構成論的発達科学-胎児からの発達原理の解明に基づく発達障害のシステム的理解-(國吉 康夫)

研究領域名

構成論的発達科学 -胎児からの発達原理の解明に基づく発達障害のシステム的理解-

研究期間

平成24年度~平成28年度

領域代表者

國吉 康夫(東京大学・情報理工学系研究科・教授)

研究領域の概要

人の心はいかにして発生し発達するのか?発達障害はなぜ起こるのか?その解明は胎児期にまでたどるべきとの見方が最近急速に強まっている。しかし、ヒト胎児の研究は、倫理的にも技術的にも従来の方法論では極めて困難である。本研究は、ロボティクス、医学、心理学、脳神経科学、当事者研究が密に協働して、胎児からの発達を観察しモデル化しシミュレーション実験し解釈することで、その根本原理を明らかにするとともに、様々な環境要因に伴う変化の様相を明らかにする構成論的発達科学を世界に先駆けて始動し推進する。そして、新たな発達障害理解に基づき、真に適切な包括的診断法と支援法、支援技術を構築する。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 人間の心はいかにして発生し発達するのか?発達障害はなぜ起こるのか?その解明は胎児期にまでたどるべきとの見方が最近急速に強まっている。しかし、人間の胎児からの発達に関して「なぜ?いかにして?」を問う研究は、倫理的にも技術的にも従来の方法論では極めて困難である。
 本研究は、ロボティクス、医学、心理学、脳神経科学、当事者研究が密に協働して、胎児からの発達を観測しモデル化しシミュレーション実験し検証・解釈することで、その本質を明らかにするとともに、環境等の要因に伴う変化の様相を明らかにする構成論的発達科学を世界に先駆けて構築し推進している。そして、新たな発達障害理解に基づき、真に適切な包括的診断法と支援法、支援技術を構築する。
 学問的意義:人間の認知能力は、脳神経系・身体・環境・他者を通した極めて複雑な相互作用の上に成り立ち、発達する。その動的連続過程の本質を捉えるためには、従来の個別学問領域の方法では限界がある。本領域では、当事者研究による内部観測、人間科学による精密な観測データと仮説、ロボティクスによるモデルシステム構成と相互作用実験、を融合した新たな科学的方法論を確立し、これに挑む。
 社会的意義:近年急増している発達障害について、初期からの連続発達過程に寄り添った包括的診断法や療育法、発達障害当事者の困り感や特性に整合した支援法・支援技術、当事者と定型発達者を結ぶ社会のあり方などを提案していく。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 領域内の異分野融合が想定以上に進み、組織や分野を超えた協働や議論が活発に実施され、その結果、当初の想定を超えたものを含め極めて順調に研究成果が創出されている。領域の柱となる重要な成果は以下の2点にまとめられる。
 (1) 胎児・新生児期の身体性と乳幼児期の社会性を直接結びつける知見:周産期の副交感神経等の抑制機能と生後1~2年目の社会的認知との関連性、胎児期の心拍、運動、神経系、羊水量の指標と出生後の神経学的不全診断の関連性、早産児条件での発達シミュレーションによる脳の身体表象異常の発生、新生児期の運動指標と3歳時点の認知を含む発達遅滞の関連性、など、胎児・新生児期の身体性が乳幼児期の社会性発達に影響するとの仮説を直接的に支持するデータが当初の想定をはるかに超えて揃いつつある。研究開始時には間接的証拠のみに基づいていたこの仮説は本領域の大黒柱であり、今後の研究では、関連性を超えて因果的理解に挑んでいく。
 (2) 領域共通「発達脳モデル」の構築:これまでに各研究班で得た実験データや理論、文献調査を統合し、密な協働作業を重ね、領域共通の「発達脳モデル」を構築しつつある。これは(1)の関連性を発達的因果性により説明し得るモデルで、世界に類を見ない学術成果であると共に、今後の本領域の推進方向および成果集約の中核的枠組みを提供する。研究期間半ばにしてこのような統合成果が得られることは当初想定しておらず、領域の研究と融合の計画以上の進展を象徴する。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、ロボティクス、医学、心理学、脳神経科学、当事者研究が密に協同して、胎児からの発達を観察、モデル化、シミュレーション実験し解釈することで、その根本原理を明らかにするとともに、様々な環境要因に伴う変化の様相を明らかにする構成論的発達科学の構築を目標としている。目標を達成するために、A. 構成論、B. 人間科学、C. 当事者研究の3つの研究項目を設定し、総括班を中心にしっかりとした研究体制のもと研究は適切に推進されている。構成論の新生児シミュレーションの研究では大きな成果が得られつつあり、今後の進展が期待できる。本研究領域の成果は、一種の社会革命を含んでおり、社会の成熟とともに、新たな学術の在り方として定着することを期待する。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 本研究領域は、構成論的発達科学の構築を目標に、構成論、人間科学、当事者研究の3つの研究項目を、ロボティクス、医学、心理学、脳神経科学、当事者研究の研究者が有機的に協力し順調に推進している。残りの期間を通じて目標を達成することが期待できる。本研究領域の成果は、一種の社会革命を含んでおり、社会の成熟とともに新たな学術の在り方として定着することを期待する。

(2)研究成果

 ロボティクス、医学、心理学など、それぞれの研究者が基本的な方向性を共有しながら、それぞれの優れた手法を発達させ、設定目標通りの成果が上がりつつある。特に早産児の発達シミュレーションによる脳の身体表象異常が見出されたこと、子宮全域の超音波撮像システムの構築による胎児の身体運動に関する信頼性の高いデータが取得できたことなど、著しい成果も上がっている。今後計画しているグループ同士の連携に向けて、これまでに得られた知見の共有を行い、連携による新たな成果が出てくることが期待される。

(3)研究組織

 それぞれの研究者が研究全体の根本的な困難さと意味をよく理解しており、着実に新しい学問領域としての体裁を整えつつある。総括班会議を頻繁に開催し、組織運営に力を入れていることが分かる。若手研究者の育成も実践されている。アウトリーチ活動や、一般社会への還元も着実に行われている。 

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。 

(5)今後の研究領域の推進方策

 特に問題点はなかった。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 特に問題点はなかった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成26年11月 --