5-2.第58次南極地域観測隊夏隊活動報告

1. 昭和基地接岸と輸送
今次は年内に接岸することができ、燃料、大型車両を含む全ての物資を昭和基地に輸送することができた。なお「しらせ」のラミング回数は、往路114回、復路0回であった。

2. 昭和基地夏期観測
大型大気レーダー(PANSYレーダー)のアンテナ保守作業とフルシステム観測・国際共同観測、HFレーダーの基礎工事、波長可変共鳴散乱ライダーの設置作業等を実施した。

3. 野外観測
長期にわたる野外観測として、S17での大気・エアロゾル観測、ラングホブデ袋浦でのペンギン調査、スカルブスネスきざはし浜での陸上生物・湖沼調査、各露岩域での地質調査を実施した。

4. 昭和基地作業
基本観測棟1階建設工事、汚水処理棟解体工事をはじめ、基地設備関連工事などの作業を実施した。

5. 「しらせ」航路上やリュツォ・ホルム湾での海洋・海氷観測
航路上の観測、海底圧力計の揚収・設置に加え、リュツォ・ホルム湾内奥に進出しての海洋・海氷観測を実施した。

6. 「海鷹丸」による海洋観測(別働隊)
東京海洋大学練習船「海鷹丸」により、南極海での基本観測及び一般研究観測を実施した。

7. 教員南極派遣プログラムによる南極授業
今次で8回目となる南極授業を、教員2名により合計4回実施した。

8. その他のトピックス
・昭和基地開設60周年記念行事に、テレビ会議システムを通じて参加した。
・南極観測未参加国であるインドネシア、モンゴル、タイの若手研究者を招聘し、地質学分野での共同観測を実施した。
・観測項目としては初となる社会科学系のテーマを公開利用研究として実施した。

1.昭和基地接岸と輸送

 第58次観測隊本隊は、2016年11月27日に成田空港から出国し、28日にフリーマントルに寄港中の「しらせ」に乗船した。同港において、外国人同行者、および観測隊チャーターヘリコプターのクルーが合流し、「しらせ」は12月2日に出港した。
「しらせ」は、12月19日にリュツォ・ホルム湾沖の流氷域に進入し、同日海底圧力計の設置を行った。その後、観測を実施しながら順調に航行し、12月23日に弁天島沖から昭和基地へ第一便を実施した。引き続いて、12月28日に昭和基地沖約560mに接岸した。往路のラミング回数は、新「しらせ」が就航してから過去最少の114回であった。
12月23日の第1便に引き続いて、以下の日程で輸送を実施した。
12月23日~25日 優先物資空輸(35トン)
12月25日、27日 先行一般物資空輸(15トン)
12月28日~30日 貨油輸送(リキッドコンテナ分も合わせ585キロリットル)
12月28日~31日 氷上輸送(317トン)
1月3日~5日 持ち帰り氷上輸送(246トン)
1月7日~9日 本格空輸(198トン)
 一連の輸送により、「しらせ」に搭載した昭和基地向けの物資のすべてを輸送することができた。また持ち帰り物資量は空輸も含めて387トンに達した。

2.昭和基地夏期観測

 重点研究観測の一つである南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー)観測では、アンテナ基礎嵩上げ工事(以下、嵩上げ)及び不良送受信モジュールの交換作業を行った。またこれらに先行して前次隊が越冬期間中に取り外した輻射器の再取り付け作業と、嵩上げ箇所の電源制御及びRFケーブルを氷から掘り出す作業を行った。この他、不要アンテナ群の撤去、位相校正のためのヘリコプターからの反射波の取得、低高度及び流星観測用RFケーブルの敷設、ケーブルルートを表示するためのピンポール等の設置、設営部門が行った専用発電機交換作業の支援などに加え、アンテナエリア全域と大型大気レーダー観測制御小屋及び小型発電機小屋床下の除雪・砕氷を行い、フルシステムでの連続観測及び57次に続いて通算2回目となる国際共同キャンペーン観測を実施した。
第58次より観測開始予定の波長可変共鳴散乱ライダーについては、送信系、受信系およびシステムモニタ系の搬入・調整・動作確認を行ったが、実際の観測は越冬隊に委ねた。ミリ波分光計については、約2年半に一度の定期点検と部品交換を実施し、システム全体の最適化を行った。高速オーロラカメラについては、情報処理棟に光学ドームを設置し、動作確認を終了した。イメージングリオメータについては、受信系の更新作業とアンテナ保守作業を終了した。
HFレーダーについては、空中線更新のための基礎設置工事、測量、支線アンカー位置決め、鉄塔基礎工事等を実施した。
モニタリング観測関連では、宙空圏の地磁気絶対観測のための副方位標の設置や地磁気変化計室の保守作業、オーバーハウザー磁力計の設置などを行った。陸域生態系の東オングル島内60定点での表面土壌サンプリングを実施した。
 定常観測関連では、測地のGNSS連続観測局である昭和基地IGS点(SYOG)の点検・保守、精密地形測量の地上レーザースキャナ計測を実施した。

3.野外観測

 長期間の野外観測として、以下を実施した。
・S17での大気観測:2016年12月23日から2017年2月4日まで、S17を拠点として6名の隊員・同行者が長期滞在し、地球温暖化と南極氷床の表面形態変化との関係を明らかにする目的で様々な観測を行った。これには、無人航空機によるエアロゾルの採集も含まれる。特にエンジン付き、あるいは電動カイトプレーンを多用した観測は、今後のエアロゾルサンプリングに非常に有効であることを実証した。期間中、1月11日から12日にかけて、自動気象ステーションの保守のためにH128への観測旅行も実施した。
・宗谷海岸湖沼および陸上生物の観測:2016年12月24日から2017年2月7日にかけて宗谷海岸主要露岩域において長期滞在し、9湖沼(スカルブスネス:如来池、仏池、くわい池、親子池、長池;ラングホブデ:雪鳥池;ブライボーグニーパ:広江池;スカーレン:スカーレン大池;ルンドボークスヘッタ:丸湾大池)および集水域2地点(いずれもラングホブデ:雪鳥沢コケ群落)において、湖底生物群集の窒素循環測定、溶存有機炭素の定量・定性測定、ビデオカメラによる観測、湖底温度ロガーの回収、小型ROVによる湖底の3D計測、水中環境パラメータの観測などを実施した。
・ペンギン調査:2016年12月24日から2017年1月31日にかけて、ラングホブデの袋浦に3名が滞在し、袋浦の集団営巣地においてバイオロギング調査(小型の記録計、GPS、ビデオカメラ等をペンギンの体に装着する手法)、雛の生存率と成長速度の測定、及び親ペンギンの胃内容物調査を行った。また水くぐり浦の集団営巣地を3日に1回程度の頻度で訪れ、水くぐり浦においてもペンギンにGPS記録計を取り付け、行動パターンを測定した。
・地質調査:往路12月17日?18日にアムンゼン湾周辺の露岩域での着陸適地調査とウイドーズ岬への日帰り地質調査を実施した後、12月22日から2月6日にかけてプリンスオラフ海岸の露岩域での地質調査、リュツォ・ホルム湾沿岸の露岩域での地質調査を行った。さらに復路2月19日から24日まで、アムンゼン湾での地質調査を行った。
 このほか宙空圏、地圏、気水圏、測地等については、日帰りから数日間の野外観測を実施した。

4.昭和基地作業

 昭和基地夏作業期間は、12月23日から2月14日までの全54日(作業日45日、休日4日、クレーン作業不能日5日)であった。この間に、基本観測棟1階建設工事、汚水処理棟解体工事、コンクリートプラント運用、夏汚水コンテナ基礎構築、情報処理棟天窓追加工事、予備食冷凍庫改修工事、コンテナヤード整備工事、補修工事(管理棟2階非常階段扉交換、Aヘリポート補修、1夏浴室窓フィルム貼り、福島ケルン銘板修繕)、支援工事(HFアンテナ基礎工事、測風塔・百葉箱撤去)を実施した。また、第58次夏期作業で計画されており実施出来なかった作業は、20KL金属タンク基礎・防油堤工事であった。
 設備関連の作業として、予備食冷凍庫事務所改修工事、夏宿汚水処理装置移設工事、一夏~二夏間強電・弱電幹線引き換え工事、情報処理棟機器電源工事、旧汚水処理棟内部解体工事、第二車庫外部盤破損に伴う盤移設工事、計画停電に伴う電源切り替え工事、基本観測棟~気象棟間の架線ケーブルの地中埋設工事、発電棟内旧PCS盤撤去、観測棟内の気象用UPS電源工事、第一夏宿照明器具更新工事、太陽光パネル更新工事等を実施した。

5.「しらせ」航路上やリュツォ・ホルム湾での海洋・海氷観測

 2017年1月16日、本格空輸を終えた「しらせ」は19日に昭和基地を離岸、ラングホブデ沖に停留点を移動し、以後2月14日までリュツォ・ホルム湾内の海洋観測を実施した。2月15日の昭和最終便の後北上を開始、16日には氷海を離脱し同日夕刻に海底圧力計の揚収に成功、アムンゼン湾に回航した。アムンゼン湾において、2月19日から24日まで宙空、地質、地球物理、陸上生物の野外観測を「しらせ」ヘリ、観測隊チャーターヘリを使用して実施した。その後「しらせ」はケープダンレー沖に移動し、26日から3月1日までほぼ計画どおりの観測を実施した。以後は船上観測を実施しつつシドニーを目指し、3月15日に南緯55度を通過、3月20日にシドニー入港、観測隊および同行者は23日に帰国した。なお外国人同行者は、シドニーよりそれぞれ自国に帰国した。

6.「海鷹丸」による海洋観測(別働隊)

 別働隊となる東京海洋大学練習船「海鷹丸」では、夏隊員6名及び同行者7名の編成で観測を実施した。2016年12月31日にフリーマントル港を出港し、東経110度線に沿った基本観測(海洋物理・化学)をはじめ、一般研究観測「南大洋インド洋セクターにおける海洋生態系の統合的研究プログラム」、及び一般研究観測「南極底層水昇温・低塩化期における深層循環の変貌解明」を実施し、2017年1月26日にホバート港へ帰港した。

7.教員南極派遣プログラムによる南極授業

 南極観測による学術的成果や活動状況を広く社会に発信するため、今回で8回目となる教員南極派遣プログラムで、観測隊に同行した教員2名がTV会議システムを使用した「南極授業」を行った。58次隊では、2月7日気仙沼市立階上中学校、2月9日奈良県立青翔中学・高等学校、2月10日宮城教育大学附属中学校、2月11日奈良県立青翔中学・高等学校(於さざんかホール)に向けて南極授業を実施した。

8. その他のトピックス

・2017年1月29日の昭和基地開設60周年にあたり、当日、国立極地研究所で開催されたイベント「南極まつり」及び「昭和基地開設60周年記念式典」に、昭和基地からテレビ会議システムを通じて参加した。

・アジア極地科学フォーラム(AFoPS)との連携の下、インドネシア、モンゴル、タイの若手研究者を招聘し、日本人研究者とともに地質調査の共同研究を実施した。
・公開利用研究で初となる人文・社会学領域の研究テーマを実施した。


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研究開発局海洋地球課