サンゴ礁学-複合ストレス下の生態系と人の共生・共存未来戦略-
平成20年度~平成24年度
茅根 創(東京大学・大学院理学系研究科・教授)
サンゴ礁は、様々な階層で生物と地形、人が相互作用し合う共生・共存系である。現在このサンゴ礁は、ローカルな環境ストレスと地球温暖化のストレスとによって、劣化・破壊の危機にある。しかしながら、サンゴ礁の階層的な共生系の維持機構とそのストレス応答が不明なため、科学的根拠に基づいて制御・再生策をとることができない。
本新学術領域の目的は、サンゴ礁共生系の複合ストレスに対する応答モデルを構築するとともに、応答モデルに基づいてサンゴ礁の監視・診断を行う手法を開発し、適切なストレス制御と修復・再生のために必要なガイドラインを示し、人とサンゴ礁の新たな共生・共存系構築のための学術的基礎を創ることである。
A-(研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの成果があったが、一部に遅れが認められた)
本研究領域は、サンゴ礁を共通の研究対象として、生物学、地学、化学、工学、人文社会科学などの異なる分野を融合し、人とサンゴ礁の新たな共生・共存系構築のための学術的基盤を創成することを目的としてきた。本研究領域の活動は、サンゴの生態に関する多面的な研究により新たな知見を積み重ね、我が国のサンゴ礁学の裾野を広げる役割を果たしたと評価できる。本研究領域の活動を通じて、若手研究者の育成が効率よく図られ、今後のこの分野の発展が期待される。
一方で、人文社会系との連携と融合にもとづく成果が、当初計画に照らして必ずしも十分とは言えず、また、目標としていた「共生・共存未来戦略」の明確な提示にまでは至っていない。
欧米がリードするサンゴ礁研究において、共通の研究プラットフォームを設定し、その活動を通じて我が国のサンゴ礁研究レベルを押し上げた意義は大きい。本研究領域の活動を通じて発表された論文のうち、領域組織内での共著論文の割合が5分の1に達している点は、研究者間の相互交流が高度に実現されたことを示している。
他方、人文社会系との連携については、個々の成果の利用のみならず、さらなる融合が求められる。本研究領域では、他領域に波及する可能性のある基礎的成果も得られており、「共生・共存系構築」という共通の方向性を軸として今後の融合的な研究領域のビジョンの提示が求められる。
サンゴポリプ間の物質移動の解明等、サンゴ個体の生態を明らかにしたほか、多様な研究分野の基礎データを踏まえて、サンゴ礁共生系の複合ストレスに対する知見を集積した点は高く評価できる。ホームページやワークショップの開催を通じて、成果の公表にも積極的に取り組んでいる。
しかし、人文社会系の研究成果が主に陸域活動の産業社会分析に限られており、水産業や漁業も含めた形での物質循環の解析等、複合的視点を取り入れた検討がなされるべきであった。
研究者間の相互交流を促進するための企画を意欲的に実施し、異分野の研究者からなる組織のマネジメントに注力したことは評価に値し、その結果は十分な質と量の共同研究成果として表れている。ただし、それは一部研究分野間の相互連携にとどまっており、研究領域全体を網羅する研究ネットワークの構築に至れば、研究領域内融合がさらに進んだ可能性がある。
特に問題点はなかった。
サンゴ礁をめぐる学際的な研究促進につながる基盤となった。若手研究者が多く育成され、長期的視野での波及効果が期待される。積極的なアウトリーチ活動の展開により、サンゴ礁を取り巻く環境への一般社会の関心を高めることにも大きく貢献した。
若手研究者を対象とした研究会やサマースクールの積極的な開催などを通じて、次世代研究者の育成・成長に十分な配慮がなされており、この点への高い貢献が認められる。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成25年11月 --