2-2.第58次南極地域観測隊越冬隊活動報告

1.昭和基地の維持管理と越冬隊の運営
2017年2月1日~2018年1月31日の期間、越冬隊33名による昭和基地での観測設営活動を実施した。今次隊においても越冬初期よりリュツォ・ホルム湾全域並びにオングル海峡の広い範囲で開放水面が広がる状況がミッドウインター前まで継続した。基地においては9月まで比較的積雪が少ない状況が続き、除雪等への影響は軽微であった。越冬後半から夏にかけて59次先遣隊を受け入れ、ドーム基地旅行及び野外調査を精力的に実施した。


2.基本観測
電離層・気象・潮汐・測地部門の定常観測、及び宙空圏・気水圏・地圏・生態系変動、地球観測衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。特記事項としては、北の浦における雪尺観測において45次隊以来の少ない積雪を観測した。


3.研究観測
重点研究観測及び一般・萌芽研究観測を概ね順調に実施した。重点研究観測サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」において南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)による1年間の連続観測を実施した。高次捕食動物の環境応答及び露岩域における生態系のメジャートランジションに関する野外調査を実施した。


4.設営作業・野外行動
設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業を当初の計画通り、概ね順調に実施した。2月から8月までの間、オングル海峡の薄氷地域を避け、多年氷帯に限定したルートの設定を行った。9月以後、海氷の発達に伴いルート工作を進め、12月までの間、野外行動を実施した。


5.ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応
大陸上航空拠点S17及び昭和基地前滑走路を整備した。オングル海峡の海氷厚が十分でなかったため、昭和基地前滑走路は、とっつき岬ルート途中TK30地点付近に設定した。昭和基地前滑走路に計4便、S17航空拠点に計3便を受け入れ、JET A-1航空用燃料の提供、及び通信と気象情報の提供を行った。11月3日には、59次先遣隊18名を昭和基地に受け入れた。


6.情報発信
インテルサット衛星通信設備による南極教室、及び国立極地研究所南極・北極科学館におけるライブトークをはじめとする国内の各種企画を42回実施した。うち1件は、国連パレスチナ難民救済事業機関によるガザ南極教室を実施した。「昭和基地NOW!!」を43回掲載した他、テレビ・ラジオ番組への出演、地方紙・機関誌等への記事提供や寄稿を積極的に行った。 



1.昭和基地の維持管理と越冬隊の運営

2017年2月1日に57次隊より昭和基地の運営を引き継いだ後、2月20日に越冬成立式を行い、越冬生活を開始した。越冬を通じて観測、設営作業は概ね順調に行うことができた。夏作業において汚水処理棟の撤去が完了したため、管理棟及び倉庫棟の風下側の積雪状況が年間を通じてどのように変化するか注意を要した。5月に入るまでオングル諸島周辺の広い範囲で開放水面が広がる状況が継続したため、極夜前の海氷上の行動は北の浦からとっつき岬に至る多年氷帯に限定された。極夜明け後は比較的順調に結氷が進んだが氷厚の測定を行いながら慎重にルート工作を実施した。9月まで比較的積雪の少ない状況が継続したため、除雪作業への影響は少なかったと考えられるが、先遣隊の受け入れ等もあり年間を通じて繁忙な越冬であった。

2.基本観測

電離層・気象(地上気象、高層気象、オゾン、日射・放射、天気解析)・潮汐・測地部門の定常観測、及び宙空圏(オーロラ、自然電磁波、地磁気)・気水圏(温室効果気体、雲・エアロゾル、氷床質量収支)・地圏(重力、地震、GPS、VLBI)・生態系変動(ペンギン個体数調査)、地球観測衛星データ受信を対象領域とするモニタリング観測を概ね順調に実施した。

3.研究観測

重点研究観測テーマ「南極域から迫る地球システム変動」サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」として、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)観測、レイリー/ラマンライダー観測、ミリ波分光観測、MFレーダー観測、OH大気光観測、全天大気光イメージャ観測、オゾンゾンデ・ラジオゾンデ観測を昭和基地で実施した。南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)については、55群による1年間の連続観測を年間通じて実施した。
一般・萌芽研究観測では、「無人システムによるオーロラ広域観測」、「SuperDARN短波レーダー観測」、「電磁波・大気電場観測による全球雷活動と大気変動」、「南極成層圏水蒸気の長期観測」、「秋~春期間の南極湖沼の基礎的な水中環境パラメーター観測と湖底生物群集採集」、「ペンギン・飛翔性海鳥・アザラシ行動生態調査」、「極限環境下における南極観測隊員の医学的研究」を実施した。
公開利用研究では、「昭和基地における省電力光源を用いた水生栽培試験」を実施し、昭和基地においてはじめて苺の収穫を得た。

4.設営作業・野外行動

設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業を当初の計画通り、概ね順調に実施した。基地以外の大陸沿岸露岩域に設置されている無人観測装置の保守、露岩GPS観測、ペンギン個体数調査及び内陸旅行準備などを目的として、海氷上ルートを設定した。リュツォ・ホルム湾全域に加え、オングル海峡の広い範囲で開放水面が広がる状況が5月まで続いたため、極夜前までは西オングル島を含めた昭和基地周辺及び昭和基地からとっつき岬までの限定的なルートの設定を行った。極夜明けより海氷の発達状況を確認しながら、8月から12月までの間、ルート工作及び野外行動を活発に行った。11月には59次先遣隊18名を昭和基地に受け入れ、ドーム旅行隊、湖沼掘削チーム、ペンギン調査チームの送り出しを行った。

5.ドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)への対応

2017/18シーズンのフライト計画に従って、大陸上航空拠点S17における滑走路整備及び昭和基地前滑走路造成とJET A-1航空用燃料の提供並びに通信と気象情報提供を行った。昭和基地前滑走路はオングル海峡の海氷厚が1mに満たない状況であったため、とっつき岬に至るルートに沿って昭和基地から8kmほど離れた場所(TK30付近の海氷上)に滑走路を造成した。昭和基地前滑走路には11月に4便(うち2便は59次先遣隊のフライト)を受け入れ、JETA-1航空用燃料を提供したほか、S17航空拠点には計3便の受け入れを行った。昭和基地前滑走路周辺の除雪作業において、燃料ドラム缶の破損による漏油事故が発生したが、油が染み込んだ当該箇所の雪を回収することで流出燃料のほぼすべてを回収できたと考える。また、海氷に割れがないことから、海水への流出の可能性は極めて低い。

6.情報発信

南極観測による学術的成果や観測隊の活動状況を広く社会に発信するため、インテルサット衛星通信設備によるインターネット常時接続回線を利用したTV会議システムにより、国内外の小・中・高等学校等と昭和基地を結ぶ南極教室、及び国立極地研究所南極・北極科学館におけるライブトークをはじめとする国内の各種企画を年間計42回実施した。また、このうち15 件は、テレビ電話システム(FaceTime・Skype)を利用した簡易版として実施し、広報活動の簡便化と活発化を実現した。簡易版南極教室のうち1件は、国連パレスチナ難民救済事業機関を通じて依頼のあったもので、ガザの子ども達に向けて南極教室を実施した。11月には南極北極ジュニアフォーラム2017において、「第13回中高生南極北極科学コンテスト」で選ばれた青森県立名久井農業高等学校の優秀提案課題「極地のブルーモーメントは長いって本当?」に関する観測データを提供した。観測隊公式ホームページ「昭和基地NOW!!」には、日常的な話題から43件の原稿を作成して掲載した。その他、テレビ・ラジオ番組への出演、地方紙・機関誌等への記事提供や寄稿を積極的に行った。

7.「しらせ」への海氷情報の提供

59次隊が「しらせ」側と打ち合わせを行なう飛行科研修(7月上旬)と五者連絡会議(10月上旬)の資料として昭和基地周辺の海氷状況の情報提供を行なった。9月から「しらせ」接岸予定点周辺の氷厚測定等の海氷状況を「しらせ」に提供した。


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