7-2.第60次南極地域観測計画の概要(素案)

 平成30年度の第60次南極地域観測隊の観測計画(以下「第60次計画」という)は、平成27年11月の南極地域観測統合推進本部総会で決定された「南極地域観測第9期6か年計画(以下「第9期計画」という)の第三年次の計画である。第9期計画では、地球システムにおける現在と過去の南極サブシステムの変動、サブシステム内の相互作用の解明及び南極域の変動と地球システム変動との関係を明らかにすることを目的に、第9期重点研究観測メインテーマ「南極から迫る地球システム変動」が決定され、本メインテーマを推進するため、サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」、サブテーマ2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気‐氷床‐海洋の相互作用」、サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」の3つのサブテーマが設定された。これらのサブテーマのもとに、分野横断的な研究観測を展開する。特に、サブテーマ3においては、内陸域での調査を国際連携で実施する。また基本観測については、極域を観測の場とした地球環境観測の推進、データの取得・公開・利用などを通じて、「GEOSS新10年実施計画」に貢献する。
 第60次では南極観測船「しらせ」による往路・復路での海洋観測に加え、別働隊として東京海洋大学練習船「海鷹丸」も加えた船上観測や南極航空網を利用した野外調査を計画する。

1.観測計画

○基本観測は、第9期計画のとおり定常観測とモニタリング観測に区分して実施する。定常観測については、担当機関による観測計画を継続して実施する。
 モニタリング観測は、第9期計画を機に再編した以下の五つの分野の観測を実施する。
(1)宙空圏変動のモニタリング、(2)気水圏変動のモニタリング、(3)地圏変動のモニタリング、(4)生態系変動のモニタリング、(5)地球観測衛星データによる環境変動のモニタリング

○研究観測は、重点研究観測、一般研究観測及び萌芽研究観測の三つのカテゴリーに区分した観測から構成される。
・重点研究観測は、「南極から迫る地球システム変動」の第三年次の計画として、全球的視野を有し、社会的要請に応える総合的な研究観測を実施する。本メインテーマを推進するため設定された、サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」、サブテーマ2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気‐氷床‐海洋の相互作用」、サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」のもと計画を立案した。サブテーマ1においては、南極昭和基地大型大気レーダーのフルシステムでの観測を中心として観測を継続し、極域大気が地球システムに与える影響の解明を目指す。サブテーマ2では、リュツォ・ホルム湾及びケープダンレー沖での海氷域での海洋観測等を継続実施し、棚氷融解、海氷や氷河・氷床変動の実態等に関して生態系も含めた解明を目指す。サブテーマ3では、過去80万年を越える古いアイスコア採取を見据え、59次隊での調査結果に基づき、ドームふじ基地周辺の内陸域の調査対象域を絞り、深層掘削点選定のため、詳細な雪氷学的調査を国際連携で実施する。深層ドリルの開発準備等も引き続き実施する。
・一般及び萌芽研究観測は、公募によってすでに採択された計画のなかから、実行可能な計画を選択して実施する。特に、重点研究観測メインテーマ及びサブテーマと関連の深い観測項目については、積極的に連携し重点研究観測メインテーマの推進を強化する。

○公開利用研究については、公募のうえ、実行可能性の高い計画を実施する。継続的国内外共同観測については、関係機関と国立極地研究所との協定等に基づき、委託課題として実施する。

2.設営計画

 第60次計画においては、昭和基地整備計画に基づき基本観測棟の設備工事を実施する。さらに、第61次からの発電機の更新に向けた建設等の準備を開始するとともに、発電機更新を見据えた電気設備の点検・更新を継続実施する。太陽光発電パネルの更新や埋立廃棄物の処理など、観測活動に起因する環境負荷の軽減に取り組む。また、今後の内陸での観測・調査活動にも対応するための整備も実施する。そのために、燃料・車両・重機等の大型物資、観測機材、設備資材等を可能な限り輸送する。

第60次における重点研究観測サブテーマ3の内陸域雪氷学的調査について

<計画内容>

・第61次で予定していた、重点研究観測サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」における、ドームふじ基地周辺の内陸域での、アイスコア深層掘削点選定のため雪氷学的調査を、1年早めて第60次隊において国際連携のもとに実施する。

<第60次で実施する理由>

・第60次隊において、アイスコア深層掘削の最終候補地選定に必須である、CReSIS(カンサス大学・氷床リモートセンシングセンター)が開発する最先端レーダー(超高解像度基盤地形、3Dトモグラフィ等が可能)が国際共同観測として使用できる。
・第60次隊では、さらにノルウェーの研究者が現地観測に参加可能であり、アイスコア深層掘削候補地点選定のため、日本、米国およびノルウェーの国際連携による、最先端レーダーを含む雪氷学的調査が実施可能となる。
・CReSISレーダーデータの本格解析には、1年程度かかるため、アイスコア深層掘削最終候補地選定の検討期間を確保し、アイスコア深層掘削を早期に実現するためには、第60次隊でのデータ取得が必要である。
・欧州の探査計画では、ドームC付近の探査結果次第で、ドームふじ近傍の雪氷調査が第60次隊のタイミングで実施される可能性があり、日本主導の研究観測の推進や、国際共同観測の可能性の観点からも、第60次隊でアイスコア深層掘削候補地点選定のため雪氷学的調査の実施が必要である。

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研究開発局海洋地球課