学校改善に取り組むための視点-児童生徒の学力向上に向けて-

宮城県検証改善委員会

はじめに

 平成19年4月24日、全国的な義務教育の機会均等と水準向上のため、児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより、教育の結果を検証し、改善を図ることや、各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において、自らの教育の結果を把握し、改善を図ることを目的として、全国学力・学習状況調査(以下「調査」)が実施された。
 宮城県においては、調査の趣旨の実現のため、調査問題が公表された時点から問題分析等を開始するとともに、前年度10月に実施した「宮城県学習状況調査」の結果等も活用し、教員の教科指導力の向上を図る指導法改善研修会を各地域で開催してきた。
 同年10月24日、文部科学省から調査結果が公表され、宮城県の児童生徒は、基礎的・基本的な内容については概ね理解しているものの、学んだことを活用する力に課題があると判断できる結果であった。
 この結果を受けて、宮城県検証改善委員会では、宮城県の児童生徒の学力向上に向けての詳細な結果分析と具体の対応策等を協議・検討してきた。この分析・協議の中から明らかになった成果や課題に基づき、各学校が「学力向上のための学校改善プラン」を作成・実践していく際に活用できる「宮城県学校改善支援プラン」を作成した。また、本プランを全県に広く普及するため、冊子とリーフレットを編集し、市町村教育委員会や各学校等に配付した。
 平成20年度においては、学力向上を図るため、本支援プランが、各学校のみならず、市町村教育委員会や地域、家庭等での取組の指針となることを願う。

1 検証改善委員会の体制について

 宮城県検証改善委員会は、宮城教育大学西林克彦教授を座長として、学識経験者、県内の公立小・中学校の校長、教頭、教諭及び宮城県教育庁義務教育課長、指導主事等の行政関係者から構成される委員会である。
 平成19年8月に第1回委員会を開催し、趣旨や方針等について協議、確認した後、10月の調査結果の発表を受け、第2回から第5回まで4回の委員会を開き、調査結果の詳細な分析を行うとともに、学校改善支援プランについての協議を進めてきた。

2 検証改善委員会の活動内容

【5月17日】

宮城県検証改善委員会設置要項策定

【8月30日】

第1回 宮城県検証改善委員会開催

  • 宮城県検証改善委員会の趣旨、要項等についての確認
  • 学校改善支援プランを作成していくための視点の整理
  • 調査問題の検討・分析と「学力のとらえ」についての共通理解を図る協議

【11月9日】

第2回 宮城県検証改善委員会開催

  • 調査結果の要因分析等についての協議
  • 調査結果を受けての学校、市町村教育委員会等に対する支援案の協議
    • 1 学校の要請に応じて、学力向上に関する支援を行うために講師等を派遣する学力向上支援事業の提案
    • 2 各学校が、「学校改善プラン」を策定して、学力向上に取り組むヒントとなる「支援プラン」を提示
    • 3 平成20年度には、学校改善のモデル校を指定した実践研究事業を行ってはどうかという提案

【12月7日】

第3回 宮城県検証改善委員会開催

  • 学校、市町村教育委員会等に対する支援計画の確認
  • 学校改善支援プランの基本構想の確認
    • 1 学校改善を進める各学校の指針となるもの
    • 2 支援プランの柱立ての確認と作成原稿の内容確認
      • 児童生徒に身に付けさせたい「学力」の定義
      • 分析方法、学校経営、授業改善、校内研修、小中連携、学習習慣

【1月31日】

第4回 宮城県検証改善委員会開催

  • 学校、市町村教育委員会等に対する支援の進捗状況
  • 学校改善支援プランとして掲載する内容についての協議
    • 1 委員提示案の説明と協議
    • 2 学校で生かせる視点の確認

【2月26日】

第5回 宮城県検証改善委員会開催

  • 学校改善支援プラン最終案作成
    • 1 学校改善支援プランについて、基本構想に沿った提案内容の最終確認
    • 2 宮城県教育委員会の学力向上施策との関連についての協議

3 全国学力・学習状況調査の結果の分析について

【教科に関する調査の結果】

  • 宮城県の小・中学生は、基礎的・基本的な内容については概ね理解しているものの、学んだことを活用する力に課題があると判断できる結果となっている。
  • 小学6年生の国語・算数、中学3年生の国語・数学の正答数の分布状況については、いずれの教科においても全国とほぼ同じ分布状況を示しているが、正答数の多い児童生徒数の比率が全国と比較してやや低い状況が見られた。
  • 「知識」に関する問題の中学校の数学の正答率と、「活用」に関する問題の小学校の算数の正答率が全国と比較してやや低くなっている。

【児童生徒質問紙の調査の結果】

  • 宮城県の小・中学生は、基本的な生活習慣に関する質問に対して、全般的に肯定的な回答をしている。
  • 小・中学生ともに、家庭で予習・復習をしている割合は全国平均より高いが、家庭における学習時間については、全国平均より少ない傾向にある。

4 学校改善支援プランについて

 宮城県検証改善委員会は、全国学力・学習状況調査の結果を踏まえ、児童生徒の学力向上の推進のため、各学校が計画・推進する学力向上の取組を支援する内容について協議を進めた。「学校改善をどう進めていくか(学力向上の推進)」という大きな課題に対しての改善策について、基本的な方針を示すとともに、次の3つの視点を定めた。

学校改善をどう進めていくか(学力向上の推進)

 児童生徒の学力向上のための学校改善は、校長、教頭等のリーダーシップの下、学校全体で取り組んでいくことが必要である。
 学力向上に向けて学校を改善していく視点を全教職員が共有し、推進するためには、教職員一人一人が学力向上に参画する意識を持つことが大切である。

(1)校内研修をどう進めていくか(教員の教科指導力の向上)

 児童生徒の学力向上の鍵は教員の教科指導力の向上にある。そのためには、校内研修を、日々の授業改善につなげていくことが必要である。

(2)家庭での学習習慣の定着をどう図っていくか(児童生徒の学習習慣の形成)

 質問紙調査の結果からは、宮城県の児童生徒の家庭での学習時間が少ないことが明らかになった。
 家庭学習は、「学んだことを定着させる」ことだけでなく、「自ら学ぶことができる」児童生徒をはぐくむ上で重要である。

(3)小中連携をどう進めていくか(教育環境基盤の充実)

 義務教育9年間を1つのまとまりと捉え、小・中学校が、学力向上という視点を共有し、互いに「何を教えるのか」「何を学んでいるのか」という視点で理解を深め、授業改善を核にした小中連携を進めていくことで、児童生徒の学力向上を図っていくことが大切である。

 以上「学校改善支援プラン」の3つの視点については、宮城県教育委員会が、児童生徒の学力向上のために推進してきた3つの柱である「教員の教科指導力の向上」「児童生徒の学習習慣の形成」「教育環境基盤の充実」と重なっており、今後は、宮城県教育委員会の具体的な施策の中に、どのように反映させていくかについて、継続して検討していくことになる。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

(1)指導法改善研修会について

 宮城県検証改善委員会は宮城県教育委員会と連携して、調査問題の分析と宮城県学習状況調査結果の分析等を踏まえ、児童生徒の学習内容の定着状況を明らかにし、その課題の克服に対応する国語及び算数・数学の指導法改善のための研修会を、各地区(教育事務所単位)で実施し、教員の教科指導力の向上を図ってきた。
 平成19年8月から平成20年2月にかけて、各地区合わせて18回の研修会を実施し、講師としては、宮城教育大学教授等の学識経験者を中心に配した。
 各教育事務所からの成果と課題をまとめた報告については、「宮城県学校改善支援プラン」冊子に掲載し、成果を共有し、教員の教科指導力の向上を図った。

(2)学力向上支援事業について

 宮城県教育委員会は、調査の結果及び宮城県検証改善委員会の協議等を受けて、児童生徒の学力向上を目指し、市町村教育委員会及び小・中学校の今後の取組を支援するため、市町村教育委員会及び小・中学校の要請に応じ、講師等を派遣する学力向上支援事業を実施した。

1 事業期間

 平成19年12月から平成20年3月まで

2 事業内容(支援内容)

  • 国の調査結果の分析の仕方
  • 課題解決に向けた取組への支援
    • 国の調査結果分析を踏まえた今後の各学校の対応
    • 模擬授業の実施
    • 授業改善のポイントの示し方と授業への生かし方
    • 国語・算数(数学)の研究授業への指導助言
    • 国語・算数(数学)の基礎的・基本的事項の定着を図る指導法の工夫

3 講師等について

 学識経験者、本庁指導主事、教育事務所指導主事、教育研修センター指導主事、学力向上拠点形成事業推進校教員、学力向上成果普及教員(学力向上成果普及マンパワー活用事業:教科の指導に優れた実績を持つ教員等を校内研修等に派遣する事業)

4 事業実績

  • 派遣学校等
    • 小学校 29校
    • 中学校 14校
    • その他 3団体
  • 派遣内容(組み合わせて実施)
    • 調査結果の分析 13校
    • 学力向上に関する講話 28校
    • 講師による模擬授業 9校
    • 要請校による模擬授業 7校

 各学校等の取組の成果と課題をまとめた報告の一部については、「宮城県学校改善支援プラン」冊子に掲載し、成果の普及・共有を図った。

(3)冊子とリーフレットの作成と配付

 学校改善を進めていく各学校の指針となる「学校改善支援プラン」をまとめた冊子を作成した。内容については、多様な視点からの学校改善の取組等を掲載し、学校の実態に応じて取捨選択できるものとしており、各学校の改善プランのヒントとなるものとした。
 また、調査の問題と結果等を分析し、児童生徒に身に付けさたい学力とは何かについての提言、及び「調査問題や調査結果等をどのように分析していけばよいのか」について、今後、各学校が独自に分析を進めていく場合の参考となるものを掲載した。
 冊子に加え、学校改善支援プランの要点をまとめたリーフレットを作成した。
 「宮城県学校改善支援プラン」の冊子とリーフレットについては、県内の小・中学校等に配付し、成果の普及を図ることで、新しい検証改善サイクルの出発点を共有できたと考える。

6 おわりに

 「学校改善支援プラン」については、「各学校が学力向上に向けた学校改善をどれだけ進めることができたか」が評価の指標となる。平成20年度は、「学校改善支援プラン」の真価が問われる年となる。
 宮城県教育委員会は、「宮城県学校改善支援プラン」等も踏まえて、平成20年度には、宮城県の児童生徒の学力向上のために、様々な施策を実施していく。
 その1つとして、調査結果を受けて、学力向上に取り組む学校を50校程度指定し、義務教育課、教育事務所及び教育研修センターの指導主事等によって構成するチームが継続的、個別的に直接支援するとともに、その成果及び学校改善事例を普及し、教員の指導力の向上と児童生徒の学力向上を図る「学力向上サポートプログラム事業」を新規事業として実施していくこととした。
 その他の事業も含め、各学校が学力向上に向けた「学校改善支援プラン」を策定・実施していくことで、本県児童生徒の学力向上を図っていきたい。

(参考)

-- 登録:平成21年以前 --