南極地域観測第Ⅶ期計画 [1]

1.はじめに
 南極地域は、人間活動の活発な地域から最も遠く、その影響が極めて少ないことから、地球環境の現状を理解するために人為起源のノイズが極めて少ない良好な大気、海洋、生物などのデータを収集できる地球上で唯一残されたフィールドである。
 我が国の南極地域観測事業は、第3回国際極年(International Polar Year,IPY)の観測範囲を全地球規模に拡大した国際地球観測年(International Geophysical Year,IGY)を契機に開始された。昭和31年秋に最初の観測隊を派遣してから、平成18年秋には50年が経過しようとしている。この間、日本の南極観測は、オゾンホールや大量の隕石の発見、オーロラの発生メカニズムや氷床コアによる過去32万年の気候変動の解明等、大きな科学的成果を上げてきた。また、我が国は、南極地域における科学観測を中心とする平和的利用をうたった南極条約の原署名国(12カ国)の一員であり、南極条約協議国(28カ国)の主要なメンバーである。従って、我が国は、学術研究面だけでなく、南極地域における様々な国際的活動において重要な役割を担い、国際貢献を行う大きな責務を持っている。
 このように我が国の南極地域観測事業は、約50年にわたり実施され、大きな成果を挙げてきたが、中核的実施機関である国立極地研究所が法人化し、平成16年4月より、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所(以下、「国立極地研究所」という。)となった。また、法人化を契機に、これまで国家公務員で構成された南極地域観測隊は、多様な人材の参加に道を開くことになった。
 一方、IGYから50年後となる平成19年3月~平成21年3月には、国際極年2007-2008(IPY2007-2008)が計画されている。我が国も様々な国際共同観測に参加し、太陽系を含めた地球史の理解とともに、全人類に共通の地球環境問題に重要な役割を果たすことができる。さらに、平成21年度には「しらせ」の後継船である新南極観測船(以下、「後継船」という。)の就航が予定されており、我が国の南極観測は新たな時代を迎えることになる。こうした状況の下で、将来にわたって本事業を推進していくためには、観測成果のさらなる向上のための取組みとともに、国民の理解と支援を得るための一層の努力が必要である。そのためには、これまでも、南極地域観測事業の推進に当たっては、極域科学関係のコミュニティーとの意見交換の上に行ってきたが、観測事業計画の策定において、公開性と透明性を一層確保するとともに、国としての戦略を明確に示すことが重要である。また、観測成果を国民にわかりやすく発信し、国民全体の財産として共有していくことが重要である。
 これらのことに鑑み、南極地域観測統合推進本部(以下、「本部」という。)は、基本問題委員会を設置し、総合科学技術会議における指摘事項(「南極地域観測事業」について(平成15年11月))を踏まえつつ、今後の南極地域観測事業の発展に資するため、南極地域観測事業について必要な改革の検討を行った。検討課題の一つである「南極地域観測事業計画策定の今後の基本的な在り方」を受けて、中期的な計画策定に当たっては、本部の下に観測事業計画検討委員会を設置することとした。この委員会は、計画策定過程の透明性や戦略性を確保する観点から、極域科学の関係者のみならず、関連学会、産業界、国際政治関係者等、幅広い有識者から構成されている。
 本計画は、平成18年度から始まる南極地域観測第7期計画について、国立極地研究所及び定常観測担当諸機関の提案を、観測事業計画検討委員会がとりまとめたものである。



-- 登録:平成21年以前 --