新興国の政治と経済発展の相互作用パターンの解明(園部 哲史)

研究領域名

新興国の政治と経済発展の相互作用パターンの解明

研究期間

平成25年度~平成29年度

領域代表者

園部 哲史(政策研究大学院大学・政策研究科・教授)

研究領域の概要

 中国やインドなどの新興国の台頭は、世界の富と力の分布を急速に変化させつつある。世界経済、国際政治の双方で存在感、影響力を強めつつある新興国は、いま「中所得国の罠」や「民主制のジレンマ」等の諸問題に直面しているが、これらの問題を手際よく解決できるか否かによって、国内の政治バランスに変化が生じ、それは経済政策、外交政策等の変化を通じて、国際貿易・投資はもとより、世界/地域の秩序に強い影響を及ぼすであろう。本領域は、総括班による強力なコーディネーションによって、政治、経済、歴史等の研究者の知見の交流を活発化させ、新興国の国家統治、経済運営の行方を決定づける政治と経済の相互作用のパターンの解明を図る。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 中国やインド、ブラジルなどに代表される新興国の存在感は日増しに強まっているが、新興国についての我々の理解はこれまで乏しかった。このギャップを埋めるには、これまでのような経済、政治、歴史、社会等の個別専門的な研究を発展させるだけでは不十分である。そこで本研究領域は、新興国の政治と経済を、国際比較、歴史比較、ミクロ実証比較分析を通じて体系的に明らかにすることを目的としている。異なる視点からの分析を結合して、ダイナミックに展開する新興国の政治と経済の相互作用を、新興国の多様性を踏まえつつ解明することを目指している。
 本研究領域は、現在の新興国だけを研究対象とするのではなく、かつて新興国であった現在の先進諸国や、政治的に安定感があり順調な経済成長を実現して将来的に新興国になると目されている開発途上国も含め、他に例を見ないスケールの大きな比較分析・国際関係分析を展開している。これは、グローバル、リージョナルあるいは国家レベルのマクロの視点からの叙述的分析と、個人や企業レベルのミクロの視点での定量的分析を結び付け、新たな学問領域を切り開こうとする試みである。
 これにより、新興国に共通する政策課題をめぐるさまざまな事象を学問的に説明することが可能となり、新興国の政治経済を総合的に捉えるという新たな学問領域が世界に先駆けて我が国で発展することになる。また、分野融合マインドと現場感覚を持って画期的な新興国研究、政策研究を展開できる若手研究者が育つことも期待できる。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本領域では、低所得国が新興国になるまでの新興国形成のプロセスと、そのプロセスで生じた経済的・社会的・政治的な変化のために新興国が直面する新たな政策課題を、複層的な視点から分析している。それによって、新興国への途上において形成される制度、政策、社会ネットワークのあり方と、それまでの発展の経路との関係をかなり解明した。同様に新興国段階における新しい政策課題への対応や、その成否に影響を及ぼす経路依存性についても分析し、新興国の歴史的位置づけが進んでいる。同時に、そうした制度や政策の形成や改革を迫る経済・社会の変化と、それに対する政治の対応の成功と失敗を、新興国の多様性を踏まえて、統一的に理解できるようになりつつある。
 本領域の成果としてさらに重要なことは、これらの新しい発見の数々が、分野横断的に繋がっていることに研究者が気付き、その繋がりを共同で解明しようとするに至ったことである。研究開始とともに計画研究の代表者等が共著の書籍を作成したが、それは分野間の知見の交流であって、まだ融合ではなかった。しかしその後は異分野の研究成果を引用する研究者が増え、数名の研究者による専門を超えた共著論文が学術誌に掲載され、領域全体として取り組む共同研究の構想がまとまるまで、社会科学としては画期的に融合が進んだ。異分野融合マインドを身に着けた若手研究者も育ち始めている。こうした進化が、独創的な研究領域の創造につながるように引き続き取り組んでゆきたい。

審査部会における所見

B(研究領域の設定目的に照らして研究が遅れており、今後一層の努力が必要である)

1.総合所見

 本研究領域は、新興国の政治と経済の相互作用を、個別専門的な研究を発展させるだけではなく、経済、歴史、政治の多様なアプローチに基づき体系的に理解する新たな枠組みを提示することを目指す研究である。これまで活発に研究成果が発表され、個別の成果としては国際的な水準の雑誌に研究を発表するなど進展がみられる。
 しかしながら、分析対象国の選定基準が明確ではなく、また、分野横断的な連携も十分ではなく、個別研究の集積にとどまっている。分析対象として適切と判断しにくい国も含まれており、本研究の研究成果としての妥当性に疑問が残るものも見受けられた。現状の計画では、当該研究領域の新たな展開・発展に至らない可能性が危惧される。以上のことから、総括班について実施計画を再考する必要があり、また他の計画研究代表者もそれを踏まえた研究計画の見直しの必要があるため、進捗状況の確認を要する。

1.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 多様な研究者の共同研究により、新興国の政治学、経済学の分野で成果が得られており、個々の研究計画は一定の進展が見られている。
 しかし、現状では、当該研究領域の新たな展開・発展につながる全体の方向性が示されていないように思われる。分析対象国の選定基準も明確にされておらず、また、基盤となる共通の理論枠組も必ずしも明確ではないため、個別研究の蓄積にとどまっている印象を受ける。

(2)研究成果

 これまでのところ、活発に研究成果が発表され、国際的に水準の高い査読付学術雑誌への成果の公刊や、学術書の発表が行われている。しかしながら、分析対象が新興国として適切か明らかでない研究も含まれており、本研究の研究成果としての妥当性に疑問が残るものも見受けられた。知見の活発な交流もみられるが、それだけでは当該研究領域の新たな展開・発展とは言えず、有機的な連携による今後の進展が必要と思われる。

(3)研究組織

 若手研究者育成の取組や、コラム執筆によるアウトリーチ活動は評価できる。一方、「新興国」としての対象国の選定基準の明確化や基盤となる理論枠組を示すために領域代表者のリーダーシップが求められる。世界的に評価されるよう、当該研究領域を発展させるためにも総括班の一層の役割が必要になると考えられる。

(4)研究費の使用

 特に問題はない。

(5)今後の研究領域の推進方策

 個別研究の単なる交流では、新学術領域研究として十分ではない。単に隣接領域の成果を若干取り入れるだけではなく、各国を同じ枠組みで分析し、その結果を横断的に並べるなど、新興国研究の全体像を示すよう試みるなど、当該研究領域の新たな展開・発展のための積極的な交流が必要であると思われる。この点では、領域代表者のリーダーシップが不可欠である。積極的な交流により、予定されている5冊の英文叢書の発行においては、新興国の多様性と共通性を明確にすることが重要と思われる。総括班が分析対象の新興国の基準を明確化し、各計画研究の研究対象を適切に選択することが望ましい。

(6)各計画研究の継続に係る経費の適切性

 概ね適切に計画されていると思われる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成28年02月 --