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感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換(畠山 昌則)

研究領域名

感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

畠山 昌則(東京大学・大学院医学系研究科・教授)

研究領域の概要

 胃がん、肝がん、子宮頸がんなど主要なヒトがんは発がん微生物の持続感染を基盤に発症する。これら感染がん発症には、各々の発がん微生物に固有のがん遺伝子/がんタンパク質による感染細胞の自律的な腫瘍化促進に加え、宿主の免疫応答を起点とする炎症により感染局所に図らずも築かれる「アポトーシス回避、自律増殖、ゲノム不安定性等を感染細胞に賦与する生体内がん微小環境」がきわめて重要な役割を果たす。このような発がん促進環境下で、将来がんとなる感染細胞はがん化に必要な複数の遺伝子変異獲得に向けた連鎖的悪循環(=発がんスパイラル)に陥ると考えられる。本研究では、発がん微生物の感染およびそれに伴う免疫・炎症が感染局所に築き上げる発がん促進の場としての「がん微小環境」ならびに「発がんスパイラル」の本態を分子レベルで解明するとともに、免疫の人為的制御による発がんスパイラルの遮断をがんの革新的予防・治療法に結びつける。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 本領域は、発がん性の慢性炎症が構築する“がんの発症・進展を促す生体応答の負の循環スパイラル(=発がんスパイラル)”の本態を解明するとともに、「発がんスパイラル」の人為的制御を通してがんの発症・進展を阻止する宿主応答を誘導・賦活化する手法の樹立を目的とする。とりわけ本領域研究では、発がん微生物という外的要因を基盤とし、感染局所における慢性持続性炎症を背景に発症する感染がんにおいて、微生物側因子が宿主細胞のがん化を直接的に促進する分子機構を解析すると同時に、感染が慢性炎症を構築・持続させる細胞間・分子間ネットワークの免疫学的・細胞生物学的特性を構造生物学的レベル、細胞内・細胞間相互作用を担う生化学的ネットワーク機構、さらにはマウス遺伝学的手法を中心とする個体レベルに至る多階層的な研究を通して解明し、がんの発症・進展を支える宿主応答としての「発がんスパイラル」の形成・維持機構を明らかにする。同時に、がん治療現場へのトランスレーションを見据えた宿主応答を人為的に修飾するためのDrug Delivery System (DDS)の開発を進め、新たな発がん原理とDDSを組み合わせることにより、「発がんスパイラル」に直接介入しがんに対する宿主免疫応答のベクトルを「発がん促進」から「がん抑制」へと変換させる革新的ながんの予防・治療法確立につなげる。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本領域研究を通して、微生物感染と炎症、発がんをつなぐ生体応答の理解が大きく進展した。とりわけピロリ菌による胃がん発症機構、HTLV-1による成人T細胞白血病の発症機構に関しては世界をリードする優れた研究成果が生み出された。また「発がんスパイラル」の本態が、発がんシグナルと炎症シグナル間の相互増強作用であることを明らかした点も特筆すべき成果といえる。さらに、腫瘍関連マクロファージががんの発症・進展を正あるいは負に制御するサイトカインネットワークの解明、自然免疫受容体によるがん細胞認識機構の発見、がんの増悪・進展における危険関連分子パターン(DAMP)の役割解明等を通して、自然免疫と「発がんスパイラル」を繋ぐ多くの新知見がもたらされた。こうした研究を背景に、サイトカイン血症を回避しつつ腫瘍を退縮させる世界初の抗がんワクチンアジュバント、ARNAX、が開発された意義は大きい。並行して、抗がんワクチンアジュバントやsiRNAの優れたキャリアとなるカチオン性CAナノゲルの新規開発に成功するとともに、腫瘍関連マクロファージへの送達を目的とした超音波応答性マンノース修飾バブルリポソームの作成やNF-?Bデコイの送達法の樹立、核酸ハイドロゲルの創出等を通して、「発がんスパイラル」を標的とするDSS技術の開発が大きく進展した。これら一連の成果から、「発がんスパイラル」の本態解明とその人為的制御によるがん抑制法開発への道を開く、という本領域の目標は達成されたものと考える。

審査部会における所見

A- (研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの成果があったが、一部に遅れが認められた)

1.総合所見

 本研究領域は、感染を背景とするがんの本態解明を通して、炎症・免疫を巻き込んだ多段階発がんのプロセス (発がんスパイラル)を解明すると同時に、がんの免疫微小環境の理解を進め、抗がんから制がんへのベクトル変換による新規治療を臨床にトランスレートすることを目指したものである。H.pylori, HCV, HTLV-1を起点とした「発がんスパイラル」という概念の分子基盤解明に対する貢献は大きく、個々の研究では論文発表、特許出願、報道での情報発信など、積極的な研究成果が見られる。
 一方、研究領域全体としては、一部に遅れが認められた。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 「発がんスパイラル」を遮断する技術を確立して、革新的ながん治療開発を目指し、計画研究・公募研究ではH.pylori (CagA), HCV, HTLV-1に関わる分野で特に大きな成果を上げたが、異なる感染源から発がんに至る共通の現象の発見など、分野融合により期待された成果は限定的であった。研究成果の臨床へのトランスレーションに関してはシーズ提示に留まり、今後の展開が期待される。

(2)研究成果

 特記すべき成果としては、CagA-SHP2複合体の同定、HBZのHTLV-1関連病態への寄与の解明、HCVと肝星細胞の相互作用によるサイトカイン産生の証明、及びNoxo1依存的ROSの胃がん発生への寄与の証明である。当初掲げられた予防・治療における臨床へのトランスレーションに関しては、HMGB1阻害剤及びナノゲルDDSの開発で一定の成果があったが、炎症性発がんの候補因子など、まだ不明な点も多く、今後の展開が望まれる。

(3)研究組織

 計画研究と対応する公募研究が、目的や発想の切り口を共有して有機的に連携している点が評価できる。遺伝子改変マウス作出技術等の相互供与は、研究課題を超えて活発に行われており、組織の利点を活かして各計画研究及び公募研究が大いに発展したと思われる。中間評価で指摘があった、DDS技術開発に向けた工学系・非医学系研究者の層を厚くすることについて、もう少し具体的な対応が望まれた。

(4)研究費の使用

 共同利用等にも十分留意されており、研究目的に合致した適正な使用である。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 感染・炎症を背景とする発がん機構の理解を着実に進展させたことに加え、関連学問分野への発展性の顕著な成果が得られたことが高く評価される。CagA含有エキソソームの虚血性心疾患等への関与、APOBEC1などの遺伝子編集酵素の多様性、及び自然免疫系に関与する可能性のある新しいlncRNAの発見等は、感染がん以外の学問分野にもインパクトを与えた。
 一方、DDS開発やワクチンのアジュバントデザイン等についての技術革新は限定的であった。

(6)若手研究者育成への貢献度

 多数の若手研究者が本研究領域の成果等に貢献し、各自の進路を確立したことは評価できる。しかし、研究領域内の連携した若手教育プログラムが無いことなど、統合的教育の視点がやや見えにくい部分もあった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --