コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)

平成19年度コミュニティ・スクール推進フォーラム事例発表(京都市立新町小学校)

学校名 京都市立新町小学校
所在地 京都市上京区中立売通室町西入三丁町457
電話番号 075-432-4190

1.なぜ「学校運営協議会」制度を導入したのか。(個別の事情等)

 子どもたちを取り巻く環境は,年々厳しくなっており,少子化・核家族化・情報化,地域コミュニイティの弱体化といった社会の変化のもとで,学ぶ意欲の低下,人間関係の稀薄化や自然・社会体験の不足,親子関係の崩壊など様々な課題が生じてきている。
 さらに,子どもたちを取り巻く大人たちの意識も,価値観が多様化するなど,大きな変化を迎えている。このような変化の厳しい社会の中で,21世紀をたくましく生きる力を子どもたちに育て,様々な課題を解決することは学校教育のみでは限界が出てきている。教育は,未来の担い手を育む学校・家庭・地域の協働の営みであると言われている。学習習慣をはじめとする基本的生活習慣を育てる家庭と,社会的ルールの基礎を学ぶ地域,そして学校の役割と取組が相まってこそ,確かな学力・豊かな心・健やかな体を育む教育を実現できると考えている。
 このような思いを大切にして,本校は,平成17年度より文部科学省より「コミュニティ・スクール推進事業調査研究校」の指定を受けてきた。学校・家庭・地域がそれぞれの果たすべき役割を明確にしながら,学校が地域を高め,地域が学校を高める双方向の信頼関係を深める,いわゆる「地域ぐるみの新しい学校づくり」を進めるために,本校は「学校運営協議会」の設立をめざした。
 この設立に当たって,PTAの役員,各地域の団体の代表,教職員の代表で,「どんな子どもに育てたいか」「もっと教育内容や活動を充実させたい」「地域を活性化させたい」「そのための取組は何か」と話し合いがはじまった。その中で,学校教育に地域の人力や知恵を導入できれば,さらなる学校教育活動の促進と一人ひとりの子どもを徹底的に大切にする教育の充実が得られる。そして,また,学校を中心として,地域の住民同士の連帯や地域のさらなる教育力の向上につながり,それが学校が地域を活性化したり,地域が学校を活性化したりするのではないかと,学校・家庭・地域が繰り返し話し合いを積み重ね,「学校運営協議会」のビジョンや構想が出来上がった。

2.自校のコミュニティスクールの特色

(ここが他校とは違う点,ここは汎用性がある点等)
 「学校は,子どもに生きる力を育てていますか。」と問われれば,本校は何と答えればよいだろうか。
 本校では,「どんな子どもを育てるのか」「どんな力をつけていくのか」「そのための適切な取組は何か」という視点から,学校運営協議会理事会をもとに,次の7つの「企画推進委員会」を設置している。
 「文化芸術」「校外活動」「学力向上」「国際理解」「人権福祉」「食育」「部活動」の7つの視点から「生きる力」の具現化を図り各企画推進委員会をたちあげてきた。各企画推進委員会は,理事会での学校運営協議会の構想をもとに,年間活動計画の作成や事業の計画,取組の実践など,それぞれの実情に応じて随時開催している。企画推進委員会を構成する委員やボランティアは,理事会が指名・推薦したり,地域に呼び掛けたりして募集している。一昨年は発足当時約100名,昨年は約120名の方々に参加していただいた。そして,本年度は,約140名もの方々に委員になっていただき,年々活動が充実してきている。さらに,全ての企画推進委員会には教職員も位置づけされて,一緒に活動している。
 学校運営協議会理事会と7つの企画推進委員会の取組は次のとおりである。

○学校運営協議会理事会
・学校運営協議会の意義や構想を明確にし,企画・立案する。
・各企画推進委員会の委員の指名,事業の承認や調整を行う。

○文化芸術企画推進委員会
・日本の文化・芸術にふれる活動を通して,豊かな人間性を培う。
・文化教室(お茶・お花・水彩画・将棋)を実施する。

○校外活動企画推進委員会
・校外活動を主に,集団活動や自然・社会体験を通し,豊かな人間性や社会的生活の能力を養う。(学校キャンプ,自然観察会,川遊び,魚とり等)
・学校運営協議会全ての構成員の交流と親睦を深め,組織力の向上をめざす。

○学力向上企画推進委員会
・学習環境の整備と,子どもの学びへの補助的活動を図る。(学びの支援,おもしろ理科実験教室,チャレンジ教室,図書整備等)

○人権福祉企画推進委員会
・児童とお年寄り,お年寄り同士の交流や福祉活動の充実を図る。児童の人権感覚の高揚を図る。(敬老のつどい,ふれあい給食試食,人権講演会等)

○国際理解企画推進委員会
・外国の言語や文化にふれ,それぞれの国の文化や歴史,また,よさや違いを理解する。(ALTの指導支援,日本語学校との交流学習の支援等)

○食育企画推進委員会
・「食育」等,生命や健康の尊さを認識する。
・野菜の栽培活動や料理の仕方やあり方等に関わり,「食」について学ぶ。(西賀茂農園での活動支援,料理や食に関する指導の支援等)

○部活動企画推進委員会
・音楽部,陸上部,バトン部の活動を支援する。(個別・集団技術指導等)

3.過去の課題と克服方法

 本校は,小川・中立・滋野の3学区が統合して創立11周年を迎えた学校である。それぞれの学校は,どの学校も明治2年に創立された歴史と伝統を誇り,長年地域の方々の学区のシンボルとして親しまれてきた。子どもの数が減少していく中,子どもたちの教育を第一義に考えられた地域の方々の英断によって統合し,新町小学校が誕生した。開校以来,新町小学校は,元学区というそれぞれの地域の特色を抱えて,三学区が寄り合って事業を仕組んだり取組んだりすることはうまれてこなかった。同じ新町小学校の子どもでありながら,旧3学区の行事に自由に参加できない状態が続いていた。「学区の垣根を低くできたら子どもたちは多くの友だちと一緒に楽しく参加できるだろう。」とか「地域住民同士が交流し連携を深めれば垣根は低くなるだろう。」という思いのもとに,学校が三学区を巻き込んで数々の行事を実施してきた。その一つの「学校キャンプ」は,学校運営協議会が発足する3年前に実施し,今年で6回目を数える。1回目は,旧3学区の代表者と学校とで何度も話し,紆余曲折もあったが,学校のリーダーシップの下で,実施することができた。2回目からは,1回目の経験が生かされ,回を重ねるごとに地域の方の参加も増え,充実した取組ができてきた。そして,学校運営協議会が発足してからは,校外活動企画推進委員会が中心となって学校キャンプの企画や運営を行ってきている。
 また,学校運営協議会が主催し12月と3月に「住民のつどい」を実施している。12月のつどいでは,地域の人々や学校運営協議会の委員をはじめ,保護者や教職員も参加して,もちつきをしたり,農園でとれたねぎや大根を使って,ねぎ焼きや大根炊きを作ったり,うどんや豚汁なども作ったりして,互いに交流し親睦を図っている。3月には,5年生の子どもたちが農園で収穫した「もち米」と大根を使って,赤飯と大根料理を作り,お世話になっている西賀茂の農家の方や地域の方をお招きして新町流の収穫祭を実施した。
 このようなことから住民同士に親しみが湧き,仲間意識や連帯感が生まれている。そして,学校行事や様々な取組に多数の地域の方が参加,協力して学校運営の充実がさらに図られている。
 これからの学校は,「生きる力を」子どもに培う役割を担っているものだが,その具現化に対し明確な回答はできずにいた。21世紀をたくましく生きる力の視点をそれぞれにもつ7つの企画推進委員会の活動に求め,それぞれに年間計画を立て,取組を実践していくように考えてきた。教職員も地域住民や保護者と一体となって取組を進め,今までの敷居の高い学校から地域住民の親しみやすい学校へと本校は姿を変えてきている。

4.コミュニティスクールによる成果と携わっているものとしての実感(手応え)

 今年で発足3年目をむかえ活動中であるが,保護者や地域の方々の熱意と努力の結果,年を追うごとに予想以上の成果を見ることができる。家庭・地域の人的支援を受け,学校教育の限界を越えてこれまでできなかった教育活動ができるようになった。教職員の力量不足や人的資源や時間的な問題などにより,不十分にしかできなかった活動が,家庭や地域の人材を得られたことで,可能になってきた。例えば,本校には立派なお茶席ができる和室があるが,学校運営協議会が設置されるまでは,ほとんど使われることがなかった。しかし,文化芸術企画推進委員会が中心となって「文化教室」ができた結果,子どもたちが茶道というこれまでできなかったことが体験できるようになった。また,地元の農家の方や食育企画推進委員会の方々の支援により遠くの農園に行くのに子どもたちが市バスに乗るのが可能になり,様々な作物の栽培活動を行うことができた。そして,収穫した野菜や米を使っての料理も学ぶことができた。このような活動を通して児童が「環境教育や人権教育」等,食べ物を育てることを通して自然の尊さや豊かな人間性を学ぶ機会を得ることができた。このような活動が評価され,平成18年11月,京都府教育委員会より「学校給食優良学校」,同12月,文部科学省から「全国学校給食優良校」に選ばれた。以前は,各学区だけだった取組が3つの学区を統一し,新町学区の取組にしようという動きが広まり,子どもたちと大人,大人同士の結び付きが強まり,信頼関係や互いに感謝する気持ちや連帯意識が芽生えてきている。そして,住民感情も閉鎖的なものから開放的なものへと少しずつ変化している。
 現在,以前にもまして住民同士が仲間意識をもって仲良く交流し,各学区の垣根がずいぶん低くなったという声を聞くようになった。3年目の今年は3つの学区が,新しく「新町学区」として生まれようとしているようにさえ感じる。最近は,保護者や地域の方々が気軽に学校に出入りされることも増え,以前にも増して学校教育に関心をもち,学校教育の重要性や子育ての大切さを改めて認識される方がずいぶん増え日頃の学校行事である参観日や運動会などにも地域の人々の姿が見られるようになった。
 このような学校と家庭と地域の結び付きの強まりは,互いに連帯意識が芽生え,学校が地域を活性化し,逆に地域が学校を活性化することにつなげることができたと考えている。
 この取組によって,わたくしたち教職員の意識改革も高まり,組織力の向上が図られていることも見逃せない成果である。また,地域住民に学校を愛する方々が年々増えてきていることは頼もしい限りである。

5.今後に向けて(検討課題,取組予定等)

 学校運営協議会も3年目をむかえ,さまざまな取組を展開してきたが,規模が徐々に膨らんできたりして,携わっていただいている方に連絡や,また,地域の方同士の連携が十分にとれていないことがある。そのため,取組が一時消極的になったこともあった。今後も本校に寄せられる地域住民や保護者の方々の期待に応え,その信頼をより確かなものにするためには,学校が中核となり,地域・家庭と手を携え,地域ぐるみの教育のさらなる推進を図ることが必要である。そのために,すみやかな学校と地域,地域同士の連携と連絡は非常に大切である。
 常に「これからの子どもたちの教育や地域の活性化のために何をしなければならないか。」を問い直し,学校がなすべきこと,地域や家庭がすべきこと,さらには協働してやらなければならないことを明らかにしていきたいと考えている。そして,新町教育は,これからも「たくまし生きる力」の具現化を求めながら,「地域ぐるみの学校運営」を目指していきたいと考えている。

-- 登録:平成23年11月 --