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バルクナノメタル ー常識を覆す新しい構造材料の科学(辻 伸泰)

研究領域名

バルクナノメタル ー常識を覆す新しい構造材料の科学

研究期間

平成22年度~26年度

領域代表者

辻 伸泰(京都大学・大学院工学研究科・教授)

研究領域の概要

 「マトリクスを構成する結晶粒や相が1μm以下のサイズを有する均一なバルク状金属系材料」=Bulk Nanostructured Metals(バルクナノメタル)を研究対象に、それらが示す常識を超えた新規な物性・特性を、(1)材料設計、(2)創製プロセス、(3)力学特性という3つの研究項目のもと、実験と理論・計算の両方にまたがる様々な分野背景を有する研究者が、最先端の研究手法を駆使して連携的に明らかにし、サブミクロン領域に潜む新たな材料科学の学術領域を打ち立てる。金属材料科学および関連の学問分野に従来の延長線上ではない飛躍的な発展をもたらすとともに、多種多様な金属・合金材料が多量に用いられている現実社会にも極めて大きなインパクトを与える。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 本領域の目的は、バルクナノメタルが示す常識を越えた新規な物性・特性を、多様な研究者が最先端の研究手法を駆使して連携的に明らかにし、ナノメートル領域に潜む新たな材料科学の学術領域を打ち立てることである。「バルクナノメタル」とは、それを構成する結晶粒や相が1μm以下のサイズを有する、均一なバルク状金属系材料のことをいう。我々がこれまで用いてきた金属材料は多数の結晶粒が集合した多結晶体である、以前には個々の結晶粒の大きさを10μm以下にすることはできなかった。しかし結晶粒・構成相をナノメートルのスケールに微細化することにより、多結晶体は「粒界(結晶粒の境界)だらけ」の材料となる。粒界だらけのバルクナノメタルは、従来材の4倍以上にも達する強度を示すなど、これまでの金属材料科学の常識を覆す種々の興味深い特性を示す。バルクナノメタルの驚くべき特性を系統的に明らかにし、金属材料の秘められた可能性を引き出すことが、本領域の目標である。バルクナノメタルは、合金化に頼るのではなく、単純な化学組成で優れた特性を有する金属材料を実現する。金属材料は極めて幅広く大量に使われ、我々の社会を支える重要な材料であるから、バルクナノメタルに関する基礎科学の発展は、環境・エネルギー問題や資源枯渇問題の解決に大きく寄与し、安全で持続可能な高度社会の実現に寄与できる。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本新学術領域研究において設定した目的は、いずれも高い水準で達成することができ、一部においては、当初想定した以上の成果や予期していなかった新たな学術的知見を得ることもできた。バルクナノメタル創製プロセスの高精度化と一般化、新たなバルクナノメタル創製プロセスの獲得、完全再結晶バルクナノメタルの発見、バルクナノメタルにおける強度・延性両立のための基礎原理の獲得、バルクナノメタルの特異な力学特性と粒界の役割の解明といった研究成果は、従来の金属材料科学の常識を塗り替える興味深いものである。また、バルクナノメタル研究における計算科学手法とナノ材料解析手法が大いに発展し、今後の材料研究に大きく役立てることができる。また、バルクナノメタルの新たな機能特性の発見は、物理や化学などの異分野との連携を通じ、新たな研究領域の構築が予想される。そして本領域研究では、次世代を担う国際的な力を持った若手研究者を多数育成することができた。バルクナノメタルを中心とした構造材料研究の物理的基盤と人的基盤・ネットワークを我が国に築けた。これらは、異なる分野の複数の研究者が共通の課題(バルクナノメタル)を共同で行う新学術領域研究ならではの優れた成果であり、材料科学・材料工学分野に新しい学術領域を打ち立てることができたものである。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 本研究領域は、強度と延性の特性を両立させうる「バルクナノメタル」の原理解明、特性評価、及び創製プロセスの開発を研究目標として申請された研究領域である。5年の研究期間に、転位と強度の関係の明確化や新たな機能特性発現の確認等、従来の材料とは異なる新しい学理が構築された点が高く評価でき、期待どおりの成果があった。本研究領域で得られた知見を基に、今後は実材料としての応用に向けた研究展開が期待される。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 1μm以下の結晶粒からなるバルクナノメタルについて、創製プロセスの開発・高精度化・汎用化、強度・延性両立のための基礎原理の解明、特異な力学特性に対する粒界の役割の明確化、計算科学手法並びに解析手法の発展、機能特性の発現に関して顕著な成果を獲得しており、設定目的の達成度は高い。本研究領域で得られた知見を基に、大型素形材の成形等への応用展開や他材料への波及が今後期待される。

(2)研究成果

 いずれの計画研究においても、実験と理論・計算の適切な連携によって多くの成果が創出されている。特に、完全再結晶超微細組織、高圧非平衡相のナノ構造化による安定化、調和組織ナノ材料、世界最高強度バルクナノMg合金等は具体的な成功例として位置付けられ、本研究領域の意義と発展性を裏付けている。また、バルクナノメタルの創製プロセスとして電解析出法、粉末冶金法や加工と相変態の組合せによる組織制御等の一定の成果が上がっている。また、今後本研究領域で得られた技術の将来の応用展開として、熱安定性の確認や大型素形材加工の連続製造プロセスの開発等への展開を期待したい。

(3)研究組織

 総括班による共通試料合金の設定・手配・配布、各計画研究間のバルクナノメタル試料のやり取りの実績からも、良好な連携状況がうかがえる。また、創製プロセスの高精度化・汎用化、基礎原理の解明、特異な力学特性の理解、計算・解析手法の発展においても、有機的な連携が図られたと判断する。

(4)研究費の使用

 共通合金の作製・運用に費用が投入されたことは、本研究領域の推進に大きな効果を及ぼしており、高く評価される。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 材料工学分野の著名な学術論文誌において、ナノメタルに関する論文の引用件数が上位を占めており、当該学問分野及び関連学問分野に対する貢献度が高いことがうかがえる。日本金属学会でのシンポジウムの実施や欧文誌特集号の刊行等、学会活動が活発に行われた点も高く評価できる。

(6)若手研究者育成への貢献度

 本研究領域に参画した若手・中堅研究者のアカデミックポジションへの着任・昇格、受賞件数、招待講演数や、関係研究室の卒業生・学位取得者数等の実績より、若手研究者育成への貢献は十分になされたと判断する。


お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --