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電磁メタマテリアル(迫田 和彰)

研究領域名

電磁メタマテリアル

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

迫田 和彰(物質・材料研究機構・先端フォトニクス材料ユニット・ユニット長)

研究領域の概要

 自然界に存在する物質は多種多様であるが、屈折率は常に正である。しかし電磁波の波長よりも小さな人工構造(サブ波長構造)を利用すれば、屈折率を負にデザインすることもできることがわかってきた。この場合、電磁波の伝搬方向とエネルギーの流れが逆になるなど異常な電磁応答が現れる。一般にサブ波長構造を工夫することによって実現される有効誘電率と有効透磁率により、異常な電磁応答を引き起こす人工構造物を電磁メタマテリアルと呼ぶ。本領域ではこれらの人工構造物を新しい電磁・光学機能性材料として捉え、マイクロ波から光波までの電磁波に対して研究を行う。特に、新概念の創出、設計手法・数値計算・作製技術の開発、新奇物理現象の解明を有機的に結合し、我が国がリードするメタマテリアルの新分野を確立する。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 物質中の電磁波の伝搬を記述するマックスウェル方程式には誘電率と透磁率が登場する。ここに現れる電磁場は、原子や分子のスケールよりは大きく、対象とする電磁波の波長よりは小さいスケールで平均を取った(粗視化した)巨視的電磁場である。光波の場合について言えば、最先端のナノ加工/ナノ組織化技術を用いると、原子や分子のスケールよりは大きいものの、光の波長よりは小さい人工物、すなわち、メタマテリアルを作ることができる。あるいは、マイクロ波を対象とする場合などでは、波長よりも小さな人工物は容易に作製できる。サブ波長スケールまでの粗視化を行うことで、例えば、負の透磁率や負の屈折率を実現することが可能であり、特異な電磁波伝搬が期待できる。
 本新学術領域研究では、我国の研究者が得意とするナノ加工/ナノ組織化技術を駆使して光波領域のメタマテリアル創製技術を開発し、インピーダンス整合による光の完全吸収や特異な熱輻射などの新現象の実現を目的とする。また、我国の研究者が中心になって確立したCRLH伝送線路理論に基づいて、マイクロ波メタマテリアルによる各種デバイスの精密設計と実証を目指す。さらに、メタマテリアルで達成される電磁共鳴を利用するなどして、従来には無い、原理的に新しい電磁波伝搬の実現を目指す。これらの研究によってメタマテリアルの学理が深化するとともに、それぞれの波長領域で高性能なデバイス開発の端緒が開け、情報・通信や環境・エネルギー分野での技術開発に貢献すると期待される。さらには、電磁波に限らず、電子波や音波など、波動現象一般についてメタマテリアルの概念を拡張することで、それぞれの波動について新現象/新デバイスの開拓/開発が期待できる。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 まず、ナノインプリントリソグラフィを利用して光波メタ表面の創製技術を確立した。これを用いて、プランクの法則に縛られない波長選択的な熱放射光源を開発した。試作したCO2濃度計では34%の低消費電力化を達成した。他方、電子線描画と自己組織的構造形成を組合せて、光波領域の3次元分割リング共振器アレイの作製に初めて成功し、1よりも小さい特異な実効屈折率を実現するなどした。次に、CRLH伝送線路理論に基づくデバイス開発では、マイクロ波デバイス・回路・アンテナ応用に資する新規なメタマテリアルを多数考案した。これによってビーム走査アンテナや回折限界を超えるレンズ動作を実証するとともに、磁性体を用いた非相反メタマテリアルや負屈折率特性をもつSNG異方性スラブ、変換電磁気学に基づく透明マントなど、CRLH媒質から派生した新たなメタマテリアルも多数開発した。最初、CRLH伝送線路理論に基づいて考案されたディラックコーンは、群論を用いて一般の電磁波の場合や量子井戸中の電子波にまで拡張されて、電子の有効質量を制御できること等も示された。マイクロ波・THz波領域では、また、互いに電磁的に結合した分割リング共振器アレイを製作して電磁誘起透明化現象を実現した。さらに、群速度の動的制御を達成してマイクロ波パルスの保存と再生にも成功した。
 これらの信頼性の高いサブ波長試料作製技術の構築と明快な理論的基礎に裏付けられた新現象の実証、および、それらを基礎としたデバイス開発を通して、メタマテリアルの実用化のための確固たる基盤が構築できた。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 本研究領域は、異常な電磁応答を引き起こす人工構造物、いわゆる電磁メタマテリアルの作製技術の開発と新奇現象の検証・発見を目標としている。ナノインプラントリソグラフィを用いた光波メタ表面創成や大量合成技術などを多数開発したことは高く評価される。また、ディラックコーンの実現や電磁誘起透明化現象の実証などで、新奇現象の検証や発見もなされており、着実な成果が得られたと評価できる。
 一方で、やむを得ない事由により、領域代表者の交替があったとはいえ、研究成果の効果的なアピールなどの面で不十分な点が残るため、総合的には期待を上回る成果があったとまでは言えない。今後は、開発技術や新奇現象の応用など、広範な波及効果を目指すことを期待する。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 各計画研究が掲げる当初の目標をほぼ達成している。例えば、結合共振器を用いるメタマテリアルにおいて、磁気結合だけでなく電場勾配結合や間接結合を利用する方法を実証するなど、当初の目標を超えて達成された成果もあった。今後、世界に先駆けた本研究領域の成果から、基礎と応用の両面で波及効果が現れると期待されるため、世界に向けた効果的な情報発信を期待したい。

(2)研究成果

 メタマテリアル構造を実現するための作製技術、例えば、ナノインプラントリソグラフィを用いた光波メタ表面創製や、大量合成技術などを多数開発したことは高く評価される。また、ディラックコーンの実現や電磁誘起透明化現象の実証などで、新奇現象の検証や発見もなされており、全体として着実な成果が得られたと評価できる。
 ただし、本研究領域で得られた成果について、定量的な図表や世界における位置付けなどが示されていなかったため、より明確で効果的な成果のアピールが望まれた。

(3)研究組織

 対象とする周波数(電磁波と光波)とメタマテリアルの構造とに着目して6つの研究項目を作り、様々な手法を深掘りするとともに、理論と微細加工技術を活用して、新規のメタマテリアル製作と新奇現象の発見に成功裏に繋げたことは、高く評価できる。また、公募研究と計画研究の共同研究を推進して新しい成果に繋げた点も評価できる。

(4)研究費の使用

 研究拠点を定めることで既存装置を効果的に活用することが可能となり、装置の新規購入を必要最小限に抑えることができた。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 我が国の強みである「ものづくり」に立脚して、トップダウン手法だけでなく、自己組織化や生体構造テンプレートなどボトムアップ手法を融合した、独自のナノ立体加工技術を創成でき、メタマテリアルの実用化に資する大きな貢献があったと評価できる。また、ディラックコーンの実現や光量子構造への拡張は独創性の高い貢献である。今後、メタマテリアルと関連学問分野に波及効果が現れることが期待される。

(6)若手研究者育成への貢献度

 8名の若手研究者が国内外で助教として職を得ることができた。また、学生・若手研究者の受賞も多数あり、これらの成果は一定の貢献が認められる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --