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がん微小環境ネットワークの統合的研究(宮園 浩平)

研究領域名

がん微小環境ネットワークの統合的研究

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

宮園 浩平(東京大学・大学院医学系研究科・教授)

研究領域の概要

 がん微小環境には線維芽細胞をはじめ、炎症細胞、免疫細胞、血管、リンパ管に加えて結合組織が存在し、ダイナミックに変動する特徴的な環境を構築している。がん治療においてはがん組織をがん細胞のみを標的としてとらえるのではなく、がん組織全体として理解し、その悪性変化を時空間的に捉えることにより、革新的な制御機構の開発が可能となると考えられる。本研究領域では腫瘍生物学の研究者に加えて、生体イメージング、ゲノム科学、生体材料学など様々なバックグラウンドを持った専門家が集まり、がん微小環境のダイナミズム、がん幹細胞と微小環境、血管・リンパ管新生、転移の分子機構と治療戦略という4つの側面から研究を推進する。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 がん細胞の増殖にはこれを取りまく微小環境が極めて重要であることが指摘されて来た。がんの間質は線維芽細胞をはじめ、炎症細胞、免疫担当細胞、血管、リンパ管に加えて結合組織が存在して特徴的な微小環境を構築している。「がんには個性がある」と言われるように、がんをとりまく微小環境もきわめて多様である。がんの増殖・浸潤・転移のしやすさは、がん細胞自体のもつ特性のみならず、がん細胞と微小環境との相互関係が深く関わっている。しかしがん微小環境の重要性が注目されているにも関わらず、これを多角的かつ統合的にアプローチしようという試みはなされてこなかった。
 がん微小環境に関する研究には多様なバックグラウンドを持った研究者が結集することがきわめて重要である。こうした研究者が密接な連携のもとに研究を行うことによって新たな展開が生まれ、学術的にも飛躍的な発展が望まれると期待されることから本領域を設定し、推進した。
 本研究領域では、がん微小環境のダイナミズム、がん幹細胞と微小環境、血管・リンパ管新生研究の新展開、転移の分子機構と治療戦略の4つの項目に焦点を当てて研究を推進している。本研究領域では腫瘍生物学・分子生物学の研究者に加えて、薬学、臨床医学、生体イメージング、ゲノム科学、生体材料学など、様々なバックグラウンドを持った専門家が集まり有機的な連携を計りながら、領域全体でこの分野の研究を飛躍的に発展させることを目指した。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本領域は順調に研究が進展し、領域全体で英文原著論文613報を発表、特許出願は18件、マスコミに延べ62回取り上げられた。本領域では、次世代シークエンサーの技術の共有により、がんの悪性化に伴いがん細胞やがん微小環境構成因子において起こる分子生物学的変化をゲノムワイドで理解できるようになり、イメージングの技術によってがん組織のダイナミックな変化を個体レベルで観察できるようになった。
 宮園浩平はTGF-βファミリーの因子や下流因子の作用を次世代シークエンサーなどを駆使して明らかにし、とくに上皮?間葉転換の分子機構の解明について研究を行った。またリンパ管新生におけるBMP-9の作用の重要性を明らかにした。
 秋山徹は神経膠芽腫および大腸がんの幹細胞にRNAiライブラリーを導入することにより、TET1など造腫瘍性に重要な遺伝子を明らかにした。
 高倉伸幸は血管成熟化因子アペリンや、腫瘍ストロマ細胞によるがん幹細胞の幹細胞性維持機構を明らかにした。
 佐藤靖史はバゾヒビン(VASH)ファミリーに関し、VASH1は腫瘍血管新生の抑制を介してがんの発育や転移の制御に重要であること、VASH2は腫瘍血管新生を介して発がんと腫瘍発育を促進することを示した。
 矢野聖二は肺がんにおいて腫瘍内線維芽細胞が産生する肝細胞増殖因子HGFがEGF受容体阻害薬耐性を誘導すること、HGF受容体に対する阻害薬を併用することで耐性を解除できることを明らかにした。

審査部会における所見

A- (研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの成果があったが、一部に遅れが認められた)

1.総合所見

 がん微小環境を統合的に理解することで、革新的な治療技術開発を目指した研究領域である。各計画研究では十分な研究成果が報告されており評価できる一方で、異分野連携については、まだ十分な成果として見えておらず、今後の展開を期待したい。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 がん微小環境を構成する主な細胞集団を対象とし、異分野連携による多角的な解析技術を駆使してそのネットワークを統合的に理解することで、革新的な治療技術開発を目指した研究領域である。各計画研究では十分な研究成果が報告されており、分野によっては当初設定された目標を越える業績も認められ、評価できる。
 一方、がん微小環境を制御する革新的な治療技術の具体的なシーズ探索の方向性はまだ定まっておらず、今後の展開を期待したい。

(2)研究成果

 計画研究の分野においては、着実な研究成果が上がっており、多くのレベルの高い論文を発表したことは特筆に値すると考えられる。研究期間終了後も継続して行われているものもあり、本領域での取組みの成果として今後に期待したい。また、英文論文発表のみならず、総合的にホームページやニュースレターを用いた情報発信を行ったことは高く評価でき、新聞公表やアウトリーチ活動など、社会的な貢献も積極的に行われた点も高く評価できる。

(3)研究組織

 各プロジェクトを越えた共同研究で多数の論文発表を達成していることは評価できるが、研究領域内での連携についてはまだ十分な成果として見えていない。若手研究者の育成に関しては積極性が感じられる。

(4)研究費の使用

 物品費の支出は概ね適切であると思われる。人件費の支出が特定の研究者に偏っている傾向があるものの、各研究室での人材育成等の状況が様々であることを鑑み、概ね適切であると考えられる。高額機器の購入と研究者間での共有は、適正に効率よく行われていた。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 がん微小環境研究は、海外でも高い注目度を有する分野であり、本研究領域の個々の研究成果はその病態や分子機構の解明に極めて重要である。
 一方、「がん微小環境ネットワークの統合的研究」に焦点を絞った場合に、新しい成果というよりも、従来の研究手法・研究展開の枠での研究が主であったと感じられる。がん微小環境制御の研究での新しいアプローチについて、今後の展開を期待したい。

(6)若手研究者育成への貢献度

 若手研究者の短期海外派遣や英文論文発表が積極的に指導されており、学会関連の受賞も多く、若手研究者の育成に関しては十分に成果を上げている。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --