3.第30回南極観測実施責任者評議会(COMNAP)の概要

会議の概要

南極観測実施責任者評議会(COMNAP)は、南極条約体制のもとで、国家事業として南極観測を実施する機関の責任者の合同会議として、1988年に結成された。30か国で構成され、うち29か国(エクアドルが欠席)とオブザーバー国(カナダ、ポルトガル、マレーシア、スイス、トルコ)、オブザーバー機関の南極条約協議国会議(ATCM)、ATCM環境保護委員会(CEP)、南極科学委員会(SCAR)、国際南極観光業協会(IATTO)等が出席し、ドイツ・ガーミッシュ=パルテンキルヒェンにおいて、同国アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(AWI)がホストを務め、2018年6月11日~6月14日に開催された。参加者は200名を超え過去最大規模となった。日本からは、中村卓司(国立極地研究所所長)、橋田元(同研究所・南極観測センター・副センター長)、樋口和生(同研究所・南極観測センター・設営グループマネージャー)が参加した。


主なトピックス

1.総会

・定例議題として、前回(第29回年次総会)報告書の採択、議長報告、事務局報告、ATCM/CEP、SCAR報告等があった。COMNAP設立30周年を迎え、これまでの貢献に関してのいくつかの言及があった中で、特にニュージーランド地名委員会が、COMNAP前議長である極地研究所・白石和行名誉教授に因んで、ビクトリアランドのメテオライト・ヒルズの未命名峰を”Shiraishi Peak”と命名したことは、COMNAPとしても名誉あることであるとの報告があった。
・現在進められているプロジェクト等の報告が行われた。船舶及び航空機の現在地と航跡が確認できる新システム“COMNAP Asset Tracking System (CATS)”の有効性が確認されつつある。また、ATOMやAFIMなど各国のオペレーションに不可欠な、各種COMNAP データベースのアップデートを行うよう事務局から依頼がなされた。BASが中心となり作成された内陸トラバースルートマップが紹介された。
・Erik van Sebille(ユトレヒト大学)による“Our plastic ocean: sources, pathways and distribution of marine plastic litter around Antarctica”と題する招待講演が行われた。近年クローズアップされてきた海洋プラスチック問題をレビューし、南大洋のプラスチック量は少ないけれども、海鳥への影響は他地域よりも高いと考えられていることなど、最新の研究成果が紹介された。
・中期計画、2017/18決算、2018/19予算を承認した。
・Kelly Falkner(NSF Polar Program Director/米)が継続して議長を務める(3年任期の2年目)。任期を1年延長して副議長を務めていたRobb Wooding(AAD/豪)が退任し、このポストへの推薦を募った結果、Peter Beggs(Antarctic NZ/ニュージーランド)1名のみが推薦され、全会一致で承認された。Agnieszka Kruszewska (IBB PAS/ポーランド)、Uwe Nixdorf (AWI/独)、Javed Beg (NCAOR/印)、John Guldahl (NPI/ノルウェー)が引き続き副議長を務める。
・次回(第31回年次総会)は、ブルガリア南極研究所がホストし、2019年7月29日~8月1日にブルガリア・プロヴディフで開催される。
・その後の開催地として、2020年はSCAR総会と合わせて豪州・ホバートでの開催が決定済みである。2021年には日本が引き続き意志表明しており、他国からの招聘意志表明はなかった。2022年は、チリ、インド、トルコが意志表明を行ったが、SCAR総会との調整が必要である


2.地域別グループ分科会

・東南極分科会
日本、伊、豪、露、ベラルーシ、中、印、仏、英、独が参加し、2017/18シーズンの活動報告と2018/19シーズンの活動計画(船舶、航空機、基地活動、内陸トラバース等)の情報提供を行った。中国は昨シーズン内陸トラバースを実施しなかったが、今シーズンは実施予定であること、及び崑崙基地における天文観測計画の紹介があった。ロシアからは、ヴォストーク基地改修の設計がまもなく終了することと、昨シーズン、インドがチャーターするイヴァン・パパーニン号の座礁事故(プリッツ湾)に応じてロシア砕氷船が物資輸送支援を行った旨の報告があった。豪州は、新砕氷船の建造状況、マッコーリー基地の改修、ドームC周辺での深層掘削など多岐にわたる活動のほか、デービス基地近傍陸上滑走路を造成する計画の紹介があった。
・ドロンイングモードランド分科会
日本、中、ベルギー、フィンランド、独、英、印、南ア、ノルウェー、露、スウェーデンが出席し、2017/18シーズンの活動報告、2018/19シーズンのフライト・船舶運航予定、観測計画概要に関する情報提供と意見交換を行った。2017年11月にケープタウンで実施したSAR机上訓練の報告があり、継続して実施すべきとの意見が多数あった。2019年5月にクライストチャーチで実施されるCOMNAP SARワークショップにフィードバックを行うことを確認した。日本からは、異なる航空網、特に、DROMLANと豪州航空網が連携したSARについても検討すべきとの意見を出した。民間観光業社White Desertから、昨シーズンより観光客フライトの運用を始めたWolf fung滑走路での活動状況の説明があり、当該地域のフライト情報共有について意見交換が行われた。
・その他の地域会合のトピック
ロス海分科会では、中国がテラノヴァ湾のInexpressive Islandへの基地の建設準備に取りかかること、イタリアのマリオズッケリ基地近傍の陸上滑走路建設は順調に進んでいること、米国からドライバレーにおいてヘリコプターフライトが増加しており統合的な管制を検討中であることなどが報告された。南極半島分科会では、20か国による活動の情報共有や調整のためのタスクフォースを設置することとした。パトリオットヒルズ分科会では、夏期のフライト数が増加しており、基地長ミーティングを実施したとの報告があった。


3.専門家グループ分科会

・環境専門家グループ会合では、南極における化石燃料消費、プラスチック汚染、累積的影響の3つのトピックを議論した。化石燃料消費を抑制する取り組みとして、豪州ケーシー基地の事例を、UAEのクリーンエネルギー推進企業Masderに所属するMichel Abi Saabが“Promoting Energy Efficiency and Renewables: a public-private collaboration at Casey Station”と題する講演で紹介した。プラスチック汚染について、総会で招待講演を行ったErik van Sebilleを交えたパネルディスカッションを行った。外来種問題を始め、南極においても複合的かつ累積的影響が懸念されることから、“Death by a thousand cuts”を防ぐために、この分野における研究を進めるべきとの提言がなされた。
・安全専門家グループは、ハラスメントをテーマに、講義とグループディスカッションの2本立ての会合を行った。講義では、まず、フィールドキャンプでセクハラを受けた女子学生が、被害を訴えることによって自らのキャリアに傷がつくことを恐れて黙っていたが、博士号を取得し、キャリアの目処がたってから事実を明らかにした、という20年前の米国の事例を紹介した。その上で、2017年に起こった#MeToo運動に見られるように、20年前とは異なり、ハラスメント防止意識やトレーニング方法の向上など、文化、法律、政治の変化などによって、ハラスメントを訴えやすい機運が盛り上がっていること、一方で、米国インターネット世論調査では、女性の81%、男性の43%がセクハラを経験している状況が紹介された。その後、全体を4つのグループに分けて、アメリカの南極観測プログラムで使われているシナリオを読んだ後、グループディスカッションを実施した。
・遠隔医療専門家グループは、BAS Medical Unit(BASMU)の主要任務について、「隊員の医学的・歯学的スクリーニング」、「医師の選抜」、「医師のトレーニング」、「基地医務室の設備、機器、薬品類の整備」の4点の紹介があった。また、隊員のメンタルヘルスが主要課題になっていることを取り上げ、基地ごとに医療環境が異なって当然ではあるものの、医師だけでなく、法律面、施設面、スタッフ面でのサポートが重要であるという指摘がなされた。その後、会場とドイツ・ノイマイヤー基地の医務室とをSkypeで結び、基地医務室の紹介と、小型カメラの画像送信のデモンストレーションが行われた。
・海洋研究・プラットフォーム専門家グループでは、SCARのMarin Platform Expert Groupとして、海洋観測のサポートや海洋観測のための設備とインフラのシェアを行っているとともに、COMNAPへのアドバイスを行っていることを背景に2件の招待講演を企画した。
講演者:Louise Newman (SOOS Executive Officer)
演題:“Delivering SOOS through international collaboration”
Southern Ocean Observation System(SOOS)の紹介。南緯40°以南の南大洋において、インド洋、ウェッデル海/ドロンイングモードランド、ロス海、アムンゼン湾、南極半島西部/スコシア海の5つの海域に分けたグループごとにデータの取りまとめと公開を行い、各国の海洋観測の情報提供を呼びかけている。
講演者:David Bromwich(Co-Chair YOPP-SH)
演題:“YOPP in the Southern Hemisphere (YOPP-SH) and the 2018–2019 Special Observing Period”
Year of Polar Prediction in the Southern Hemisphere (YOPP-SH)の紹介。
2013年~2017年半ば 準備期間
2017年半ば~2019年半ば コア観測期間
2019年半ば~2012年 整理期間
YOPP-SHでは2018年11月16日~2019年2月15日の間に集中観測を行い、昭和基地を始め、南極の12基地でラジオゾンデを実施するほか、船上観測、漂流ブイ観測等を実施する。


4.”Facilitation of Internationally Collaborative Antarctic Science”シンポジウム

AWIがホストをつとめ、4つの口頭セッションとポスターセッションからなるシンポジウムが6月14日に開催された。
セッション1:IPICS and the “Hunt for the oldest ice”
キーノート講演として、Heinz Miller(AWI)及びHubertus Fischer(ベルン大学)が、それぞれ、EPICA及びIPICSのレビューを行った。後者では、欧州がBE-OIとしてドームC近傍での掘削を決定したこと、日本の現状、ラピッドアクセドリルの紹介などがあった。さらに、豪州及び中国からそれぞれの活動の紹介が行われた。
セッション2:Innovative technologies & Pre‐planning
ROV、凧橇、基地更新プランニング、国際共同観測における財務戦略、国際共同観測における共通理解の難しさ、という多様なテーマの5件の講演が行われた。
セッション3:Learning from and building upon experiences; Strengthening regional alliances and partnerships
韓国、ニュージーランド、ブルガリア、チリから、国際協力プラットフォームとしての船舶や基地利用などに関する講演があった。
セッション4:Role of traversing, ships, aircraft and infrastructure support
中国、フランス、韓国により、それぞれ、大陸内航空機運用、海氷上旅行、大陸内トラバースに関する紹介が行われた。


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