動的クロマチン構造と機能(胡桃坂 仁志)

研究領域名

動的クロマチン構造と機能

研究期間

平成25年度~平成29年度

領域代表者

胡桃坂 仁志(早稲田大学・理工学術院・教授)

研究領域の概要

 遺伝物質であるDNAは、クロマチンとして高度に折りたたまれて核内に収納されている。しかも、クロマチンは、一定不変な構造ではなく、生命活動に応じてダイナミックに変動し、その動的構造変化が機能を支えている。本領域は、高度に複雑なDNAタンパク質複合体である“動的クロマチン構造”の実体を、構成分子やその相互作用を理解することによって明らかにするものである。構造生物学、計算科学、生化学、イメージング、オミクス、細胞生物学、発生生物学など多様な専門家が結集し、生命活動の基盤となる“動的クロマチン構造”を解明することによって、生物がDNAを遺伝情報として利用する仕組みについて新しい概念を創出することを目指す。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 遺伝物質であるDNAは、クロマチンとして高度に折りたたまれて核内に収納されている。クロマチンは、ヌクレオソームと呼ばれるDNAとヒストンタンパク質との複合体からなる球状の構造で、それが数珠状に連なったり、さらに様々なタンパク質やRNAが結合したりすることで、高次のクロマチン構造が形成される。しかも、このクロマチン構造は一定不変ではなく、多種類のヒストンバリアントや化学修飾によるヌクレオソームの多様性と多彩な相互作用因子群によって、ダイナミックに変動する。そして、その動的なクロマチン構造変化こそが、我々の生命の活動を支えているのである。本領域は、この高度に複雑なDNAタンパク質複合体である“動的クロマチン構造”の実体を、クロマチンを構成する分子や核内構造体との相互作用を理解することによって明らかにするものである。ヒストンバリアントや修飾、クロマチン相互作用因子、核内構造体などが織りなす、クロマチン構造とその動態の実体を、構造生物学、シミュレーション、生細胞・超解像イメージング、オミクス解析、画像解析、細胞・発生生物学、遺伝学など多様な専門家が結集することによって明らかにする。そして、生物がDNAを遺伝情報として利用する仕組みについて新しい概念を創出し、広範な生命機能現象と多くの疾病のメカニズムの理解を目指す。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 現在までに、計画研究から120報、公募研究から42報、計162報の論文を発表した。うち33報が領域内共同研究の成果である。これは、本領域では、研究者の専門分野を越えて、共同研究が非常に大きく進展していることを示している。胡桃坂・堀は、多様なヌクレオソームの構造解析を行い、精子クロマチンやセントロメアクロマチンの構造的な意義を解明した。河野は、胡桃坂らと共同し、多様なヌクレオソームの動的構造をシミュレーション計算によって明らかにした。小布施は、ヘテロクロマチンの新規構成因子を発見した。木村・山縣は、徳永、大川と共同し、転写活性化過程におけるヒストン修飾の機能と発生・分化に伴うヘテロクロマチン構造変化を明らかにした。原口・淺川は、DNAと核膜との相互作用を明らかにした。徳永は、生きた細胞での超解像イメージング解析技術を構築した。米田・岡・安原は、大川と連携し、核輸送ネットワークとクロマチンの相互作用を明らかにした。斉藤・原田は、クロマチン制御に働く核内構造体因子(I/F 因子)を同定した。大川は、木村と連携し、細胞分化におけるヒストンバリアント置換の意義を明らかにした。これらの研究によって、クロマチン動構造によるDNA機能発現機構を原子から細胞・個体レベルまでの階層で理解することに近づいてきた。代表的な研究成果は、領域ホームページ(http://nucleosome.kyushu-u.ac.jp)や機関からのプレスリリース、報道、一般公開シンポジウム等により、広く周知した。

審査部会における所見

A(研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、生命活動の基盤をなす細胞機能を司るクロマチン構造に焦点を当て、その構造、動態、機能の関係の解明から、その動的な実体に迫ることを目指すものである。原子分解能レベルから高次機能レベルまで幅広い研究階層をカバーする研究内容に対応し、異なる階層を専門とする研究者間の共同研究を積極的に推進することで、個々の成果に加え階層横断的な成果を上げており評価できる。若手研究者育成に関しても、若手の会の発足、若手研究者を対象とした講習会の開催など期待の持てる活動を行っており評価できる。今後は、国際連携、シミュレーションや理論研究の強化を進め、「動的クロマチン構造」という概念で示される本研究領域の方向性を、より明確にするような傑出した成果を上げることを期待する。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 本研究領域は、実績のある研究者により構成され、原子分解能レベルの構造解析からライブイメージングまで階層の異なる幅広い分野をカバーする研究内容になっている。異なる階層の研究者の共同研究の推進により、個々の成果のみならず階層横断的な共同研究成果も上げており高く評価できる。これは「動的クロマチン構造」という一定の方向性を持った目的意識、コンセプトの共有が浸透し、順調に研究が進展していることを示しており、新たな学問分野創成が期待される。今後、本研究領域の方向性をより明確にするような傑出した複数の成果を上げることを期待する。

(2)研究成果

 各研究課題について着実に成果を上げ、多数の優れた論文を発表しており期待どおりの進展を見せている。特に研究領域内共同研究により顕著な成果を上げていることは、領域設定の適切さを示している。プレスリリースなどを通じ、成果を適切に公表、普及していることも評価できる。

(3)研究組織

 研究項目を分けず、個々の研究課題の独立性は保ちつつ、一つのバーチャルラボラトリーにするという発想で組織されている。研究領域内共同研究の積極的推進や研究支援拠点の設置など、研究領域内の有機的連携を進める試みが成功しており、また、公募研究は計画研究を補完する形でバランスよく採択されており評価できる。若手研究者育成に関しても若手の会の発足、若手研究者を対象にした講習会の開催などにより、期待の持てる活動を行っている。今後の更なる発展のため、シミュレーション及び理論計算を担当する研究者の強化が望まれる。

(4)研究費の使用

 研究支援拠点で購入した設備は共用実績が高く、また、計画研究で購入した設備は、共同研究の推進に効果的に利用されており評価できる。

(5)今後の研究領域の推進方策

 採択時の審査結果所見のコメントに誠実に対応して体制及び研究組織の補強が行われ、順調に成果を上げているが、今後は国際的な連携の一層の強化、重要性が増すことが予測されるシミュレーションや理論研究の方向付けと強化が望まれる。

(6)各計画研究の継続に係る経費の適切性

 特に問題点はなかった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --