3次元半導体検出器で切り拓く新たな量子イメージングの展開(新井 康夫)

研究領域名

3次元半導体検出器で切り拓く新たな量子イメージングの展開

研究期間

平成25年度~平成29年度

領域代表者

新井 康夫(大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所・教授)

研究領域の概要

 本領域研究では新奇SOI検出器を通じて量子イメージング原理を革新し、素核・宇宙・物質・生命科学のフロンティアを開拓する。ここではSilicon-On-Insulator (SOI)積層ウエハー技術を用いて、センサーと読み出し回路とを3次元的に一体化させた半導体検出器をコア技術とし、量子イメージング検出器を開発する。さらにSOIの持つ2つの活性層を活かした新機能素子の実現も目指す。これにより、様々な量子ビーム(光、赤外線、X線、電子線、荷電粒子線 等)に対する高度な量子イメージング測定技術を発展させる。マイクロエレクトロニクスとセンサーを一体化したSOI検出器について学術的興味を持つ研究者と、既存のイメージング装置に限界を感じていた多分野の研究者が連携する事により、新たな量子イメージングの領域の展開を図る。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 X線・赤外線・荷電粒子線等の量子線を用いた測定では、量子それぞれを可視化する事が重要である。超微細画素の半導体センサによりこれら量子線データを高速・大量に取得し、画像として再構成を行うと、予期せぬ構造の発見や知見を得る事が可能となる。
 例えば、個々の量子の検出を行い、そのエネルギーと到来数を精密計数することで、ダイナミックレンジ10桁以上の高コントラスト画像を得ることが可能である。さらに、到来時刻、波長、偏光特性、荷電粒子の種別と運動エネルギーなど、量子それぞれが持つ物理量の同時計測も原理的に可能である。これらの実現は、量子イメージングの究極の目標であるが、既存の計測デバイスの性能や機能は、これらの要求からは程遠く、素核・宇宙・物質・生命科学に飛躍的進展をもたらす量子イメージングデバイスが求められている。
 高エネルギー加速器研究機構(KEK)では、二種類のシリコン層を絶縁層を介して張り合わせたシリコン基板技術Silicon-On-Insulator (SOI)を用い、高感度センサと集積回路とをピクセル内で3次元的に一体化させた放射線イメージング検出器の開発に成功している。SOI検出器は、センサと回路が一体として半導体微細加工技術で製造され、裏面照射により理想的な量子効率を実現できる。また2つの活性層のいずれにも能動素子を形成することができ、単一量子の検出と量子エネルギー計測を同時に行うデバイスなど、従来型デバイスでは実現できない理想的な新機能を実現できる将来性を持つ。
 本領域研究によって、新たなデバイスの創出と、革新的な計測手法を実現する新しい融合研究領域をつくり、ひいては新しい科学的発見を加速する事を目的としている。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 研究成果を広く共有しさらなる展開を図るため、年2回の頻度で研究会を開催している。京都大学(2013年12月)、大阪大学(2014年5月)、金沢工大(2014年11月)と開催し、2015年6月には東北大学で国際研究集会を開催した。また若手研究者の教育のためSOIを利用した検出器の設計講習会も開催している。
 これまでに相乗りプロセスによる試作を2回実施し、それぞれ20件近い設計が寄せられた。新たに開発したDouble SOIを用いることにより、センサー層と回路層の干渉が20分の1に低減し、耐放射線特性も大幅に向上を図る事が出来た。また、3次元集積回路や、SOIの特性を活用したSuper Steep Transistorなどの基礎技術開発も進んでいる。
 検出器としては、イベント駆動型検出回路、高時間分解完全空乏型ロックインSOIピクセル、質量分析器用1ns時間分解能ピクセル検出器等の設計、試作を行ったほか、Backgate Pinned SOI pixel(BPSPIX)と称する新しい構造のSOIピクセルなども新規考案した。
 またX線自由電子レーザー実験に利用して、超高速にナノ構造を解析することを可能にする高ダイナミックレンジをもつ380万画素のX線ピクセル検出器の開発も進んでおり、当初の2倍に相当する10,000光子までのダイナミックレンジを達成している。様々な分野の研究者が集い、各計画研究班がそれぞれ得意な分野において他を助けることで、新学術領域としての効果を高めながら研究が進んでいる。

審査部会における所見

A(研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、Silicon-On-Insulator(SOI)ピクセル技術を基に、放射線センサーとLSI回路を3次元的に一体化した検出器を開発し、1個の量子に迫る量子イメージングを共通項として、宇宙・素核・物質・生命科学分野で革新的研究領域を開拓する計画である。コア技術の基に、各計画研究や公募研究からの設計を集めた相乗りプロセスによってセンサーチップを作製する点も優れた点である。基盤となるイメージングデバイスの開発や各検出器の開発も概ね順調に進んでおり、今後、検出器ユーザーの裾野を拡げるようなアウトリーチ活動とともに、各分野のサイエンスへの展開が望まれる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 基盤となるSOI技術の開発を担当する研究項目A、それを用いた検出器開発により、宇宙・素核・物質・生命科学の各分野で科学研究につなげる研究項目B, C, Dにおける研究計画も概ね順調に進行している。

(2)研究成果

 研究項目A01とA02によるSOIウエハの開発、及び、それを用いた極低ノイズ高速イメージングデバイスの開発が順調に進んでいる。計画研究のみならず、公募研究においても多くの成果が得られている。
 一方、研究項目Aで開発したデバイスを宇宙・素核・物質・生命科学分野で活用するため、研究項目B, C, Dにおいて検出器開発が進められているが一部遅れが見られる。今後、検出器ユーザーの裾野を拡げるため、他の分野の研究者を含めたアウトリーチ活動が望まれる。

(3)研究組織

 基盤となるSOI技術の開発を受け持つ研究項目Aとその基盤技術を宇宙・素核・物質・生命科学分野での測定に展開する項目B, C, Dとは役割分担が明確でよく連携されており、分野横断型組織として新学術領域研究にふさわしい。SOI検出器を設計できる若手研究者育成のためのSOI検出器設計講習会などの活動は評価できる。

(4)研究費の使用

 計測器等の相互利用や、放射線耐性試験の共同化、検出器読み取り回路の共用など、経費を有効に使用する工夫が見られる。

(5)今後の研究領域の推進方策

 開発した検出器による各分野のサイエンスへの展開が強く望まれる。
 一方、需要が限られていることから、コスト高になる学術研究用の検出器作製のための半導体プロセスについて、将来的な継続性のための方策が必要である。設計・作製に関わる若手人材の育成を含めて進めてほしい。

(6)各計画研究の継続に係る経費の適切性

 一部の開発の若干の遅れを除けば、各計画研究は概ね順調に進んでいる。経費についても適切である。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --