動物における配偶子産生システムの制御(小林 悟)

研究領域名

動物における配偶子産生システムの制御

研究期間

平成25年度~平成29年度

領域代表者

小林 悟(筑波大学・生命領域学際研究センター・教授)

研究領域の概要

 配偶子(精子と卵)を産生して次世代へ生命を伝えることは、生物の最も重要な機能である。動物が安定して子孫を残すためには、(1)配偶子の元となる始原生殖細胞(PGC)を作り出すこと、(2)PGCに由来する配偶子幹細胞(GSC)の働きにより配偶子を継続して産生すること、が不可欠である。本研究では、本申請領域に参加する研究者によって得られた新たな成果に基づき動物の配偶子産生システム制御機構を解明することを目的とする。このとき、動物種を越えて細胞自律的に機能する共通メカニズムに注目すること、in vivoの解析とともにin vitroで配偶子産生過程を再現することを連携して行い、より深い理解を目指す。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 配偶子(卵と精子)を産生して次世代へ生命を伝えることは、生物の最も根源的な機能である。動物が安定して子孫を残すためには、配偶子の元となる始原生殖細胞(PGC)を作り出すこと、PGCに由来する配偶子幹細胞(GSC)の働きにより配偶子を継続して産生すること、が不可欠である。この配偶子産生システムを理解することは生物学にとって長年の中心課題であるが、未だその全容解明には及ばない。本研究では、本申請領域に参加する研究者によって得られた新たな研究成果に基づき、動物の配偶子産生システム制御機構を解明することを目的とする。このとき、動物種を越えてPGCやGSC中で機能する細胞自律的な共通メカニズムに注目すること、in vivoの解析とともにin vitroで配偶子産生過程を再現することを連携して行い、より深い理解を目指す。すなわち、研究項目 A01で得られるin vivo における配偶子産生システム制御機構の研究成果を基盤とし、研究項目 A02においてin vitroで配偶子産生を再現する。さらにその系をA01の解析系として使うことにより、胚や個体などin vivoで行われてきた研究に技術革新をもたらす。このような、基礎と応用指向の研究間の相互連携、さらに様々な動物を用いている研究者を取り込むことにより、配偶子産生システムを制御する共通原理を明らかにする。本領域の研究成果は、基礎生物学や医学,畜産学、水産学等の広い分野に大きく貢献すると期待される。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本研究領域では、研究項目A01およびA02ともに、上記目的を達成するための研究が順調に進展しているが、当初予想した以上のスピードで成果が得られた研究課題がある。この研究成果の一つは、研究項目A01とA02との密な連携により、ショウジョウバエにおいてPGC形成に必須な遺伝子のマウスホモログの機能を、in vitroでPGCを産生する系を用いて明らかにできたことである。これは、in vitroで配偶子産生を再現する系をA01の解析系として使うことにより、胚や個体などin vivoで行われてきた研究に技術革新をもたらすという本研究領域における新視点を実現したものである。この系を用いることにより、ショウジョウバエとマウスに共通する遺伝子機能の探索/解析を迅速かつ効率的に行うことが可能となり、生殖細胞形成の共通原理の解明が加速すると考えられる。また、異分野間の国際共同研究によって、マウスGSCの精巣内におけるダイナミクスを支配する原理が導かれたことは特筆に値する。この成果は、GSC維持の頑強性を保証する機構を初めて明らかにした点で大きな意義を持つと共に、GSC維持に関わる遺伝子ネットワークを解明する大きな基盤となる。さらに、特筆すべき点は、研究項目A02において、PGCから成熟卵を産生するための新規in vitro系を構築し、世界で初めてマウスを誕生させることに成功したことである。これにより、生体内で進行するために容易に解析できなかった卵形成/卵成熟を制御するメカニズムの解明が加速されるとともに、応用面においても波及効果は計り知れない。

審査部会における所見

A(研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、世代を超えて遺伝子を受け継ぐ始原生殖細胞(PGC)・配偶子幹細胞(GSC)の成り立ちや性質を、さまざまな動物との比較や遺伝子解析、細胞挙動の解析から明らかにし、加えてin vitroで配偶子産生過程を再現することを目指すものである。これらの目的について、各計画研究は順調に成果を上げており、高く評価できる。また、領域代表者のリーダーシップによる共同研究体制や支援体制などが上手く機能しており、評価できる。本研究領域の成果は臨床応用に直結するものもあり、その発展は強く期待される一方で、安全性に配慮した成果報告に努めることが望まれる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 研究領域の設定目的に照らして、一部の計画研究は予想を遥かに超えて達成されているものもあり、全体としても着実に研究は進展している。特に、PGCを制御する新規転写因子であるOvo遺伝子とそのマウスホモログの解析や、GSCの制御因子FGF5に関する研究は新規性が高く、今後の展開が期待できる。遺伝子ネットワークの構築に関しては新たな展開が期待されるが、残された期間内での具体的な目標を明確にすることが望まれる。今後、それぞれの計画研究が本研究領域において果たす役割、各公募研究の位置づけ、共同研究の方向性をより明確にすることで更なる発展が期待できる。

(2)研究成果

 in vitroの配偶子産生に関する研究は、当初の予定よりいち早く目的が達成されており、高く評価できる。中でも、研究項目A02の 最も未熟な卵母細胞から成熟卵をin vitroで作成し、さらにこれらの成熟卵が高い産子発生率を示した結果は、極めて画期的であり評価できる。また、研究項目A01のグループとケンブリッジ大学との共同研究による GSCの精巣内におけるダイナミクスを支配する原理の提案は、ユニークな国際共同研究の成果であり、特筆に値する。今後さらに難易度の高い課題に向かって展開させると同時に、これらの成果を研究領域内で連携・活用し、相乗的な成果を上げることが期待される。

(3)研究組織

 本研究領域は、公募研究代表者を含めても比較的少人数で構成されているが、本研究領域の活動により着実に人材が育成されており、評価できる。今後の飛躍的な展開には、この分野が専門でなくても新しい意欲的な課題提案をする若手研究者を公募研究代表者として採用することが望まれる。また、研究項目A01とA02の緊密な連携によってin vitro系を用いた研究が発展し、大きな研究成果に進展することが期待される。若手及び女性研究者の育成にも十分な取組みがなされている。

(4)研究費の使用

 効率的な研究費の使用に努力しており、適切と判断される。

(5)今後の研究領域の推進方策

 領域研究としては、基礎的な研究に軸足を置くことを重視して研究推進することが望まれる。領域代表者が掲げる今後の方針として、産業上の有用動物種からの試験管内配偶子産生を行う研究者を公募研究として取り入れる点は評価できる。本研究領域で上げられたいくつかの成果は、臨床応用に直結するものもあり、その発展は強く期待されるところであるが、反面、臨床の現場における社会的影響力は大きいことを認識し、安全性に配慮した成果報告に留意されたい。

(6)各計画研究の継続に係る経費の適切性

 概ね適切である。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --