血管-神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構(高橋 淑子)

研究領域名

血管-神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

高橋 淑子(京都大学・大学院理学研究科・教授)

研究領域の概要

 脊椎動物がもつ高次の生命機能の獲得と維持には、血管系および神経系の正しいネットワークの確立が重要である。個体発生や組織再生の過程において、これらのネットワークはお互いを必要としながら形成される(血管-神経ワイヤリング)と考えられるが、その成立機構はほとんどわかっていない。本領域では、生体内における血管-神経ワイヤリング機構の理解に向けて、(1)両者間のクロストークを生み出す細胞挙動(増殖、分化、移動など)と、(2)クロストークを支える分子実体に焦点を当て、分子レベルから細胞・器官レベルまでを包含する多次元的研究を行う。血管生物学と神経科学との学術融合を基軸とする本領域研究は、異分野横断型研究の先駆的モデルとなり、これまで未解明であった病態発症機構の理解に貢献すると期待される。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 脊椎動物がもつ高次の生命機能の獲得と維持には、血管系および神経系の正しいネットワークの確立が重要である。個体発生や組織再生の過程において、これらのネットワークはお互いを必要としながら形成される(血管?神経ワイヤリング)と考えられるが、その成立機構はほとんどわかっていない。その理由として、従来の血管研究と神経研究が、それぞれ「異なる学問領域」として別々に発展してきたことが挙げられる。本領域では、生体内における血管?神経ワイヤリング機構の理解にむけて、研究項目[A01]において両者間のクロストークを生み出す細胞挙動(増殖、分化、移動など)をあぶり出し、研究項目[A02]で、それらのクロストークを支える分子実体の解明をめざす。モデル動物横断的に、血管と神経の同一個体内ライブイメージング技術を基盤として、分子レベルから細胞・器官レベルまでを包含する多次元的研究を行い、血管-神経ワイヤリングの基本原理に迫る。
 「血管-神経間の“リンク”を読み解くことこそが、それぞれの分野で未解決の問題にブレークスルーをもたらすはずである」と考え、これらの問題意識を発展させて「血管-神経ワイヤリングバイオロジー」の創出を目指す。血管生物学と神経科学との学術融合を基軸とする本領域研究は、異分野横断型研究の先駆的モデルとなることが期待される。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 血管-神経ワイヤリング機構の解明をめざして、研究期間の前半は、主に血管-神経の同時可視化法の開発と、バイオリソースの整備に取り組んだ。そして研究期間後半には、これらバイオリソースを領域内で共有し、血管-神経ワイヤリング制御機構の解析を進めた。血管分野と神経分野との融合、そして研究項目[A01]と[A02]との連携を促進すべく、領域運営を行った。その結果、血管-神経ワイヤリングにみられる作用シグナルは、個体内において時・空間的に厳密な制御を受けていることがわかった。そしてその制御を理解するための一定の共通原理がみえてきた。
 未分化神経細胞の初期分化過程(細胞移動や軸索伸長など)では、主に血管性のシグナルが神経細胞に働く(Science, 2012; Science, 2013)。しかし一旦神経組織が形成されると、神経由来のシグナルが血管パターンを規定する。そしてVEGFに代表される血管成長因子の濃度勾配を生み出す新規細胞機能が見出された(Cell, 2014)。血管-神経ワイヤリングにおける血管内皮細胞や壁細胞、そして神経軸索やグリア細胞の特異的役割が次々と明らかにされた。
 これらの基本原理は、脳障害後の神経再生や修復過程においても適用されることから、本領域の成果が再生医療の技術開発へと道を開くことが期待される。また本領域研究から、さらに多臓器間ワイヤリングへと発展する萌芽研究が生まれるなど、学際融合研究のさきがけとして学術コミュニティに刺激を与えたものと確信する。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 神経研究と血管研究という共に成熟した研究分野の融合を図り、新しい潮流を生んだことは高く評価できる。
 神経研究と血管研究の2つの研究分野の研究者たちが、血管―神経ワイヤリングの研究分野創成のために存分に能力を発揮できるよう、主導して環境を整えた総括班の働きは高く評価できる。若手研究者の多くが昇進したり、異分野の研究室に移動したりと、新学術領域が目指す若手研究者育成や他の研究分野への波及効果という点でも高く評価できる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 神経研究と血管研究という共に成熟した研究分野の融合を図り、新たな潮流を生もうとする本研究領域の提案は極めて挑戦的であった。設定された目的への達成度は極めて高く、綿密な研究戦略によって各研究計画が遂行され、中間評価における指摘以外にも特定目的の遂行のために研究組織が自ら成熟していった印象を受ける。2つの異なる研究分野の融合を図るため、班会議で計画研究代表者らのアイスブレーキングを図る工夫、本研究領域内の共同研究の数、研究領域全体の成熟度に合わせた公募研究者の入替えなど、領域代表者の強いリーダーシップが発揮されている。多くの国際誌への研究発表、血管―神経ワイヤリングが国際的な潮流を生むに至ったこと、それを若手研究者に体験させて研究者育成に努めたことは極めて高く評価される。

(2)研究成果

 各計画研究が極めて高い質の複数の論文発表に結びついている。また、研究期間の後半にシンポジウムを複数回行い、本研究領域の研究成果の公表を行っている点も高く評価できる。

(3)研究組織

 神経研究と血管研究の2つの領域の研究者たちが、血管―神経ワイヤリングの研究分野創成のために存分に能力を発揮できるよう、総括班が主導して環境を整えた。この体制が、各計画研究の進捗に大きく貢献したと考えられる。特に、共有のリソースの構築、計画研究代表者と公募研究代表者の共同研究数は高く評価できる。

(4)研究費の使用

 特に問題はない。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 2つの成熟した研究分野を融合させ、新しい潮流を生んだことは高く評価できる。今後は、基礎的側面から応用分野に展開していくことが期待される。

(6)若手研究者育成への貢献度

 若手研究者の多くがステップアップし、また、異分野の研究室に移動しており、若手研究者育成への高い貢献が認められる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --