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生命応答を制御する脂質マシナリー(横溝 岳彦)

研究領域名

生命応答を制御する脂質マシナリー

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

横溝 岳彦(順天堂大学・大学院医学研究科・教授)

研究領域の概要

 本領域では脂質メディエーター研究をリードする若手独立研究者でAll Japan体制の計画班を構成し、「様々な生命応答における脂質メディエーターの代謝マップの作成」、「脂質メディエーターの種を超えた普遍的な機能の解明」、「新規生理活性脂質の発見」、「脂質メディエーター関連タンパク質の遺伝子異常と関連する疾患の同定」を目指す。班員間で遺伝子、抗体、遺伝子改変マウスなどの研究リソースを共有化するとともに、質量分析、ゼブラフィッシュやマウスなどのモデル動物作成、遺伝子発現プロファイル解析、ヒトSNP解析を支援する4つのセンターを設立し、領域内の研究と相互連携を推進する。線虫からマウスにいたるモデル生物とヒト遺伝子までを解析対象とした幅広い視点からの脂質研究を横断的に展開し、生命応答を制御する脂質マシナリーの全貌解明をめざした新しい学術領域を創成する。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 領域の目的:本領域では複数の研究支援センターの構築により研究者間の技術・リソース・情報を共有し、モデル生物を用いた新規脂質メディエーター機能発現の新規機構からヒトの疾患までを研究対象とすることで、脂質メディエーターの種を超えた普遍的な機能を見いだす。具体的には、
1. 脂質メディエーターのフロー(産生・代謝・受容)を総合的に解析してそれぞれの生命応答に固有の代謝マップを構築する。
2. 多様なモデル動物を利用することで種を超えた脂質メディエーターの普遍的かつ新しい機能を見いだす。
3. 臨床リソースを活用し、脂質メディエーターフロー異常がもたらす疾患の同定と治療に向けての理論基盤を確立する。
 領域の意義:脂質解析センターをはじめとした支援センターや実験手技、リソースを共有することで、研究室の枠を越えた横断的な「脂質研究」を行うことが可能になる。脂質以外の研究を行ってきた研究者を領域に取り込み脂質研究のサポートを行う事で、モデル生物、研究対象を拡大した脂質研究が可能となる。ヒト臨床検体の脂質分析、脂質関連分子の遺伝子のSNPs解析を行う事で、ヒト疾患に関わる脂質代謝、輸送、受容の異常を明らかにし、将来の新規治療法への基礎を構築できる。脂質解析技術や知識を広く普及させることで、他領域の研究者に脂質の重要性を認識させ、新しい生命科学研究領域の開拓が行える。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 多数の医学研究者、生物学研究者、有機合成化学研究者を班員として迎え、積極的な領域内共同研究を行い、脂質解析のサポートを普及を行う事に成功した。具体的な研究成果の一部を以下に示す。
1. 脂質メディエーターのフロー:脂肪酸12-HHTの受容体を同定し、血小板が産生する12-HHTが創傷治癒を促進することを見いだした。PGE2とその受容体が、急性炎症、脂肪分解、癌の微小環境形成を促進すること、PGD2がマスト細胞の分化に必須であることを見いだした。新規抗炎症脂質17,18-EpETEを発見した。スフィンゴシン1-リン酸の産生に関わる全ての酵素遺伝子を同定し、その受容体が血管内皮バリアインスリン感受性の維持に必要であることを見いだした。
2. 多彩なモデル生物:リゾリン脂質、プロスタノイド、ロイコトリエンの産生酵素と受容体がゼブラフィッシュで保存され、発生や血管形成に必須であることを見いだした。ショウジョウバエにおけるスフィンゴ脂質代謝の重要性を見いだした。
3. 臨床リソース:PGE2がペラグラ皮膚炎を悪化させていること、血清エイコサペンタエン酸・アラキドン酸(EPA/AA)比と心血管病の発症リスクとの間に負の関連があること、EPA/AA比の低下が悪性腫瘍による死亡の有意な危険因子であること、好酸球性膿疱性毛包炎の毛包脂腺周囲への好酸球浸潤にPGD2-PPARγ経路が関わることを見いだした。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 本研究領域は、脂質メディエーターのフロー(産生・代謝・受容)の総合的解析による代謝マップの構築、多様なモデル生物の利用による脂質メディエーターの普遍的機能の解明、脂質メディエーターフロー異常を原因とする疾患の同定と治療に向けての理論基盤の確立、の3つの目的達成を目指すものである。これらの目的について、領域内共同研究を含めて着実に研究を進め、顕著な成果を上げており評価できる。研究組織の運営や連携にも問題はなく、また若手研究者育成への貢献も認められ評価できる。今後、本研究領域がその形成に寄与した「Lipid Immunology」研究分野や臨床への波及効果が期待できる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 若手研究者を中心とした脂質研究者により研究組織を構成し、「脂質マシナリー」という視点から、脂質メディエーターに関して設定した3つの目的について研究を進め、着実に成果を上げており、高く評価できる。また、総括班で高感度質量分析機を研究領域組織内で共用する仕組みを立ち上げ、これによって多くの成果を上げた点も評価できる。個々の研究者のこれまでの研究の延長線上を越える発展があったかという点については、やや物足りないが、総じてこの重要な研究分野の研究基盤の確立に貢献したことは評価できる。

(2)研究成果

 研究領域内共同研究が進み、複数の顕著な研究成果を上げており、高く評価できる。また、脂質研究領域と免疫研究領域の融合による、「Lipid Immunology」とも呼ぶべき新しい研究分野の形成に寄与したことも評価できる。
 一方、研究対象がやや各論的に感じられ、脂質研究で残された本質的な問題が何かを提起し、それを解決するような画期的な成果、コンセプトの提出という点ではやや物足りない。

(3)研究組織

 研究組織の運営や連携に問題はなく、評価できる。
 一方、体制面で酵母や植物などのモデル生物の研究者や、新規脂質メディエーターの研究に大きな役割を果たすと考えられる有機合成の研究者の参画が限定的であり、より幅の広い研究者の参画が望まれた。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 今後、本研究領域が形成に寄与した「Lipid Immunology」研究分野などの関連学問分野や、臨床への波及効果が期待できる。

(6)若手研究者育成への貢献度

 若手研究者の中核への登用や、多数のアカデミックポジションの獲得など、貢献が認められる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --