新しい学習指導要領のねらいの実現に向けて

1.子どもの現状

○教育課程実施状況調査

(過去2回実施(昭和56~58年度、平成5~7年度))

→覚えることは得意、計算の技能や文章の読み取りの力などもよく身に付けている

 →学習が受け身で、覚えることは得意だが、自ら調べ判断し、自分なりの考えを持ちそれを表現する力が不十分

○国際数学・理科教育調査

(国際教育到達度評価学会(IEA)調査)

→日本の子どもの成績は戦後一貫してトップクラス(同一問題による経年比較でも低下していない)

→その一方で数学や理科が好きである、将来それらに関する職業に就きたいという者の割合が少ない

○学校教育に関する意識調査(文部省)

(平成10年度実施)

→授業の理解度、満足度ともに学年が上がるにつれ低下

学校教育に関する意識調査(文部省)

 ↓

○基礎・基本を徹底し、自ら学び考える力を育てることが必要
○子ども一人一人に応じたきめ細かな教育が必要

学力
知識・技能は重要であるが、単なる知識の量のみではなく、学ぶ意欲、思考力、判断力、表現力まで含めて学力ととらえる必要がある。
(学習への関心・意欲・態度や将来の生活に関する課題に適応する能力を重視するのは国際的な流れ)

2.新しい学習指導要領の基本的なねらい

 完全学校週5日制の下、各学校が「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し、子どもたちに学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせることはもとより、自ら学び自ら考える力などの「生きる力」をはぐくむ。

  • 授業時数の縮減と教育内容の厳選
  • 個に応じた指導の充実
  • 体験的、問題解決的な学習活動の重視
  • 総合的な学習の時間の創設
  • 選択学習の幅の拡大

(参考)

昭和43~45年改訂   教育内容の一層の向上(「教育内容の現代化」)
 ↓ (時代の進展に対応した教育内容の導入(算数における集合の導入等))

昭和52~53年改訂   ゆとりある充実した学校生活の実現=学習負担の適性化
 ↓ (各教科等の目標・内容を中核的事項にしぼる)

平成元年改訂   社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成
 ↓ (生活科の新設、道徳教育の充実)

平成10年改訂 自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の育成
 (教育内容の厳選、総合的な学習の時間の新設)

3.新しい学習指導要領の全体構造

  • 小・中学校では教育内容を厳選し、基礎・基本を確実に習得
  • 中・高等学校では、選択学習の幅を拡大し、生徒の能力等に応じ、発展的な学習も行う

新しい学習指導要領の全体構造

4.教育内容の厳選

新しい学習指導要領においては、基礎・基本を確実に定着させるため教育内容を厳選している。

  • 教育内容厳選の視点
    1. 高度になりがちな内容を上の学年や学校段階に移行し、もともと上の段階で扱っていた内容と合わせることにより、体系的にわかりやすく指導
    2. 各学校段階間、各学年間、各教科間で重複する内容を削除

(例)
 1 算数・数学

教育内容厳選の視点1

教育内容厳選の視点2

教育内容厳選の視点3

○ 教育内容の厳選によってゆとりの中できめ細かな教育活動が可能となる

5.総合的な学習の時間

 横断的・総合的な課題などについて、自然体験や社会体験、観察・実験、見学・調査などの体験的な学習、問題解決的な学習を行う

 ↓

  1. 自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てる
  2. 学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにする

<教科との関連>

  • 各教科等で身に付けた知識や技能を相互に関連付け、総合的に働くようにする
  • 「総合的な学習の時間」で身に付けた力を各教科等の学習の中で生かす

6.選択学習の幅の拡大

 生徒の興味・関心、進路希望等に応じた能力の伸長を一層実現

中学校…
 ○選択教科に充てる授業時数の拡大
 ○補充的な学習や学習指導要領に示す内容の理解をより深めるなどの発展的な学習、課題学習などを実施可能

高等学校…
 ○必修科目の最低合計単位数を縮減
 ○各学校で独自に学校設定教科・科目を設定可能に
 ○大学で学んだ成果を高等学校の単位として認める

7.最低基準性の一層の明確化と個に応じた指導の充実

学習指導要領は最低基準

 学習指導要領に示す「各教科、道徳及び特別活動の内容に関する事項は、特に示す場合を除き、いずれの学校においても取り扱わなければならない。
 学校において特に必要がある場合には、(学習指導要領に)示していない内容を加えて指導することもできる」 (学習指導要領   総則(抜粋))

新しい学習指導要領では

教育内容の厳選・選択学習の幅の拡大

学習指導要領の最低基準性が一層明確に

発展的な学習、補充的な学習など、個に応じた指導の充実

  • 少人数指導、習熟度別指導を可能にするなどの教職員定数の改善
  • 発展的な学習等を推進するための教師用参考資料の作成・配布

8.新しい学習指導要領のねらいを実現するための評価の充実

(平成12年12月教育課程審議会答申)

1 児童生徒の一人一人の学習状況を適切に評価

  • 学習指導要領に示す目標に照らしてその実現状況を見る評価(いわゆる絶対評価)を一層重視
  • 児童生徒の学習状況を客観的に評価するため、評価規準、評価方法等を研究開発
  • 指導要録の改善(平成13年4月27日付け初等中等教育局長通知)

(1)小・中学校の評定を学習指導要領の目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)に
(2)高等学校の評定は4観点を十分踏まえる
(3)「総合的な学習の時間」の評価は、学習活動、観点、文章による評価を記述
(4)「生きる力」の育成を目指し、「行動の記録」の項目を見直し
(5)児童生徒の成長の状況を総合的にとらえる工夫ができるようにする趣旨から所見欄等を統合

 ↓

各学校においては

  • 評価の客観性を高めるため、評価規準の作成に向けて研究を

教育委員会においては

  • 各学校の取組を支援するため、評価規準等の研究開発を
     (国においては現在、国立教育政策研究所において研究開発中)

2 学習指導要領の目標の全国的な実現状況、教育課程の実施状況を適切に評価

  • 全国的な学力調査の実施
     小・中学校については平成13年度、高等学校については平成14年度に現行学習指導要領の下での学力調査(教育課程実施状況調査)を国立教育政策研究所において実施予定
    (中3:平成14年1月24日(木曜日)   小5~中2:平成14年2月21日(木曜日))
  • 各学校において、教育課程の実施状況等から見た自己点検・自己評価が必要

児童生徒の学力について

‐国際数学・理科教育調査(国際教育到達度評価学会(IEA))‐

○我が国の児童生徒の成績は、国際的にトップクラスであり、全体としておおむね良好である。

○同一問題の正答率について経年比較しても低下傾向は見られない。

○しかし、数学や理科が好きであるとか、将来これらに関する職業に就きたいと思う者の割合が、国際的に見て最低レベルであるなどの問題がある。

1.我が国の成績

1 算数・数学の成績

  小学校 中学校
昭和39年(第1回) 実施していない 2位/12国
昭和56年(第2回) 実施していない 1位/20国
平成7年(第3回) 3位/26国 3位/41国
平成11年(第3回追調査) 実施していない 5位/38国

(注)小学校については4年生の成績。中学校については昭和39、56年は1年生、平成7年、11年は2年生の成績。

2 理科の成績

  小学校 中学校
昭和45年(第1回) 1位/16国 1位/18国
昭和58年(第2回) 1位/19国 2位/26国
平成7年(第3回) 2位/26国 3位/41国
平成11年 (第3回追調査) 実施していない 4位/38国

(注)小学校については昭和45年及び58年は5年生、平成7年は4年生の成績。中学校については各年とも2年生の成績。

2.同一問題の正答率比較

1 中学校数学

  問題群A 問題群B 問題群C
昭和39年(第1回) 64.4パーセント
昭和56年(第2回) 63.6パーセント 59.9パーセント
平成7年(第3回) 65.4パーセント 61.4パーセント 78.1パーセント
平成11年(第3回追調査) 77.6パーセント

2 中学校理科

  問題群A 問題群B
昭和58年(第2回) 71.7パーセント
平成7年(第3回) 71.2パーセント 70.0パーセント
平成11年(第3回追調査) 70.2パーセント

3.数学・理科に対する意識(中学2年)

1 数学

  数学が「好き」または「大好き」 数学の勉強は楽しい 将来、数学を使う仕事がしたい 生活の中で大切
平成7年 53パーセント(68パーセント) 46パーセント(65パーセント) 24パーセント(46パーセント) 71パーセント(92パーセント)
平成11年 48パーセント(72パーセント) 38パーセント(-) 18パーセント(-) 62パーセント(-)
前回との差 △5 △8 △6 △9

(注)()内は国際平均値
 (-)内については国際平均値は発表されていない

2 理科

  理科が「好き」または「大好き」 理科の勉強は楽しい 将来、科学を使う仕事がしたい 生活の中で大切
平成7年 56パーセント(73パーセント) 53パーセント(73パーセント) 20パーセント(47パーセント) 48パーセント(79パーセント)
平成11年 55パーセント(79パーセント) 50パーセント(-) 19パーセント(-) 39パーセント(-)
前回との差 △1 △3 △1 △9

(注)( )内は国際平均値
 (-)内については国際平均値は発表されていない

新しい学習指導要領についてのQ&A

〈学習指導要領の基準性について〉

Q1 学習指導要領が最低基準であるということは、学習指導要領に示されている内容を教えただけでは必ずしも十分ではないということでしょうか。

A 最低基準とは、少なくとも学習指導要領に示す内容は、すべての児童生徒に対して指導する必要があるという意味です。すべての児童生徒に共通の教育課程では、まずは、学習指導要領に示している国民として身に付けるべき基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせることが重要です。
 また、児童生徒の状況等を踏まえると、個に応じた指導を一層充実させることが求められています。こうした観点から、新しい学習指導要領では教育内容を基礎的・基本的な内容に厳選するとともに、選択学習の幅を拡大しています。各学校においては、個別指導や習熟度別のグループ指導、選択教科における指導などを通じて、学習指導要領に示す内容を十分理解している児童生徒に対しては、その理解をより深めるなどの発展的な学習を行ったり、学習指導要領に示す内容の理解が不十分な児童生徒に対しては繰り返し指導など補充的な学習を行ったりするなど、個性や能力等に応じた学習を充実させることが重要であると考えています。

Q2 学習指導要領に示されていない内容を加えて指導する場合に制限はないのでしょうか。

A どのような内容を加えて指導するかは、各学校の判断です。
 各学校において、児童生徒の負担過重となったりすることのないよう配慮するなど、学習指導要領総則を踏まえて判断していただきたいと考えています。

Q3 新しい学習指導要領において削除された内容や、中学校理科の「イオン」など扱わないこととされている内容を加えて指導してよいのでしょうか。

A 学習指導要領に示す内容やその取扱いは、すべての児童生徒に共通の教育課程を編成する場合に適用するものです。新しい学習指導要領においては、知識の暗記に偏重せず、「ゆとり」の中で自ら考える力をはぐくむために、教育内容を厳選しています。このため、新しい学習指導要領において削除された内容や、取り扱わないこととされている内容を、すべての児童生徒に一律に指導することは、新しい学習指導要領の趣旨にそぐわないものと考えます。
 その一方、個に応じた指導の場面や選択教科において、児童生徒の興味・関心等に応じ、理解の状況を踏まえて、発展的な学習を行う際には、このような内容を加えて指導することも可能です。
 各学校において、児童生徒の負担過重となったりすることのないよう配慮するなど学   習指導要領総則を踏まえて判断していただきたいと考えています。

〈新学習指導要領をめぐる誤解〉

Q4 新学習指導要領では「円周率は3になる」と言われていますが、これは本当な のでしょうか。

A 「円周率は3を使うことになる」という指摘は誤りです。
 新学習指導要領の小学校5年生の算数には「円周率としては3.14を用いるが、目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮する」とあり、現行と同様に円周率として3. 14を使うことが明確にされています。「目的に応じて3を用いる」というのは、およその面積を見積もる場合などに、子どもたちに必要以上の負担をかけず、考える時間を確保するためのものです。こうした扱いも現行と同様です。このようなおよその見積り は、一般の社会においてもよく行われていることです。

Q5 新学習指導要領では、台形の面積を求める学習はしなくなるというのは本当でしょうか。

A 新しい学習指導要領においては、全員が共通に学習する内容としては、台形の面積の公式は示していません。
 これは、「正方形、長方形、三角形、平行四辺形の面積の求め方」を身に付ければ、それ以外の台形のような形の面積も、これらの面積の求め方を活用して自分で工夫して求めることができるからです。
 新しい学習指導要領は、まさにこうした自ら考える力を身に付けさせようとするものであり、単に公式を暗記するのはやめようということなのです。
 公式を単にあてはめて計算するだけの学習はなくなりますが、三角形の面積などを組み合わせて自分で工夫して台形の面積の求め方を考えてみようとする学習は行われます。

Q6 新学習指導要領では、小学校で学習する漢字の数が減るとの指摘を聞いたのですが、これは本当でしょうか。

A 小学校で指導する漢字は1,006字であり、これまでと変わりません。ただし、漢字の「読み」と「書き」とを比べると、「書き」の定着の方が時間がかかることから、新しい学習指導要領では、「読み」の指導はこれまで通りとし、「書き」の指導は2年間 という時間をかけて、確実に書き、使えるよう指導することにしました。
 これにより、小学校6年生までに、5年生までの漢字(825字)を確実に書けるよ うに指導し、6年生の配当漢字(181字)は、中学校で確実に書けるように指導することとしたものです。この181字分の「書き」の指導を小学校6年生で行うことに変わりはありません。
 なお、中学校卒業時点では、「1,006字を確実に書く」こととなり、これは現行の学習指導要領と変わりません。
 このことは、新しい学習指導要領の下での教科書でも配慮されることとされています。

Q7 新学習指導要領では、中学校で必修の英単語が100語になり、その中に名詞が一つも含まれていないことから、文章が作れなくなるとの指摘を聞いたのですが、本当でしょうか。

A 中学校3年間で学習する単語総数は900語程度で、現行1000語程度から100語減じました。これは学習する単語を繰り返し指導し、確実に身に付け、十分活用することができるようにするためです。
 新学習指導要領では、3年間で学習するこの単語総数900語に含める単語として100語を指定しています。現行は、名詞、動詞や形容詞までも含めて507語を指定していますが、新学習指導要領は単語の指定の仕方が現行と異なり、代名詞や前置詞など文を構成する上で真に必要な基本的な語100語に限定し、指定しています。これは、新学習指導要領では、実践的コミュニケーション能力の育成を一層重視しており、各学校が創意工夫して実際の使用場面を想定した指導を行うことができるよう、名詞や動詞を一律に決めないこととしたためです。
 このように実際の使用場面を想定し、日常的によく使用する実用的な単語を用いて、自然な英語を繰り返し指導することによって、より自然な文章が作れるようになります。

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初等中等教育局教育課程課

-- 登録:平成21年以前 --