第2章 普通教育に関する各教科 第3節 公民

第1款 目標

 広い視野に立って、現代の社会について主体的に考察させ、理解を深めさせるとともに、人間としての在り方生き方についての自覚を育て、民主的、平和的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養う。

第2款 各科目

第1 現代社会

1 目標

 人間の尊重と科学的な探究の精神に基づいて、広い視野に立って、現代の社会と人間についての理解を深めさせ、現代社会の基本的な問題について主体的に考え公正に判断するとともに自ら人間としての在り方生き方について考える力の基礎を養い、良識ある公民として必要な能力と態度を育てる。

2 内容

(1)現代に生きる私たちの課題

 現代社会の諸問題について自己とのかかわりに着目して課題を設け、倫理、社会、文化、政治、経済など様々な観点から追究する学習を通して、現代社会に対する関心を高め、いかに生きるかを主体的に考えることの大切さを自覚させる。

(2)現代の社会と人間としての在り方生き方

 現代社会について多様な角度から理解させるとともに、青年期の意義、経済活動の在り方、政治参加、民主社会の倫理、国際社会における日本の果たすべき役割などについて自己とのかかわりに着目して考えさせる。

 ア 現代の社会生活と青年
 大衆化、少子高齢化、高度情報化、国際化など現代社会の特質と社会生活の変化について理解させる。また、生涯における青年期の意義と自己形成の課題について考えさせるとともに、自己実現と職業生活、社会参加に触れながら、現代社会における青年の生き方について自覚を深めさせる。

 イ 現代の経済社会と経済活動の在り方
 現代の経済社会における技術革新と産業構造の変化、企業の働き、公的部門の役割と租税、金融機関の働き、雇用と労働問題、公害の防止と環境保全について理解させるとともに、個人と企業の経済活動における社会的責任について考えさせる。

 ウ 現代の民主政治と民主社会の倫理
 基本的人権の保障と法の支配、国民主権と議会制民主主義、平和主義と我が国の安全について理解を深めさせ、日本国憲法の基本的原則について国民生活とのかかわりから認識を深めさせるとともに、世論形成と政治参加の意義について理解させ、民主政治における個人と国家について考えさせる。また、生命の尊重、自由・権利と責任・義務、人間の尊厳と平等、法と規範などについて考えさせ、民主社会において自ら生きる倫理について自覚を深めさせる。

 エ 国際社会の動向と日本の果たすべき役割
 世界の主な国の政治や経済の動向に触れながら、人権、国家主権、領土に関する国際法の意義、人種・民族問題、核兵器と軍縮問題、我が国の安全保障と防衛、資本主義経済と社会主義経済の変容、貿易の拡大と経済摩擦、南北問題について理解させ、国際平和や国際協力の必要性及び国際組織の役割について認識させるとともに、国際社会における日本の果たすべき役割及び日本人の生き方について考えさせる。

3 内容の取扱い

(1)内容の全体にわたって、次の事項に配慮するものとする。

 ア 中学校社会科及び道徳並びに公民科に属する他の科目、地理歴史科、家庭科及び特別活動などとの関連を図るとともに、項目相互の関連に留意しながら、全体としてのまとまりを工夫し、特定の事項だけに偏らないようにすること。

 イ 社会的事象は相互に関連し合っていることに留意し、社会的事象に対する関心をもって多様な角度から考えさせるとともに、できるだけ総合的にとらえることができるようにすること。また、生徒が自己の生き方にかかわって主体的に考えるよう学習指導の展開を工夫すること。

 ウ 1の目標に即して基本的な事項・事柄を精選して指導内容を構成するものとし、細かな事象や高度な事項・事柄には深入りしないこと。

 エ 的確な資料に基づいて、社会的事象に対する客観的かつ公正なものの見方や考え方を育成するとともに、学び方の習得を図ること。その際、統計などの資料の見方やその意味、情報の検索や処理の仕方、簡単な社会調査の方法などについて指導するよう留意すること。また、学習の過程で考えたことや学習の成果を適切に表現させるよう留意すること。

 オ 政治及び宗教に関する事項の取扱いについては、教育基本法第8条及び第9条の規定に基づき、適切に行うこと。

(2)内容の取扱いに当たっては、次の事項に配慮するものとする。

 ア 内容の(1)については、次の事項に留意すること。
 (ア)内容の(1)は、この科目の導入としての性格をもつものであることに留意し、課題を追究する学習に当たっては、高度な内容に深入りすることは避け、この科目の学習の動機付けや学び方の習得に重点を置いた工夫を行うこと。
 (イ)現代社会の諸問題については、地球環境問題、資源・エネルギー問題、科学技術の発達と生命の問題、日常生活と宗教や芸術とのかかわり、豊かな生活と福祉社会などから、地域や学校、生徒の実態に応じて、二つ程度を選択して取り上げ主体的に課題を追究させるよう工夫すること。

 イ 内容の(2)については、次の事項に留意すること。
 (ア)アの大衆化、少子高齢化、高度情報化、国際化については、これらのうちから生徒の実態等に応じて二つ程度を選択して学習させること。生涯における青年期の意義と自己形成の課題については、生涯にわたる学習の意義についても考えさせること。また、職業生活、社会参加については、男女が対等な構成員であることに留意して触れること。現代社会における青年の生き方については、日本の生活文化や伝統とのかかわりについても考えさせること。
 (イ)ウについては、地方自治にも触れながら政治と生活との関連について認識を深めさせること。また、民主社会において自ら生きる倫理については、個人と個人、個人と社会との関係に着目して考えさせること。
 (ウ)エについては、制度や機構に関する細かな事柄の学習にならないようにすること。

第2 倫理

1 目標

 人間尊重の精神に基づいて、青年期における自己形成と人間としての在り方生き方について理解と思索を深めさせるとともに、人格の形成に努める実践的意欲を高め、生きる主体としての自己の確立を促し、良識ある公民として必要な能力と態度を育てる。

2 内容

(1)青年期の課題と人間としての在り方生き方

 自己の生きる課題とのかかわりにおいて、青年期の意義と課題を理解させるとともに、先哲の基本的な考え方を手掛かりとして、人間の存在や価値について思索を深めさせる。

 ア 青年期の課題と自己形成
 自らの体験や悩みを振り返ることを通して、青年期の意義と課題を理解させ、豊かな自己形成に向けて、他者と共に生きる自己の生き方について考えさせる。

 イ 人間としての自覚
 人生における哲学、宗教、芸術のもつ意義などについて理解させ、人間の存在や価値にかかわる基本的な課題を探究させることを通して、人間としての在り方生き方について考えを深めさせる。

 ウ 国際社会に生きる日本人としての自覚
 日本人にみられる人間観、自然観、宗教観などの特質について、我が国の風土や伝統、外来思想の受容に触れながら、自己とのかかわりにおいて理解させ、国際社会に生きる主体性のある日本人としての在り方生き方について自覚を深めさせる。

(2)現代と倫理

 現代に生きる人間の倫理的な課題について思索を深めさせ、自己の生き方の確立を促すとともに、よりよい国家・社会を形成し、国際社会に主体的に貢献しようとする人間としての在り方生き方について自覚を深めさせる。

 ア 現代の特質と倫理的課題
 現代の倫理的課題を大局的にとらえさせ、今日に生きる人間の課題について理解させる。

 イ 現代に生きる人間の倫理
 人間の尊厳と生命への畏(い)敬、自然や科学技術と人間とのかかわり、民主社会における人間の在り方、社会参加と奉仕、自己実現と幸福などについて、倫理的な見方や考え方を身に付けさせ、他者と共に生きる自己の生き方にかかわる課題として考えを深めさせる。

 ウ 現代の諸課題と倫理
 生命、環境、家族・地域社会、情報社会、世界の様々な文化の理解、人類の福祉のそれぞれにおける倫理的課題を、自己の課題とつなげて追究させ、現代に生きる人間としての在り方生き方について自覚を深めさせる。

3 内容の取扱い

(1)内容の全体にわたって、次の事項に配慮するものとする。

 ア 中学校社会科及び道徳並びに公民科に属する他の科目、地理歴史科及び特別活動などとの関連を図るとともに、全体としてのまとまりを工夫し、特定の事項だけに偏らないようにすること。

 イ 先哲の基本的な考え方を取り上げるに当たっては、内容と関連が深く生徒の発達や学習段階に適した代表的な先哲の言説等を精選し、細かな事柄や高度な事項・事柄には深入りしないこと。また、生徒自らが人生観、世界観を確立するための手掛かりを得させるよう様々な工夫を行うこと。

 ウ 政治及び宗教に関する事項の取扱いについては、教育基本法第8条及び第9条の規定に基づき、適切に行うこと。

(2)内容の取扱いに当たっては、次の事項に配慮するものとする。

 ア 内容の(1)については、次の事項に留意すること。
 (ア)アについては、この科目の導入としての性格をもつものであることに留意し、生徒自身の課題とかかわらせて考えさせ、以後の学習への意欲を喚起すること。
 (イ)イについては、ギリシアの思想、キリスト教、仏教、儒教などの基本的な考え方を代表する先哲の思想、芸術家とその作品を、観点を明確にして取り上げるなど工夫すること。
 (ウ)ウについては、古来の日本人の考え方や代表的な日本の先哲の思想を手掛かりにして、自己の課題として学習させること。

 イ 内容の(2)については、次の事項に留意すること。
 (ア)アについては、イ及びウへの導入として、現代の倫理的課題について概観し、問題意識をもたせる程度にとどめること。
 (イ)イについては、倫理的な見方や考え方を身に付けさせ、自己の課題として考えを深めていく主体的な学習への意欲を喚起すること。
 (ウ)ウについては、イの学習を基礎として、学校や生徒の実態等に応じて課題を選択し、主体的に追究する学習を行うよう工夫すること。その際、生命又は環境のいずれか、家族・地域社会又は情報社会のいずれか、世界の様々な文化の理解又は人類の福祉のいずれかにおける倫理的課題をそれぞれ選択するものとする。

第3 政治・経済

1 目標

 広い視野に立って、民主主義の本質に関する理解を深めさせ、現代における政治、経済、国際関係などについて客観的に理解させるとともに、それらに関する諸課題について主体的に考察させ、公正な判断力を養い、良識ある公民として必要な能力と態度を育てる。

2 内容

(1)現代の政治

 現代の日本の政治及び国際政治の動向について関心を高め、基本的人権と議会制民主主義を尊重し擁護することの意義を理解させるとともに、民主政治の本質について探究させ、政治についての基本的な見方や考え方を身に付けさせる。

 ア 民主政治の基本原理と日本国憲法
 日本国憲法の基本的性格と国会、内閣、裁判所などの政治機構を概観し、政治と法の機能、人権保障と法の支配、権利と義務の関係、議会制民主主義について理解させ、民主政治の本質や現代政治の特質について探究させるとともに、政党政治や選挙などに着目して、望ましい政治の在り方及び主権者としての参政の在り方について考察させる。

 イ 現代の国際政治
 国際政治の動向、人権、国家主権、領土などに関する国際法の意義、国際連合をはじめとする国際機構の役割、我が国の防衛を含む安全保障の問題について理解させ、国際政治の特質や国際紛争の諸要因について探究させるとともに、国際平和と人類の福祉に寄与する日本の役割について考察させる。

(2)現代の経済

 現代の日本経済及び世界経済の動向について関心を高め、日本経済の国際化をはじめとする経済生活の変化、現代経済の機能について理解させるとともに、その特質を探究させ、経済についての基本的な見方や考え方を身に付けさせる。

 ア 経済社会の変容と現代経済の仕組み
 資本主義経済及び社会主義経済の変容、国民経済における家計、企業、政府の役割、市場経済の機能と限界、物価の動き、経済成長と景気変動、財政の仕組みと働き及び租税の意義と役割、資金の循環と金融機関の働きについて理解させ、現代経済の特質について探究させるとともに、経済活動の在り方と福祉の向上との関連を考察させる。

 イ 国民経済と国際経済
 貿易の意義と国際収支の現状、為替相場の仕組み、国際協調の必要性や国際経済機関の役割について理解させ、国際経済の特質について探究させるとともに、国際経済における日本の役割について考察させる。

(3)現代社会の諸課題

 政治や経済に関する基本的な理解を踏まえ、現代の政治や経済の諸課題を追究する学習を行い、望ましい解決の在り方について考察させる。

 ア 現代日本の政治や経済の諸課題
 大きな政府と小さな政府、少子高齢社会と社会保障、住民生活と地方自治、情報化の進展と市民生活、労使関係と労働市場、産業構造の変化と中小企業、消費者問題と消費者保護、公害防止と環境保全、農業と食料問題などについて、政治と経済とを関連させて考察させる。

 イ 国際社会の政治や経済の諸課題
 地球環境問題、核兵器と軍縮、国際経済格差の是正と国際協力、経済摩擦と外交、人種・民族問題、国際社会における日本の立場と役割などについて、政治と経済とを関連させて考察させる。

3 内容の取扱い

(1)内容の全体にわたって、次の事項に配慮するものとする。

 ア 中学校社会科、公民科に属する他の科目、地理歴史科及び家庭科などとの関連を図るとともに、全体としてのまとまりを工夫し、特定の事項だけに偏らないようにすること。

 イ 1の目標に即して基本的な事項・事柄を精選して指導内容を構成するものとし、細かな事象や高度な事項・事柄には深入りしないこと。また、客観的な資料と関連させて政治や経済の諸課題を考察させるとともに、政治や経済についての公正かつ客観的な見方や考え方を深めさせること。

 ウ 政治や経済について考察した過程や結果について適切に表現する能力と態度を育てるようにすること。

 エ 内容と関連のある現代の諸問題や時事的事象の取扱いについては、教育基本法第8条の規定に基づき、適切に行うこと。

(2)内容の取扱いに当たっては、次の事項に配慮すること。

 ア 内容の(1)のアの民主政治の本質については、世界の主な政治体制と関連させて扱うこと。また、現代政治の特質については、世論形成などについて具体的事例を取り上げて扱い、主権者としての政治に対する関心を高めることに留意すること。

 イ 内容の(2)のアについては、マクロ経済の観点を中心に扱うこと。

 ウ 内容の(3)については、この科目のまとめとしての性格をもつものであることに留意し、内容の(1)及び(2)で学習した成果を生かし、地域や学校、生徒の実態等に応じて、ア及びイのそれぞれにおいて課題を選択して追究させること。その際、政治や経済の基本的な概念や理論の理解の上に立って、事実に基づいて多様な角度から考察し、理論と現実との相互関連を理解させること。

第3款 各科目にわたる内容の取扱い

1 各科目の指導に当たっては、情報を主体的に活用する学習活動を重視するとともに、作業的、体験的な学習を取り入れるよう配慮するものとする。そのため、各種の統計、年鑑、白書、新聞、読み物その他の資料に親しみ、活用すること、観察、見学及び調査・研究したことを発表したり報告書にまとめたりすることなど様々な学習活動を取り入れるとともに、コンピュータや情報通信ネットワークなどを活用して学習の効果を高めるよう工夫するものとする。

2 各科目の内容の取扱いのうち内容の範囲や程度等を示す事項は、当該科目を履修するすべての生徒に対して指導するものとする内容の範囲や程度等を示したものであり、学校において必要がある場合には、この事項にかかわらず指導することができること。

お問合せ先

初等中等教育局教育課程課

-- 登録:平成21年以前 --