ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開(田中 功)

研究領域名

ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開

研究期間

平成25年度~平成29年度

領域代表者

田中 功(京都大学・大学院工学研究科・教授)

研究領域の概要

 結晶の表面,界面,点欠陥等に局在した特徴的な原子配列や電子状態=ナノ構造が,材料特性に決定的な役割を担う例は極めて多い.近年ナノ構造における個々の原子を直接観察し,その定量的情報を直接的に得るための実験および理論計算に格段の進歩があった.本領域研究の構成メンバーは,これら一連のナノ材料科学の研究において多くの先駆的な成果を上げている.本領域研究では,ナノ材料科学のフロンティア開拓にさらなる弾みを付けるとともに,獲得されるナノ構造情報を具体的な材料設計・創出に活かすべく,情報の統合化を強力に進める.このために,材料科学,応用物理,固体化学,触媒化学など様々な分野で世界に誇る成果をあげている若手・中堅研究者を中心としたメンバーが一体となって研究を進め,新しい材料科学の奔流を創り出す.

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 結晶の表面,界面,点欠陥等に局在した特徴的な原子配列や電子状態=ナノ構造が,材料特性に決定的な役割を担う例は極めて多い.したがって,ナノ構造と特性の関係を正しく理解し,材料開発の指針を獲得するためのナノ材料科学は極めて重要である.本領域研究の第一の目的は,このナノ材料科学のフロンティア開拓である.近年になって最先端の透過型電子顕微鏡等により,個々の原子を直接観察・電子分光できるようになり,さらに高精度の第一原理計算を組み合わせることで,ナノ構造の特徴的な原子配列や化学結合状態,そして材料機能との相関性についての情報=ナノ構造情報が定量的に得られるようになってきた.本領域は,このナノ材料科学における未踏領域を世界に先駈けて深く広く開拓していく.第二の目的は,ナノ構造情報の活用である.実験と理論計算に基づいた膨大なナノ構造情報を具体的な材料創製に活かすべく,統計熱力学および情報科学の学問体系に立脚して情報の統合化を強力に進める.そして,デザインされた材料創製を合理的・効率的に行うための確固たる学問基盤を創り出す.このために,材料科学,応用物理,固体化学,触媒化学,情報科学など様々な分野で世界に誇る成果をあげている若手・中堅研究者が結集し,9つの計画研究と14の公募研究メンバーが一体となって研究を進める.

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本領域はナノ材料科学における重要な未踏分野を開拓することとともに,獲得されるナノ構造情報を具体的な材料設計・創出に活かすための普遍的な材料開発原理への到達を目指すものである.したがって,多様な材料系をカバーした広範な研究対象を設定している.同時に,研究が総花的とならないための工夫として,領域メンバーが重点的に推進する課題,すなわち(1)機能性セラミックス材料,(2)固体イオニクス材料,(3)触媒材料をコモンサブジェクト (CS)課題と設定し,これらを対象とした連携研究を重点的に実施している.そして情報科学と材料科学の分野融合研究を積極的に推進することで,材料科学の新展開を目指している.そのための工夫として,両分野の研究者の間で,研究目標や専門用語を共有するために,領域代表者を中心としてタスクフォースを形成し,個々の研究者の意思疎通を図っている.領域の2つの目的のうち,ナノ材料科学のフロンティア開拓については,材料機能に重要な役割を持つナノ構造情報を先端的な実験と理論計算手法で系統的に獲得するという高いレベルでの成果が多数得られている.ナノ構造情報の活用についても領域内の活発な連携により,すでに分野融合研究の結果が一流学術雑誌に掲載されるなど,期待以上の成果が得られている.このように,領域研究が当初計画以上に進展し,新しい学術領域が形成されつつあることが実感できる.

