免疫四次元空間ダイナミクス(高濱 洋介)

研究領域名

免疫四次元空間ダイナミクス

研究期間

平成24年度~平成28年度

領域代表者

高濱 洋介(徳島大学・疾患プロテオゲノム研究センター・教授)

研究領域の概要

 免疫細胞の分化と免疫応答は、全身に配置された多様な免疫器官(骨髄・胸腺・リンパ節・脾臓など)を主な「場」とし、これらの「場」が血液系細胞等を介した高次の機能的ネットワークを形成することではじめて成立するダイナミックな事象である。血液系の免疫細胞は異なるリンパ器官を巡って産生・選別・活性化・維持されるため、リンパ器官が全身性のネットワークを形成し互いに連携することは、免疫システムの統御に不可欠である。それゆえ、免疫システムの全容解明と縦横な制御には、血液系細胞を対象とした研究のみならず、リンパ器官を主とする「免疫の場」とそれらのネットワークの本態解明は極めて重要である。本領域では、「免疫の場」を構築するストローマ細胞に光をあて、免疫細胞とその場が構成する「免疫空間」の四次元(三次元空間と時間)的な形成・連携・攪乱の本態解明をめざす。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 免疫細胞の分化と免疫応答は、全身に配置された多様なリンパ器官を主な「場」とし、これらの場が血液系細胞等を介した高次の機能的ネットワークを形成することではじめて成立するダイナミックな事象である。本研究は、免疫学に加え、発生生物学、構造生物学、血液学など多様な背景で成果を挙げてきた研究者が結集し、従来の免疫学研究では未解明であった「場」を含めた「免疫空間」の四次元的な形成・連携・攪乱の機構解明と再構築をめざす。とりわけ、(1)免疫空間の形成と機能、(2)免疫空間の連携と動態、(3)免疫空間の撹乱と再構築、の3項目に焦点を合わせ、独創的で国際的に高い水準の研究を推進している研究者が連携を図りつつ、各々独自のアプローチにて研究を推進する。本研究の推進により、血液系細胞を主な対象とする従来の免疫学研究に、「免疫の場」を構築するストローマ細胞を主な研究対象とする新しい取り組みが加わることで、免疫システムの四次元で動的な本質の解明が大きく前進する。また、免疫空間の人工的再構築による疾患制御の技術基盤が整備される。更に、免疫系と内分泌系や神経系など高次制御システム間の動的な統合による全身恒常性調節機構の解明につながる。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 免疫空間の形成と機能に関して、フォークヘッドファミリーに属する転写因子Foxc1が骨髄ニッチの形成と機能に必須であることを発見し、これまで不明であった骨髄ニッチの実体にはじめて分子基盤を与えた(長澤らNature 2014)。免疫空間の連携と動態に関しては、免疫−神経インターフェースで働く蛋白質を探索する過程で見出したニューロン特異的な受容体蛋白質sorLAがアミロイドペプチドを結合してリソソーム分解系へ運ぶことにより、アルツハイマー病発症から脳を守ることを発見し、神経系の恒常性調節とアルツハイマー病の病因解明に大きく寄与した(高木らScience Transl Med 2014)。また免疫空間の撹乱と再構築に関しては、免疫不全マウスへのヒト血液系悪性腫瘍細胞再構築技術を活用することで、難治性ヒト急性骨髄性白血病の新しい治療薬候補としてチロシンキナーゼHCKの新規阻害剤を発見した(石川らScience Transl Med 2013)。これらはじめ、当初計画の3研究項目いずれにおいてもこれまでに、研究領域の設定目的に照らして期待以上の進展がみられている。また、班員間の緊密な共同研究を新たに多数開始されているとともに、シンポジウム開催等による科学者コミュニティとの連携や国民との対話を推進している。若手研究者の育成取組の成果として既に教授2名と助教2名を輩出している。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域は、血球系細胞を主な対象とする従来の免疫学的研究において、ストローマ細胞(非血液系細胞)を研究対象とすることで免疫の「場」を構築し、免疫システムの四次元(三次元空間の場 + 時間)的な形成・連携・攪乱の本態解明を目指して研究を展開している。また免疫学に加え、発生生物学、構造生物学、血液学などの異分野の研究者による共同研究が進められている。研究成果の公表は積極的に行われており、若手研修会等による若手研究者の育成も進められている。順調な研究成果が得られているが、一部の計画研究代表者において研究の進展がはっきりしないものも含まれている。優れた研究が個別に存在している印象が否めず、本研究領域としての有機的な連携に課題があるとの意見があったため、領域全体としての成果が上がるよう、さらなる研究連携や研究支援体制の強化をはかるなど、領域研究代表者のリーダーシップに期待したい。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究の進展状況

 血球系細胞中心の研究から、ストローマ細胞に焦点をあてた研究へと視点を変えることにより、多くの優れた研究が展開し、免疫系を支持する場の時間・空間的理解を深める上で重要な貢献をしている点で高く評価できる。特に、研究項目A01の研究進展は著しく、胸腺および骨髄における微小環境を形成する分子とその機能の解明は本分野の発展に大きく貢献した。
 一方、優れた研究が個別に存在している印象が否めず、領域としての有機的な連携に課題があるため、新しい手法の開発という点においては、さらなる研究の発展を目指してほしい。

(2)研究成果

 本研究領域の目標に沿った一定の成果を上げつつあり、それらの成果についてはニュースレター、ホームページだけでなく、マスコミを通じて積極的に公表している。また、領域としても種々の科学コミュニケーションの場を通じて、一般への普及に努めている。
 現時点での研究成果は一部の研究者の優れた成果に依存しているので、今後、他の研究者の成果も上がるように領域内のさらなる連携を期待する。また、研究支援のシステムや共同研究の充実に今後力を注いでほしい。

(3)研究組織

 本研究領域内で多くの共同研究が推進されているが、共同研究に参加していない研究者も存在するため、研究者間の有機的連携や若手育成のための方策を、領域代表者のリーダーシップのもと検討してほしい。

(4)研究費の使用

 概ね問題ないが、一部の研究計画について研究組織や研究方法の変更に伴う研究費使用の変更が見られる。

(5)今後の研究領域の推進方策

 優れたマネジメントにより、今後の方策も綿密に練られている。とりわけ、他の新学術領域との連携は興味深い。研究連携を意識して、多くの共同研究および共同支援体制を強化しようとしている。また、若手育成について、研修会は意義深いものと考えられるので、参加研究者の増加に期待したい。
 また、本研究領域内で目標を共有し研究連携を意識して、現時点で成果の上がってない研究者への支援について領域全体として取り組む必要がある。

(6)各計画研究の継続に係る審査の必要性・経費の適切性

 大半の計画研究は成果を出しつつあり概ね問題ない。ただ、一部の計画研究については、研究組織や研究方法の変更により、本研究領域の主旨に添った成果が上がっていない。このため、これらの計画研究については、継続に係る3年目の審査が必要である。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成26年11月 --