広視野深宇宙探査によるダークエネルギーの研究(唐牛 宏)

研究領域名

広視野深宇宙探査によるダークエネルギーの研究

研究期間

平成18年度~平成23年度

領域代表者

唐牛 宏(東京大学・カブリ数物連携宇宙研究機構・特任教授)

研究領域の概要

 我々の宇宙は約23%のダークマターと73%のダークエネルギーによって占められている。20世紀の素粒子物理学が解明した物質階層であるバリオンは宇宙ではわずか4%を占めるのみである。ダークエネルギーという存在自体も、宇宙論スケールにおける一般相対論の限界を示している可能性もある。バリオンでもダークマターでもない宇宙の新たな構成要素であれ、一般相対論の修正という新たな物理法則の示唆であれ、現代科学に与える意義は計り知れない。本研究は、すばる望遠鏡という、8-10m級望遠鏡の中では群を抜く機械的堅牢さと精密制御性能の特長を十二分に生かし、すばる以外の既存の巨大望遠鏡では実現不可能な広視野3.1平方度の主焦点カメラ(HyperSuprime)を製作する。そして、この新装置を用いて最低1000平方度超広域撮像探査を行う。探査天域に含まれる銀河の数は1.5億個程度と推定され、これらの銀河の形状解析から弱い重力レンズ効果による系統的形状歪みを検出することにより、遠方銀河と我々の間に介在する(ダークマターを含めた)全質量の分布を求めて「3次元質量分布地図」を作成する。また、探査天域の全データをカタログ化して学術領域全体に公開することにより、宇宙大規模構造の形成と進化、銀河の個数分布と形状進化、等々の多様な観測的宇宙論の研究によって、ダークエネルギーの正体に迫る。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A-(研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの成果があったが、一部に遅れが認められた)

1.総合所見

 本研究領域の研究によりすばる望遠鏡搭載の超広視野カメラHSCが完成し、その初期性能は極めて高いものであった。これにより、我が国の観測的宇宙論分野における国際的優位が確保されたものと思われる。一方で、不可抗力の外的要因(日本とハワイにおける地震、すばる望遠鏡の不具合など)によって、完成したカメラを用いた観測及びこのデータを用いたダークエネルギーの研究には至っていない。これに関しては、すばる戦略枠観測で300夜の観測計画が採択され、2014年2月から観測開始の予定となっており、今後の進展に期待したい。本装置に対する国際的評価はNature誌に取り上げられるなど極めて高く、今後、観測データの解析によって、ダークエネルギーの性質と起源の解明を目指した大きな成果が期待される。
 以上のことから、研究領域の設定目的に照らして概ね期待どおりの成果が得られているものの、不可抗力の外的要因により「一部に遅れ」が認められる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 本研究領域の最終目的とするダークエネルギーの性質と起源の天文学的解明は、他分野への影響も大きく、物理に新しい理解をもらすような重要なテーマである。特に、他のグループによって進められている超新星を用いた手法とは相補的な情報を得られることが期待されるため、まさに今推進することが重要である。こうした状況のもと、すばる望遠鏡搭載の超広視野カメラHSCが完成し、試験観測により高解像度画像を得られ、極めて高い初期性能を確認したことは意義深い。
 計画研究Aの「世界に類を見ない新装置を開発し、それを用いて大規模新宇宙探査サーベイ観測を行う」という設定目的の前半は達成されている。目的の後半については不可抗力の外的要因(日本とハワイにおける地震、すばる望遠鏡の不具合など)によって、観測が行われていないために達成されていない。これに関しては、すばる戦略枠観測で300夜の観測計画が採択されたということで、今後の進展に期待したい。計画研究Bの「計画研究Aで得られるデータの定量的な解析を行い、これを理論モデルと比較することでダークエネルギーの存在およびその時間変化に迫る」については、研究期間内にデータの取得ができず未完であったが、当初の設置目的を超えて多岐にわたった成果をあげている点は評価に値する。

(2)研究成果

 すばる搭載広視野カメラにより、当該領域として高いレベルの研究が行われることが期待できたが、本研究により超広視野カメラHSCが成功裏に完成したことで、当該分野の格段の発展が確実に期待できる状況となった。HSCの初期性能は高く、今後、この装置による観測結果の解析により、ダークエネルギーの性質と起源の理解が天文学の手法により深まり、大きな成果が期待できる。研究領域の設定目的に照らして、研究成果の積極的な公表、普及は記者会見やWEBサイトで図られており、適切である。
ダークエネルギーの性質と起源の解明については、世界中で熾烈な観測的・理論的研究が行われている。そのための手法として素粒子物理学的手法より、天文学手法による解明が期待されており、研究の発展段階の発展の観点からみて成長期にあるこの分野がさらに発展する基礎が築かれた。
 研究開始時においては、「学術の整合性ある発展の観点からみて重要であるが立ち遅れており、その進展に特別の配慮を必要とする研究領域」であったがHSCの完成により、世界を大きくリードする状況になっており、その意味で領域の設定目標を達成したと言える。
 今後、HSCの観測により、ダークエネルギーの性質に新たな知見が得られると予想され、その場合、天文学的宇宙論だけでなく素粒子理論への影響も大きい。すなわち、本領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすという点で、本研究成果は、学術研究における先導的または基盤的意義を有すると言える。

(3)研究組織

 領域発足時に16人であった研究組織が、日本天文学会最大の166名の共同研究者を擁する分野へと発展したことは、本研究領域の大きな成果である。国際共同研究も広がり、理論と観測のグループで相補的な役割分担が行われていることも評価できる。

(4)研究費の使用

 外的要因によって計画変更が必要となったが、適切に対応し装置の完成に至った。研究費の使途等に問題はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 観測結果が得られていないため、素粒子・宇宙理論分野への具体的な貢献には至っていないが、完成した装置の高い性能が確認され、観測時間も確保できたということで、今後の大きな貢献が期待される。

(6)若手研究者育成への貢献度

多くの研究者を巻き込んだ観測体制を構築し、その中で若手研究者の育成がなされた。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --