3　海外の防犯対策事例

　海外における学校施設の防犯対策については、平成14年度に社団法人文教施設協会が文部科学省委託事業として「諸外国における学校施設の防犯対策等に関する調査研究」を実施している。
　ここでは、学校施設の防犯対策として上記調査を含め、本調査研究の研究協力者が現地調査した海外の事例の中から4つの事例を紹介する。

事例1　監視度を高める―G小学校　ロスアンジェルス〔アメリカ〕

　ロスアンジェルス市内の治安に不安のある地域に立つ小学校。道路に接する周囲を縦桟のフェンスで囲んでいる。学校への出入りは、道路に接する門から玄関ホールまでは10メートル程の、両側を同じ柵で挟まれたアプローチを通る。威圧感を和らげるため、上部はアーチ形となっている。この空間を通って玄関ホールに達すると、内部の窓から見られ、不審者でないことが確認された後、中からドアの鍵が開き内部に入るのを許される。建物により出入りを厳重に管理しようとすればここまで徹底する考え方もある。
　コミュニティスクールとして地域の人々を迎え入れる雰囲気づくりと施設面で防犯対策を徹底する方法や程度については、地域との共通理解・合意形成が必要とされるであろう。

アプローチ

玄関ホール

事例2　門と塀で守る―C高等学校　クラークカウンティ〔アメリカ〕

　アメリカのラスベガス近郊、広漠とした感じの地域に立つ高校。生徒は車で通学している。周囲には家がなく、独立して存在している学校の安全を確保し、安心感を生み出すため、中庭型の建物配置がとられた。クラスルーム棟、特別教室棟、音楽・劇場、体育館が周囲を囲み、その中心の全体を見渡せる位置に1階が管理諸室、2階が図書館の建物がある。各建物へは中庭から入り、その中庭への生徒及び来校者の出入りは、高さ4メートルほどの二重の柵が設けられたゲートから行う。ちょうど砦を思わせる。スタンド付きの400メートル陸上競技場兼フットボール場、サッカーコーナー、8面のテニスコートを含む広大な屋外運動場の周囲は目の細かいフェンスで外部および駐車場と仕切られている。その雰囲気をどう評価するかは別として、地域の目のない場で、侵入防止による防犯対策を徹底した例といえる。

エントランス

中庭へのゲート

安心感のある中庭

フェンスによる外周囲障

事例3　受付の徹底―C小学校　スプリングフィールド・オレゴン州〔アメリカ〕

　校内での事件をきっかけに学校と親と子が一緒になって学校安全について意識を高める活動に取り組んでいる。その取組の中でCPTED（防犯のための環境設計）の考えに基づいて施設が改修された。もともと中庭型の建物配置をとり、各教室の入口は中庭に面しているが、その中庭への出入り管理の徹底のため、登下校時の出入口の横にある事務室に大きな透明ガラスの開口とドアを設けた。それにより来校者を確認できるようにするとともに、来校者は事務室を通り抜けないと校内に入れない。事務室の受付で記帳しバッジをつけるが、そこはアットホームな雰囲気で、壁には一般来校者用とは区別して、PTAやボランティア用のバッジがメンバーズボードに用意され、各自で取れるようになっている。
　 不審者が侵入しようとした場合、スタッフのみにわかる非常放送を行い、外部に面する開口部は施錠することにしている。児童が登校後は、主要出入口の扉は外からは開かず、警察・消防が緊急時に入れないため、施錠システムを検討中であった。

事務室（左手）の透明ガラスによる開口部

来訪者バッジ（赤）とボランティアバッジ（緑）

事例4　人が守る―W小学校　ハンプシャー州〔イギリス〕

　イギリスは子どもの安全に対して親を含め大人の責任が厳しく問われる。当然学校の安全管理も厳しい。そのイギリスの郊外の小学校であるが、周囲は低い木の柵で、簡単な門には木戸がついているだけである。しかしこの柵のもつ意味は厳しい。来訪者は門を入ると真先に事務室の受付に行き、挨拶を交わし、記帳し、名札を受け取る。名札をつけないで柵の中、学校の領域にいる大人は厳しく問われることになる。同時に、外来者に対してウェルカムの雰囲気を保つことに配慮されている。受付のまわりには作品や学校の案内がカラフルに飾られ、アットホームな明るい雰囲気づくりが図られている。学校ではお母さんたちがボランティアとして活動しているが、みなオレンジ色の目立つ上着を身につけていた。多くの大人の目で守られているという安心感を持って子どもたちは学校生活を送っている。

木製の囲障（正面が入口と受付）

アットホームな雰囲気

事務室の受付

記名簿とビジターズパス