重い電子系の形成と秩序化(上田 和夫)

研究領域名

重い電子系の形成と秩序化

研究期間

平成20年度~平成24年度

領域代表者

上田  和夫(東京大学・物性研究所・教授)

研究領域の概要

 固体中の電子は相互作用によって自由電子に比べて千倍も重くなる。その原因として専ら電子間相互作用が研究され、特にf電子系では近藤効果とRKKY相互作用の拮抗に基づく理解が進んだ。しかし、この様な遍歴・局在の対立という二元論的描像では理解できない新しいタイプの超伝導や磁性現象が次々と発見されつつある今日、電荷とスピンに加えて、軌道や格子の自由度が絡んだ多自由度をベースとした概念構築が求められている。本研究領域では、重い電子系の新たな展開を図るために、(1)重い電子形成の直接観測、(2)非調和格子振動による新奇物性の発現、(3)新超伝導相や新多極子相の探索を進め、(4)磁性と超伝導の新概念を創出する。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 物性物理学の中で最も基礎的であり、長い伝統的研究の歴史を持つ重い電子系の問題に、複合多自由度性という新しい視点を加え、あらゆる階層の研究者を巻き込んで統一的な理解を目指した本研究領域は、新学術領域研究としてふさわしいものであった。各研究項目及び研究チームごとに優れた研究成果がバランスよく示されている点や、領域内の連携が十分に行われて多数の新発見・新解釈に結びついた点が高く評価される。また、領域全体として1000報を越す論文を発表している点も評価できる。このことから、本研究領域が当初の設定目的を十分に達成していると言える。
 しかしながら、個別の優れた研究成果の単なる集合にとどまらず、領域全体を俯瞰して今後の物性科学を新しく方向づけるための展望を示す点においては、必ずしも明確ではないという印象が残った。たとえ純粋な基礎科学としての完全な解明は遥か遠い先であるとしても、本領域の研究期間終了に当たり、今後の展望に関するメッセージを示してほしかった。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 RKKY相互作用と近藤効果の競合によって生じるf電子系の遍歴状態(フェルミ液体相)と局在状態(磁気秩序相)の境界にある量子臨界点付近で実現する有効質量の極めて大きい「重い電子系」状態に対し、電子軌道や格子振動が複雑に絡み合った「複合多自由度」という新しい視点を加えて、重い電子系の形成と秩序化の統一的解明に取り組んだ。特に、電子スピンと電子軌道の複合自由度である「多極子自由度」が重要な役割を果たす新規カゴ状物質の開発や重い電子系物質に対する人工超格子の作製など我が国が得意とする新物質開拓と、高エネルギー分解能を持つレーザー光電子分光技術など新測定手法の開拓を組み合わせた共同研究などから重い電子系について新たな知見を得た点が高く評価される。このことから、本研究領域の設定目的は十分に達成されていると判断できる。

(2)研究成果

 従来に比べて格段に高いエネルギー分解能を持つレーザー角度分解光電子分光技術と世界最高純度を誇る単結晶育成技術を組み合わせて、重い電子系超伝導体における長年の謎であった「隠れた秩序相」の存在を裏付ける特徴的な電子構造の観測に成功すると共に、群論的手法による理論研究から隠れた秩序相の秩序構造の絞り込みに成功した。また、核四重極共鳴実験から強磁性と超伝導が微視的に共存する強磁性超伝導体を発見し、理論研究からその存在が示唆されていた自己誘導渦糸状態を直流磁化率測定から発見した。さらに、「ラットリング」と呼ばれる非調和性局所フォノンによる巨大振幅振動を示すカゴ状物質において、内包磁性イオンの振動が関与する2チャンネル近藤効果や非中心ラットリングによる熱伝導抑制効果など数多くの興味深い知見を見出した。これらは、物質も手法も多様な研究者が一堂に集まることによって初めて可能になるものであり、本研究領域の共同研究から優れた研究成果が得られたことは高く評価できる。

(3)研究組織

 磁性や強相関電子系など我が国が得意とする分野で、試料作り・測定・理論が一体となった強力な物性研究体制が組織された。共同研究を達成するための運営も円滑であり、若手研究者育成に向けた取組も評価できる。

(4)研究費の使用

特に問題点はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 多極子自由度の秩序化とその量子臨界性を探求し、数多くの成果を上げながら磁性と超伝導といった従来の二元論的描像から視野を広げた点は、電子軌道が果たす本質的に重要な役割を浮き彫りにしたという意味で当該学問分野だけでなく強相関電子系など関連する学問分野に大きな影響を与えた。また、積極的な論文発表や国際会議・国内会議の開催などにより諸外国に研究成果をアピールした点も十分な貢献として評価できる。

