南極地域観測第Ⅶ期計画 [8]

8.次期中期計画の展望
 南極地域観測事業の更なる活性化、効率化を図るため、計画の妥当性、成果、運営、達成度等を評価し、優れた活動を奨励する必要がある。そのため、本部は、外部評価委員会を設置し、全ての観測事業の実施状況等の評価を行うこととした。評価結果は、各年度の観測実施計画やオペレーションに反映させるとともに、南極地域観測第8期計画(平成22年度以降)の策定にも反映させる。こうした評価結果とともに、第8期計画は、新たな輸送手段・観測プラットフォームとなる後継船導入を契機にした研究観測の展開や国際協力、基地環境整備、アウトリーチ等について、第7期計画の推移や国際的な極域科学分野の動向、我が国の科学技術・学術動向等を勘案しながら策定することになる。
 なお、第8期計画の策定に当たっては、南極地域観測事業に対する国民の理解を深め、極域科学の一層の発展のために、公募制や同計画への意見募集により透明性、公開性を高める必要がある。

1)観測計画
 第7期計画では、研究分野の融合を図り、地球全体を一つのシステムとして総合的に解析・監視する総合学問拠点の形成を目指した重点プロジェクト研究観測が開始される。中でも、南北両極で同期した宙空圏・大気圏・海洋圏の観測等は、第8期計画においても本格的に実施されると期待される。
 後継船を利用しての海洋観測は、海洋構造と海洋生態系や大気・海洋相互作用の観測、重力や海底地形に基づく大陸及び海洋形成史の観測等が考えられる。また、航空機を活用しての無人観測網展開による地磁気や気象の広域観測、大陸沿岸部でのロディニア超大陸仮説の検証調査や極限生物に係わる観測等が、広域に展開されるであろう。
 IPY2007-2008でスタートするさまざまな国際共同観測のいくつかは、引き続き発展的に継続される。ドームふじとドームAをつなぐ氷床内陸部探査、海洋コア掘削による古環境復元観測等はその候補となる。
 第7期計画で萌芽研究観測として実施される氷床微生物や南大洋の中深層における生物多様性等のフロンティア領域も重要な観測ターゲットになる。また、観測事業の枠を超え、外部資金あるいは特別の予算処置を必要とする大型大気レーダー観測については、設営的な問題点を検討し、引き続きその実現に向けて努力する必要がある。
 研究観測計画は、これまでも国立極地研究所の共同利用の一環として実施されるシンポジウムや研究集会、及び関連学会の集会等を通じて、研究コミュニティーの中で議論され、立案されてきた。国立極地研究所は、我が国の極地に関する中核的な研究機関として、大学等の幅広い研究者からの提案や科学上の必要性等を踏まえて、重点プロジェクト研究観測の提案を行う必要がある。さらに、より開かれた観測計画策定という観点からは、一般プロジェクト研究観測や萌芽研究観測の観測計画を公募するといったことが考えられ、そのための受け入れ態勢の整備が必要である。
 一方、第38次観測以降、定常観測のうち国立極地研究所が実施してきたものはモニタリング研究観測へと位置付けが変わったが、終始一貫して地球上の諸現象を監視し続けている。次期計画では、これまでの10数年間に及ぶモニタリング研究観測を総括し、その中から国際協定等で定められている観測を厳選する。このような基本的な観測の実施には以下の諸点への対応が求められよう。
  総合的な観測(多項目の組み合わせよる地球観測システムの統合化)
観測の自動化、省力化
観測データ・情報の準リアルタイムあるいは早期での公開
観測成果の定期的な総合的評価
地球規模観測ネットワークとの連携促進
また、基本的な観測は、1電磁気圏に関する観測、2大気圏に関する観測、3氷床・地殻圏に関する観測、4海洋圏に関する観測、5地球観測衛星による観測等への再編成を検討するとともに、今後、定常観測との協力・連携を図ることが必要であろう。さらに、環境保全に関係し、南極における観測・設営行動に伴う様々な形での南極環境へのインパクトを継続的に監視することが必要になろう。

2)国際協力
 国際共同観測や国際的な観測支援等は、後継船就航による輸送の効率化等を背景に強化される。後継船や昭和基地は、アジアの南極観測未参加国等へのプラットフォームとして本格的に活用されると考えられる。また、IPY2007-2008を契機に開設されるベルギーの新基地を拠点とした共同観測や同基地への物資輸送支援等も実施することになると考えられる。

3)幅広い人員の参加
 後継船の人員輸送能力のアップを活かし、観測隊員以外に広く大学や研究機関の研究者、民間の研究者や技術者の受け入れが期待される。このため、参加計画の募集・審査方法、各種制度の整備等を、第7期の期間中に整備しておく必要がある。

4)環境保全と新エネルギーの利用
 昭和基地のクリーンアップ計画は、第7期に完了する。第8期期間には、化石燃料に大きく依存した昭和基地のエネルギー源を、風力や太陽放射を利用した自然エネルギーや燃料電池への転換を進め、環境負荷を大きく軽減する方策を追求する。また、あすか基地やみずほ基地の撤去に取りかかり、南極環境保全で他国の範となる活動を示すことも南極観測の重要なメッセージとなる。
 このほか、南極環境保護を目的とし、基地活動等が周辺環境に与える影響をモニタリングすることが南極条約協議国会議において勧告されており、我が国の南極地域観測事業における実施体制の構築が必要になる。

5)アウトリーチ・教育活動
 インテルサット衛星を利用した南極からの情報発信のニーズは、これまで以上に高まると予想される。こうしたニーズに応えられる制度や体制を整備しておく必要がある。後継船が本格的に運用される第8期では、学校の教員を南極に受け入れ、現地から教育現場に直接メッセージを発信する事業の開始が期待される。また、サイエンスライターや多様なメディアの受け入れや、小・中学生を含む国民全体へのアウトリーチの推進が期待される。
 さらに、平成21年度に移転する立川地区の新しい国立極地研究所の施設には、南極観測関連の展示施設を建設する予定であり、小・中学生の教育の場としても活用されることになる。特に、立川地区の小・中学校との連携を推進する等により、同地区が新たな南極観測の情報発信拠点となることが期待される。


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-- 登録:平成21年以前 --