部科学省から提供された自校の結果を自動的に読み込んで、全国的な状況や県全体の状況との比較、学力層別分析、各種クロス分析等により、自校の課題が把握できる。
  • 調査結果がビジュアルに示され、必要に応じて保護者や地域への説明資料としても活用できる。
  • 各校で実施した評価問題等についても、学力層別分析や誤答分析ができる。

全国学力・学習状況調査分析支援ソフト

2 評価問題・指導資料の作成

 算数・数学と国語について、「知識」と「活用」問題の関連を視野に入れるとともに、子どもたちの表現力、思考力向上につなげていくための「評価問題・指導資料」を作成した。作成に当たっては県内各地の教師等の参加による「問題作成委員会」を組織するなど、学校現場の教員と共同開発を推進した。作成した問題は、サポートブックに掲載するとともにWeb上でも公開し、各校でダウンロードして使えるようにした。

3 「提案授業」の各学校への発信

 授業研究を日常の授業改善に生かすようにするために、現場の教師や福島大学准教授が、本県の課題を踏まえた「提案授業」を、算数・数学については3例、国語については2例実施した。授業内容を録画したデータをDVD化して全ての学校に配付し、授業者の教材解釈の深さとともに、「知識」と「活用」との関連をとらえることができるようにした。

4 テレビ会議システムによる授業研究会の実施

 教員の数が少ない小規模校2校を対象に、テレビ会議システムを用いて、指導主事が遠隔地から校内授業研究会に参加し、校内授業研究の充実を図った。

5 授業改善サポートブックの作成

 校内研修で活用し授業改善に資するようにするために、本事業(学校改善支援プランを含む)の成果を集約した「授業改善サポートブック」を作成し、県内各小・中学校の教師すべてに配付した。これにより個々の事業を結び付けるとともに、資料等も集約し、学校独自に作成した資料を累積しながら、一人一人の教師が授業改善サイクルに取り組むことができるようにした。
 その内容は次のとおりである。

  • 全国学力・学習状況調査結果概要
  • すぐれた実践に学ぶ
  • 評価問題・指導資料
  • 「提案授業」の授業案及び実際の授業の様子
  • 調査分析結果支援ソフトの解説
  • 授業改善の日常化

授業改善サポートブック

(3)成果の普及

 国語、算数・数学で習得した基礎的・基本的な内容を他教科でも活用できるなど、子どもの豊かな学びについて考える場として授業フォーラムを実施した。

1 授業フォーラムの実施

 福島大学と連携し、教員、保護者、地域の方を対象とした学びの場として、県内2地区において、計590名の参加により授業フォーラムを開催した。内容は以下のとおりである。

  • 「提案授業」のビデオを題材にして、授業について具体的に考える機会とした。
  • 大学教授、小・中学校校長、提案授業の授業者、保護者代表をパネリストとするパネルディスカッションと参加者による意見交流を行った。

(4)広報・協力促進

 福島県版「学びのすすめ」を配付し、保護者に対して学校での学力向上に関する取組みを伝えるとともに、子ども自身にも学ぶ意義や方法について考えたり、保護者と共に考えたりすることができるようにした。

1 福島県版「学びのすすめ」の作成・配付

 小・中学生全員に対して福島県版「学びのすすめ」のリーフレットを配付し、学ぶ意義や方法について知らせたり、考えたりすることができるようにした。このリーフレットを効果的に活用するためのマニュアルも作成し、学校に配付した。
 また、このリーフレットにおいて、家庭において大切にしたいことを伝えることにより、保護者の学校の取組みへの理解を深め、学校を支援し、共に子どもをはぐくんでいこうとする意識の高揚を図った。

2 PTA学習会での成果の広報

 各校でのPTA学習会へ検証改善委員会委員を派遣して、学校での取組み、家庭での取組みについて共に考える機会を持った。中学校を中心として小学校にも働きかけ、3地区において計240名の保護者の参加があった。

7 おわりに

 福島県検証改善委員会では、県内の学校はそれぞれ課題を抱えており、その課題を各校が明確にとらえることが大切であると考え、客観的に課題をとらえる手段の一つとしての分析支援ソフトの開発、実際の授業を題材にしての授業フォーラムの開催や提案授業DVDの提供などを行ってきた。
 今後は、各学校がそれらの資料を有効に活用するための支援をしていきたい。また、下記に記すようにWebページを立ち上げているので、その内容の改善や充実を図っていきたい。

(参考)

  • 授業改善サポートブック
  • 「福島県版『学びのすすめ』」
    http://www.kaizen.gr.fks.ed.jp/
    (※福島県検証改善委員会ホームページへリンク)

-- 登録:平成21年以前 --