(6)若手研究者育成への貢献度

 本研究領域内に独自の顕彰制度を作り若手研究者育成に努めた結果、特に、大多数の博士研究員が研究期間終了後に昇任した実績は、総括班を中心とした本研究領域の運営における人材育成の成果として高く評価できる。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 物性物理学の中で最も基礎的であり、長い伝統的研究の歴史を持つ重い電子系の問題に、複合多自由度性という新しい視点を加え、あらゆる階層の研究者を巻き込んで統一的な理解を目指した本研究領域は、新学術領域研究としてふさわしいものであった。各研究項目及び研究チームごとに優れた研究成果がバランスよく示されている点や、領域内の連携が十分に行われて多数の新発見・新解釈に結びついた点が高く評価される。また、領域全体として1000報を越す論文を発表している点も評価できる。このことから、本研究領域が当初の設定目的を十分に達成していると言える。
 しかしながら、個別の優れた研究成果の単なる集合にとどまらず、領域全体を俯瞰して今後の物性科学を新しく方向づけるための展望を示す点においては、必ずしも明確ではないという印象が残った。たとえ純粋な基礎科学としての完全な解明は遥か遠い先であるとしても、本領域の研究期間終了に当たり、今後の展望に関するメッセージを示してほしかった。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 RKKY相互作用と近藤効果の競合によって生じるf電子系の遍歴状態(フェルミ液体相)と局在状態(磁気秩序相)の境界にある量子臨界点付近で実現する有効質量の極めて大きい「重い電子系」状態に対し、電子軌道や格子振動が複雑に絡み合った「複合多自由度」という新しい視点を加えて、重い電子系の形成と秩序化の統一的解明に取り組んだ。特に、電子スピンと電子軌道の複合自由度である「多極子自由度」が重要な役割を果たす新規カゴ状物質の開発や重い電子系物質に対する人工超格子の作製など我が国が得意とする新物質開拓と、高エネルギー分解能を持つレーザー光電子分光技術など新測定手法の開拓を組み合わせた共同研究などから重い電子系について新たな知見を得た点が高く評価される。このことから、本研究領域の設定目的は十分に達成されていると判断できる。

(2)研究成果

 従来に比べて格段に高いエネルギー分解能を持つレーザー角度分解光電子分光技術と世界最高純度を誇る単結晶育成技術を組み合わせて、重い電子系超伝導体における長年の謎であった「隠れた秩序相」の存在を裏付ける特徴的な電子構造の観測に成功すると共に、群論的手法による理論研究から隠れた秩序相の秩序構造の絞り込みに成功した。また、核四重極共鳴実験から強磁性と超伝導が微視的に共存する強磁性超伝導体を発見し、理論研究からその存在が示唆されていた自己誘導渦糸状態を直流磁化率測定から発見した。さらに、「ラットリング」と呼ばれる非調和性局所フォノンによる巨大振幅振動を示すカゴ状物質において、内包磁性イオンの振動が関与する2チャンネル近藤効果や非中心ラットリングによる熱伝導抑制効果など数多くの興味深い知見を見出した。これらは、物質も手法も多様な研究者が一堂に集まることによって初めて可能になるものであり、本研究領域の共同研究から優れた研究成果が得られたことは高く評価できる。

(3)研究組織

 磁性や強相関電子系など我が国が得意とする分野で、試料作り・測定・理論が一体となった強力な物性研究体制が組織された。共同研究を達成するための運営も円滑であり、若手研究者育成に向けた取組も評価できる。

(4)研究費の使用

特に問題点はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 多極子自由度の秩序化とその量子臨界性を探求し、数多くの成果を上げながら磁性と超伝導といった従来の二元論的描像から視野を広げた点は、電子軌道が果たす本質的に重要な役割を浮き彫りにしたという意味で当該学問分野だけでなく強相関電子系など関連する学問分野に大きな影響を与えた。また、積極的な論文発表や国際会議・国内会議の開催などにより諸外国に研究成果をアピールした点も十分な貢献として評価できる。

(6)若手研究者育成への貢献度

 本研究領域内に独自の顕彰制度を作り若手研究者育成に努めた結果、特に、大多数の博士研究員が研究期間終了後に昇任した実績は、総括班を中心とした本研究領域の運営における人材育成の成果として高く評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --