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実施報告書【まとめ】伊丹市教育委員会

平成19・20年度JSLカリキュラム実践支援事業実施報告書【まとめ】

実施団体名【伊丹市教育委員会】

2年間の取組内容及び成果と課題

1.具体の取組内容

【1】算数科におけるJSLカリキュラムの指導

 新渡日の外国人児童及び在留期間の長い児童等,学習言語の習得が不十分で日本語指導を必要とする児童への指導を行う。本校には,中国語を母語とする児童が,第5学年に2名・第3学年に1名・第2学年に1名・第1学年に1名在籍している。そこで,特に,算数科の授業において,日本語指導の側面からJSLカリキュラムを活用した授業を推進してきた。別室での取り出しによる個別指導や同室における複数指導での学習支援を行い,算数科への興味・関心を高め,学習内容の理解と定着を目指して指導を行ってきた。

【2】中国での経験を生かした実技指導員の招聘

 中国の大学及び神戸大学大学院において数学教育を専攻し数学科教員として中国の中学校で勤務経験のある講師(舒敏華さん)を実技指導員として招聘して取り組んだ。中国での指導法を踏まえた上で算数科の研究・実践を行うことで,対象児童の学力保障や学習意欲の向上を目指した。さらに,家庭で日本語を使用せず,中国語で生活をしている児童が多い中,日本での学校生活や家庭生活など日本の文化についても保護者へのきめ細かな指導を行ってきた。

【3】ワークショップの開催

 JSLワークショップを開催し,日本語指導の取組や状況を報告するとともに実践の重要性について研修した。さらに,大学から講師を招聘し,JSLカリキュラムについて広く周知を図った。

【4】各研修会参加

 日本語指導担当教員及び管理職が,文部科学省主催の「平成20年度外国人児童生徒等に対する日本語指導養成研修」や東京学芸大学JSLカリキュラム研修会等各種研修会に参加し,外国人児童生徒の受入れ体制の整備や,指導計画等についての知識をを深めた。

2.成果

【1】学習においては,「日本語で覚え,日本語で考え,日本語で表現する。」ことを基本理念において,指導してきた。
 日本語での学習が容易ではない児童にとって,その児童に応じた,いわゆる「個に応じた指導・支援」をすることで,児童の算数科における学習能力の定着と向上が図れた。このことが一番の成果である。しかしそれだけでなく,算数科以外の教科についても学習意欲や興味・関心が向上し,そのことで学力の向上や児童の自信にもつながってきたことが,さらなる成果としてあげられる。
 算数科における日本語指導,「数と計算」「図形」「量と測定」の領域では,低学年ではできる限り具体物を準備し,それを操作することにより学習内容の理解を促した。
 中学年・高学年においても,単元の学習内容に応じて,具体物や半具体物を用いたり,スモールステップの学習内容に変更し,児童の理解が深まるように学習計画や教材を工夫してきた。
 「文章題(数量関係)」は,日本語指導対象の児童にとっては,特に理解しにくい領域である。そこで,「文意を捉えて,正しくイメージ化する」力がつくように心がけた指導を継続的に行った。その結果,『逆思考の文章題』においても,ほぼ確実に文意を捉えて解く力がついてきたことは,大きな成果であった。
 さらに,同室の在籍学級でも「イメージ化の大切さ」と「図の描き方」を指導し,その技能を身につけた児童が増え,思考の深まりが集団として見られたことも,大きな成果であると考えられる。
 「JSLカリキュラムは,外国籍児童だけでなく,広く多くの児童にとっても有効である」ということを確認できた。

【2】中国から来た児童にとって言葉の壁・文化の違いがあり,日本での生活がきびしい状況にある。こうした中,学校生活,家庭生活,さらに,学力・進路に関する課題が山積しているという現状がある。日常生活においては日本語の習得も早く,生活言語には特に不自由はなく、クラスの子どもたちと変わらないこともある。しかし,学年が進行するにつれ,専門的な抽象度の高い学習言語になると理解不足になり抽象思考が未発達のまま過ごしてしまうことも多い。そこで,JSLカリキュラムを活用し,教科指導を進めることにより,中国籍の児童が日本語で学習に参加する力を育成できた。
 個々の児童に応じて作成したJSLカリキュラムに沿って,中国語も使用しながら実技指導を進めることが,学ぶ力を育てることにつながってきた。その結果,子どもたちが「楽しい」「おもしろい」と言って,意欲的に学習に取り組む姿が見られた。
 この他にも,放課後を活用して宿題について詳しく説明したり,学校から配布した文書を中国語に訳したりすることが家庭との連携強化につながり,児童の心の安定を図ることができた。
 さらに,子どもたちが,日本の教育を受けることで,考え方や習慣が保護者とずれることがあった場合や親子の間に精神的ギャップが生じたときなど,中国語での実技指導は,心のケアにもなり大きな効果が見られた。

【3】対象児童が在籍する学年において,生活科と総合的な学習の時間を用いて,「中国を知ろう」という学年集会を行った。学年の発達段階に応じた、掲示物・言葉(中国語のあいさつ等)・学校や遊びの様子の紹介・ビデオ鑑賞をとおして,自尊感情を育む人権教育の観点から指導を行った結果,対象児童だけでなく多くの児童の自尊感情を高める啓発活動にもつながった。

【4】現場で実際に児童生徒に日本語指導を行う教員等を対象として,日本語指導の基礎的な知識や技術の習得,JSLカリキュラムについての理解促進,母語と日本語のつながりについて認識を深めることを目的として,JSLワークショップを開催した。市内小・中・特別支援学校26校の国際理解教育担当教員,JSLカリキュラム実践事業実施対象校である伊丹市立池尻小学校全職員,その他県下各地から66名の参加を得た。
 実践発表では,学校(伊丹市立池尻小学校・姫路市立花田小学校)での取組状況や中国語の実技指導を行っている活動状況について報告した。
 また,東京学芸大学准教授臼井智美氏を講師として招聘し,演題「JSLカリキュラムについて」の講演会を実施した。さらに,八尾市立高美南小学校吉村美樹教諭の指導で,国語科単元「スイミー」のリライト教材作成などを行った。
 このワークショップは,初心者が多かったが,JSLカリキュラムについて理解を深めることができた。また,リライト教材作成を体験することで,言葉をよりわかりやすく伝える方法やより深い教材解釈が必要であることがわかった。加えて,個々の児童の実態に合わせた指導の展開や、わかりやすくかみ砕いた指導が大切であることを再確認した。

【5】各研修会に参加して,日本語指導に関する基礎的な知識を得て,理解を深めることにつながった。管理職研修では,日本語指導を推進する上での学校経営上の留意点や啓発の方法について理解を深めることができた。特に,全国的な取組状況や,就労のために渡日する外国人が増加傾向にある現状など,具体的な報告を受けた。
 日本語指導担当教員は,JSLカリキュラム実践支援事業連絡協議会や各種研修会への参加を通して、各学校の取組や授業実践事例研究を中心に発表し合うことで,多様な事例を自己の授業実践に生かすことができた。
 さらに,日本語指導推進上の日頃の悩みを話し合うことで,次への活力を得ることができた。

3.課題

【1】日本語指導の立場から

○JSLカリキュラム対象児童の個人カルテを作成し,各児童の「学びの軌跡」を記録して,担任が変わっても次の指導に活かせる体制づくりが必要である。

○取り出しによる個別学習の際,固定教室の使用が望ましかったが,諸事情により固定教室を確保することができなかった。固定教室があれば,学習用語・学習重要事項・学習で作った作品等の掲示や,対象児童以外の児童に対するJSLカリキュラムによる学習への啓発活動にも活用できると考えられる。

○各学級担任との打合わせの時間を計画的・定期的に設ける必要がある。指導内容については,共通理解を図りながら進めてきた。しかし,学級担任が在籍学級で使用する「言葉」と日本語指導による取り出し教室で使用する「言葉」の違いにより,児童の理解に支障が生じないようにすべきであると,先進校の実践から学んだ。

【2】実技指導者の人材確保

○日本語指導の効果を高めるために,対象児童の母語が話せる実技指導員の存在は大きい。外国人児童生徒の母語や母文化に対する理解を持ち,外国人児童生徒への日本語等の指導や国際理解教育、多文化共生教育等に関する知識,技能,意欲を持った指導者を養成し,確保することが急務である。

【3】日本語指導の実践と啓発

○増加傾向にある外国人児童生徒のニーズに対応した指導が十分でない場合,暴力行為やいじめ,不登校等生徒指導上の問題が生じることがある。言葉や行動様式の相違などから生じる諸問題を解決するためにも,日本語指導の実践と啓発は急務である。
 しかし,市内全小中学校にJSLカリキュラムによる指導法を周知・啓発するまでには至っていない。本校の実践をさらに市内に啓発していくことが,今後の日本語指導の進展につながると考える。

4.その他(今後の取組等)

 職員研修等を通じてJSLカリキュラムの考え方や利点を広く啓発するとともに,外国籍児童の学習指導・支援だけでなく,学級内の様々な児童に対する学習指導・支援の一つのツールとして,多くの教師が活用できるよう今後も普及と実践の蓄積に努めていきたい。

お問合せ先

総合教育政策局国際教育課

-- 登録:平成22年01月 --