オートファジーの集学的研究:分子基盤から疾患まで(水島 昇)

研究領域名

オートファジーの集学的研究:分子基盤から疾患まで

研究期間

平成25年度~平成29年度

領域代表者

水島 昇(東京大学・大学院医学系研究科・教授)

研究領域の概要

 オートファジーは細胞内の主要分解システムである。これまで我が国が中心となってオートファジー関連因子の同定や基本生理機能の理解を進め、その結果オートファジーが、細胞内代謝回転や細胞内品質管理などの多彩な生命現象と関連することが明らかになった。オートファジー研究は今後、メカニズムの全容解明、ヒト疾患との関連解明などの重要なフェーズに入っていくと考えられる。もはや、これまでのようにオートファジーを既存分野の一部として扱っていては速やかな発展は困難であり、新学術領域として総合的に扱うべき時期に来ている。本領域は、無細胞系構成生物学、構造生物学、細胞生物学、マウス等モデル生物学、ヒト遺伝学、疾患研究を有機的に連携させたオートファジーの集学的研究体制を構築し、我が国発の独自性高い研究を総合的に推進させるものである。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 生体を形作り、それを機能的な状態に維持するためには、構成成分を合成するとともに、それらを適切に分解処理することが重要である。細胞内には、タンパク質、脂質、糖質、核酸、およびそれらの集合体としての小器官などが存在しており、細胞内分解系は、これらの代謝回転や品質管理を担っている。オートファジーはリソソームを分解の場とする、細胞内の主要分解システムである。これまで我が国が中心となってオートファジー関連因子の同定や基本生理機能の理解を進め、その結果オートファジーが、飢餓時のアミノ酸プール維持、初期胚発生、細胞変性抑制、細胞内侵入細菌分解、がん抑制、炎症制御などの多彩な生命現象と関連することが明らかになった。
 オートファジー研究は今後、メカニズムの全容解明、ヒト疾患との関連を含めた生理・病態生理学的意義の解明などの重要なフェーズに入っていくと考えられる。本計画では、無細胞系構成生物学、構造生物学、細胞生物学、マウス等モデル生物学、ヒト遺伝学、疾患研究を有機的に連携させたオートファジーの集学的研究体制を構築し、我が国発の独自性高い研究を総合的に推進させることを目的とする。オートファジーは、細胞生物学、生化学、代謝・栄養学、発生学、神経科学、免疫学、腫瘍学、炎症医学、抗加齢医学など、多岐にわたる基礎研究、応用研究、臨床研究と密接に関係するため、本領域の成果は生命科学・医学の発展に貢献すると考えられる。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 オートファジーの分子機構と膜動態の解析ではAtg1複合体の機能解析での大きな展開を中心に、オートファゴソーム形成初期~後期~リソソーム融合にいたる過程全般できわめて順調な進展が得られている。計画班に構造生物学グループを含めた点がその原動力の一つになった。またオートファジーの特異性の研究でも小胞体特異的新規アダプターや、フェリチンや傷害小器官などの新基質の発見において予想を超える進展があり、さらに新しいタイプのオートファジーの解明へと広がりをみせている。生理機能、病態生理機能の解析では、神経変性疾患SENDA病の解析を中心に、基礎-臨床、計画班-公募班の密な連携の元、その理解に向けて確実な展開がある。動物モデル等の整備も進んでいる。その他の生理機能の解明においても、哺乳類だけではなく、植物、昆虫、線虫、原虫、酵母などの幅広い範囲で研究を進めることができている。化合物の探索においても有用なスクリーニング系が確立し、特許申請の上で複数のグループでスクリーニングが同時進行している。
 総括班では、領域会議や若手の会の開催、WEBでのオートファジーフォーラムの設置、プロトコール集の公開、オートファジーデータベースとの連携などが行われ、オートファジー研究を拡大するためのセンター機能としての役割を十分に果たしている。
 以上の研究は計画研究を中心にして公募研究と有機的に連携しながら推進されており、世界に類を見ないオートファジーの集学的センターとして十分に機能を果たしていると言える。

審査部会における所見

A+(研究領域の設定目的に照らして、期待以上の進展が認められる)

1.総合所見

 オートファジーの分子機構と生理機能における未解決の重要課題の解明という観点から、詳細な分子機構の解明が進んでおり、領域全体として研究は順調である。期待以上の成果も見られ、領域内連携にも積極的に取り組んでいる。後半についても波及の拡大と機構解明の深化が計画されており、さらなる進展が期待できる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 当初の研究領域の設定目的のほとんどにおいて研究が進捗している。オートファジーに関わる分子群の構造的解析を中心に、選択的オートファジーの新知見なども含めて、期待以上に成果が現れている。分子機能と病態の関係及び臨床的視点の補完についても、公募研究の選定や計画研究との連携を通して対策を講じており、研究成果を上げている。当初の目的の1つであるオートファジーの制御化合物の開発についてはスクリーニング探索中であり、今後の進展を期待する。

(2)研究成果

 研究成果を着実に上げて一流学術誌に公表し、世界のオートファジー研究を牽引しており高く評価できる。アウトリーチ活動や新聞などへの公表活動も活発に行われており、後半でますますの成果を期待したい。

(3)研究組織

 計画研究代表者同士、公募研究-計画研究の連携、基礎と臨床とのつながり、すべての点で積極的に取り組まれており、すでに発表に至った研究領域内共同研究だけでなく、現在進行中で未発表の共同研究についても数多く推進している。公募研究の採択課題についても多様性が担保されている。研究領域内の会議やホームページを介したウェブサイトの開設を通して、若手研究者の育成や研究交流についても多くの機会を設けている。

(4)研究費の使用

 先端的なイメージング装置を積極的に導入するなど有効に使われており、特に問題となる点は見受けられない。

(5)今後の研究領域の推進方策

 予想を超える進展のあったオートファジー関連分子の複合体に関する全体構造の追究や、ノックアウトマウスを用いたヒト疾患モデルの作製、新規物質スクリーニング、新学術領域研究「ユビキチンバイオロジー」との連携、公募研究で今後カバーすべき研究分野に対する推進方策など適切に考慮されており、今後の成果が期待される。さらに後半で、新しい切り口により、新たなオートファジー研究の流れが出るのを期待したい。

(6)各計画研究の継続に係る経費の適切性

 適切であると思われ、特に問題点はなかった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --