素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明(青木 慎也)

研究領域名

素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明

研究期間

平成20年度~平成24年度

領域代表者

青木  慎也(京都大学・基礎物理学研究所・教授)

研究領域の概要

 本領域の目的は、量子色力学(QCD)の真空構造とクォーク力学の研究から始まり、クォークの力学と核力、核力と原子核構造、原子核構造と超新星爆発などの爆発的天体現象、爆発的天体現象と元素合成、などいろいろな階層の重層的な物質構造を、素粒子・原子核・宇宙の研究者が計算科学的技法を最大限活用しながら共同で研究し、物質階層縦断的かつ分野融合型の新しい研究領域を構築することである。本領域の研究により、今まで個別に研究されてきたいろいろな階層の物質の起源に関する諸問題が1つの大きな枠組みで統一的に理解・解決される。このことは、宇宙に於ける重元素合成のメカニズムの解明という長年の懸案の解決に繋がるだけでなく、物質構造を複数の階層にまたがって統一的に研究・理解するという全く新しい研究方法のモデルケース を与えることになる。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 計算科学をベースとして素粒子・原子核・宇宙の理論物理学を結びつけ、議論するフレームを構築したことの意義は大きい。異分野間の日常的連携が成立したことは新しい学術領域の創設として重要な成果であり、領域分野のさらなる発展が期待できる。実際、本研究領域の成果が、2011年に開始された文部科学省のHPCI戦略プログラムの戦略分野の1つ「物質と宇宙の起源と構造」へとつながった。今後のさらなる成果、さらには関連する実験との相互発展などが期待される。若手研究者育成、広報活動も十分行われている。
 以上より、計算科学的技法を駆使した融合分野を開拓するとした領域の設定目標は達成されている判断できる。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 計算科学をベースとして素粒子・原子核・宇宙の理論物理学を結びつけ、分野融合型の新しい研究分野を構築するという本領域の設定目的は、良く達成できている。議論するフレームを構築したことの意義は大きい。研究期間内に、クォークから元素合成までを対象にした理論計算に着手した。重層的物質構造の完全な解明には達していないが、宇宙と計算機科学の挙動研究など、期待どおりの成果が得られている。実際、本研究領域の成果が、2011年開始の文部科学省のHPCI戦略プログラム分野の1つ「物質と宇宙の起源と構造」へとつながった。さらに、本分野の発展を期待したい。

(2)研究成果

 計算科学をベースとして素粒子・原子核・宇宙の理論物理学を結びつけることで、新しい学術領域が創設された。今後、格子QCD計算を用いた原子核力の計算が、現象論的な原子核力の計算に定量的に迫れる精度なのか、これから信頼性・定量性をどのように評価していくのか、という点について発展が期待される。また、超新星爆発や元素合成シミュレーションに関しては信頼性をどう実験的に確認していくのか、将来の関連実験との相互発展にも期待したい。
 研究成果の発表に関しては、学術雑誌発表のみならず、書籍、学会誌、シンポジウム、サマースクール等への普及活動と十分に行われている。また、成果の重要さに関しては、日本物理学会論文賞、仁科記念賞、日本物理学会若手奨励賞3名、猿橋賞、日本学術振興会賞等の受賞にも表れており、領域全体として、計算科学的技法を駆使した融合分野を開拓するとした設定目標は達成されている。

(3)研究組織

 素粒子・核物理・宇宙物理の研究者が集まり、領域内の連携が良好に進んだ。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 素粒子から宇宙までを統合的にとらえようとするアプローチは、異分野へも好影響を与えると思われる。

(6)若手研究者育成への貢献度

 参画した若手研究者は物理学会若手奨励賞3名を含む多くの受賞や、研究者としてのポストを得るなど成長が見られ、若手研究者育成に大きく貢献したと言える。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --