第29回南極観測実施責任者評議会(COMNAP)の概要

会議の概要

南極観測実施責任者評議会(COMNAP)は、南極条約体制のもとで、国家事業として南極観測を実施する機関の責任者の合同会議として、1988年に結成された。30か国で構成され、うち29か国(エクアドルが欠席)とオブザーバー国(カナダ、ポルトガル、マレーシア)、オブザーバー機関の南極条約協議国会議(ATCM)、ATCM環境保護委員会(CEP)、南極科学委員会(SCAR)、国際南極観光業協会(IATTO)等が出席し、チェコ共和国・ブルノにおいて、同国National Antarctic Program及びその主要機関であるマサリク大学がホストを務め、平成29年7月31日~8月2日に開催された。参加者は200名に達し、日本からは、白石和行(国立極地研究所所長・COMNAP議長:開催時)、野木義史(同研究所副所長・南極観測センター・センター長)、渡邉研太郎(同研究所・国際企画室長)、橋田元(同研究所・南極観測センター・副センター長)、樋口和生(同研究所・南極観測センター・設営グループマネージャー)、大野義一朗(東葛病院・極地研究所客員教授)が参加した。

主なトピックス

1.総会

・定例議題として、前回(第28回年次総会)報告書の採択、議長報告、事務局報告、ATCM/CEP、SCAR報告等があった。長年のCOMNAPへの功績に対して議長メダルがHenry Valentine(南ア)及びPatrice Gordon(仏)に贈呈され、COMNAPフェローシップをGabriela Roldan(チリ)が受賞した。
・現在進められているプロジェクト等から、マクマード基地再開発計画(米)、ハリー基地の移設(英)、ベラルーシの観測紹介、YoPP(WMO/WCRP)、COMNAP Asset Tracking System (CATS)(豪)、COMNAP Data Base(事務局)による興味深い報告があった。CATSは昨シーズンから試験運用が開始された船舶と航空機の現在地と航跡が確認できるシステムであり、緊急事態への即応に大変有効である。
・期間中に開催されたCOMNAP及びSCARのExcom会合においてNon-native Species Voluntary Checklists for Supply Chain Managers (2012)の更新を行う事で合意した。
・中期計画、2016/17決算、2017/18予算を承認した。
・白石議長が退任し、次期議長としてKelly Falkner(NSF Polar Program Director/米)が選出され、今後3年間その任にあたる。5名の副議長のうち3名が改選を迎えたが、継続性等を勘案して、Robb Wooding(AAD/豪)が任期を1年延長して務めることが承認され、退任するYves Frenot (IPEV/仏)と Jose Retamales (INACH/チリ)の後任を、4名の候補者から投票の結果、Agnieszka Kruszewska (IBB PAS/ポーランド)とUwe Nixdorf (AWI/独)を選出した。Javed Beg (NCAOR/印)とJohn Guldahl (NPI/ノルウェー)は引き続き副議長を務める。
・次回(第30回年次総会)は、2018年6月11日~13日にドイツ・ガーミッシュ=パルテンキルヒェンにて開催する。ホストはAWIが務める。POLAR 2018(2018年6月15日~27日;スイス・ダボス)と連携し、期間中、SAR、砕氷船、ゼロエミッションなどをトピックとする”Arctic & Antarctic Operation”シンポジウムを開催する予定。
・その後の開催地として、2019年はブルガリアが招聘を表明して認められた。2020年はSCAR/OSCと合わせてホバートに決定済みである。2021年には、昨年の総会で日本が意思表明し、今回もその意向を継続したところ、他国の表明や異論はなかった。2022年は英国が意向を表明した。
・最終日の閉会にあたり、退任する白石議長から各国代表、事務局長、副議長などすべての参加者に向けて感謝の言葉があり、満場の拍手を受けた。

2.地域別グループ分科会

・東南極分科会
日本、豪、露、ベラルーシ、中、印、仏、英、独が参加し、2016/17シーズンの活動報告と2017/18シーズンの活動計画の情報提供を行った。フランスは新砕氷船が就航し、従来よりも多くの燃料・物資の輸送が可能となる。中国は、内陸トラバースは実施しない予定。インドは、マイトリ基地には衛星受信設備の建設を計画中。豪州は、新砕氷船建造に加え、マッコーリー基地の改修、移動掘削設備の準備を予定し、ウィルキンス滑走路(ケーシー基地)は、仏、伊、中の輸送に利用されるほか、遠隔地の観測チームをサポートするパラドロップを積極的に実施する計画である。
・ドロンイングモードランド分科会
日本、中、ベルギー、フィンランド、独、英、印、南ア、ノルウェー、露、スウェーデンが参加し、2016/17シーズンの活動報告、2017/18シーズンのフライト・船舶運航予定、観測計画概要に関する情報提供と意見交換を行った。昨年企画したSARの机上訓練が実現できなかったため、南アMRCC、ARCCも参加し、本年11月7日にケープタウンで実施され、橋田が参加予定である。
・その他の地域会合のトピック
中国が5番目の基地の建設場所をテラノヴァ湾近傍のInexpressive Islandに決定。ロシアは、ロス海に新基地の建設を検討中。イタリアによるマリオズッケリ基地陸上滑走路の建設が継続中。NZは、海軍の耐氷船による物資等の輸送を検討している。

3.専門家グループ分科会

・安全専門家グループは、無人機を含めた航空機運航をトピックとした意見交換を実施した。COMNAPは、AFTCMからの要請に基づき無人機に運用に関するHandbookを編集するなど、南極の航空機利用に関して多くコミットしている。航空機の利便性と危険性は南極での活動とは切り離すことができないことを踏まえ、燃料汚染と耐空性(NZ)、野生動物への影響(事務局)、トロール基地での航空機運用(ノルウェー)、無人機の安全技術(英)、無人機による対人事故(米)の報告があった。日本からは、橋田が昭和基地における過去の固定翼機による活動から現在の無人機の利用状況と運用ガイドラインの紹介を行った。
・海事専門家グループは、Polar Ship Certification、Polar Water Operation Manualsや、船舶の救命装備や構造等の要件などのPolar Codeの現状説明が行われた。また、Polar Water Operation Manualsについては、NZの例が示され情報共有を行った。また、Polar Codeに関する査察に関しては、開始時期やPolar Codeの解釈に関してそれぞれの国で異なるであろう事等が指摘された。その他に、チリの砕氷船を含む新船の計画等が紹介された。次回の会合に向けて、音響観測の海洋哺乳動物への影響等の案件も考慮に入れた議論を行う事となった。
・医療専門家グループ(JEG-HBM)は、SCAR/COMNAP合同専門家会合が8月1日に開催され、日本からは大野義一朗極地研客員教授(専門家本グループ副議長)、渡邉の2名が、その他、亜、ベラルーシ、チェコ、フィンランド、仏、独、露、ウクライナ、英、米から参加があった。高所医学、医療的緊急搬出、及びCOMNAPから諮問のあった、南極査察員の健康判定、医療廃棄物の輸送、飲料水の水質及び検査、患者の移送と安定化、麻薬の調達等が話題となった。日本からは内陸旅行での高所医学的な調査結果の紹介、南極医学医療WS(7月22日極地研開催)の報告を行い、韓国及びインドからは医療的緊急搬出の事例報告があった。緊急搬出では複数国が関与する場合が多く、調整の場を用意することが望ましいとのコンセンサスを確認した。来年のPOLAR2018での会合では、ボストーク基地やドームC基地の情報も集め、高所医学に関するセッションに向け準備することとした。
・“Crisis Management”セッションとして、医療専門家グループ分科会の主導により、BAS医療ユニットディレクターAnne Hicksによる講演をコアとする危機管理に関するセッションが企画された。情報伝達や輸送手段が劇的に進化しつつあるが、南極における様々な危険そのものは変わっていない。航空機や船舶、フィールドでの事故は、人命・物・環境への甚大な損失に繋がる。重傷者の発生を伴う事故の対処方法に関して、現場のチーム内及び国内における家族へのメンタルケアやメディア対応について、南極点基地(2016年)やハリー基地(2015年)からの緊急搬送を例に取り、傷病者の特定をいかにして防いだかなど、真剣な議論が交わされた。

4.” Seasonal Stations & Remote Field Camps Workshop”ワークショップ

エネルギー・テクノロジー・環境・訓練専門家グループ分科会が主導する半日間のワークショップを開催した。担当副議長R. Wooding(豪)の趣旨説明に続き、英、伊、NZ、仏、西などからフィールドキャンプや内陸トラバースの活動紹介、複数の国やオブザーバーから、追跡デバイス、居住モジュール、太陽光利用など技術面の紹介など、10件の口頭発表と6件のポスター発表が行われた。日本からは樋口が沿岸観測拠点とフィールド活動について口頭発表した。いずれの発表も、COMNAPが昨年取りまとめたAntarctic Roadmap Challengesの具体化につながる活動である。

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