ニュートリノフロンティアの融合と進化
平成25年度~平成29年度
中家 剛(京都大学・大学院理学研究科・教授)
素粒子から宇宙のスケールにわたる自然界の各階層で展開する、世界最先端を走る日本のニュートリノ研究を融合し、ニュートリノを使った科学研究フロンティアを進化・発展させる。加速器、原子炉、地球大気、宇宙からのニュートリノを高精度で測定し、総合的にニュートリノ振動現象を研究することにより、ニュートリノの基本性質(質量、混合、粒子と反粒子間のCP対称性)を解明する。また、高エネルギー宇宙ニュートリノの観測により新たな宇宙像を描く。これら最新の実験結果を基に、素粒子・原子核・宇宙をつなぐ理論を展開し、さらに素粒子の構造、宇宙の成り立ち、時空の起源に迫る研究を展開する。あわせて、最先端実験技術の開発研究を進め、将来の基礎科学研究の発展へとつなげる。
素粒子から宇宙のスケールに渉る自然の各階層で展開する、世界最先端を走る日本のニュートリノ研究を融合し、ニュートリノを使った科学研究フロンティアを進化・発展させる。日本のニュートリノ研究は、小柴のノーベル賞受賞につながった1987年の超新星ニュートリノ観測から25年の間に、ノーベル賞級の成果であるニュートリノ質量の発見、太陽ニュートリノ問題の解決、地球反ニュートリノの発見、3世代間ニュートリノ混合の確立、宇宙起源ニュートリノの発見、と世界第一級の成果をあげている。本研究領域では、ニュートリノの基本性質を究明するために、加速器、原子炉、自然(大気と宇宙)のニュートリノ源を組み合わせてニュートリノ振動の研究を総合的に進展させていく。特に、ニュートリノにおける CP の破れを探求する。また、大気ニュートリノと宇宙ニュートリノの同時観測により、ニュートリノ天文学のさらなる展開を目指し、ニュートリノによる新しい宇宙像を描く。以上の研究に加え、将来のニュートリノ実験の基幹となる最先端実験技術の研究開発を推進する。そして、ニュートリノに関する理論的研究を包括的に進め、素粒子・原子核・宇宙に関するニュートリノを通した新しい自然観創生を目指す。
本領域研究の大きな進展として、T2K実験による「ミューオンニュートリノから電子ニュートリノへの振動」の発見と、IceCube実験による高エネルギー(TeV-PeV 領域)宇宙ニュートリノの発見があげられる。電子ニュートリノへの振動はニュートリノCP探索の信号であり、今後更なる高精度な測定が期待されている。また、T2K実験、Double Chooz実験、スーパーカミオカンデ実験の測定により、ニュートリノ振動の知見が飛躍的に向上した。IceCube実験による高エネルギー宇宙ニュートリノ発見は、超新星ニュートリノ以来の太陽系外から飛来した宇宙ニュートリノであり、今後その天体起源の解明が望まれる。これらの研究成果は、当初計画より早期に達成されており、今後の更なる展開が期待できる。さらに、次世代超大型ニュートリノ測定器ハイパーカミオカンデの基幹技術の開発、スーパーカミオカンデ実験による大気ニュートリノを使ったローレンツ不変性の破れの探索、Double Chooz実験の前置ニュートリノ測定器の建設と運転、に着実な進展が見て取れる。測定器開発では、原子核乾板生産技術の確立、超伝導トンネル接合素子の開発、液体アルゴンTPCの開発が進行中である。理論面でも、ニュートリノ質量の起源の研究、2万点に及ぶ核子標的の中間子生成反応データを解析、宇宙のインフレーション直後に右巻きニュートリノが生成され暗黒物質として残存するシナリオによる宇宙のバリオン数生成との整合性等、興味深い研究が進行中である。
A+(研究領域の設定目的に照らして、期待以上の進展が認められる)
本研究領域は、素粒子から宇宙へ至る広い分野において日本のニュートリノ研究を融合し、ニュートリノを使った科学研究フロンティアを進化・発展させることを目指している。国際的に極めて高い水準にある我が国の素粒子物理学において、特にニュートリノ研究は、小柴・梶田両氏のノーベル賞に代表されるように世界第一級の成果を上げてきている。本研究領域においても、ニュートリノCP探査の事象となるミューオンニュートリノから電子ニュートリノへの振動の発見や、TeV-PeV帯域の高エネルギー天体ニュートリノの発見などの重要な成果が出ており、研究領域発足時の期待を上回る成果であると評価できる。国際協力で展開しているIceCube実験の拡張建設を前倒しで進めるために、研究項目A04に大幅な変更が必要となっている。しかし、これは高エネルギー天体ニュートリノの大発見を受けての変更であることから、十分な成果に基づいた発展的な計画変更と受け取れる。計画研究及び公募研究の間での連携も十分に進んでいることから、今後も更なる成果を期待する。
総合所見でも示したように、研究項目A(実験・観測)と研究項目C(理論)が連携することで世界第一級の科学成果が得られており、当初の予想を超えるペースで研究が進展している。また、研究項目Bによる新しい検出器開発においても着実に成果が出ており、研究領域全体として順調に研究が進んでいると判断できる。
本研究領域で得られた研究成果の中でも、特に研究項目A01のT2K実験で得られたニュートリノCP探索の事象となるミューオンニュートリノから電子ニュートリノへの振動の発見と、研究項目A04のIceCube実験による高エネルギー天体ニュートリノの発見は極めて大きな成果として挙げられる。本研究領域が目指す「ニュートリノを用いた科学研究のフロンティアの進化・発展」に大きく貢献している。学術誌への論文発表や国際研究会での講演など、研究者コミュニティに対する成果報告はもちろんであるが、様々なメディアを通して国民に対しても積極的に公表している。
本研究領域の研究項目Aと研究項目Cが連携し、ニュートリノ振動パラメータの測定など顕著な成果を創出している。また、研究項目Bによる将来を見据えた新しい検出器開発も多面的に研究が進められており、適切な組織設定と言える。ただし、研究項目B03の本研究領域における位置づけが不明瞭な部分があるため、今後の国際競争における戦略を考慮し、適切な課題設定の下で推進されたい。
研究項目Aのいくつかの計画研究において、当初の計画から変更が必要な部分が存在するものの、これまでのところ概ね適切に使用されている。今後についても、当初計画から変更が予想されるため、事後評価時などにその変更の理由と妥当性を明確に説明できるよう進めることが求められる。
すでに当初の予定を上回る成果を上げており、今後の研究計画も妥当である。J-PARC運転時間の確保や原子炉の休止、海外における実験に対する円安の影響などの外的要因に対して、本研究領域の研究者側としての対応も検討しながら研究を推進していただきたい。また、研究項目B02のロケット実験を推進するために体制については、強化することも検討されたい。
特に問題はない。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成28年02月 --