審査部会における所見

A-(研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、 一部に遅れが認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、ナノ材料科学の先端領域の開拓と、ナノ材料科学と情報工学の分野横断的な融合により、新しい材料創出と学理の創成を目標として申請された研究領域である。これまでの3年の研究期間に、材料科学と情報学の融合により、例えば、観察されたSTEM像に対して、数千程度の構造の中から効率的に候補を絞って第一原理計算を行うことで解を決定するなど、いくつかの顕著な成果が認められる。
 一方、各研究者によって創出された個別の成果に対して領域の方向性が未だ不明瞭であり、どのような学理の創出を目指していくのか、総括班を中心に再度検討する必要がある。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 ナノ材料科学に関する分野横断的な学理を構築・確立するため、コモンサブジェクト課題として材料創製のターゲットを明確にした上で、情報学と各計画研究の分野融合研究を推進しようとしている。情報学分野の研究者として若手研究者6名を公募研究で採択するなど、積極的な分野融合への取組みが認められる。
 一方、本研究領域において、どの程度多様な材料に対して、どの程度の普遍的な材料開発原理への到達を目指すのか、達成目標が明確でなく、研究領域の方向性や普遍的原理の創出に関する展望にやや乏しい印象を受ける。情報学と材料科学の融合によって、どのような有機的な効果が生まれるのかをより明確にすべきである。

(2)研究成果

 具体的な材料創製ターゲットである機能性セラミックス材料、固体イオニクス材料、触媒材料をコモンサブジェクト課題として、総括班主導による重点的な連携研究が推進されている。また、その成果が評価の高い学術誌にすでに多数掲載されており、公表、普及に努めている点は高く評価できる。
 しかしながら、広い材料科学分野において、ナノ構造情報の活用によって、どの程度の普遍的な材料開発原理が提示できるのかが明確でない。各論に終わらないよう、研究領域全体がどのような方向に向かうのかを改めて検討すべきである。

(3)研究組織

 コモンサブジェクト課題を基軸として、計画研究・公募研究間で有機的な連携が図られている点が高く評価できる。また、研究項目を跨がったものを含む計画研究への若手研究者及び大学院生による短期滞在プログラムや研究発表会の実施等、分野横断的な若手ネットワークの構築への貢献も認められる。
 一方、応募時に挙げた購入予定備品と実際の購入備品が異なるものが多数あり、当初計画段階でもう少し解決が図れたはずである。領域代表者による一層のリーダーシップの強化が求められる。

(4)研究費の使用

 9件の計画研究のうち8件において、応募時に予定した設備備品と実際に購入した設備備品に変更が生じている。研究の進捗の中で導入すべき設備備品に変更が生じることはある程度理解できるが、今後、計画の十分な検討と効率的な経費使用が求められる。

(5)今後の研究領域の推進方策

 本研究領域では、「ナノ材料科学のフロンティア開拓」と「ナノ構造情報の活用」を目的として、計画研究と公募研究の連携研究を遂行している。特に前者に関しては、コモンサブジェクト課題を中心にナノ構造解析に取り組んでいるが、今後もナノビルトイン実験、ナノ計測実験、高精度な第一原理計算の連携により、未踏領域を開拓し、全世界に向けてその成果を発信していくことが求められる。また、後者に関しては、現段階においてもコモンサブジェクト課題を中心にある程度の材料設計指針を得ているが、今後も当初計画に従って領域内の連携研究を鋭意推進し、デザインされた材料創製を合理的かつ効率的に行うための学術基盤の創成が期待される。そのためには、個別の成果を統合し、新しい学理の創出につなげる努力が必要であり、領域代表者を中心に、一層のリーダーシップの強化が求められる。

(6)各計画研究の継続に係る経費の適切性

 (d)項にて述べたとおり、各計画研究において当初計画からの変更が見られる。効率的な研究経費執行のためにも、研究領域全体において利用可能な既存設備を事前調査し、新たに導入予定の設備備品の確認・検討を行った上で、計画を着実に遂行することが求められる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --