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癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築(赤司 浩一)

研究領域名

癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

赤司 浩一(九州大学・医学研究院・教授)

研究領域の概要

 癌は、国民の死因の半分近くを占める。本領域では「癌」領域に「幹細胞」コンセプトを導入することによって癌根治技術のパラダイムシフトを計る。腫瘍組織は、それを構成する癌細胞が均一な造腫瘍能を有しているのではなく、その一部を占める「癌幹細胞」が自己複製を行いながら浸潤・増殖し、すべての腫瘍組織を供給している。すなわち癌幹細胞こそが腫瘍の源である。癌幹細胞は、微小環境(癌幹細胞ニッチ)によって維持されており、癌克服のためには、種(たね)としての癌幹細胞と、それに対応する土壌としてのニッチの両方が治療標的となりうる。本領域においては、基礎・臨床の幹細胞領域研究者の視点と技術を統合して、各腫瘍領域における癌幹細胞を同定・分離、さらに人工的に作成し、癌幹細胞固有の性質と治療抵抗性に繋がる癌幹細胞ニッチの役割を明らかにする。これらの情報を基に、新たに癌幹細胞システムを標的とする腫瘍制御技術基盤を構築する。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 悪性腫瘍による死は、今や国民の死因の約半数を占める。難治性悪性腫瘍を根治せしめる新しい治療法開発の道を切り開くことは、すべての人々の願いである。癌克服へのパラダイムシフトを呼ぶものとして、「癌幹細胞」が注目を集めている。癌化とは、正常な細胞が癌幹細胞化した時点で成立し、癌幹細胞は腫瘍組織全体を供給しながら拡大・浸潤し宿主を滅ぼす。治療抵抗性が高い癌幹細胞を根絶することが「治癒」を意味し、一方で、 残存癌幹細胞の再活性化は「再発」、癌幹細胞の移動と局所への生着は「転移」を意味する。すなわち、癌幹細胞こそが腫瘍の源であり、治療の標的である。しかし、癌幹細胞に関する研究は世界的に始まったばかりであり、解決すべき課題が山積している。癌幹細胞は正常組織幹細胞と同様に、微小環境(癌幹細胞ニッチ)によって維持されており、癌克服のためには、種(たね)としての癌幹細胞と土壌としてのニッチ細胞の両方が治療標的となりうる。本領域研究では、基礎および臨床の癌幹細胞研究の世界的トップランナーが集結し、それぞれの視点と技術を統合して、様々な組織の癌幹細胞を同定・分離し、癌幹細胞固有の性質と治療抵抗性に繋がる分子メカニズムを明らかにし、新しい腫瘍制御技術の基盤を築く。さらに、癌幹細胞とそれを取り巻くニッチの維持に必須の分子を標的とした薬剤開発を視野に入れ、広い分野の癌研究を刺激し、生命科学の進歩と医療水準の向上に貢献することを目的とする。本領域研究は、癌研究、幹細胞研究、ニッチ研究が融合して初めて成立するものである。さらに、癌幹細胞根絶技術の開発という目的には、転写調節と遺伝子発現、エピゲノム、代謝など幅広い研究分野を統合し、新たな視点と多彩な手法による共同研究を推進することが重要である。その結果として、我が国の生命科学研究を牽引する研究組織となることが期待される。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本領域研究は、計画研究8課題と公募研究23課題、および総括班で組織構成された。最先端の解析技術やリソースを領域内で共同利用するシステムを総括班として構築し、共同研究を活性化させることで、当初計画した目標の達成度は概ね80%以上と良好な結果を得た。特に、癌幹細胞の生体内機能解析に必須な次世代高効率異種移植システムの共有、癌幹細胞およびニッチ細胞の遺伝子発現プロファイル解析の一元化、代謝およびプロテオミクス解析の一元化などは、領域全体のレベルアップと生産性の向上に大きく貢献した。結果として、20を超える共同研究が領域内で実施され、グループとして有機的な連携を計りつつ個々の目標を達成することが出来た。
 領域代表である九州大学・赤司の研究グループは、急性および慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群の癌幹細胞に特異的に発現するT-cell immunoglobulin mucin-3 (TIM-3)を同定し、リガンドであるgalectin-9を自己分泌することによって、癌幹細胞の生存と自己複製に必須なNF-kBシグナルおよびβ-cateninシグナルを誘導するというautocrine loopの存在を証明した(論文投稿中)。さらに、TIM-3は正常造血幹細胞には全く発現していないため、抗体療法の標的分子として最適であり(Cell Stem Cell誌)、臨床応用に向けた開発を進めている。九州大学・中山の研究グループは、白血病幹細胞が静止(G0)期に留まる分子メカニズムを解明し、それを破壊することで細胞回転に誘導し、抗癌剤感受性を高めるユニークな治療コンセプト(追い出し療法)を提唱した(Cell Stem Cell誌)。慶応義塾大学・佐谷の研究グループは、CD44vを介した消化器癌幹細胞の酸化ストレス制御機構を解明し(Cancer Cell誌)、その阻害薬による臨床試験を開始した。これ以外にも、領域内から多数の論文がトップジャーナルに掲載され、世界の癌幹細胞研究を牽引する組織と認識されるに至った。
 領域研究に求められるものは、単に研究成果を上げるに留まらず、当該学術領域を活性化し、特に若手研究者の育成を行うことである。本領域研究に参画した研究グループの若手研究者の動向として、日本学術振興会特別研究員DC・PDに採択された者が22名、海外留学した者が21名と、期待どおりの成長を遂げていることが窺えた。その他、大学助教として研究を続けている者、企業に研究職に就いた者などを含めると、50名以上の将来有望な若手研究者を排出したことになり、当該領域の今後の発展に十分寄与できたものと考えている。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 本研究領域は、我が国の癌幹細胞研究に先駆的な貢献を果たしてきた実績のある研究者が集まり、癌幹細胞とニッチの本態解明を目指した領域である。基礎生物学的な面では目標が達成され、一流学術誌における論文を含む十分な数の業績を刊行した。今後は、真の治療開発・実臨床への貢献へ向けた研究の展開を期待する。また、中間評価時に指摘のあった「治療戦略に向けての国際的な優位性の確保」については、治療に直結する分子の同定や癌幹細胞マーカーとして同定したCD44vの機能解明など、臨床応用を意識した成果も上がり、今後の治療への貢献に向けた研究の展開を期待したい。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 本研究領域は、癌幹細胞とニッチの本態解明を目指し、固形腫瘍を含む各種の癌において実際に癌幹細胞を同定し、次世代異種移植マウス等画期的な解析手技を開発するなど、顕著な成果を上げた。一つの大きなテーマとして取り上げた癌幹細胞ニッチによる幹細胞維持機構の解明では、静止期維持機構について重要な知見を得たが、ニッチ構成細胞解析についての研究達成度はまだ途上であり、今後に期待したい。また、具体的な臨床応用に踏み出した成果の2項目は高く評価できる一方で、"腫瘍根絶技術の構築"を謳う研究領域としては、必ずしも十分とは認められなかった。

