「新学術領域研究(研究領域提案型)」生命科学系3分野支援活動の進捗評価に係る所見(脳支援活動)

1.研究課題名

包括型脳科学研究推進支援ネットワーク

2.研究期間

平成22年度~平成26年度

3.研究代表者

木村  實(大学共同利用機関法人自然科学研究機構・新分野創成センター・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 「総合的人間科学」を可能とする生命科学的基盤である脳科学研究は、遺伝子、機能分子、シナプス、神経細胞、神経回路、システムから行動、病態に至る高度の多様性と階層性を特徴としており、その発展のためには包括的・融合的・全体的なアプローチが求められる。他方、個別の研究者では階層を横断した多次元の、独創性の高い研究が困難である。文部科学省新学術領域研究生命科学系3分野支援活動『包括型脳科学研究推進支援ネットワーク(包括脳ネットワーク)』の目的は、科学研究費補助金によって推進される個別研究を対象に、1)研究情報共有のためのワークショップや研究集会などのネットワーク活動、国内外の研究室相互訪問プログラムなどの若手研究者育成支援を実施すること、2)脳科学研究に特化した、(1)精神・神経疾患研究支援の機能的ブレインバンク支援活動、(2)行動解析融合型プラットホーム支援活動、(3)脳分子プロファイリング開発支援活動、(4)大規模脳活動計測・操作システム研究支援活動、(5)脳機能プロービング研究支援活動からなるリソース・技術開発支援を展開することである。このような総括支援活動による学際的・融合的研究環境の提供と、脳科学の多様性と階層性に対応するきめ細やかなリソース・技術開発支援によって、世界をリードする学術研究を創出、発展させるとともに、脳科学研究全体の“底上げ”を図ることを目指している。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 生命科学系3分野では、連絡会やワーキンググループにおいて支援活動全体の現状と今後の在り方に関する意見交換を行い、各分野の活動に相互に参加し班員間の交流を深めるとともに、モデル動物支援に関する共有リソースとしての一元的管理の具体案を検討し、支援活動の効率化や生命科学系分野全体への波及効果の拡大を図ることを確認した。
  脳分野(包括脳ネットワーク)では、平成22年度の発足から3年6か月にわたる支援活動を通じて、独創的かつ革新的な異分野融合研究の実現や優れた先端的研究成果の発信など、多数の顕著な実績が得られ、包括支援活動がなければ脳科学において世界をリードすることが不可能であることが示された。また、約800名の参加者を得て開催された夏のワークショップでは、複数の支援活動拠点の連携による合同チュートリアルを実施し、拠点間の情報共有と連携強化に積極的に努めた。さらに、今後のリソース・技術開発支援活動の在り方について検討し(1)脳科学研究者コミュニティからの要望に基づくボトムアップ的支援が今後も必要不可欠であること、(2)国際競争に打ち勝つ先進的研究支援を実現させるためにはcutting-edgeの技術開発を継続できる経費支給が必須の要件であること、(3)現行の13拠点を整備し、3つの主要な支援項目に再分類することにより、焦点の絞られた支援組織を構築し、時機に合わせて研究者コミュニティの要望の強い分野を積極的に取り込むことができる柔軟な支援体制に改革すること、などの合意が得られた。

5.審査部会における所見

総合所見

 A (支援活動の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

 本支援活動は、包括型脳科学研究推進支援ネットワークとして、総括支援班とリソース・技術開発支援の大きく2つの組織より構成されている。方法論や視点の異なる個別研究を統合するネットワークの構築、個別研究者が階層を貫く研究を実現するためのリソース・技術支援、世界をリードする学術研究の創出と統合的な脳研究の推進、という目的の達成に向け、総括支援班が中心となって、若手育成支援や研究集会を通じた脳科学研究者の交流を促進するとともに、13拠点より形成されるリソース・技術開発支援では、相談や技術指導、情報交換も含めたきめ細かな支援を800件以上行っており、期待どおり進展していると認められる。また、3分野支援活動間で、モデル動物に関してリソースの共有化を図るなど連携を図るための具体的な取組が始まった点は評価できる。
 一方で、世界の技術革新はめまぐるしい勢いで進んでおり、当初の設定目標と現在の脳関連の解析技術の発展との間に乖離も見受けられる。特に、各階層をまるごと取り込むような解析技術やシステムレベルへの光技術の応用は立ち遅れている感があり、今後、本支援活動においてどのようなリソース・技術支援を進めていくのか、より具体的な方針の策定が望まれる。

評価に当たっての着目点ごとの所見

 マネジメントの適切性については、総括班が中心となり、夏のワークショップにおいて、複数の支援活動拠点の連携による合同チュートリアルを実施して、支援活動拠点間の情報共有と連携強化を図るとともに、リソース・技術開発支援を行う13拠点を3つの主要な支援項目に再編成し、脳科学研究者コミュニティからの要望も踏まえて柔軟な支援体制ができるように改革するなど、中間評価結果を踏まえた支援体制の見直し等を行っており、評価できる。一方で、ワークショップ等を通して取り上げた脳科学研究者からの要望や意見を我が国の新しい脳科学研究支援のあり方に反映させるところまでには至っておらず、総括班として支援事業の重要性を明確に示すなど更なる努力を期待する。
 若手研究者の育成については、夏のワークショップ、国内外の研究室訪問プログラムに加え、若手を中心とした新研究法・分野開拓の研究会の支援や個々の支援活動の各拠点への若手研究者の派遣など積極的に取り組んでいる。また、若手優秀発表賞の授与なども若手研究者のモチベーションの向上に貢献している。
 支援活動の有効性について、支援課題の選定は適切に行われているものの、各種学会や様々な媒体を通じて、支援の趣旨をより明確に伝えるとともに応募課 題の数を増やす努力も必要と思われる。また、技術革新への対応がやや弱いため、今後、最新技術の習得と提供のための方策について検討することが求められる。
 支援経費の効率性については、限られた予算の中で、効率よく使用されている。特に、全体経費の効率的な配分方法の検討に関しては、解析技術支援における基盤的な課題の克服や本支援活動の趣旨に合ったモデル動物などに経費を重点的に配分するなど、メリハリのついた経費配分が行われている点が評価できる。
 ライフサイエンス分野における各種施策との関係については、本支援活動は個別の学術研究に対してリソース・技術開発支援を行うことにより、研究者の自由な発想に基づく多階層の学術研究と相補的に脳科学研究を推進することに貢献しており、特定の研究の推進を目的とする他のプログラムとは根本的に異なっている。一方で、今後、より効率的に支援活動を展開するためには、脳関連の共同研究施設との連携や、本支援活動で開発した技術を一般化する方策等を検討することが求められる。
 中間評価結果を踏まえた支援活動の見直しについて、リソース・技術支援の拠点間の情報共有・連携強化が図られており、複数拠点による共同支援は人材育成にもつながったと認められる。また、3分野支援活動全体に対する所見への対応については、各分野で開催する講習会への他分野からの参加や拠点間の相互サイトビジットによる異分野交流を行ったほか、モデル動物に関して、3分野支援活動全体の共有リソースとして情報や技術開発支援の一元化を図ることとした点は評価できる。単なる声掛けにとどまることなく、実質的に進めていただきたい。
 本支援活動は、当初目的に沿って、総括支援活動、リソース・技術開発支援活動共にほぼ順調に進行しており、当初の目的は達成し得ると見込まれる。また、今後の方向性として、リソース・技術開発支援を担う13拠点を3つの主要な支援項目(ヒト脳機能と精神・神経疾患、脳機能の分子・細胞基盤及び脳機能のシステム・行動基盤の研究支援)に再編成し、より重点化した支援を行うための体制づくりを進めている点も評価できる。しかし、その具体的な効果はまだ見えておらず、今後、脳関連領域の研究が急速に進展している現状を踏まえ、どのようなリソース・技術支援が必要か、そのための支援体制はどうあるべきかなど、より具体的な検討が求められる。

 なお、個々の支援活動の進展状況については、リソース・技術開発支援において、800件を超える支援を行い、統合的な研究に発展した成果が多数生み出されている(一流英文雑誌へ229篇の論文発表)こと等から順調に進展していると認められる。
 支援活動の成果・波及効果については、本支援活動では、脳科学研究に特化したきめ細かな対応が必要とされるものが多く、特に、ブレインバンクの形成は、本支援がなければ達し得なかったと思われる。また、免疫電顕技術や光技術など他分野への応用・普及が可能な支援も含まれており、他の自然科学分野への波及効果も期待される。すでに、人文社会科学系の新学術領域研究とのワークショップや、理工学系や人文社会科学系などの異分野の専門家との意見交換などを行っており、積極的な取組が評価できる。
 成果の公表と普及については、広報委員会とデータベース委員会が連携して、ホームページ、公開シンポジウム及び研究集会など様々な媒体を通して、成果の公表と普及に努めている。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成26年04月 --