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ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構(花岡 文雄)

研究領域名

ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

花岡 文雄(学習院大学・理学部・教授)

研究領域の概要

 情報を取り出し(転写)、コピーを作る(複製)という、DNAの基本的な活動にはクロマチンの動的な変化が必須であるが、最近になって、DNAの傷を治す(修復)にもクロマチンの働きの重要さが分り始めている。細胞内のゲノムの傷はまずクロマチンによって見つけられ修復タンパク質に伝えられる。本領域では、班員予定者の独創的な実験系を用いて、この機構を明らかにし、ゲノム疾患の制御にも関わる、動的なクロマチンの損傷応答機構の解明を行なう。その成果を用いて、複製、修復、転写開始のクロマチンリモデリングの比較を行ない、同時に、修復と複製、転写のカップリング機構を解明して、複製、修復、転写に共通する普遍的な制御機構を見つけ出す。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 複製、修復、転写はそれぞれ全く異なった機構であると考えられているが、いずれもクロマチンを最大限に利用してDNAの代謝を行い、また、複製、修復、転写は相互に機能的にカップリングしていることが分かって来ている。本研究領域は、ゲノムの修復と転写、複製のカップリング機構と損傷応答機構の解明から出発して、クロマチンリモデリングの普遍的な性質を解明し、新しいパラダイムを創出することを目標にする。
 これまで転写のトピックスであったクロマチンリモデリングが、近年、世界的に修復のテーマにもなりつつある。細胞内には多数のクロマチンリモデリング因子が存在し、複製や転写で重要な役割を果たすことが知られているが、その機構に最も依存しているはずの修復ではその機構はまだほとんど分かっていない。本研究課題は新しい実験方法を導入して結果を検証し合い、細胞内での損傷応答とクロマチンリモデリングを根本的に理解する。複製や転写に比べて可視化解析のし易い損傷応答で得られる新しい知識を、複製や転写、さらにはクロマチンリモデリング機構の理解にも役立てることが可能となる。さらに、これらの細胞内損傷応答機構の理解と、ゲノム安定性や細胞死につながるがんやがん治療等への重要な応用研究への展開が期待される。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 DNA損傷領域のヒストンのアセチル化が、2つのクロマチン構造変換因子の相互制御によりクロマチンを弛緩させるという機構を明らかにした。またヒストンの特定の位置のメチル化がDNA鎖切断修復と転写の橋渡し役をしているということを明らかにした。さらにヒストンバリアントH2A.Zの染色体局在に必須なヒストンH2B残基の特定と、その立証のため新規研究戦略FALC法を提唱した。
 本領域研究により、ARID1Aをはじめとする多くのクロマチンリモデリング因子の発現が多くのがん細胞で欠損していること、それらがX線やシスプラチンの抵抗性に必要であることを示し、がん治療への有効性が明らかとなった。またクロマチン制御遺伝子BRG1失活がんの合成致死治療標的としてBRM-ATPaseタンパク質を同定し、クロマチン制御タンパク質を標的としたがん治療の概念が広まった。また損傷乗り越え合成に最も重要なDNAポリメラーゼ・イータの原子レベルでの解析から、一つは時間軸も含めた4次元構造の決定と新たな酵素反応機構の解明に道を拓き、さらに紫外線損傷乗り越え機構と体細胞超突然変異機構の両者の分子レベルでの解明がなされた。また転写と修復の接点に働く新たなタンパク質としてUVSSAを同定し、ユビキチン化やSUMO化の重要性が再認識された。一方、維持DNAメチル化とダイレクトにリンクする新規ヒストンユビキチン化酵素が同定された。

審査部会における所見

A- (研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの成果があったが、一部に遅れが認められた)

1.総合所見

 本研究領域は、複製、修復、転写開始時のクロマチンリモデリングの比較と、修復と複製、及び修復と転写のカップリング機構を解明することで、三者に共通する普遍的な性質を見つけ出すことを目的としている。ベテラン研究者を中心に分野を代表する成果を上げており、研究領域全体としては着実に成果が上がっていると評価できる。
 一方、異なる専門性を有する研究項目間の有機的連携による画期的な成果の創出の点については、融合研究論文が少なく、新しい技術の創出や概念を打ち出すには至らなかったように思われる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 ベテラン研究者を中心に、各計画研究、公募研究ともに設定した目的の多くが達成されており、国際的にも評価されている。
 一方、計画研究の一部に遅れが認められ、研究項目A02については、研究項目名にもある「疾患」に関する研究が十分に進んでいないと感じられる。また、研究組織内の有機的連携もやや不十分で、融合研究論文が少ない点は、今後、研究領域を発展させていく上で改善の余地が見られた。

(2)研究成果

 計画研究、公募研究ともに着実に研究成果が出ており、進捗著しい諸外国の研究に遅れをとることがなかったという点で高く評価できる。しかしながら、ハイインパクトのジャーナルに掲載された論文数については、期待したほど多くない点がやや物足りない。

(3)研究組織

 ベテラン研究者に若手研究者を加えた計画研究と、それを補完する公募研究から構成され、バランスの良い研究組織が編成されている。
 一方、一部の計画研究では遅れが認められたことから、特に、中堅、若手研究者に関しては、総括班からの支援をより手厚く行うことが望まれた。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 各計画研究において一定のインパクトのある成果が上がっており、特にクロマチンリモデリング因子の研究は、がん治療や抗がん剤開発の分野への波及効果が期待できる。がん以外の疾患治療や、他の関連学問分野へ大きな波及効果を生むためには、今後の更なる展開を期待したい。

(6)若手研究者育成への貢献度

 シンポジウムやワークショップの開催を通じて、若手研究者の育成に力点が置かれており、昇進の実績も上がっていることから、一定の貢献が認められる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --