細胞機能と分子活性の多次元蛍光生体イメージング(松田 道行)

研究領域名

細胞機能と分子活性の多次元蛍光生体イメージング

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

松田 道行(京都大学・大学院生命科学研究科・教授)

研究領域の概要

 緑色蛍光蛋白の発見は生物学に大きな変革をもたらしつつある。本研究領域は、進展著しい蛍光生体イメージング技術に基づき、動物が「生きたまま」の状態で、リンパ節や血管を含む「深部組織に光を照らし」、細胞周期や分子活性などの「機能情報を可視化」する。この時間・空間・機能の多次元イメージング技術を駆使し、様々な生命現象や病態の解明に新しい視点から挑戦する。本研究領域は蛍光バイオセンサー開発や顕微鏡観察技術に実績のある研究者と、異なった研究分野で生命現象や病態の解明を目指してきた新進気鋭の研究者とが一致協力し、生命の神秘に新たな光を照らすヴィヴィッドライフサイエンスを目指すものである。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 2008年および2014年度のノーベル賞に象徴されるように、蛍光生体イメージング技術の進歩には括目すべきものがある。様々な光学的特性をもつ蛍光蛋白が出現し、新しい動作原理の蛍光分子プローブが開発され、細胞周期や情報伝達分子の活性状態など、これまで生化学的にしか知ることのできなかった分子や細胞の機能情報が可視化できるようになった。Gタンパク質バイオセンサーRaichu、細胞周期センサーFucciの開発など、本邦はこの方面で世界に誇る実績を有している。また、蛍光生体イメージング技術の急速な発展は単に蛍光プローブの進歩のみならず顕微鏡の進歩に負うところも非常に大きい。本邦は四大光学顕微鏡メーカーのうち二社を有し、光学顕微鏡を用いた研究はお家芸の一つである。一方、免疫系や骨組織における二光子励起顕微鏡イメージングを用いて、生体内での細胞社会をリアルタイムに可視化する研究も大きく進歩しており、時間、空間、機能と多次元的に観察することが可能になった蛍光イメージングは、革命期を迎えている。本研究領域の目的は、蛍光バイオセンサーの開発および高度な顕微鏡イメージングに実績のある研究者と、様々な研究分野において生体イメージングを駆使している新進気鋭の研究者とが分野横断的に合力し、多次元蛍光生体イメージングを基礎にするヴィヴィッドライフサイエンスの創成を図ることである。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 総括班では、内部報告会や国内外シンポジウムの開催を通して、領域内の共同研究の促進および研究成果の発信を行った。また若手育成のための夏合宿、ほぼ毎月開催された技術講習会、500件を超す研究資材の配布等を通して、蛍光生体イメージング領域の発展を図った。研究項目A01「蛍光バイオセンサーと生体イメージング技術の高度化」においては、生きたマウスにおいて情報伝達分子の活性を可視化する技術を確立したほか、新規の蛍光タンパク質の発見やレチノイン酸の濃度を測定するバイオセンサーの開発といった成果を上げた。また、補償光学系を用いた多光子顕微鏡を開発し、深部脳組織のイメージングを可能する一方、マクロからミクロまでシームレスに観察することができる顕微鏡の開発にも成功した。さらに公募班員間の顕著な共同研究の成果として、超解像イメージングプローブの開発もあげることができる。研究項目A02「多次元蛍光生体イメージングによる生命現象の解明」の成果として、Bmpシグナルによる血管新生機構の解明、破骨細胞の分化におけるS-アデノシルメチオニンの意義の解明、Bリンパ球の胚中心反応のための細胞分化の時空間制御機構の解明等を上げた。なお、これらの研究は研究項目A01の研究者との共同研究にて行われ、免疫、骨代謝、血管発生といったそれぞれの研究領域において、先端的蛍光生体イメージ技術が優れた生命科学研究に資することを示した。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 本研究領域は、日本における生体イメージング研究を大きく進展させ、開発したイメージング技術を用いて生命現象の解明に取り組み、多くの業績を上げた。研究成果の公表に関しても、国際シンポジウムを成功させるともに、多くのイメージング講習会を開催することで、イメージング技術の普及・発展に取り組んだ。今後、技術開発やリソースの共有にとどまらず、更なる有機的な共同研究へと展開していくことが期待される。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 国内のイメージング研究者がグループを作ることでイメージング研究を推進し、その結果、当初設定した目的は、技術開発を進める計画研究及び先端的イメージングにより、医学生物学上の新発見を目指す計画研究ともに、十分達成されたと考えられる。特に、FRETバイオセンサー、プローブ開発、極深度二光子蛍光イメージングなどの技術開発に関しては、大きな成果を上げた。

(2)研究成果

 いくつかの重要な研究成果が得られたことは高く評価できる。さらに、研究成果の公表に関しても、二回の国際シンポジウムを開催し、高い評価を得た。国内シンポジウムや若手ワークショップに加え、多くのイメージング講習会を開催したことは特筆に値する。
 一方、得られた研究成果が新学術領域として活動した直接的な成果であるか分かりにくく、他の大型研究費との差別化をより明確にすべきであった。イメージング研究で残された本質的な問題を提起し、それを解決しうる画期的な結果が得られたかについては、少し疑問が残る。また、今後は技術開発にとどまらず、サイエンスとしての新発見となるブレイクスルーが多数創出されることを期待する。

(3)研究組織

 特に問題なく共同研究・連携が行われたと評価できる。一方で、共同研究に関しては、リソースや技術の提供が主体であり、有機的な連携による共同研究が少ないように見受けられる。

(4)研究費の使用

 特に問題はない。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 イメージング技術の普及・発展に多くの成果を上げており、生命科学研究に多大な波及効果があったことは明らかである。
 一方、本研究領域の活動の新領域創成への貢献については、今後に期待したい。

(6)若手研究者育成への貢献度

 若手の計画研究代表者等が教授に昇進するなど、若手研究者のキャリア支援への貢献度はあったと認められる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --