盲学校、聾学校及び養護学校幼稚部教育要領(平成11年3月)

目次

第1章 総則
 1 幼稚部における教育の基本
 2 幼稚部における教育の目標
 3 教育課程の編成

第2章 ねらい及び内容
 健康、人間関係、環境、言葉及び表現
 自立活動

第3章 指導計画作成上の留意事項

第1章 総則

1 幼稚部における教育の基本

 幼稚部における教育は、学校教育法第71条に規定する目的を達成するため、幼児期の特性を踏まえ、環境を通して行うものであることを基本とする。
 このため、教師は幼児との信頼関係を十分に築き、幼児と共によりよい教育環境を創造するように努めるものとする。これらを踏まえ、次に示す事項を重視して教育を行わなければならない。
(1)幼児は安定した情緒の下で自己を十分に発揮することにより発達に必要な体験を得ていくものであることを考慮して、幼児の主体的な活動を促し、幼児期にふさわしい生活が展開されるようにすること。
(2)幼児の自発的な活動としての遊びは、心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であることを考慮して、遊びを通しての指導を中心として第2章に示すねらいが総合的に達成されるようにすること。
(3)幼児の発達は、心身の諸側面が相互に関連し合い、多様な経過をたどって成し遂げられていくものであること、また、幼児の生活経験がそれぞれ異なることなどを考慮して、幼児一人一人の特性に応じ、発達の課題に即した指導を行うようにすること。

 その際、幼児の主体的な活動が確保されるよう幼児一人一人の行動の理解と予想に基づき、計画的に環境を構成しなければならない。この場合において、教師は、幼児と人やものとのかかわりが重要であることを踏まえ、物的・空間的環境を構成しなければならない。また、教師は、幼児一人一人の活動の場面に応じて、様々な役割を果たし、その活動を豊かにしなければならない。

2 幼稚部における教育の目標

 幼児期における教育は、家庭との連携を図りながら、生涯にわたる人間形成の基礎を培うために大切なものであり、幼稚部では、幼児の障害の状態や発達の程度を考慮し、幼稚部における教育の基本に基づいて展開される学校生活を通して、生きる力の基礎を育成するよう次の目標の達成に努めなければならない。
(1)幼稚園教育要領第1章の2に掲げる幼稚園教育の目標
(2)障害に基づく種々の困難を改善・克服するために必要な態度や習慣などを育て、心身の調和的発達の基盤を培うようにすること。

3 教育課程の編成

 各学校においては、法令並びにこの盲学校、聾学校及び養護学校幼稚部教育要領の示すところに従い、創意工夫を生かし、幼児の障害の状態や発達の程度及び学校や地域の実態に即応した適切な教育課程を編成するものとする。
(1)幼稚部における生活の全体を通して第2章に示すねらいが総合的に達成されるよう、教育期間や幼児の生活経験や発達の過程などを考慮して具体的なねらいと内容を組織しなければならないこと。この場合においては、特に、自我が芽生え、他者の存在を意識し、自己を抑制しようとする気持ちが生まれる幼児期の発達の特性を踏まえ、入学から幼稚部修了に至るまでの長期的な視野をもって充実した生活が展開できるように配慮しなければならないこと。
(2)幼稚部の毎学年の教育週数は、39週を標準とし、幼児の障害の状態等を考慮して適切に定めること。
(3)幼稚部の1日の教育時間は、4時間を標準とすること。ただし、幼児の障害の状態や発達の程度、季節等に適切に配慮すること。

第2章 ねらい及び内容

 この章に示すねらいは幼稚部修了までに育つことが期待される生きる力の基礎となる心情、意欲、態度などであり、内容はねらいを達成するために指導する事項である。これらを幼児の発達の側面から、心身の健康に関する領域「健康」、人とのかかわりに関する領域「人間関係」、身近な環境とのかかわりに関する領域「環境」、言葉の獲得に関する領域「言葉」及び感性と表現に関する領域「表現」として、また、幼児の障害に対応する側面から、その状態の改善・克服に関する領域「自立活動」としてまとめ、示したものである。
 各領域に示すねらいは幼稚部における生活の全体を通じ、幼児が様々な体験を積み重ねる中で相互に関連をもちながら次第に達成に向かうものであること、内容は幼児が環境にかかわって展開する具体的な活動を通して総合的に指導されるものであることに留意しなければならない。ただし、自立活動については、個々の幼児の障害の状態や発達の程度等に応じて、他の各領域に示す内容との緊密な関連を図りながら、自立活動の内容に重点を置いた指導を行うことについて配慮する必要がある。
 なお、特に必要な場合には、各領域に示すねらいの趣旨に基づいて適切な、具体的な内容を工夫し、それを加えても差し支えないが、その場合には、それが幼稚部における教育の基本を逸脱しないよう慎重に配慮する必要がある。

健康、人間関係、環境、言葉及び表現

 ねらい、内容及び内容の取扱いについては、幼稚園教育要領第2章に示すものに準ずるものとするが、指導に当たっては、幼児の障害の状態等に十分配慮するものとする。

自立活動

1 ねらい

 個々の幼児が自立を目指し、障害に基づく種々の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う。

2 内容

(1)健康の保持

 ア 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること。
 イ 病気の状態の理解と生活管理に関すること。
 ウ 損傷の状態の理解と養護に関すること。
 エ 健康状態の維持・改善に関すること。

(2)心理的な安定

 ア 情緒の安定に関すること。
 イ 対人関係の形成の基礎に関すること。
 ウ 状況の変化への適切な対応に関すること。
 エ 障害に基づく種々の困難を改善・克服する意欲の向上に関すること。

(3)環境の把握

 ア 保有する感覚の活用に関すること。
 イ 感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。
 ウ 感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握に関すること。
 エ 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。

(4)身体の動き

 ア 姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。
 イ 姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること。
 ウ 日常生活に必要な基本動作に関すること。
 エ 身体の移動能力に関すること。
 オ 作業の円滑な遂行に関すること。

(5)コミュニケーション

 ア コミュニケーションの基礎的能力に関すること。
 イ 言語の受容と表出に関すること。
 ウ 言語の形成と活用に関すること。
 エ コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。
 オ 状況に応じたコミュニケーションに関すること。

3 内容の取扱い

 自立活動の指導に当たっては、個々の幼児の障害の状態や発達の程度等の的確な把握に基づき、指導のねらい及び指導内容を明確にし、個別の指導計画を作成するものとする。その際、2に示す内容の中からそれぞれに必要とする項目を選定し、それらを相互に関連付け、次の事項に配慮して、具体的に指導内容を設定するものとする。
(1)個々の幼児について、長期的及び短期的な指導のねらいに基づき、必要な指導内容を段階的に取り上げること。
(2)幼児が興味をもって主体的に取り組み、成就感を味わうことができるような指導内容を取り上げること。
(3)個々の幼児の発達の進んでいる側面を更に伸ばすことによって、遅れている側面を補うことができるような指導内容も取り上げること。

第3章 指導計画作成上の留意事項

 幼稚部における教育は、幼児が自ら意欲をもって環境とかかわることによりつくり出される具体的な活動を通して、その目標の達成を図るものである。
 学校においてはこのことを踏まえ、幼児期にふさわしい生活が展開され、適切な指導が行われるよう、次の事項に留意して調和のとれた組織的、発展的な指導計画を作成し、幼児の活動に沿った柔軟な指導を行わなければならない。

1 一般的な留意事項

(1)指導計画は、幼児の発達に即して一人一人の幼児が幼児期にふさわしい生活を展開し、必要な体験を得られるようにするために、具体的に作成すること。
(2)指導計画作成に当たっては、次に示すところにより、具体的なねらい及び内容を明確に設定し、適切な環境を構成することなどにより活動が選択・展開されるようにすること。
 ア 具体的なねらい及び内容は、幼稚部の生活における幼児の発達の過程を見通し、幼児の生活の連続性、季節の変化などを考慮して、幼児の障害の状態、発達の程度、興味や関心などに応じて設定すること。
 イ 環境は具体的なねらいを達成するために適切なものとなるように構成し、幼児が自らその環境にかかわることにより様々な活動を展開しつつ必要な体験を得られるようにすること。その際、幼児の生活する姿や発想を大切にし、常にその環境が適切なものとなるようにすること。
 ウ 幼児の行う具体的な活動は、生活の流れの中で様々に変化するものであることに留意し、幼児が望ましい方向に向かって自ら活動を展開していくことができるよう必要な援助をすること。
 その際、幼児の実態及び幼児を取り巻く状況の変化などに即して指導の過程についての反省や評価を適切に行い、常に指導計画の改善を図ること。
(3)自立活動の指導に当たっては、次の事項に配慮すること。
 ア 各領域におけるねらい及び内容と密接な関連を保つように指導内容の設定を工夫し、組織的、計画的に指導が行われるようにすること。
 イ 自立活動の時間を設けて指導する場合は、専門的な知識や技能を有する教師を中心として、全教師の協力の下に効果的に行われるようにすること。
 ウ 幼児の障害の状態により、必要に応じて、専門の医師及びその他の専門家の指導・助言を求めるなどして、適切な指導ができるようにすること。
(4)幼児の生活は、入学当初の一人一人の遊びや教師との触れ合いを通して学校生活に親しみ、安定していく時期から、やがて友達同士で目的をもって学校生活を展開し、深めていく時期などに至るまでの過程を様々に経ながら広げられていくものであることを考慮し、活動がそれぞれの時期にふさわしく展開されるようにすること。特に、3歳児の入学については、家庭との連携を緊密にし、生活のリズムや安全面に十分配慮すること。
(5)長期的に発達を見通した年、学期、月などにわたる指導計画やこれとの関連を保ちながらより具体的な幼児の生活に即した週、日などの指導計画を作成し、適切な指導が行われるようにすること。特に、週、日などの指導計画については、幼児の障害の状態や生活のリズム、幼児を取り巻く環境等に配慮し、幼児の意識や興味の連続性のある活動が相互に関連して幼稚部における生活の自然な流れの中に組み込まれるようにすること。
(6)幼児の行う活動は、個人、グループ、学級全体などで多様に展開されるものであるが、いずれの場合にも、学校全体の教師による協力体制をつくりながら、一人一人の幼児が興味や欲求を十分に満足させるよう適切な援助を行うようにすること。
(7)幼児の主体的な活動を促すためには、教師が多様なかかわりをもつことが重要であることを踏まえ、教師は、理解者、共同作業者など様々な役割を果たし、幼児の発達に必要な豊かな体験が得られるよう、活動の場面に応じて、適切な指導を行うようにすること。
(8)幼児の生活は、家庭を基盤として地域社会を通じて次第に広がりをもつものであることに留意し、家庭との連携を十分に図るなど、学校生活が家庭や地域社会と連続性を保ちつつ展開されるようにすること。その際、地域の自然、人材、行事や公共施設などを積極的に活用し、幼児が豊かな生活体験を得られるように工夫すること。
(9)各学校においては、幼稚部における教育が、小学部以降の生活や学習の基盤の育成につながることに配慮し、幼児期にふさわしい生活を通して、創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を培うようにすること。
(10)幼児の経験を広めて積極的な態度を養い、社会性や豊かな人間性をはぐくむために、学校生活全体を通じて、幼稚園の幼児及び地域の人々などと活動を共にする機会を積極的に設けるようにすること。
(11)学校医等との連絡を密にし、幼児の障害の状態に応じた保健及び安全に十分留意すること。
(12)児童福祉施設及び医療機関等との連携を密にし、指導の効果をあげるよう努めること。

2 特に留意する事項

(1)安全に関する指導に当たっては、情緒の安定を図り、遊びを通して状況に応じて機敏に自分の体を動かすことができるようにするとともに、危険な場所や事物などが分かり、安全についての理解を深めるようにすること。また、交通安全の習慣を身に付けるようにするとともに、災害時に適切な行動がとれるようにするための訓練なども行うようにすること。
(2)行事の指導に当たっては、幼稚部における生活の自然な流れの中で生活に変化や潤いを与え、幼児が主体的に楽しく活動できるようにすること。なお、それぞれの行事についてはその教育的価値を十分検討し、適切なものを精選し、幼児の負担にならないようにすること。
(3)知的発達に遅れのある幼児の指導に当たっては、その障害の状態等に応じて具体的な内容の設定を工夫すること。
(4)障害を併せ有する幼児の指導に当たっては、専門機関等との連携に特に配慮し、全人的な発達を促すようにすること。また、個々の幼児の実態を的確に把握し、個別の指導計画を作成すること。
(5)幼稚部の運営に当たっては、地域の実態や家庭の要請等により、障害のある乳幼児やその保護者に対して早期からの教育相談を行うなど、各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めること。
(6)以上のほか、次の事項に留意すること。
 ア 盲学校においては、幼児が聴覚、触覚及び保有する視覚などを十分に活用して周囲の状況を把握し、活発な活動が展開できるようにすること。また、身の回りの具体的な事物・事象や動作と言葉とを結び付けて基礎的な概念の形成を図るようにすること。
 イ 聾学校においては、早期からの教育相談との関連を図り、保有する聴覚などを十分に活用して言葉の習得と概念の形成を図る指導を進めること。また、言葉を用いて人とのかかわりを深めたり、日常生活に必要な知識を広げたりする態度を育てること。
 ウ 知的障害者を教育する養護学校においては、幼児の活動内容や環境の設定を創意工夫し、活動への意欲を高めて、発達を促すようにすること。また、ゆとりをもって活動に取り組めるように配慮するとともに、周囲の状況に応じて安全に行動できるようにすること。
 エ 肢体不自由者を教育する養護学校においては、幼児の身体の動きや健康の状態等に応じ、可能な限り体験的な活動を通して経験を広めるようにすること。また、幼児が興味や関心をもって、進んで身体を動かそうとするような環境を創意工夫すること。
 オ 病弱者を教育する養護学校においては、幼児の病気の状態等を十分に考慮し、負担過重にならない範囲で、様々な活動が展開できるようにすること。また、健康状態の維持・改善に必要な生活習慣を身に付けることができるようにすること。

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初等中等教育局教育課程課

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