実験社会科学(西條 辰義)

研究領域名

実験社会科学

研究期間

平成19年度~平成24年度

領域代表者

西條 辰義(高知工科大学・マネジメント学部・教授)

研究領域の概要

 本領域研究の目的は、異なる領域に属する社会科学者が「実験」を共通言語として協働し、より高い説明能力と政策提言能力を有する社会科学を構築することにある。
 具体的には、1)経済・経営・政治学者を中心に「社会制度の設計・評価に関する実験研究」を行い、理論の予測と制度の挙動との乖離を明らかにする。2)その結果を基に、心理学・生物学者を中心に「人間行動の社会性に関する実験研究」を行い、社会科学の要請に耐えうる人間性モデルを構築する。3)社会制度設計・評価の実験研究はこの人間性モデルを基に妥当性の高い制度設計と理論的洗練を推し進める。
 こうした協働を推進しつつ、サマースクール等を通じて実験経験のない研究者の教育を行い「新たな社会科学方法論としての実験」の普及を目指すと共に、斬新な着想に基づく実験計画案を公募する。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 本研究領域は、社会科学の異なる領域の研究者が、実験を通して、人間の行動の特徴を解明することを目標とした。社会科学の各分野が実験という共通の手法を通じて協働し、実験社会科学という新たな領域への道を拓く意義深い研究であった。また、ニューロイメージングの実験により、行動の基盤となる脳機能を測定していることは評価すべきである。社会科学を自然科学と並ぶ実験ベースの学問として、大きく前進させたと言える。
 一方で、個々の研究項目の研究成果は十分であるものの、相互の連携、融合が見えにくい。当初の研究計画においては各計画研究が相互に連携することが示されていたが、それらを統括する具体的な方法を提示することが必要であった。個々の計画研究の成果をどのように統合し、新しい学問領域を創成していくのか期待したい。
 また、研究成果の学術的還元は十分行われている。特に、国際的に評価の高い学術誌への多数の論文掲載や国際学会の開催などから、「実験」と観察調査をうまく組み合わせて国際的な研究成果を得たと言える。今後は社会への生態学的視点と閉鎖的実験のもつ限界という基本問題への視点を踏まえつつ、実験社会科学の成果が一般社会に還元されていくことが期待される。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 社会科学に、「実験」という自然科学的手法を取り入れる先導的研究をすすめ、社会科学全体における統一的アプローチの将来性を示した点が大いに評価できる。また、脳活動を計測するニューロイメージング手法が、特に21世紀に入ってから、社会科学の研究でも使われ始めたことを受け、本研究領域はその発展を見込んで、積極的に取り入れていった。各計画研究の成果を踏まえた上で統合的な「人間性モデルの構築」を行うという目的の達成に向けてさらに前進する余地もあったが、心理学・経済学・政治学・社会学といった社会科学の各研究分野を横断する統一的アプローチの基盤を形成することには成功している。その貢献は今後の社会科学の発展にとって重要であり、高く評価できる。また、急速に変化する現代社会においては、エビデンスベースドでの研究が希求されており、社会科学にその実証的なモデルを示したという意味でも意義がある。一方で、本領域研究の成果をさらに発展させるためには、個々の研究成果を有機的に関連付けるメタモデルのような、システム論的な枠組みからの議論が必要である。また、社会科学における先導的な研究としては、より高い頂上を目指すと同時に、より広い裾野を開拓する必要があるため、初学者に対する情報発信を十分に行っていただきたい。
 研究成果に対する社会的要請については、社会的行動場面における人間行動の特徴を理解することに役立つものと考えられる。当初目的を着実に達成しており、実験社会科学という学問分野の名称も定着する可能性がある。

(2)研究成果

 本領域に含まれる個々の研究においては、多くの独創的な研究成果を出し、応用的な社会科学の創出に貢献していること、国際的にも評価の高い国際学術誌へ掲載されていることなどから、今後、一層の発展が期待される。一方で、各計画研究を架橋した成果物は十分とは言えない。この部分こそが新しい学問領域の展開にとっては重要であるので、今回の成果をさらに俯瞰する形でまとめられることを期待する。また、閉鎖系モデルと開放系モデルのすり合わせや、実験室の中での実験社会学の成果が実社会の中でどれだけ妥当性をもつのかという点についても、検討が待たれる。
 本研究は、社会科学において、先導的・基盤的な意義を有する。特に、研究成果の公表状況も十分であり、基盤的な意義を見出すことができる。

(3)研究組織

 統括班がリーダーシップを発揮することで、実験によって社会科学を統合するという試みにおいては一定の成果を生み出した。
 一方で、各計画研究の成果の有機的な関連性がやや見えにくかった。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 総じて、多くの学問分野に新たな分析手法を提供したと言える。特に心理学、経済学、経営学、社会学を実験によって統一的に関連付けており、新しい学問領域を明確な形で示した点は評価できる。国際的に評価の高い学術論文の出版のみならず、一般向けの啓発書を刊行する計画も進行中である。
 一方で、各分野の理論との関連は、今後の研究でより明瞭にしていく必要があると思われる。

(6)若手研究者育成への貢献度

 本研究領域を通じて、既存の社会科学諸分野を横断して活躍する新しい研究者が育ちつつあり、若手研究者の育成への貢献が認められる。実際、本研究に関わった多くの若手研究者が、国内の大学で職を得て、研究を進めている。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

Adobe Readerのダウンロード(別ウィンドウで開きます。)

PDF形式のファイルを御覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、まずダウンロードして、インストールしてください。

-- 登録:平成25年11月 --