南極地域観測事業

第51次南極地域観測隊 越冬隊報告

  1. 基地周辺の海氷は非常に安定していた。3月から極夜期間の天候は、晴れて寒冷な状況が続いたものの、極夜明けから12月初旬には多雪をもたらしたA級ブリザードがたびたび来襲し、52次隊受け入れのための除雪作業などに多大な労力を要した。10月、11月、1月の日照時間は記録的に短く、そのため夏季の雪解けが進行しにくい状況であった。
  2. 定常観測としては電離層・気象・測地の3部門ともおおむね順調に観測を継続した。電離層部門では52次隊からの越冬期間の無人観測化に伴う機器・設備の更新作業を実施した。
     オゾンホールの面積は2000年以降では2002年に次いで小さなものであった。
  3. 重点プロジェクト研究観測としては、エアロゾルゾンデ観測、無人磁力計ネットワーク、HF/MFレーダー、オーロラ光学、OH回転温度、れいめい衛星データ受信、下部熱圏探査レーダー、および大気中の酸素濃度連続観測を実施した。一般プロジェクト研究観測としては湖沼観測、心理調査、レジオネラ調査、食事と健康調査、宇宙医学との共同研究などを実施した。萌芽研究としては大型大気レーダーの試験用アンテナの状態調査、振動試験、設置準備活動を行った。モニタリング研究観測各分野とも順調に実施した。
  4. 野外活動は沿岸での地圏・生物圏の観測、内陸ではみずほ基地への燃料移送(10月)および離故障車輌の修理廻送のほか、52次夏期に計画されているドーム旅行準備のためのS16およびDROMLAN滑走路整備(S17) 旅行などを実施した。
  5. コンテナ輸送方式に輸送形態が変更した今次隊では、コンテナの越冬期間中の養生について、ドリフト発達を防ぐための嵩上げ保管やフォークリフト爪挿入部分のマスキングを実施した。
  6. アウトリーチと広報活動については、テレビ会議システムを用いた児童・生徒対象の南極教室を19回実施したほか、9回の各種イベントへの情報提供を行った。また、中高生オープンフォーラム提案課題2件を実施し、経過報告をTV会議システムで提案者に還元した。
     また、新聞・雑誌・ホームページへの寄稿、テレビやラジオへの取材対応を適宜実施した。

1.はじめに

 第51次越冬隊は28名で構成され、「南極地域観測第7期計画」の最終年度を担う越冬観測を実施した。2010年2月1日に第50次越冬隊から昭和基地の運営を引継ぎ、2011年2月1日に第52次越冬隊に引き継ぐまでの一年間、基地内外の観測と基地の管理運営にあたった。28名の内訳は、越冬隊長の他、観測系10名、設営系17名で、越冬期間中のミッション数は夏期に実施できなかった分を含め、観測系69、設営系81、その他4、総数154であった。観測項目は、定常観測と研究観測に分類され、定常観測は、「電離層」「気象」「測地」の3部門が担当し、研究観測は、1.重点プロジェクト研究観測、2.一般プロジェクト研究観測、3.萌芽研究観測、4.モニタリング研究観測に分類され、それぞれ宙空圏・気水圏・地圏・生物圏観測担当隊員(越冬隊長が兼務)が中心となって観測を実施した。

2.気象・海氷状況

 秋季(2月~4月)は周期的に低気圧の影響を受けブリザードとなったが、極端に強いものはなかった。低気圧はあまり停滞せず、晴れて風が弱い日も多かった。放射冷却のため、気温は低めに経過した。
 冬(5月~8月)は大陸の高気圧の勢力が強く、晴れて風が弱い日が多かった。放射冷却のため、気温の低い日が続いた。北海上では低気圧が猛烈に発達し、回数は少ないながら昭和に接近すると強いブリザードをもたらした。
 春(9月~11月)は9月は上旬に強いブリザードとなったが、中下旬はよく晴れた。10月・11月は低気圧が昭和付近に停滞する日が多く、天気の悪い日が続いた。低気圧の勢力も強く、強いブリザードとなることが多かった。
 夏季(12月~1月)は12月上旬は天気が悪く寒かったが、中下旬はよく晴れて風の弱い夏らしい天気が続いた。1月は低気圧の影響が強まり、風が強く吹雪の日が多かった。
 海氷は一年を通じ非常に安定しており、基地周辺では大規模な流出や海氷の消失は一度も生じなかった。

3.基地観測の概要

 電離層部門では、電離層垂直観測、FM/CWレーダー観測、リオメータ吸収の測定、リアルタイムデータ転送を実施した。また、次年度以降の越冬期間中の無人観測に備えて新たに40mデルタアンテナ及び電離圏観測小屋での観測を開始し、運用を終えた旧アンテナや旧電離層棟内残置物資の整理を実施した。気象部門では、地上・高層気象観測の他、積雪深観測、オゾン観測、日射放射観測、オゾンゾンデ観測、地上オゾン濃度観測、天気解析、大気混濁度観測を行った。従来から観測していたS16(P50)での気象ロボット観測は越冬期間中に障害が生じ、修復を試みたが復旧せず(S17へ移動気象観測装置を設置してデータ収録は実施)、52次夏期間に装置の更新となった。測地では昭和基地GPS連続観測点の維持管理として昭和基地・ラングホブデの無人観測装置のメンテナンスなどを実施した。
 重点プロジェクト研究観測としては、「極域における宙空-大気-海洋の相互作用からとらえる地球環境システムの研究」の課題の下に、「極域の宙空圏-大気圏結合研究」と「極域の大気圏-海洋圏結合研究」が実施された。前者としてエアロゾルゾンデ観測、無人磁力計ネットワーク、HF・MFレーダー、オーロラ光学、OH回転温度、れいめい衛星データ受信、下部熱圏探査レーダー観測などが概ね順調に実施された。後者として大気中の酸素濃度連続観測を実施した。
 一般プロジェクト研究観測としては「極域環境変動と生態系変動に関する研究」「極域環境下におけるヒトの医学・生理学的研究」の課題の下に、それぞれ湖沼調査と試料採集、心理調査、レジオネラ調査、食事と健康調査、宇宙医学との共同調査、などを実施した。
 萌芽研究観測としては、「大型大気レーダーによる極域大気の総合研究」の課題の下に、試験用アンテナの状態調査、振動試験、設置場所積雪状態調査と設置準備のための不要アンテナの撤去、除雪などを行った。
 モニタリング観測もすべての分野で順調に実施された。宙空圏のモニタリング観測は地磁気絶対観測、変化観測、オーロラ光学観測、電磁波観測のほか定期的に西オングル無人観測設備に維持管理を行った。気水圏のモニタリング観測では、大気中の二酸化炭素・メタン・一酸化炭素濃度の連続観測、温室効果気体などの分析用試料採取、二酸化炭素同位体観測用大気試料精製、エアロゾル関連の観測のほか、海氷や大陸上のルート上での積雪観測を適宜実施した。地殻圏変動のモニタリングでは、地震観測、超電導重力観測、VLBI観測、DORIS/IGS観測、地電位・潮位観測のほか、大陸沿岸での地震・GPS観測を実施した。また運用を終えたコーナーリフレクターの撤去、故障が生じた水素メーザー装置の持ち帰りを行った。生態系変動のモニタリングではペンギン個体数調査を実施したほか、ラングホブデ(袋浦・雪鳥沢)・スカルブスネス(きざはし浜)にある観測小屋のメンテナンス、自動気象観測機器の点検を実施した。地球観測衛星データ受信については、NOAA、METOP、TERRA,AQUA衛星およびDMSP衛星について、通年にわたり受信、記録を行った。

4.野外観測の概要

 野外観測行動については、3月から5月にかけて、岩島、西オングル宙空テレメータ基地、とっつき岬、向岩、S16までの海氷上と大陸上のルート工作・整備を行い、S16気象ロボット維持、移動気象装置設置、海氷厚測定・積雪測定・雪尺測定、宙空テレメータ基地保守、氷床GPS観測などを実施した。7月にはラングホブデまで、9月にはスカルブスネス・スカーレン及び周辺のペンギンルッカリーへアクセスするルート工作を行った。また、10月以降の内陸旅行(みずほ旅行、52次夏期ドームふじ旅行)に備えた雪上車整備等の準備作業が、8月から11月にかけて、S16ととっつき岬において複数回行われた。みずほ旅行では使用していた雪上車のうちの一台、SM111の車軸(アイドラーホイール)が破断するトラブルが発生した。旅行隊は車両体制を入れ替えてミッションを完了させ旅行を無事終わらせた。一方で故障車修理・回収隊を編成し、この故障車両を昭和基地へと持ち帰った。沿岸野外観測としては、とっつき岬、ラングホブデ、スカルブスネス、スカーレン、スカルビークハルゼンでのGPS観測、地震計保守、無人磁力計保守、湖沼観測を実施した。また、11月中旬と12月初旬にペンギンの個体数調査を予定された全てのルッカリーにおいて実施した。この他にも、DROMLAN航空機用の滑走路整備と燃料配備作業を11月にS17において行った。52次夏期ドームふじ旅行(12月19日~2月15日)には、51次隊より3名(立本(FA)、内田(機械)、岡田(医療))が参加した。

5.基地設備の維持・管理

 基地施設の維持・管理については、基地生活の基盤となる燃料、電力、造水、空調、保冷、防災、汚水廃棄物処理、衛星・無線通信、医療機器、調理機器、各建物などの諸設備、ならびに、雪上車、装輪車、重機等の車両の維持・管理・運用を行った。越冬を通じて無停電であった。越冬中は、毎月、施設安全管理点検、消火訓練を行い、火災報知設備の定期点検も行った。またブリザード後などには建物の屋上、周辺の除雪作業を実施した。重機や車両の老朽化に伴って生じた故障が数多く発生したが、その度ごとに対処した。除雪作業中にホイールローダーが路肩の岩を踏み、基地で修理不可能なタイヤのパンクを生じさせてしまい、夏期の除雪作業に運用できなかった。緊急にホイール組タイヤをDROMLANで輸送してもらい、これと交換して52次隊へと引き渡すことができた。51次隊で計画されていた基地主要部の暖房配管更新工事は持ち込んだ配管のサイズが合わずに、すべてのラインを接続できない事から、今次隊での更新は中止した。また、昨年度に続き夏期の残雪が非常に多かったため、夏期隊員宿舎上下配管工事、FRP・ターポリンタンク解体に取り組むには現実的には不可能な労力の除雪が必要であったため、実施しなかった。夏期間の輸送については悪天候のための遅延を余儀なくされたものの、1月30日を持って計画された物資の輸送を完了させることができた。

6.基地周辺の環境保護

 基地周辺の環境保護については、「環境保護に関する南極条約議定書」および「南極地域の環境の保護に関する法律」を遵守し、「南極地域活動計画確認申請書」に基づいた観測活動を行った。年間を通じて基地では廃棄物・汚水処理を行い、沿岸・内陸旅行など野外行動に伴って排出される廃棄物については、法律に従って処理・管理を行った上で基地に持ち帰って処理した。基地内の老朽化して使用していないアンテナの撤去、基地周辺の飛散廃棄物、水質調査のための海水サンプリングなども適宜実施した。また残置されていた48次隊以降に蓄積されていた持帰り廃棄物も、一部の車両を除き、ほとんど全て持帰り輸送することが出来た。

7.アウトリーチと広報活動

 アウトリーチと広報活動については、南極観測における越冬隊の活動を広く社会に発信するために、雑誌・新聞・ホームページへの寄稿、テレビやラジオからの取材対応を適宜行った。テレビ会議システムによる「南極教室」は計19回実施したほか、イベントへの情報提供を9件行った。また、中高生オープンフォーラム提案実験2件を実施し、実験状況はTV会議を通じて提案者へ還元した。

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研究開発局海洋地球課

-- 登録:平成24年02月 --