(2)研究成果

 多くの研究成果が上げられ、評価の高い学術誌における論文を含む十分な数の業績を刊行していることは、高く評価される。

(3)研究組織

 本研究領域の主要な成果であるリソース、すなわち次世代異種移植マウス・人工幹細胞の共有、機器や解析技術の共同利用等で、計画研究同士の連携は十分図られたと評価できる。全ゲノム解析・発現プロファイル解析・プロテオーム解析等の具体的な拠点解析も、有効に機能したと推測される。
 一方、生体内癌幹細胞システムと人工癌幹細胞システムのグループ連携について、連携の成果がやや物足りない印象がある。

(4)研究費の使用

 購入された大型機器は研究計画に必須のものと認められ、総括班による管理の下で、共同利用等の工夫も適切になされ効果的に使用されている。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 個々の研究計画は成果を上げており、本領域研究が、癌幹細胞研究の発展に必須の貢献を果たしたことは論をまたない。腫瘍学と幹細胞学が融合した癌幹細胞学研究そのものが我が国に定着するためにも、本研究領域は十分な貢献を果たした。
 一方、解析技術開発・治療応用等の成果は、必ずしも顕著ではなく、関連学問分野にまで強いインパクトを与えたとは言えず、今後の展開を期待したい。

(6)若手研究者育成への貢献度

 相当数の若手研究者が計画研究?公募研究に参画し、研究期間終了後、適切なキャリアパスを形成できていることから、若手研究者育成への高い貢献が認められる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --