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食欲と脂肪蓄積の制御と破綻の分子基盤の解明(寒川 賢治)

研究領域名

食欲と脂肪蓄積の制御と破綻の分子基盤の解明

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

寒川 賢治(国立循環器病研究センター・研究所・研究所長)

研究領域の概要

 肥満及びそれと共に増加する糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病の重積の分子基盤として食欲及び脂肪細胞及び非脂肪細胞の脂肪蓄積の制御の破綻による細胞機能異常が想定される。これに起因してインスリン抵抗性、アディポサイトカインの分泌及び感受性の変化、慢性炎症、臓器連関の破綻などの多彩な機能異常が集積し、この広義の脂肪毒性(Adipotoxicity)の包括的解明が重要課題となる。一方、摂食障害等による「痩せ」を呈する疾患も社会的な問題である。本領域は、食欲と脂肪蓄積の制御の分子基盤と新規関連因子の発見と機能解明、及びその制御の破綻をもたらすAdipotoxicityの分子基盤を解明する。更に摂食障害などによる痩せの基盤病態解明も検討する。本領域の最終目標は、食欲と脂肪蓄積制御の分子基盤とその破綻の機序の解明により肥満と痩せの分子基盤と病態解明を通じて、これらの消滅に繋ぐことである。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 本領域の最終目標は下記2項目の研究の実施により、食欲と脂肪蓄積制御の分子基盤とその破綻の機序を解明し、肥満と痩せの病態解明を通じて、生活習慣病の予防や治療に繋げることである。
 A01「食欲と脂肪蓄積の制御における分子基盤の解明と新規関連因子の探索」は新規関連因子の探索のグループと、摂食・エネルギー代謝調節に関わる因子の機能解析のグループから成る。本領域のメンバーからグレリンや様々なアディポサイトカインなど、摂食・エネルギー代謝調節に重要な生理活性物質が発見され、食欲調節や脂肪蓄積制御の研究に大きな展開をもたらし、この分野の世界的な発展に寄与している。機能解析のグループでは、形態学、エネルギー感受機構、臓器間ネットワーク、転写因子、エピゲノムなどの解析により食欲調節や脂肪蓄積制御の分子メカニズムを明らかにする。
 A02「食欲と脂肪蓄積の制御の破綻における分子基盤の解明」は、食欲制御解析グループと脂肪蓄積制御解析グループから成る。肥満の慢性化は、中枢と末梢での摂食調節の破綻、脂肪細胞への過剰な脂肪蓄積、非脂肪細胞への脂肪蓄積を引き起こす。食欲制御解析グループでは、末梢や中枢のエネルギー代謝調節の分子機序を解明し、その破綻と肥満の発症および進行との関連を明らかにする。脂肪蓄積制御解析グループでは、脂肪細胞と、非脂肪細胞への脂肪蓄積に関する分子機構を解明する。
 A01とA02のグループは本領域で同定された新規物質の機能解析を進めるなど相互に密接に連携し合う。本研究は、摂食調節、脂質代謝、糖代謝、エネルギー代謝調節などで実績のある研究者が結集することで、脂肪蓄積制御の領域で世界をリードすることを目指す。また、公募研究で次世代研究リーダーを育成する。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 A01:探索グループは、ショウジョウバエで脂肪蓄積や摂食調節、インスリン分泌に関わる新規ペプチドやレプチンにより視床下部で発現調節される新規ペプチド、高脂肪食肥満動物でグアニリン/GC-Cシグナル系が脂肪蓄積に関与することを明らかにした。機能解析グループは、PPARγにより制御されるFSP27、脂肪細胞分化制御因子CDKAL1、ガラニン様ペプチドの肝臓における脂質代謝への関与、CRHニューロンにおけるAMPKによる食物の嗜好性の変化と肥満、CREBHのFGF21やPPARαとの相互作用、脳由来栄養因子の脂肪組織における役割、Bcl11b遺伝子の脂肪細胞分化機構、Gpnmbの脂肪肝園における保護作用、Sirt7の肝臓内脂肪蓄積への作用などを明らかにした。
 A02:食欲制御解析グループは、高脂肪食による腸管炎症の迷走神経による中枢への情報伝達、摂食調節に機能する新規ペプチドとインスリン分泌促進に機能するペプチドの同定、交感神経系を介した白色脂肪特異的なネスファチン/NUCB2遺伝子発現機構と肥満症発症への関与、幼若期オキシトシンシグナルの成熟後のエネルギー代謝亢進への寄与、TLRシグナルのアダプター分子TRIFの高脂肪食摂餌時の視床下部炎症及びレプチン抵抗性の発症への関与を明らかにした。脂肪蓄積制御解析グループは、新たなアディポネクチンの機能と病態への関与、PGC1α新規アイソフォームの脂肪燃焼の制御での機能、レプチンの膵臓内脂質蓄積減少作用とGLP-1作用増強作用、MC4R欠損マウスを用いたNASHモデルの解析、マイオスタチン等のTGF-βファミリーによる筋脂肪相互作用解析、iPS細胞由来脂肪細胞移植による脂肪萎縮症治療、レプチンの肝臓におけるAMPK活性化作用などを明らかにした。

審査部会における所見

A- (研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの成果があったが、一部に遅れが認められた)

1.総合所見

 本研究領域は、生理学的なエネルギー代謝だけでなく、肥満や食欲に伴う様々な疾患の理解と治療法の開発に重要である。新規生理活性物質の解析や単離同定により、新学術領域としての発展が見られ、優れた成果が上げられていることは評価できる。個別に発展した研究課題や研究者の交流を促進した意義は認められる一方で、インパクトのある新規物質の同定や研究領域としての統括的なメッセージ、すなわち、臨床的・社会的に問題になっている生活習慣病解明に向けたメッセージの発信は十分とは言えず、今後の進展に期待したい。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 研究項目A02の目的である、「食欲と脂肪蓄積の制御の破綻における分子基盤の解明」については、優れた成果が得られ、中枢から末梢に関しての様々な現象・因子の研究をカバーしており、臨床応用も視野に入れた研究も多く、今後更なる進展が期待できる。
 一方、本研究領域のもう一つの柱である研究項目A01の目的である、「新規関連因子の探索」では、研究期間内に新規因子の同定及び機能解析について、成果発表に至っておらず、今後の進展に期待したい。

(2)研究成果

 優れた研究成果が多く得られた。論文発表に至らなかった研究計画も一定の成果を得ており、今後の研究成果につながるものであった。計画研究で248編、公募研究で288編、合計536編の論文を発表しており、この分野をリードする多くの成果が生み出されている。また、研究領域内の共同研究による論文も74件と数多く発表されており、領域としてのシナジー効果も十分発揮されている。今後、ヒトへの応用も期待される研究も多く、更なる発展が期待できる。

(3)研究組織

 本研究テーマに関し、国内で期待できる最高の研究者が結集した、非常にレベルの高い研究者集団であった。異分野の人材が集まったことにより、互いが相補的な役割を担う機能的な共同研究が成立した。
 一方、研究項目A01及びA02間の相互分析から得られることが期待される生活習慣病解明及びその対応法に向けた統括的メッセージの創出のための体制作りに、より重点を置くことが望まれた。

(4)研究費の使用

 特に問題はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 我が国で期待できる最高レベルの研究者が集まったことにより、当該学問分野の全体像を見せることができた。個々の研究の発展に留まらず、それらの研究グループの相互関係を強化することにより、当該学問分野の更なる発展に大きく貢献すると期待される。

(6)若手研究者育成への貢献度

 若手研究者の交流や、積極的に若手研究者の研究課題を採用することによって、近い将来、当該学問分野のリーダーとなるべき人材を複数育成することに成功した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --