学際的研究による顔認知メカニズムの解明(柿木 隆介)

研究領域名

学際的研究による顔認知メカニズムの解明

研究期間

平成20年度~平成24年度

領域代表者

柿木 隆介(生理学研究所・統合生理研究系・教授)

研究領域の概要

 顔認知は言語認知と並んで、人間が社会生活を送る上で最も重要な機能と考えられるようになってきた。顔認知機能の障害は教育現場においても様々な問題を生じている可能性があり、特に自閉症の子供達や、引きこもりなどの状況に陥る学童での顔認知機能の障害の可能性が指摘されている。近年、欧米諸国では、心理学、脳科学、基礎医学、臨床医学、工学、情報学などの幅広い分野で、「顔認知機能」の研究が非常に盛んになってきているが、日本では未だ組織立った顔認知機能の研究体制が整っていない。この時期にこそ、様々な学際的な研究分野の研究者が集結して、新しい学術領域を開拓し、この重要なテーマの解明に力を注ぐことが重要であると考え、応募申請することとした。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 本研究領域は、心理学、脳科学、基礎医学、臨床医学、工学、情報学などの幅広い研究分野を統合し、人間が社会生活や社会的コミュニケーションを行う際に重要な顔認知機能の解明を目指したものである。領域全体として多くの研究知見が報告されており、当初の目的に照らして、期待どおりの成果が得られたと考えられる。特に、乳幼児の発達に関する研究では予想を上回る成果を上げており、また、ニホンザルの顔データベースが作成された点は、今後の研究につながるという点で貴重な成果であると言える。計画研究、公募研究ともに、多くの優れた成果を上げており、我が国の研究レベルの向上という観点からも評価できる。
 その一方で、顔認知障害の病態解明と治療という目標に関しては、十分に達成したとは言えず、今後この分野で、各種の機能計測間の連携や、融合的な研究法の開発が活性化する基盤となることが期待される。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 神経科学的な計測を中心として多様な学際的領域からなる「顔認知」という新規・融合領域の創成という目的を十分に達成したと言えるが、各種機能計測を連携させ、融合するような研究法の開発・推進については、今後に期待したい。
 異分野連携の共同研究については、文理の垣根を超えた共同研究が顔認知メカニズムのもとで進められたことは評価できるものの、臨床的目標に向けた異分野連携の共同研究は、やや少ない印象を受ける。
 乳児を対象とした顔認知の発達過程の研究は、独創的な研究手法を開発することで、特筆すべき成果を上げた。また、ニホンザルの顔データベース作成は、今後多くの研究者が利用できる貴重な基礎資料となるものである。発達障害児からサルの顔認識まで、幅広く学際的な研究成果が得られたことから、新視点・手法の共同研究に関しては高く評価できる。
 総じて、本研究領域において学際的な研究を展開することで、多くの研究成果を海外に向けて発信することができたことは、高く評価できる。

(2)研究成果

 医学、心理学等の研究者が得た画像データとその解析、あるいは様々な表情画像の作成など、工学系の研究者との共同作業が成果を生み出し、新たな解析プログラムの開発、鑑別診断法開発等に結実したことは、異分野連携の共同研究の成果として評価できる。研究項目A01、A02の神経イメージング研究者が、A04班の乳幼児心理学者と共同研究を行うことによって、乳児の覚醒時における顔認知の脳活動を世界で初めて記録する等の成果は、共同研究の成功例と言える。研究項目A03の顔認知障害の臨床的研究については、研究成果が基礎的な部分に集中しており、今後、より臨床的な共同研究での成果を期待したい。
 正常児の発達評価法開発、各種発達障害の鑑別法等については、新視点・手法の共同研究の成果として評価できる。認知実験法では、ニホンザルの顔認識データベース作成や、キメラ画像を用いたものなどに新視点が見られる。
 計画研究、公募研究ともに研究業績は国際的に見ても優れており、我が国が立ち遅れている領域としての目標は十分に達成されたと言える。また、最終年度に国際シンポジウムを開催し、多数の海外研究者と有意義な研究交流ができたこと、各種メディアへの発信、学術雑誌での特集号、書籍の出版などについても積極的に取り組んだ点は、新興・融合領域の創成という観点からも高く評価できる。

(3)研究組織

 研究組織は幅広い分野の研究者により構成され、異分野連携を進める上で有効に機能していたと思われる。
 一方で、各種機能の画像データの解析や計測データを統合して分析する上では、数学や情報学等の研究者の強化が図られるとよかった。

(4)研究費の使用

 研究費の使用は適切であり、特に問題点はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 当該学問分野や関連学問分野への貢献度は高いものであると評価できる。ただし、顔認知に関する障害の病態解明・治療や、顔認知にかかわる神経回路の同定にまでは至っておらず、今後のこの分野の発展に伴う波及効果に期待したい。

(6)若手研究者育成への貢献度

 若手研究者育成に対して、十分な貢献がなされていると評価できる。特に、fMRIによる機能画像研究の普及や研究者の育成に努めたことで、独立してfMRI解析を行える若手研究者が育っている。今後の我が国の脳機能イメージングの普及への貢献が期待できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --